バニラアイス購入時だけ車が動かないという苦情。 Twitter & note 001
『これって人にも起こっている現象な気がする』
記事は機械の場合だけど、人にも同じような事が起こっている時があるような気がする。
人の関わりの中で、何らかの負荷を受け続ける状況に陥る時がある。
ストレスという言葉で一括にはできない複雑な心身への負荷。
そんな中でも一つの物事にだけ取り掛かっては居られず、いろいろな要件が割り込んでくる。それが続く。そんな時。
本当は心のエンジンを掛けたいのだけど上手く掛からない。
気持ちにブレーキを掛けたいのだけど効かない。そんなふうになる。
・・・
・・
・
文明開化の香りのする歴史ある商店街。
その中の庶民的な珈琲店でこの記事を読みながら、向かいの席でコーヒーを飲んでいる仲間の一人に自分の思いを話してみた。
『へぇ。車ってそんな事になるんだ。』
うん。長い下り坂とかでブレーキを踏み続けるとブレーキが効かなくなるとか話に聞くでしょ。それと似たようなことが自分達にも起きる事ってない?
『自分を見失っちゃうような感じかな?』
うん。それに近いんだけど、もうちょっと違う感じ。
と・・言うの・・・はさ
この記事にコメントしている大学教・・・授・・の・内容な・・んだけ・ど
・・・!?
突然腹部に痛みを感じ、瞬時に気持ちも落ち着かなくなる。
話が続けられない。なんだこれは・・・?
『えっ?なに?』
しまった。急にお腹が痛くなってきた。トイレに行ってくる。
決まりが悪いが正直に申告して席を立ち足早に店内のトイレに向かう。
『早く行ってきな』仲間が少し心配そうに呟いているのが背中に聞こえる。
それにしても、かなりお腹が痛い。なんでだろう。とにかくトイレに。
しかし。トイレのちょっと手前でドアノブの上のマークが使用中を示す赤い表示になっていることに気付いた。
うっ。なんでこんな時に!・・・でもきっとすぐに出てくるだろう。
そう思ってトイレのドアの前に立った。早く早く。
思えば自分は日頃からトイレ運が悪い。
駆け込んだコンビニやショッピングセンターのトイレが塞がっている確率が非常に高い。待っていてもなかなか出てきてくれないのも同様だ。
・待つ
・・・待っている
・・・・・なかなか動きがない。
お腹の痛さも増してきている。もう限界が近い。このままではマズイ。
苛立ちと焦り。平静な顔をしていられるのもこの辺までか。
徐々に表情を操ることすら難しくなりつつあることが自分自身で分かる。
それにしても動きがない。
このままジッとしていてはマズイことが身体を通して伝わってくる。
身体を動かして気分転換を図ろう。追い詰められ仲間の所に戻る。
『あれ?なんか・・・大丈夫?』
しまった。気づかれたか。
もはや自分の心身の状況は全て表情に出てしまっているようだ。
・・なんか・・・さ。ぜ、全然・・・出てこないだ。トイレが開かない。
席には座らずに立ったまま仲間の横で話す。腹痛もあり流暢に話せない。
『えっ?そうなの?でも、並んでないとまた誰か入っちゃうんじゃない?』
その言葉を聞いて絶望的な気分になる。
そうだ。今の自分はそんな事も考えられなくなっているんだ。
急いでトイレの前に戻る。
よし。まだ使用中だが他の誰かに取られてはいない。
少し身体を動かし会話ができたことで限界が近いながらも少し落ち着いた。
待つしか無い。しかし、まだ出てこない。早く出てきて下さい。
目を半分つぶるようにして心の中で願う。
そんな時。一つの変化に気付いた。
トイレの中からカラッという音が聞こえてきたのだ。
きた!!良い音だ!!!この後にはザーッという爽快な音が響き、固く閉ざされた天の岩戸が開かれる。そんな明るい兆し。福音だ。
来い!・・・早く。来いっ!!
カラカラッ・・・カラッ・・・カラカラカラッ・・・
カララッララララッララッ
・・・・・カラカラカラカラカララッカラララッカララッカラカラ・・・・
カラカラカラカラカラカラカラカラ・・・・・・・
???
いつまでたっても中からはペーパーを手繰るような音しかしてこない。
おい。ザァーッという音はどうした!?
しかしまだ同様の音が続く。
カラカラカラカラカラカラカラカラ
・・くぅっ!・・・この音は自由への解放を知らせる音のハズなのに・・・
期待は膨らんでいるのに。
何やってんだゴラァあ!!!と言ってしまいそうな程の怒りもこみ上げる。
しかし、今の心身の状態では怒りを表現することも出来ない。
違うものが出てしまいそうだからだ。
こんな時はまた仲間に頼るしかない。身体を動かして気分を変えて少しでも時間を稼ごう。もう自分がどんな顔をしているのかも分からない。
仲間の元に向かう。
『ちょっと・・・どうしたの?』
何かのフリーペーパーを読んでいたと思しき仲間が自分の顔を見るなり驚いたように声を掛けてきた。
自分は相当な表情だったんだろう。限界を超えてしまった人間のそれ。
そして。そんな人間が絞り出すように、そして恨みがましく仲間に訴える。
なんだかさ。ずっとペーパーを取っている音だけが聴こえてくるんだよ。
不思議な状況を説明する。
この時の自分はきっと親の敵を見つけた報告をするようだったとも思う。
そんな緊急事態の自分を尻目に、それを聞いた仲間は優雅にフリーペーパーを閉じコーヒーをお飲みになりながら信じられないようなことを口にする。
『あ~。・・・やっとんな』
ん?それはどちらの方言でしょうか・・・。意味が分からない。
食って掛かる。今は敵味方どころか善悪の区別もつかない精神状態だ。
「だからさ。クスリでしょ」
えっ!?・・・・・トイレでそんな事するか?
「こんな街中だし。トイレでするしかないでしょ。我慢できないんだから」
あ~。そうかなるほど。
いや?感心している場合じゃない。一瞬気が紛れたけど、こっちは本来の用途であるはずのモノが我慢できなくなりつつある。
急いで天の岩戸の前に戻ろう。
しかし・・・・・まだドアノブの上には使用中の赤い表示。
もうダメだ。こうなったらもう・・・ドアを蹴破るしか。
心身の限界から正常な判断も出来ない。そう思った時。
仲間が店員と共にトイレの前にやってきた。店員さんは険しい顔している。
店員さんは私に会釈してドアの前に立ち、躊躇なくドアをノックし始めた。
ドンドンドン・・・ドンドンドンドン!!
「お客様、大丈夫ですか!?」ドンドンドン!!!
ヒーローの登場だ。自分の目の前にヒーローが現れた!頼もしい!!
もっとお願いします。
すると不思議な事に、ザーッとトイレを流す音もなく急にドアが開いた。
そして、中から出てきた人は足早に自分達の目の前を通り過ぎる。
・・・非常に妙な感じがするが、今は何も考えることができない。
とにかくトイレに入ろう。
危機を脱した自分は仲間の元に帰還する。本当に危なかった。
さっきはありがとう。爽やかに謝意を表す。
そういえば、なんで店員さんが来てくれたんだろう。
『中でしてる事がしてる事だから、待ってても出てこないよ』
なるほど。そう察してお店の人に声を掛けてくれたんだ。
そう言えばさ、あれだけペーパーを手繰る音がしていたのに、トイレを流す音もしないで出てきたでしょ。でも中にはペーパーが散らかっている訳でもなく本当に不思議だったよ。
『中で違うことしてたんだから、それもそうだよ』
仲間はそう言いながらコーヒーを飲み、更に話を続けた。
自分がトイレに入った後。出てきたその人は店内でも不思議な行動を取っていたそうだ。そんな説明をしながら、一つの席を『ほら。アレ』と指差す。
『あの席がさっきのトイレの人の席』と教えてくれた。
見るとその席には注文した商品がどれも手つかずで残されている。
随分前から置いてあるようで飲み物の氷は溶けきっており、結露でトレーに水が溜まっている。その他に置かれている物にも手を付けた後がない。
全て残され片付けもしていない。テーブルには異様な気配が漂っている。
そうかぁ。しかし本当に危なかった。
いつも頼もしく思っております。
危機を脱した安堵感に包まれていると仲間から声を掛けられる。
『そういえば。話の続きは?さっき何か話している途中だったよね?』
いや・・・何の話をしてたんだっけ?分からなくなっちゃった。
思い出せないな。今度また話すね。
自分にエンジンもブレーキも掛からない気分。
心身ともに体力を使い切った疲労感にそう答えるのが精一杯だった。
そして、何となく記事の最後の締めくくりの言葉を思い出していた。
マン教授はこのエピソードの教訓として「常識とはかけ離れているように見える問題であっても、時には真実を映し出していることがあります」と述べています。