#21 母について
●前誠 今日はお母さんの話をしよう。
いきなりだけど俺ね、すべての宗教って「お母さん」なんじゃないかと思うんだよね。
○前叶 まだ「なんじゃないか?」っていう状態なのね。
●前誠 そう。抽象的なエピソードがパズルのピースのようにいくつかあって、それが組み合わさってないんだけど、なんとなく同じ領域というか。
たとえば、荒行でのこと。
100日間厳しい修業があって、35日間が終われば面会ができるようになるでしょ。もちろん、5分間っていう厳しい時間制限はあるにしても、あの時間っていうのは非常に大切な時間じゃない。
で、父親が面会に来たときは何とも思わなかったのよ。
「おう頑張って」みたいな感じですぐ終わったの。
○前叶 同業者だしね(笑)
●前誠 こっちも「ご修行させていただいております」とか言いながら、二言三言ラリーでそそくさと行くわけ。
○前叶 想像つく。。。。(笑)
●前誠 刑務所の面会じゃないんだから、もうちょい温度上げてくれ~って感じ。冷たすぎる(笑)
でね、面会の場所っていうのはお坊さんが一段高くなっていて、面会者っていうのは一段低いところからこちらをみあげるような状態なんだけど、母親が来た時、母親は正座して合掌しててね。俺の目もよく見れないわけ。その瞬間になぜかわからないんだけど、俺号泣しちゃって。
○前叶 母親の話するときの熱量と、父親の話するときの差がすごい(笑)
●前誠 でもね、本当に母親ってすごいなっていう感情が溢れてきたの。
人間も動物も生き物すべての「いのち」って母親から生まれるでしょ。
お母さんから生まれてきて、お母さんのお乳を飲んで育つ。これほど神秘的というか、宗教的な光景っていうか、行為ってないなって思うし。そもそも何も知らないはずなのに、生まれてからお乳を吸うっていうのが具わっているというのが、神秘以外の何物でもない。
だからね、お母さんっていう存在はいのちの象徴のように思えるわけ。
○前叶 うんうん。
●前誠 日蓮宗では、祈祷本尊としての守護神、鬼子母神さまがいらっしゃる。いろいろな由緒とか云われがあるにしても、俺はまさに鬼子母神さまってお母さんそのものだなって思う時があって。
赤ちゃんや子どもってさ、好き勝手言うじゃん。前叶が言っていたけど、そのわがままな姿はまさに「三毒」そのもの。
○前叶 「三毒」は仏教において人間の諸悪、苦しみの根源とされているもの。「貪(とん)=欲、瞋(じん)=怒り、癡(ち)=愚痴」というね。
●前誠 鬼子母神さまからみれば私たちは赤ちゃんや子どもみたいなもの。でも”母”はその姿すら慈しみ、それに対して我々は祈りを捧げるっていう母と子の関係性を感じるんだよね。
○前叶 なるほどね。
お母さんの慈悲に感謝を伝える
○前叶 俺の好きな言葉があるんだけど、紹介していい?
●前誠 どうぞ、どうぞ。
○前叶「親は十人の子をば養えども 子は一人の母を養うことなし」
これは日蓮聖人のお言葉なんだけど、これはつまり、親は一人で10人の子どもを頑張って養うほどの慈悲があると。逆に子どもっていうのはその有難さにあまり気づけないものだから、10人束になっても一人の親を養うっていうのは難しいものですよ、亡くなってからその有難さに気づくものですよと、そういうお言葉なんだけど。
●前誠 日蓮聖人もお母さん、親をとても大切にしたよね。お母さんの毛髪をずっとお守りにして懐中に入れていたというエピソードもあったりしてね。ただただお母さんって、親ってすごいなって思うわけよ。
だったらもう、お母さんを大事にしないとってなるんだけど、30過ぎた息子がいきなり「お母さん!」なんて(笑)
○前叶 向こうもちょっとやだろうしね(笑)
●前誠 でも俺と同じ思いの人って結構いると思う。普段は感謝を伝えられない、もしかしたらもう亡くなっているかもしれない。だからこそ、母の日は普段言えない感謝の想いを伝えてほしいな。
○前叶 そこにつながるわけね(笑)
●前誠 「おふくろの味」の話するとかね。
○前叶 おふくろの味ね。俺1個あった。
●前誠 えっ?なに?あったっけ??
○前叶 俺たち、少年野球やってたじゃん。で、お弁当のおにぎりで…
●前誠 あ、待って当てていい? もしかして“赤飯から揚げ”?
○前叶 正解!赤飯の中にから揚げが入っているのってどういうことっていう(笑)
寒くても暑くても食べたおにぎり。でもさ、あれが俺の記憶にすごい残ってる。
●前誠 いつまでも記憶に残る味がおふくろの味なんだろうね。
○前叶 総括すると、宗教ってお母さんだよねって話をしていくと、お母さんに感謝を伝えてみましょうとなる、ってそういうこと?
●前誠 そういうこと。親子の幸せな時間を少しでも長くお過ごしいただけたらなと思います。
○前叶 合掌。