見出し画像

〈連載〉発達障害についてつっちーが考えていること(その4)

土屋 徹 
ナース&ソーシャルワーカー/SST普及協会認定講師

精神保健福祉の業界に入って40年。看護師として精神科病院での勤務や元・国立精神・神経センターACT-Jプロジェクト臨床チームチームリーダーを経て、現在、フリーランスの看護師と精神保健福祉士として活動。クリニック・大学・専門学校等に非常勤で勤務するかたわら,全国各地でSST(ソーシャルスキルトレーニング)やペアレントトレーニングなどの講師を務めている。愛称はつっちー。精神看護出版からはスーパーロングセラー『実践SSTスキルアップ読本』『精神科版 家族教室スタートアップ読本』『土屋流 「当事者主体」的アプローチ』が既刊。


みなさんこんにちは。この原稿を書いているのは10月の半ばですが、日によってはまだまだ夏日を記録するような天候です。仕事の都合上、北から南まで行っている私ですが、気温の変化がすごいなって思います。とはいっても、自分自身の身体は元気なんですけどね。健康に産んでくれた両親に感謝している今日この頃です。さて、今回は連載の最終回。私がかかわっている方々のことを紹介します。

学校に行かないでゲームばかりやっているHさん

HさんはもともとADHD(注意欠如多動症)という診断を受けていたのですが、仕事上の対人関係がしんどくなって私とかかわりをもつようになりました。かかわり始めたときは、こんな風に言っていました。
 
いろいろなことが整理できなく、仕事上で問題が起きてしまう。ついつい自分が思っていることをそのまま口に出してしまって、知り合いから批判されることが増えてきた。
 
面接のつど、対人関係についていろいろ相談を受けたり練習したりしていたのですが、Hさんはもともと、ゲームが好きで時間があれば同じゲームを何万回も行う人でした。それが高じてゲーム関連の仕事をしていて,周囲からはかなり評価を得ていました。
Hさんは医師からお薬を処方されたこともあったのですが、服用すると仕事上の付き合いや生活はスムーズに行えるようになるのですが,仕事自体のパフォーマンスが落ちてしまうと悩んでいて、いろいろ相談をした結果、自分の良さを活かすことを第一に考え、お薬を服用しないという選択肢を選んだのです。両親からはHさんについて、こんな風に言ってくれたそうです。
 
小学校から不登校。毎日ゲームばっかりやっていて、本当はとっても将来が心配だった。このままひきこもってしまう人生になったらどうしようかと思っていた。でも、毎日ゲームをやっているということは、生きている証拠。それ以外は考えないようにしていた。でも、そのゲームをし続けたことを否定しなかったことが、今のあなたの生活に役立っている。人生ってわからないね。
 
学校に行かないでゲームばかりやっている。それを怒ったり叱ったりしない親はいないと思います。その時は毎日毎日将来への不安などがたくさんあったのかもしれません。しかし、今はその時のゲームに向き合っていたこと&ADHDの特性を活かして収入を得て、生活が成り立っているのです。私もこの両親の言葉を聞いて、子どもの状況に対しての不安と、子どもの現実に葛藤しながら、Hさんを支え続けてすごいなって思いました。人生ってどこで何が起きるかわからないとあらためて考えてしまいますよね。

「学校には行きたくない」というKさん

Kさんは小学校の6年生から学校への行き渋りが始まりました。
お母さんからの相談から始まったのですが、Kさん自身は成績もクラスでも上位・学校での友人関係でも特に目立つこともなく、先生から問題を指摘されたことは一度もありませんでした。ところが、ある時からKさんは「学校には行きたくない」と言って、自宅で過ごすことが増えました。
お母さんは体調に何か問題があるのではないかと思い、内科などを受診させたのですが医師からは「特に問題はない」と言われたので心療内科に相談に来ました。何度かKさんにもお会いしたのですが、笑顔も可愛く質問にもハキハキと答える。そんなKさんの姿を見て、お友だちや学校の先生は、なぜ学校に来れないのかその理由がわかりませんでした。
しかし、親としては「学校に行かせたい。このまま学校に行かないと将来が不安だ」とあたりまえに心配します。ですからKさんに対して「なぜ、学校に行かないのか。どうしたら行けるようになるのか」と問いただしたり、いろいろお母さんなりに不登校などについて勉強したり,工夫をしてみたのですが、親の気持ちとは反対にKさんはだんだんと自宅で過ごすことが多くなってきたのです。
Kさん自身は「学校は特に嫌いではない。ただ、何となく行きたくないんだ」ということだったので、いまの状況を変えるというよりも将来の目標(最初は東大に入りたいと言っていました)などを一緒に語り合いました。
お母さんにはKさんの毎日の生活のなかで〈続けてもらいたいこと〉を見つけたら「ほめる」ことをしてもらい、お母さん自身にも自分の楽しみを見つけて外に出る時間を増やすなど、いろいろな取り組みを一緒に考えました。もう、この連載を読まれている方は想像がつくと思いますが、Kさんを変えることよりも、お母さんのKさんに対するかかわり方と、自分自身の生活に目を向けることによって、Kさん自身が将来に向けて自分らしく生活できるようになることが大事なことなのです。
こうした変化が起こるまで2年近くかかりましたが、いまではお母さんは自分の趣味や生活を大切にして、Kさんは通信制高校をめざして塾に通いながら勉強に取り組んでいます。今まで「学校」というキーワードの会話が多かったのですが、近ごろは何気ない親子の会話が増えてきて、家庭内でも笑顔が増えてきたそうです。お母さんいわく「娘の学校での生活や成績について、私自身がもっていた「こうあらねばならない」という思いが強すぎたのかもしれない。いろいろ考え方はあるけど、学校に行くことだけを目的にするんじゃなくて、娘が自分のこれからを自分で考えて生活することが大切なんですよね」と語ってくれました。

「いいとこ見つけてほめほめする」

2つのお話を紹介しました。
この話の教訓は、「決して学校に行かなくて」いいとか、「親がもっと子どもに対して寛容になってほしい」というものではありません。結果的には自分の得意なことで成功したHさん。これからの自分自身の目的や方向性を見つけてたKさん。もしかすると、この2つの話は一握りの良いお話かもしれません。実際に、多くの子どもたちや家族の方々は、何年も何年もつらさやしんどさの中で生活をしていくこともあると思います。ただ、その一握りの話を通して、人生はどうなるかわからない、マイナスと思っていたり心配をしていたことが、生活の中でより良い方向へ進むこともある、そして、発達障害と診断されたとしても、悪ところばかりではなく「いいところや活かせることもたくさんある」ということを知ってほしい思うのです。
発達障害や発達が気になる子どもたちへのかかわりは「いいとこ見つけてほめほめする」ことで、社会の中で生きる力を育むということだと思います。ま、本人だけではなく環境調整をいちばんに考えるのは大切なのですが、それはそれとして。

お知らせ(セミナー開催!)

来年2025年の早々に、「いいとこ探し・看護職ができるティーチャーズトレーニング」の研修を開催することになりました。もちろん、当日は看護職だけではなく、発達が気になる子の保護者の方であったり、子育てしている人であったり、テーマに興味をもっていただいた人であったりと、誰でも参加オッケーです。ぜひぜひ、セミナーに参加して一緒に学んでいきましょう?

詳報は月刊『精神科看護』等で随時



月刊『精神科看護』は便利な定期購読をおすすめします。
富士山マガジンサービス
https://www.fujisan.co.jp/product/1281692088/
デジタル版(電子書籍版)も販売中です。対応しているスマートフォン,タブレット,パソコンで,いつでも,どこでも読むことが可能です。また,雑誌本文の試し読みも可能です。毎月20日に最新号の購入および試し読みが可能になります。

1.月刊『精神科看護』の定期購読は原則1年間(増刊号あり:13冊,増刊号なし:12冊)のお申し込みとさせていただきます。
2.購読料は開始号により異なります。
3.送料は無料です。
4.定期購読期間中の途中解約はできません。予めご了承ください。
クレジットカード・コンビニ決済をご希望される方は、下記のURLをクリックしてください(外部サイト)。定期購読だけではなく1冊でのご注文も可能です。
ご注文は、精神看護出版ホームページからも


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?