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第八講 アルミニウムはなぜ「リサイクルの優等生」と呼ばれるのか

地理講師&コラムニスト
宮路秀作

アルミニウムの製造には豊富な電力が必要

アルミニウムの原料がボーキサイトであり、世界的にかなり豊富な埋蔵量を誇ります。その数は、なんとおよそ300億トンといわれます。

ボーキサイトからアルミナ(酸化アルミニウム)を取り出す工程は、オーストラリア人のカール・ジョセフ・バイヤーが発明したバイヤー法を利用します。

ボーキサイトの成分の目安は、アルミナ50%・ケイ素5%・酸化チタン3~10%・その他です。このボーキサイトをアルカリ溶液で溶かして水酸化アルミニウムをつくり、これを加水分解してアルミナをつくるのがバイヤー法です。

加水分解とは、水酸化アルミニウムをアルミナと水に分解することです。1000℃以上で焙焼してアルミナを抽出します。

次に、アルミナからアルミニウムを取り出す工程がホール・エルー法です。アルミナの化学式は「Al2O3」、つまり酸化アルミニウムなので、ホール・エルー法による電気分解によってアルミニウムと酸素に分解されます。アルミナ2トンからおよそ1トンのアルミニウムができます。

1トンのアルミニウムを製造するために、14000~15000kwhの電気が必要とされます。これが、アルミニウムが「電気の缶詰」といわれるゆえんですが、それにしても「電気の缶詰」とは面白い表現です。

かつて、日本でもアルミニウムの国内製造が行われていた時代がありました。主に戦後復興期から高度経済成長期にかけて、国内でアルミニウムの製造が活発に行われ、アルミニウムは各種産業に欠かせない金属として利用されていました。

しかし、前述したようにアルミニウム製造には莫大なエネルギーが必要であり、特に電力コストが製造の鍵となっていました。

当時アルミニウム製造が盛んだったのは、特に「豊富な電力」「需要の増大」「国の支援策」などの要素が揃っていたことが大きな理由です。

当時の日本は水力発電の割合が高く、安価な電力供給が可能でした。1952年、電源開発促進法によって電源開発株式会社が設立されると、現在でも日本最大の発電量を誇る佐久間ダム(静岡県浜松市・愛知県豊根村)が1956年に建設されたのを皮切りに、1960年の奥只見ダムと田子倉ダム、1961年の御母衣ダム、と大型ダムが次々に建設され、日本の電力需要を賄っていきました。

また高度経済成長で建築資材や自動車部品、電子部品などの需要が増大したことを背景に、アルミニウムの増産が進められました。

その後、世界的にアルミニウムの供給量が増加すると、価格が低下して国際競争力を失います。また、オイルショックを契機に日本の電力価格が高騰しコスト高となると、アルミニウム需要は国産ではなく海外からの輸入で賄うようになり、アルミニウム産業は衰退していきます。現在では日本のアルミニウム需要は輸入、もしくはリサイクルによって賄っています。

日本のリサイクル技術は世界トップクラス

日本ではもう国産アルミニウムを生産しなくなったものの、アルミニウムのリサイクル事業は活発に進められています。

日本において、清涼飲料水やビールなどに使われるアルミ缶のリサイクル率は90%以上と非常に高い水準にあります。アルミ缶の回収・リサイクルが効率的に行われている結果、環境負荷の軽減と資源の循環利用が推進されています。

また、産業用のアルミスクラップのリサイクルも進んでおり、自動車産業や建設業界におけるアルミ廃材はほとんどがリサイクルされます。

日本ではアルミニウムのリサイクル事業が活発に進められており、特に清涼飲料水やビールに使われるアルミ缶のリサイクル率は90%以上と非常に高い水準です。この効率的な回収・リサイクルシステムにより、環境負荷が軽減され、資源の循環利用が進んでいます。

また、アルミ缶のリサイクルによる具体的な効果として、たとえば「10トン」といわれても、数字が大きすぎて想像しかねますが、この重さはアルミニウムのビール缶に換算すると、なんと75万缶(3万ケース)が作れるそうです。すごい……。

日本のリサイクル技術は、光学センサーやX線検査装置を用いた精度の高い材料選別が進んでおり、アルミニウムの純度を高めるための技術が発展しています。

これにより、異物の除去や合金成分の調整が精密に行われ、リサイクル材の品質が向上します。第七講でもお話したように、自動車産業においてアルミニウムは車体の軽量化に欠かせない素材となっており、リサイクル技術が重要な役割を果たしています。

自動車メーカーは、使用済みの車両からアルミ部品を回収し再利用しており、特に車両解体時にアルミ部品を高精度で選別するシステムが導入されています。

またリサイクルプロセスでは、溶解工程のエネルギー効率を高め、二酸化炭素の排出抑制に取り組んでいます。例えば、電気炉を使用することでエネルギー消費を削減し、より環境に優しいリサイクルを進めています。

アルミニウムはリサイクルによる品質劣化がなく、新規に製造されたアルミニウムとほぼ同等の品質を実現できます。不純物が十分に取り除かれたリサイクルアルミニウムは、新規に製造されたアルミニウムと同等の強度と耐久性を持っています。また、新規に製造するよりリサイクルの方がエネルギーを95%も削減できるとされています。

ノルウェーでリサイクルが盛んな理由

ここで、リサイクルの工程を確認してみましょう。収集された使用済みのアルミ缶や車両部品、建材などは磁力分離や手作業によって異物を除去され、破砕して小さな破片になります。

破砕されたアルミニウムは高温の炉で溶かされ、精製し、合金調整を経て純度の高いアルミニウムが再生されます。精製されたアルミニウムを鋳型に流し込み冷却すると、アルミ地金が生成されます。

もちろん、アルミニウムのリサイクルは日本企業だけが行っているわけではなく、リオ・ティント社(豪国)、アルコア社(米国)、ノルスク・ハイドロ(ノルウェー)、エミレーツ・グローバル・アルミニウム(UAE)など、世界にも数多くのアルミニウム産業の企業が存在します。

ボーキサイトの埋蔵量・採掘量が多いオーストラリア、水力発電が盛んで安価な電力供給が可能なノルウェーなどにこうした企業が存在するのが実に面白いですね。まさしく、地理的優位性を活かした産業といえます。

アルミニウムリサイクルの未来

アルミニウムリサイクルは、今後も重要性が衰えることはないと考えられます。

ボーキサイトの埋蔵量が豊富だとはいえ、私たちが使える資源には限りがありますので、リサイクル技術の水準をさらに高める努力は必要です。また、リサイクル技術の進化は環境負荷の低減にも繋がります。

そして何より、家庭用製品のリサイクル率の向上はまだ向上の余地があると言われていますので、われわれ消費者が意識してリサイクルに取り組むことも求められます。


宮路 秀作 地理講師、日本地理学会企画専門委員会委員、コラムニスト、Yahoo!ニュースエキスパート
現在は、代々木ゼミナールにて地理講師として教壇に立つ。代ゼミで開講されているすべての地理講座を担当。レギュラー授業に加え、講師オリジナルの講座である「All About 地理」「やっぱり地理が好き」も全国の代ゼミ各校舎、サテライン予備校に配信されている。また高校教員向けに授業法を教授する「教員研修セミナー」の講師も長年勤めるなど、「代ゼミの地理の顔」。最近では、中高の社会系教員、塾・予備校の講師を対象としたオンラインコミュニティーを開設、地理教育の底上げを目指して教授法の共有を行っている。
2017年に刊行した『経済は地理から学べ!』(ダイヤモンド社)の発行部数は6万4500部を数える大ベストセラーとなり、地理学の普及・啓発活動に貢献したと評価され、2017年度日本地理学会賞(社会貢献部門)を受賞。2023年にはフジテレビのドラマ「教場」の地理学監修を行った。学習参考書や一般書籍の執筆に加え、浜銀総合研究所会報誌『Best Partner』での連載、foomiiにてメルマガを発行している。

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