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ギャンブル漬け公務員の借金生活③~ギャンブル依存症経験者の話を聞きに行く~

 これは、ギャンブル漬け公務員が借金と向き合う備忘録である。

 今回は後編で、前編、中編を見ていない人がいたらこちらから見てほしい。

 10月下旬の日曜日、私は保健所の職員たちとギャンブル依存症の人たちが集まるイベントに向かった。そこでは、自分がギャンブルを通して周りに迷惑をかけてしまったことを、赤裸々と話していくイベントだった。
 実際は7,8人の語り手がいたが、今回は、3人ほどピックアップしようと思う。
 
 

1人目 家族のお金に手を出した人

 名前はよしおさん(仮名)。年配の男性で、ハマったギャンブルはパチンコ。仕事を辞めるくらいギャンブルにのめりこみ、家族に迷惑をかけたという。

 「私は、元々建設会社で務めてました。結婚をし、子どもも生まれ、順調な生活だったのですが、ある日、同僚からパチンコに誘われ、遊び程度にやりました。そうすると、ビギナーズラックって言うんですかね、5万円勝ちまして、それがすごく気持ちよかったんですよね。1回勝ってしまうと止まらなくなるんですよね。あの気持ちよさをもう一度味わいたくて何回も何回もパチンコに通ってしまうんです。そして何回も何回も負けるんです。
 その結果、貯金は尽きてしまいました。子どもの学資保険も解約し、使い込みました。それでも反省をすることなく通い続けました。
 それもなくなると、今度は妻のブランド物のバッグを売り、お金に換えてパチンコに行きました。また負けると、売るものもなくなって来るので、私は次に子どもの部屋に行きました。すると、部屋にはカードがたくさんあるんですね。それをガバット掴んで持って行って売りました。大したお金にはなりませんでしたがそれで十分でした。
 そんなことを繰り返していたらまぁバレますよね。素直に白状し、ギャンブルで借金を抱えていることも伝えました。そこからはあっという間です。離婚をし、親権は妻に取られ、独り身の生活になりました。
 そこから仕事も気力がなくなり、ある程度の役員になったのですが、仕事も辞め、たくさんあった役員報酬も諦め、今は施設で療養を受けています。毎日ギャンブルをしたかどうかの記録を強制的につけなければならないので、絶対にギャンブルはできない環境です。おかげで、現在はギャンブルをやりたいとも思いません。
 ですが、これで治ったとも思っていません。少しでも、完全に治療に成功する日を夢見て、明日からも頑張ろうと思います。ありがとうございました。」

 これがこの回一人目のエピソードであるが、かなり生々しかった。よしおさんは、話は上手ではないが、当時の臨場感が伝わってきた。とても苦しかったのだろう。子どものために積み立てていたものを、自分のギャンブルのために解約する、並大抵の判断ではない。かなりドーパミンが壊れている。こんなことが当たり前になっているようだ。

2人目 施設暮らしの辛さ

 名前はゆりこ(仮名)さん。ハマったギャンブルはパチンコ。年配のふくよかな女性で、よしおさん同様、家族のお金に手を付けこっぴどく怒られたが、離婚はせずに、夫と娘がいるそうだ。そんな彼女の、施設に入ってからの話をしようと思う。

 「施設に入ってからというものの、ギャンブルをしない日々が続きました。でもギャンブルをしなければしないほど、その反動でギャンブルを思いっきりしたくなります。そして、ふと外に出た時に、パチンコ屋に向かってしまうんです。施設に戻った時には何食わぬ顔をしていつも通り生活をしていました。ですが、本当にギャンブル依存を克服し、施設を出ていく人もたくさんいました。私より後に入所してきた人が、私より先に出ていくなんてことはザラにありました。
 その人達を見る度に悔しくなります。なんであの人たちは出ることができて私は出ることができないんだと。自分の弱さに絶望したりもします。それとは裏腹に、私は自分のことが好きです。たった1日だけでもギャンブルをやめることができたら、すごく自分をほめています。よく今日はやんなかったな、よく耐えたな、と自分を鼓舞しています。そうでもしないと誰も私のことなんか褒めてくれないからね。
 でもまたこっそりやっちゃうんだよね!!施設の人にもこっぴどく叱られるんだけど、なにくそ!!って思ってる。反省してないのは悪いけど、そうでもしないと自分の心を保てないからね。
 そんなこんなで私は施設に入りながら治療を続けています。娘が高校生の時に「私、絶対にお母ちゃんを楽させてあげるからね!!」と言ってくれて、その宣言通り、パティシエの専門学校に行ったのですが、特待生になり学費が免除となりました。
 ただただ私がギャンブルに明け暮れて娘に迷惑をかけただけなのに、それも分かっているのに、今でも私にやさしい言葉をかけてくれます。そんな娘のためにもギャンブル依存症を克服しなければなりません。この集会が終わって施設に戻ってから、スリップを起こさないように頑張りたいと思います。」

 ゆりこさんの話もすごいものだった。母親がギャンブルにハマって抜け出せなくなっても母親に素敵な声掛けをする娘はどんな気持ちだったのだろう。
 恐らく、本人が話している何倍も大変なことがあったのだろう。そして「ちょっとしたことでも自分をほめる」ということは、自分に対しても、とても大切であることが身に染みて感じた。

3人目 ホームレスになるまで借金をした人

 名前はかずあき(仮名)さん。年齢は30代前半のように見える。ハマったギャンブルはパチンコ。彼の生い立ちから聞くことになった。

 「私は、父親がギャンブル漬けでした。勝った時には上機嫌で僕に沢山プレゼントを買ってくれたのですが、負けると不機嫌になり話しかけるなオーラを出し、よく母親に当たっていました。母親も苦労してきたのでしょう。いつの日からか、毎日のようにアルコールを飲み続けていました。
 ギャンブル依存の父とアルコール依存の母親、そんな二人に育てられた僕なので、絶対にギャンブルもアルコールもやるわけないと思っていました。そんな僕は、音楽が好きだったので、東京の芸能関係の専門学校に通うこととなりました。今思えば、歌手になりたいというより、最悪な両親の元から一刻も離れたいという気持ちが強かったのでしょう。
 そんなこんなで、私はバイトを始めました。よくあるチェーンの居酒屋で、たくさんの同年代の人たちが居ました。そこで知り合った同い年の男の子と仲良くなり、プライベートでも遊ぶようになりました。
 そして、その子から1度だけパチンコに誘われたのです。絶対にパチンコはしないと決めていましたが、音楽活動も上手くいかず、女の子を抱きたいと強い欲望を持って来たけどそれも上手くいかず、半ば自暴自棄になっていたのかもしれません。それで1度行ったパチンコで、大勝ちしてしまうのです。これがまた気持ちいいんですよ。どうして初めて行った人には当たるようになってるんですかね??
 こうなったらもうやめられません。私は毎日のようにパチンコに通い、授業をすっぽかし、あれだけ好きだった音楽をやめてしまいます。絶対にやるかと思ったパチンコを始めてしまい、絶対に飲むかと思ったアルコールすらも飲み始めてしまいます。
 酒とギャンブル、僕が毛嫌いしていたものに浸かった結果、専門学校を中退し、莫大な借金を抱え、ついには家賃も払えなくなり家を追い出されてしまいました。絶対に家に帰りたくなった僕は、ホームレスになることを決意します。とはいっても、その時の東京は真冬、あまりにも寒すぎてホームレスどころではありませんでした。
 1ヶ月に終わったホームレス生活をやめ、仕方がないので地元に帰ることにしました。今では仕事も見つかり、施設で過ごす日々。嫌いだったパチンコやアルコールを断つことが今の目標です」

 かなり波乱万丈な人生だ。自分がなりたくなかった両親と同じ姿になり、何もかも失ってしまった。とても辛かっただろう。
 だがこの人、一つ気になることがある。めちゃくちゃ演じて、感情をこめていたのだ。これは心から放っている感情の込め方ではない。声優のナレーションのような言い方だ。
 本文ではカットしたが、いきなり英語でベラベラよく分からないことをしゃべり始め、会場を白けさせていた。ところどころユーモアを交えていたが、つるんつるんにスベり散らかしていたし、この人の仲間内と思われる人間だけがゲラゲラ笑っていた。最悪の空間である。
 ここは、お前の自慰行為を発表する場ではない。原稿を書いているうちに筆がノってきたのだろうが、今はその場ではない。
 みんなが聞きたかったのは、その人の魂からの叫びである。最初の二人は、話が特に上手いわけでも、流ちょうに話していたわけでもなかったが、魂を話していた。自分の経験を精一杯伝えようとしていた。それが本来あるべき発表の場である。
 それを無視して、ただ自分が気持ちよくなるためにこの場を利用していた。しかも、1人1あたり5分で話していたのに、そいつだけは事前にお願いをしていたらしく、20分も話していた。お前の自己満足に20分も付き合わされたこっちの身にもなってほしい。
 参加者の何人かは居眠りをしていた。全然面白くないから仕方ない。そこまで空気が読めないのだから、このまま芸能活動を続けたところで鳴かず飛ばずだっただろう。TPOというものを弁えてほしい。

 色々あったが、最後の人以外の話はとても良かった。自分がギャンブルにハマったせいで家族に迷惑をかけ、犯罪行為も厭わない人間になってしまった。自分もこうならないように、ギャンブルを断つことができたら良いと思っている。

最後に
 3編に渡ったギャンブル漬け公務員の話、いかがだったろうか。ただやめればいいギャンブルにのめり込む僕を見てこう思っただろう。
 「ただのバカ」だと。正直、私もギャンブルを始める前は、ギャンブルで借金を作っている友人に対して酷く見下した発言をし不快にさせていた。だがこれは、ギャンブルにのめり込んでる人間に一番欠けてはいけない言葉である。彼には謝りたいが、縁を切ってしまったのでできない。
 だが、私には一切同情しないでほしい。この気持ちも理解しないでほしい。なぜなら、これに共感しようとすることが、ギャンブルへのめり込む第一歩になってしまうからだ。
 今後もギャンブルにのめりこみ負け続ける私をバカにし続けてほしい、負け続ける私を見て下に見続けてほしい、そして、絶対にこんな人間にはならないと思っていてほしい。誰一人こちら側に来てはいけない。
 教訓のためにも、このnoteを見て、絶対にギャンブルをしないでほしい。それが私の思いだから。

(おわり)

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