ONE OK ROCK”Taka“『反骨精神でロックシーンを取り戻すJAPANロッカー』(後編)人生を変えるJ-POP[第42回]
たったひとりのアーティスト、たったひとつの曲に出会うことで、人生が変わってしまうことがあります。まさにこの筆者は、たったひとりのアーティストに出会ったことで音楽評論家になりました。音楽には、それだけの力があるのです。歌手の歌声に特化した分析・評論を得意とする音楽評論家、久道りょうが、J-POPのアーティストを毎回取り上げながら、その声、曲、人となり等の魅力についてとことん語る連載です。
新春2回目は、ロックグループONE OK ROCK(以降ワンオク)のボーカリストTakaを扱います。サラブレッドの生まれにもかかわらず、非常に紆余曲折の人生を歩んできた苦労人でもあります。海外で評価の高いワンオクとボーカリストであるTakaの歌について、書いていきたいと思います。
(前編はこちら)
ロックが反骨精神の象徴といわれる理由
ロックは「反骨精神」と話すTakaは、近年、アメリカのロックが衰退して来たと感じていると言います。
8年前にアメリカのロサンゼルスに拠点を移した彼は、「ここからが本当のスタート」との決意で活動を始めます。日本で手探り状態から始めたワンオクの活動。その体験を基にして、「アメリカでも同じことを始めるだけ」と言うのです。
ここで少し、ロック音楽がこの世の中に誕生してきた経緯について書いてみたいと思います。なぜなら、Takaがなぜ、アメリカでの活動にこだわるのか、ということの理由が、ロック誕生の歴史的背景にあると感じるからです。
ロック音楽の発祥の地はアメリカです。ロックは、黒人音楽のリズム&ブルース(R&B)と白人音楽のカントリーが融合した音楽として、定義づけられていますが、今から、約60年前に生まれました。
それまでのアメリカでは、やはり、その歴史的経緯から、黒人の音楽と白人の音楽のせめぎ合いのようなものが繰り広げられていました。
イングランドやアイルランドの移民達によるトラディショナル・フォーク、クラシックから派生したラグタイムや、黒人に扮した白人の大道芸ミンストレル・ショーなどの音楽が初期のアメリカ音楽を形成していたと言われています。
その中から、ゴスペル(黒人霊歌)やジャズ、ブルース、フォーク、カントリー、R&Bが生まれてきます。
そして、1940年代に起きた米ソ冷戦という鬱屈とした時代を背景として、若者達が抱いていた欲求不満のはけ口としてロックンロール音楽が生まれて来たのです。その代表的なスターがエルヴィス・プレスリーでした。
彼の腰を振って歌い踊る姿は、「反骨精神の象徴」と言われ、やがて彼の音楽はイギリスへ渡っていきます。彼の影響はその後、イギリスでThe Beatlesを生み出します。
1960年代には、The Beatlesも強く影響を受けたとする「フォークの貴公子」と呼ばれたボブ・ディランによってアメリカではフォークソングとロックンロールとの融合による「フォーク・ロック」という作品が生み出されます。
これは、The Beatlesと似たルックスを持つBYRDSが、ディランの「MR.TAMBOURINE MAN」をロック・スタイルでカヴァーしたことから一大論争が巻き起こり、その後、このサウンドで多くのバンドを輩出。アメリカのロック界は息を吹き返した、と言われました。
70年代になるとアメリカではベトナム戦争に突入。敗戦に終わったこの戦争は、アメリカの民衆意識に大きな変化を与えていきます。
60年代のロック・スター達が次々他界し、敗戦を通して挫折感や疲労感を覚えながら、自分を見つめ直すという作業を人々に与えていくことになります。
自ずと音楽の傾向や作品にもその影響は表れ、ジェイムス・テイラーやキャロル・キングなどのいわゆる「シンガー・ソングライター」という人達によって個人にフィットした新しい音楽が生み出されていくのです(※)。
このようにロック音楽発祥の地であるアメリカは、ロック音楽が生まれてきた背景に、黒人と白人の歴史や、ベトナム戦争という時代背景が強く影響を与えていることがわかります。
即ち、ロック音楽というのは、その時代、時代の出来事や社会に対しての「反骨精神」から生まれ出てきた音楽だということが言えるのです。
Takaの原動力にある「怒り」
これらの背景に対して、日本のロック音楽は、アメリカやイギリスからの輸入された音楽の影響を受けて誕生してきたと言えるかもしれず、社会的背景に対する反骨精神から生まれた音楽とは言い切れない部分があるかもしれません。
そんな中、Takaは、10代の頃にロックの反逆的なスタイルに惹かれたことから、今でも活動の原動力を支えているのは、彼の中にある「怒り」だと言います。
彼が最初に手にしたロックのCDは、hide with Spread Beaverの『ピンク スパイダー』。この曲の持つ反逆的な音楽、反骨精神のロックのスタイルが、自分に合ってるなと感じたと言います。
芸能人一家に生まれ育ち、厳格な父親に反抗するところから生まれて来た反逆精神。これが彼がロック音楽を続ける原動力です。
8年前にアメリカに拠点を移した彼は、アメリカのロック音楽の衰退を肌で感じたと言います。
「一定数のロックファンはいても、メインストリームに食い込んでこない」という現実を肌で感じ取った彼は、「アメリカでもっとバンドの文化を広めたい。自分達がロックシーンを盛り上げ、ロックを取り戻す」という思いをずっと持っていると言います。
それは、アメリカへ渡り、全米の多くのロックバンドが契約するレーベル「フュエルド・バイ・ラーメン」と契約したときにスタッフにも伝えたと言うほど、強い気持ちを持って渡米しているのです。
それでもアメリカで何の実績もなく、結果も出せていないバンドの発言に説得力があるわけでもなく、一つ一つ、活動をして、実績を積み上げていくしかない、という気持ちで一から開拓する決意で活動をしています。
その彼の思いとは裏腹に、その活動は「毎日が逆境」と言うほど、厳しい洗礼を受けているのも確かなことです。
本格的にアメリカに拠点を移す前の2014年には、アメリカで最初のライブを行い、その後、ワープド・ツアーというものに出ましたが、メインステージから離れた文化祭のような小さなステージで観客も3,4人。他のバンドが指をさして笑いながら通っていく、というような強烈な洗礼を受けました。
日本では、アリーナ会場を満杯にするほどの集客力を持ちながら、アメリカでは全く通用しない、というシビアな経験をしたのです。それでも彼は挫けることなく、ライブ経験を積み重ね、2016年に今のレーベルと無事に契約をしたのです。
世界的なポップ・スター、エド・シーランとの出会い
そうやって強い思いで続けている彼には、その思いを後押ししてくれるような出会いもあります。
2020年にコロナ禍の中、オンラインライブ「Field of Wonder」を開催しました。アジア人である彼がロック音楽を取り戻そうとする。
その中で発売したアルバムの収録曲『Renegades』という曲は、世界的なポップスター、エド・シーランとの共作曲です。
この曲は、「反逆者」という意味のタイトルであり、ロックテイストのハードでパワフルな楽曲です。
エド・シーランとTakaの繋がりのきっかけが何であったのかは、調べてもわかりませんでしたが、2人はライブで共演などもしており、エド・シーランは何度もワンオクのライブを観にきています。
エド・シーランもアルバムのプロデューサーのロブ・カヴァロも日本での彼らのライブの観客との一体感に驚いていたとのこと。「これこそがロックだ」と。
彼らと同世代のアメリカのミュージシャンは、既にそれぞれの分野で活躍をしており、今さらロックに取り組むということも難しいけれども、アジア人である自分のように外野の人間なら、アジア人としてのロックの形でロックシーンを盛り上げることが出来るのでは、という考えを持ちながら、彼は、自分流のスタイルのロックを確立していく道を選んだと言えるでしょう(※)。
その挑戦を続けている真最中であり、それこそが逆境の中での彼の反骨精神を掻き立てるものなのではないかと感じます。
どんな激しい楽曲も歌える、その歌声を音質鑑定すると…
このように自分の思いを強く持っている彼のボーカリストとしての魅力は、世界中の人を惹きつけています。
森進一、森昌子というトップクラスの歌声を持つ歌手が両親である彼の歌声の魅力を音質鑑定という視点で行ってみると、以下のような特色を持つことがわかります。
Takaの歌声の音質鑑定
・音質が非常に伸びやか
・ややハスキーな響きを持つストレートボイス
・声の幅はやや細めだが、ピンと張った声質・
・声域は広く、テノールのハイトーンボイス
・非常に澄んだ濁りのない響きを持っている
・低音域から中音域、高音域とボイスチェンジがほぼ感じられず、声の響きも音質も変わらない
以上のような音質を持つ彼の歌は、一つの線上に綺麗に音の粒が並んでいくように、一本の弧を描くのが特徴と言えます。
要するに、声の響きが非常に安定しているのです。これが、どんなに激しいロックの楽曲を歌ってもパワフルに破綻なく歌える理由だと感じます。
これは、やはり両親から非常に良質の声帯を譲り受けている、という天性のものを感じさせるのです。
ジャンルは違えども、伸びやかさや透明感は母親譲りの音質であり、ハスキーな響きは父親譲りと言えます。
このような特質を持った彼が、ロックという分野で今後、どのように世界の中で活躍していくのか、非常に興味深いです。
昨年末に扱った「THE LAST ROCKSTARS」と言い、矢沢永吉といい、日本のロック界にとどまらず、世界を日本のロックスターたちの音楽が席巻する日が待ち遠しいものです。