#22 あの手この手で助けてくれる!?「妙見さま」って?!?
○前叶 安政年間に上原ます女(満壽・ます※「女」は読まない)が庵を構えたところからスタートした、妙見山上原寺で末席を汚しているのが我々兄弟なわけですが(笑)
●前誠 汚すな汚すな~(笑)
○前叶 今回は、名前のもとになっている「妙見大菩薩」について紹介してみたいと思うんだよね。
●前誠 たしかに、妙見さまと聞いて「あぁ、あれね」ってイメージできる人は少ないだろうね。
○前叶 「そもそも何?」っていう人も多いと思うのよ。
「妙(たえ)なる」っていう字を書くんだけれど、そういったところから、希少な、価値ある、唯一のっていう意味がある。
「見る」は諸説あって、それだけすごいと思ってもらいたいんだけど、不思議なものを人間に見せる、不思議なように見える、不可思議な力がおそらくあるであろうという意味があって、合わさって「妙見(みょうけん)」っていう名前なの。
●前誠 お名前だけでこの尺!
○前叶 すごそうでしょ。で、なんなの?って言われると、北極星の化身。北極星を思い浮かべていただきたいんですが、空でピカピカ光っていて動かないことから、船の上などでは重要な目印になっている、そういう星。
●前誠 道しるべ的な星ってわけね。でも、どうして信仰の対象になったの?
○前叶 昔の人たちは他の星はぐるぐる動いているのに、なぜあの星だけは動いてないんだ?!って疑問を持ったわけ。
で最終的に行き着いた結論っていうのがあいつが動かないんじゃない。あいつが他を動かしているんだっていう発想になった!
●前誠 なるほど。それだけ強いっていう発想になったわけね。
○前叶 北極星って北を極めた星って書くよね。一番遠くにいるんだけど、一番輝いて見えて、全員を動かしているから、最尊星(さいそんせい)といって最も尊い星になったわけよ。
●前誠 その北極星の化身として現れているのが妙見大菩薩ってわけか。
○前叶 もともと北側っていうのは、「君子南面す」とか「指南」って言う通り、偉い人が北側にいるっていう風に、地位の高さを指しているから、北を極める「北極=最尊」っていう図式が成り立つ。九星気学や易学など鑑定術なんかでも北極星が中心になって星を観るっていうくらい、とにかく北極星っていうのが地球に生きてきた私たちにとって魅力と魔力を兼ね備えている星なの。
●前誠 そこから仏教に転じてきて、北辰妙見大菩薩ということで一つの尊格として信仰されていくんだね。
○前叶 でね、うちの妙見さまは能勢(のせ)型といって、座って剣を受け太刀にしてる。前から見ると剣は横棒みたいに見えるんだけど、おもしろいエピソードがあってね。
もともと妙見さまの御像は剣を立てていたらしい。当初は祀るというよりも鎮めるというニュアンスでね。霊力が強すぎるから、お鎮まりください~って祀ったの。神主さんとかも集まって。神道や仏教の枠を超えちゃうくらいすごいから、みんな集まって拝んだわけ。
これでお堂に収まってくれた、よかったと思って、お堂を出るじゃん。で、ぱっと空を見たらお堂の真上の雲がまっぷたつになっていたと。それはまるで、妙見さんの剣が天空を切り裂いたかのように。これはまずい!剣の先からあらたかすぎる霊験が出て、空が割れてしまった!と、当時の人たちが思ったわけだ。
●前誠 モーゼが海を割ったみたいな?
○前叶 そうそうそんな感じ。それで、急遽剣を寝かせて受け太刀にしたっていうわけ。
妙見さまは神道でも仏教でも大切にされてきて、しかも神道でも大元の大元っていうふうにみている一派もあるし、道教とか儒教でも大事にされている。仏教でも各宗派で大事にされているし、密教なんかでも二十八宿曜星とか星を観て何かどうこうっていう術を使ったりするときには、妙見さまが当然最尊なわけ。
●前誠 トップオブトップ。キングオブキングってわけね。
そんな妙見さまに懺悔がしたい。。。
あのね、坊さんになりたての頃、北極星と北斗七星がごっちゃになってて、どっちがどっちだっけみたいなことが多々あって…。しかも北斗の拳のケンシロウが出てきちゃったから、もう「うちって北斗七星の神様だよな」みたいに思ってたことがあった。この場を借りて謝りたいと思います。
○前叶 でもなかなかいい指摘で、妙見様(北極星)と北斗七星は主従関係にあるんだよね。で、北斗七星は星の中の戦車って言われたりもしていて…
●前誠 !?星の中の戦車??
○前叶 もうこの段階ですごいでしょ。
●前誠 軍なんだ?
○前叶 そう、軍なの。戦車だから戦闘部隊なのよ。星の中の。北斗七星っていうと、穏やかなっていうよりもちょっと鋭角なイメージがない?
●前誠 アタタタタタタタタタタタタタタ!!
○前叶 引っ張られ過ぎだよ。北斗百裂拳じゃないんだから(笑)
でね、北極星は動かないんだけど、星の戦車として君臨している北斗七星を眷属(けんぞく)にして、あちこちに問題を蹴散らしに行ってくれるわけ。妙見さまがもっている剣は「七星剣」っていうんだけど、剣を持って天からバサバサ切ってくれるわけよ。
妙見さまが助けてくれる人
○前叶 こんなにすごい妙見さまだけど、お像って基本「小さい」の。
●前誠 たしかにうちのお寺のも手のひらサイズ(笑)たぶんお寺に来た方もお顔とか拝せないくらい小さい。
○前叶 あれね、じつは人間の防衛本能なの。剣を立たせたら雲が割れちゃったみたいな、それだけ霊験がすごすぎるから、大きな像にしたら扱えないぞという発想があって、小さくなってるんだよね。
●前誠 配色も地味だよね。黒一色、もしくは黒に金くらいで。
○前叶 それも発想は一緒で。例えば近くのものってきれいに見える、一方遠くのものはだんだん色がハッキリしてこなくなってくるように。われわれ人間は恐れ慄いて、距離を取っているんですよっていう意味があるの。
●前誠 へ~。しかるべき距離を取ってますよっていうわけね。
○前叶 それが逆に言うと、こちら側からの「妙見」になるわけ。まれにみるってそういうこと。
●前誠 北極星を見る時って遠くを見る感覚になるけど、あれをお堂の中でも再現してるんだね。
○前叶 妙見さまはあの手、この手で七星剣を持って助けてくれる、それはもうすごい逸話が数多くあるんだよね。その代わり、背水の陣で覚悟を決めて、あなたのように俺は動かんよ、ブレませんよっていう決意を決めて信仰する必要がある。
●前誠 退路を断った人に対しては手を差し伸べてくれるんだね。
○前叶 そう、生半可じゃダメなんだよね。実際のエピソードなんだけど、以前、とあるキックボクサーの選手が祈願に来てね。これまでのダメージから、片目が見えなくなりそう、治っても乱視もひどいだろうと選手生命も終わりそう…ということで、病院もあちこち行った、手術もした、目にいいといわれるところにも行った、もう万策尽きました、でも諦めきれない、世界一を狙いたいという相談を受けたことがあるの。
●前誠 うんうん。
○前叶 だからここにきて本気で祈るなら妙見さまにご祈祷しますがどうするかと聞くと、わかりましたと。これで覚悟を決めるからご祈祷してくれって言うことで、ご祈祷して手術に挑んだわけ。それから毎日うちから持って行ったお札を拝んで、退院する頃には両目の視力1.5あったのよ。
でね、俺はそれが神さま仏さま功徳だけとは言わないし、本人の努力もあると思うんだろうけど、やっぱり信仰って本気で行うと叶う部分がゼロではないなと思ったの。
●前誠 これ、人の話だと「ああそうなんだ、そういうこともあるよね。で?」みたいに思う部分もあるかもしれないけど…
●前誠 これ、人の話だと「ああそうなんだ、そういうこともあるよね。で?」みたいに思う部分もあるかもしれないけど…
○前叶 でもみなさんに考えてみてほしいのが、本気で何かひとつの尊格を拝んだことあるかどうかっていうこと。腹決めて、何かを拝むっていうことをしたら妙見さまは独壇場なのよ。
●前誠 日蓮聖人はご遺文とかで「一心に」って言葉をたくさん使われるけど、一つの心、一心におこなうっていうのは大切だよね。
○前叶 勉強しないけど東大受からせてくれっていうのが難しいように、やっぱりまずは自分がすべきことは大切だと思う。だけど、それ相応のことをやって覚悟を決めたら、妙見さまは遠くからでもちゃんと見てくれるんだよね。あれは妙見さまが助けたって思うよ。
●前誠 いや~妙見さま見る目変わったな~。
○前叶 遅い遅い!
●前誠 でも我々って諸行無常って言葉があるくらい、常日頃のことは移り変わるじゃない。われわれの心の状態も一定ではないし。それによって苦しみが生まれるってお釈迦さまは説いたわけだけど、だからこそ不動のものに対して畏怖の念というか尊敬する気持ちは起こりうるし、そうしたものを外に求め一心に拝むっていう姿勢は人間らしくて、心にぐっときたな。
○前叶 変わりゆく中で動かないという妙見さまのお名前を頂戴している妙見山上原寺はつねに動かずありますので、心の拠り所にしていただけるとありがたいですね。
●前誠 そして妙見さまは今日も光っています!みなさまの明日がより良い一日になりますように。
○前叶 合掌。