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共に在った香り
ジョーマローンの香水とは、何かと縁がある。
ある年。
自分用で初めて気に入ったのは、「イングリッシュオーク&ヘーゼルナッツ」(以下、イングリッシュオーク)だった。
瞬発力のある爽やかさで、素直に気持ちが上がる香り。
自分の性質にも合っていた。今でこそフルマラソンを嗜んでいるが、元々はスプリントを求められるスポーツの出身で、長い距離を走るのは嫌いだった。「速攻」「先手必勝」「先行逃げ切り」――そんなスタイルを好む自分に、この香りは合っていた。
ビジネスシーンでも、存在感を示してくれた。スパイシーに貫くその先で、クリエイティブな頭の回転を促してくれる。そして、インスピレーションが掻き立てられる。企画系の仕事をしていた自分に、いくつもの妙案を与えてくれた。
まさに、相棒のような存在だった。
ジョーマローンには、感謝している。
ある年。
付き合っていた彼女は、「レッドローズ」が好きだった。
イングリッシュオークが好きだった俺に、彼女が告げてきた印象的な言葉がある。
「○○(俺)のイメージには、ウッドセージ&シーソルトの方が合ってると思う」
もちろん、「ウッドセージ&シーソルト」(以下、ウッドセージ)のことは知っていた。爽やかさより、優しさが先に来る。強さではなく、弱さの内包を感じる。落ち着いた印象もあり、人を選ばなさそうな香り。ジョーマローンの中で、3番目に人気なのも頷ける。しかし、
“俺がまとうには、少し甘い”
――この印象が、どうにも払拭できない香りだった。ジョーマローンのカウンターで、彼女の隣で、少しの間、自問自答した。そして、
“まあ、いいか”
――俺は、ウッドセージをまとうことにした。「彼女のことは好きだし」という口実を残して。
彼女と俺の感性に、ずれがあったのかもしれない。俺は、自分を押し殺していたのかもしれない。ボタンの掛け違いのひとつと、なったのかもしれない。
彼女と別れた後、再起を誓うかのように、再びイングリッシュオークをまとい始めた。
ジョーマローンには、感謝している。
ある年。
付き合っていた彼女は、「ブラックベリー&ベイ」が好きだった。
一緒になったその日に、イングリッシュオークの香りが印象的で好きだと言ってくれた。そのエピソードが、二人の関係の根底に流れていたからか、この上なく満たされる時間が沢山あったと思い返す。
彼女には、心が開けた。「心が開けた」――恥ずかしながら、この感覚を覚えたのは、人生で初めてだった。
ジョーマローンには、感謝している。
いつも。
近くにいたジョーマローン。
前進、出会い、別れ――様々なきっかけを与えてくれた。
ジョーマローンには、感謝している。