第七講 アルミニウムがなければ今の自動車産業はなかった
地理講師&コラムニスト
宮路秀作
昨今、自動車産業が抱える課題は高度化、そして複雑化しています。
特に環境保全を念頭においた「地球に優しい活動」が求められていて、温暖化防止を目的とした低燃費の実現、環境負荷の低いリサイクルや廃棄処理、排ガスなどの公害対策、そして安全面の確保など、自動車産業には多岐にわたる要求に向き合わなければなりません。
一方で、企業活動が「利益の最大化を図ること」である以上、徹底したコストダウンを追求する必要もあります。
特に、自動車の低燃費化の追求は「緊急の課題」かのように喧伝され、エンジンの効率化、さらには電気自動車(EV)の普及によってその課題を解決しようとしています。
しかし、それ以前に重要な要素として、車体の軽量化も長年にわたって追求されています。自動車産業の歴史は、いわば「軽量化の歴史」ともいえますが、アルミニウムがそれに大きくかかわっているのです。
軽量化による燃費向上に大きく貢献
アルミニウムは鉄鋼よりも軽いため、自動車部品の素材として使うことで車重を大幅に軽減でき、低燃費化、そして温室効果ガスの排出量の削減が期待できます。今日の自動車産業において、アルミニウムは欠かすことのできな材料なのです。
自動車の低燃費化の追求が進んだのは、1970年代に起こった二度のオイルショックのときです。ガソリン価格の急騰で物流が滞ると考えた当時の日本人が、トイレットペーパーを買い占めるといった光景も見られました。
1979年5月、スズキが軽自動車の初代スズキ・アルトを発売しており、コンパクトで燃費の良い車への需要が高まりました。
当時は1973年の第一次オイルショックによる影響がまだ残っており、さらには1978年からの第二次オイルショックで「省エネルギー」が模索されていました。また、同年12月より始まる第一次大平内閣では、「省エネルック」が提唱されたほどです。
さて、最初に自動車の燃費基準(CAFE、Corporate Average Fuel Economy)を設定したのはアメリカ合衆国でした。
管理しているのは、「アメリカ運輸省道路交通安全局」(NHTSA、National Highway Traffic Safety Administration)で、1ガロン(3.785リットル)の燃料でどれだけの距離を走行しなければならないかを規制するものです。
当初、重量2700kg以下の普通乗用車は11.6km/Lの燃費基準を上回ることが求められていました。2023年8月時点の燃費基準は、13.3km/Lとなっています。
自動車は、重量を1%軽減すると0.8~1.0%の燃費向上が実現できるとされています。そのため、自動車の小型化は軽量化の有効な手段であり、さらに後輪駆動から前輪駆動への転換は軽量化に大きく貢献したといわれています。
自動車の材料として用いられるアルミニウム合金は、軽量化を図れるだけでなくリサイクル性に優れていること、耐食性があることも利点として挙げられます。
まずはエンジンの部品として利用され、1990年代になるとボディパネルやフレームなどの部品としても利用されるようになりました。
自動車の歴史とは軽量化の歴史であり、アルミニウム合金がそれに大きく貢献したといえます。
加工しやすいというアルミニウムの特性
アルミニウムには衝突時に変形してエネルギーを効率良く吸収できるという特性があります。そのため、自動車が衝突したさいに乗員へのダメージを軽減するクラッシュゾーンや他の重要な構造部品に使用されています。
アルミニウムを使うことで、安全性と重量の軽減という二つのメリットが得られるわけです。
また、アルミニウムは熱伝導性が高いため、ラジエーターや熱交換器、エンジン部品などに使用され、効率的な熱管理が可能になります。
特に電気自動車のバッテリーケースや冷却システムにはアルミニウムが使用され、バッテリーセルが適切な温度を保つのに役立っています。さらにアルミニウムは酸化膜を形成するため耐腐食性が高く、頻繁な修理屋メンテナンスが不要となり、車両の耐久性向上に寄与します。
そのうえ、アルミニウムは形成が比較的容易であるため、複雑なデザインを形にすることができます。製造に柔軟性があるともいえますね。
モーターショーなどで自動車メーカーが奇抜なデザインのコンセプトカーを展示することがありますが、材料にアルミニウムを使用しているからこそできるのです。
軽量化のための材料として、アルミニウム合金の役割は非常に大きくなってきています。材料や素材の製造技術、加工技術、接合技術の開発など、解決すべき課題は山積していますが、これらの課題は時間が解決すると考えられ、利用は今後も拡大すると予測されています。
次回は、アルミニウムの高いリサイクル性について解説します。