
〈連載〉発達障害についてつっちーが考えていること(その2)
土屋 徹
ナース&ソーシャルワーカー/SST普及協会認定講師
精神保健福祉の業界に入って40年。看護師として精神科病院での勤務や元・国立精神・神経センターACT-Jプロジェクト臨床チームチームリーダーを経て、現在、フリーランスの看護師と精神保健福祉士として活動。クリニック・大学・専門学校等に非常勤で勤務するかたわら,全国各地でSST(ソーシャルスキルトレーニング)やペアレントトレーニングなどの講師を務めている。愛称はつっちー。精神看護出版からはスーパーロングセラー『実践SSTスキルアップ読本』『精神科版 家族教室スタートアップ読本』『土屋流 「当事者主体」的アプローチ』が既刊。
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ご家族の経験はすごい
こんにちは。本格的な夏突入しています。10年に1度の暑い夏らしいので、いつも以上に体調に気を付けてなければいないなと思っています。自分は大丈夫ですが、すでに夏バテになっている人もいるのではないでしょうか。
私は普段から月に5本程度の家族会・家族相談会・ペアレントトレーニングを行っています。参加者はその会によって違うのですが、70代の方を中心とした会であったり、思春期のこどもたちの親御さんであったり、小学校・中学校の子たちの保護者であったりとさまざまです。
しかし、どのような会でも年代であっても、子どもに対する家族の想いは共通していることが多く、家族は長い間子どものことに対していろいろな想いをもって生活をしているのだなと感じています。
先日も広島で『ひきこもりの家族会』と『デイケアに通所している方の家族会』と単発で2本の家族会に参加させていただきました。その会でもすでに10年単位でひきこもっているという方もいて、自分自身では経験できないことなどをご家族から学ぶことが多く『ご家族の経験はすごいな』と思いました。
あんた、いいかげんにしなよ
私は病院に就職した当初から、患者さんだけでなく、ご家族とのやりとりも行ってきました。当時の病棟では担当の入院患者さんのご自宅などに連絡をして、盆暮れ正月などの前に外泊や外出をお願いすることがありました。いまはこのようなことはないとは思いますが、病棟のスタッフがご家族に『外泊をお願いしてた』というのは、古い時代の日本の精神医療だなと思い返します。ただ、よく断られることも多く、どうしたら外泊を受け入れてくれるのかを先輩から教えてもらったり、ロールプレイをしてから電話をかけたこともありました。
外泊のお迎えに来てただいたご家族に対して「〇〇さんが家に帰って、このような状態になったときには、〇〇のように対応してください」というようなことをお伝えしていたときのことです。
「あんた、いいかげんにしなよ。いろいろ言ってるけど、あなたは病気の子がいるの? わからないでしょ。私たちの辛さとか。いままでどんなにこの子のことで苦しんできたか」と怒鳴られました。

私はなぜ自分が怒られたのかもわからず「めんどくせーな」とムッとしていたと思います。そんな私は病院を辞めた後で、国立精神神経センター精神保健研究所で『心理教育プログラムの開発作成』ということを学ばせていただきました。その研究では多くのご家族を対象として、実際に家族相談会などを通して交流をさせていただきました。ここでようやく「ご家族から学ぶことは大切なことなんだ」と実感したわけです。ご家族からの言葉に「めんどくせーな」と思った自分が恥ずかしい。でも、そのことがあるからこそ、いまこのように家族支援をがんばれているのかもしれません。
家族が抱く想い
近ごろでは外来での相談やペアトレなどの家族の集まりで、発達障害とか発達が気になるお子さんをもつご家族とのかかわりが増えてきました。
「この子は発達障害があるかもしれない。診断を受けたほうがいい。早々に療育につなげたほうがいい」と告げられた家族はおおむね次のように語られます。
①がっかりした
多くのご家族がこう言います。確かに誰でも自分の子どもが障害や気になる点があると指摘されたら、がっかりするのはあたりまえ。いろいろな期待も持っているだろうし、目の前が真っ暗になったという人もいました。
②「なぜ我が家の子どもだけが」と悩んだ
私には重度の身体障害の子がいる知り合いがいます。その家庭は1人目のお子さんが生まれたときに「この子は一生歩くことができない」と言われたそうです。その時にも『なぜ、我が家だけが……』と思ったらしいのですが、2人目の子が生まれた時も「上の子と一緒で一生歩くことはでません」と医師から言われました。もう、お母さんは「私が何か悪いことをしたのか。なぜ、我が家だけそんな不幸なことが起きるか」と泣きながら自問自答したそうです。
③他の子と比べてしまい、悪い面ばかりに目が向いてしまう
病気のあるなしににかかわらず、自分の子と他の子を比べてしまうことはよくあって、自分の子を下に見てしまうことが多いかもしれません。成績であったりスポーツや文化のことであったり。そして、なぜか、いつも人よりも下。「〇〇君よりもすごいよね・がんばってるよね」よりも、「あら、〇〇君は△ができるのに、あなたはなぜできないの?」なんて言うセリフが多くなってしまいます。
④育て方が悪いと周りの人に言われた
けっこうな割合で、夫から「お前の育て方が悪いからこうなったんだ」と言われている人がいます。また、姑や姑から「こんなバカみたいな子はあなたの家庭の血統で、うちはそんな家系ではない」と言われた方もいます。ここまでくると、怒りよりもあきれるというか「将来は介護や面倒なんて見ない」と思ってしまうそうです。その先には、母親が子どもを抱え込んで、ぐちゃぐちゃになっていくというパターンも。
⑤「どうにかしなければいけない」と考えて、怒ったり・怒鳴ったりすることで変えようとしてしまった
(これは私自身もなのですが)、親として子どもの行動を変えたいと考えてしまうときには『ほめて身につけさせる』ではなく、『怒って修正させる』になってしまいます。怒っても怒鳴っても脅しても、行動はいったんは止まるかもしれませんが、怒られた・叱られたということだけが頭の中に残ってしまい、親に対しての反発や反抗が身についてしまうことが多いかもしれません。

⑥自分自身が身体的・精神的に病んでしまった。
このパターンも多いです。小さい頃はまだまだ少し気になる程度のことであっても、ほかの子どもたちと一緒に行動する(保育園・幼稚園・こども園・習い事)ようになると、さらに自分の子どもの問題点に目がいくようになるし、どうにかしなければならないと考え、親自体のストレスがさらに増していきます。眠れなくなったり気持ちが沈んだり・イライラモードが続いたりして、自分自身の体調不良から受診することもあるのです。
相談に来る家族は、希望や期待をもった人なんです
つらつらとマイナスなことばかり書いてしまいましたが、受診をすることで、「いままでの子どもの行動の意味がわかった。安心した」というように思う人もいるのです。ほんと、なんでもそうだと思いますが、わからないってことが不安やイライラ・ストレスのもとになってしまうことが多いのでしょうね
先日長くかかわっているKさんのお母さんからすごいことを学びました。Kさんは40歳も過ぎて一人暮らしをしています。週に1回程度ですが、就労継続B型に通所しているのですが、母親としては自分が死んだ後のことを考えると心配で、夜も寝れなくなることもあるそうです。『親無き事の心配』は家族会などでもいちばん話題になることなのですね。
Kさんのお母さんは面接をすると、必ず息子さんの文句をたくさん話します。でも最後には、「心配している」という言葉もいくつか出てきます。ほんと、心配しているからこそ文句もいいたくなるのでしょうね。そんなときに「ところで、Kさんの悪いところをたくさん話しているけど、いいところだってあると思うよ。それを教えてほしいんだけど」と質問すると「それはたくさんあって、自宅へ戻ってくると買い物をしてくれたり、荷物を片付けてくれたりなんてこもするんですよ」と教えてくれます。
いつも悪いことばかりを話してくれるKさんのお母さんがこの日ばかりはいつもと違って「Kさんの良いところ」をたくさん語ってくれたのです。そして次のようにお話されました。
「悪いところばかりに目がいくのは、いろいろやれることもあるって、いいところもたくさんあるからこそなんですよね。ほんと、悪いとこばかりなら期待もしないんだけどね」
この話を聞いて私は 発達凸凹とか得手不得手があるということを思い出しました。そうなんです、いい面がたくさんあるからこそ、悪い面に目がいってしまう。そこには期待などもたくさんあるんだなって。そう。Kさんのお母さんのこともですが、基本的には相談に来るご家族の方々は、いまの状況を変えたいという『希望や期待をもった人』なんですよね。
発達障害って診断されてもされなくても、発達が気になっても気にならなくても。こどものことが気になるのが親なのかもしれません。
ではまた次回。
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