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共に在る香り

ジョーマローンの香水とは、何かと縁がある。


今年。

また異なる形で、人生の転機を迎えている。「新しい香りをまといたい」という直感が、自分の中に漂っていた。
が、候補があるわけではなかった。
「ジョーマローン以外もありかな」――そうも考えつつ、足はジョーマローンのカウンターへと向かっていた。そこで、ある香りと邂逅する。

“ダークアンバー&ジンジャーリリー”

以前、試香したことのある香りだった。その時の印象は、何も残っていない。
が、今回は違った。
ムエットから放たれた香りが、“トンッ”と大脳をタッチした。それも、一度だけ、少しだけ。

その日は、「ダークアンバー&ジンジャーリリー」(以下、ダークアンバー)を手首で試行する形で、カウンターを後にした。

ここから、膨大なインプレッションを受けることになる。解釈やインスピレーションを書き綴ると、1,663文字に達した。一部だけ、お話ししたい。


3時間後。

ダークアンバーのことをすっかり忘れて、友人と会っていた時のことだった。不意に、ひとつの香りが俺の鼻をとらえた。

「あっ……」

胸がキュンとなった。

すぐに香りの出所を理解した――自分の手首だと。俺は、自分で自分の香りにキュンとしたのか――自分の鼻を疑った。
当の香りを一言で表すなら、「ふわっと馴染むように優しく包みこんでくれる、日常と非日常の間にあるようなセクシーな香り」――その場で、そう思った。そして、間髪入れずに「そんな男になりたい」と直感する自分がいた。


一日の終わり。

自宅の浴室にて、シャワーを浴びた時のことだった。湯気が立つとともに、ひとつの香りが俺の鼻をとらえた。

「はあ〜ん!ぎゅっとしたいわ〜!」

声が出た。

正気か、俺は。
「そんな男になりたい」と思ったり、「ぎゅっとしたい」と言ったり、ダークアンバーの得体が不確かに見えてきた。が、それらは共存している。

後者の発言より、女性がまとっていたら、瞬く間に心を奪われるであろうことが、容易に想像できた。フェミニンな印象を抱いたことは事実だ。それ故、既に心を寄せていたこの香りだが、どう関わろうか――迎え入れようか――でも、

“俺のイメージに、合わないんじゃないか”

――踏み切れない自分がいた。

が、そんな背中を押してくれた言葉が、2つある。


まえの香水と新しい香水のあいだには、かならず大きな変化がある。

フランソワーズ・サガン, 他. 「香水」. 新潮社. 1984年, 265ページ.

自分にとって意味がある香水をずっとつけ続ける人たちもいます。(中略)その人がどんな人であるかを示す選択、その人の意思や、どのように人に見られたいかを表すような。

マチルド・ローラン. 「マチルド・ローランの調香術」. 白水社. 2023年, 35ページ.



誕生日。

俺は、ダークアンバーを迎えた。

俺は、生まれ変わる。


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