ギャンブル漬け公務員の借金生活②~保健所で更生を目指す~
これは、ギャンブル漬け公務員が借金と向き合う備忘録である。
今回は中編で、前回の話を見ていない人がいたらこちらから見てほしい。
6月初旬、私は保健所に向かった。あまりにもギャンブルで借金を抱える生活が苦しく、直したかったからだ。出迎えてくれたのは私とさほど年齢が変わらないように見える20代後半の男性職員だった。
小さな会議室に通され、いくつかの聞き取りが行われ、ギャンブルとの向き合い方を何点か話した後、初日は終わった。次に行くのは2週間後だった。
2週間後、保健所の会議室に向かうと、前回の若い職員に加え、ベテランの職員が1人いた。見るからに仕事ができそうでビクビクしてしまったが、とても人当たりの良い人だった。
その人は私に、あるものを手渡した。ギャンブル依存症回復のためのプログラムだった。保健所であるため、薬による治療法はできない。なぜギャンブルをしてしまうのか、どのようなきっかけでギャンブルにハマってしまうのかを何回かに分けてやるようだ。いわばただの座学だ。
完全に治すことはできないのかもしれないが、のめりこんでしまいたくはない。ギャンブル依存のメカニズムを知り、抑えることで遊び程度にスロットを楽しむことができれば・・・その幻想はあっという間に消滅していった。
ほどなくして、ボーナスが入った。借金を全て返し、支払いも終わり、久々に預金がプラスになった。もうギャンブルはしないと誓い、このお金を死守するんだ!!そう思った。
だが1週間後にはこう思っていた。
「借金していないのだから、遊びの範囲で楽しめていることになる」
と。そして
「余裕があるのだから、もう少し波の荒い台を打っても大丈夫だろう」
波の荒い台というのは、出玉がたくさん出るが、その分負け額も大きくなる台の事だ。上振れて1回で20万円勝つ可能性を秘めているが、往々にして5~10万円負ける。
そして大体の台は、1万円入れて2万円取り戻すみたいな仕組みであるが、波の荒い台は、5万円入れて6万円取り戻すみたいな仕組みである。つまり、2,3万円入れた程度では確実に勝てない。大当たりを引くためには少なくとも5万円近く入れなければならない。ハイリスクハイリターンである。その分勝った時の快感がとてつもない。そして1度勝ってしまったが最後、それ以下の快感では満足できなくなる。もう1度同じ快感を、それを求めてギャンブルに走ってしまうのだ。
かく言う私もその一人。保健所に通ってギャンブル依存から抜け出したいのにも関わらず、ギャンブルをやり続けている。
ただ、私は運転が嫌いで、平日の仕事終わりに近くのスロットに行こうにも30分はかかるので行くのが億劫なため行っていない。そういう点で言うと、私は症状の中では軽い方なのかもしれない。
保健所で毎回報告をするのが辛い。いつ行っていくら負けた、いくら勝ったを報告するのが辛い。自分でやっているのに。それに対して、報告するのも少し楽しみである。なぜなら、プログラムに同席している若い保健所職員が生粋のギャンブラーだからだ。ほぼ毎日パチンコ屋に通いギャンブルをしている。この人は自分の給料の範囲内でやっているため依存症ではない。ゲームと同じ感覚だ。
だが、それが嬉しい。ギャンブルを始めてから、周りにスロットをやっている人がおらず、誰ともスロットの話をできなかったからだ。それも相まって、嬉しさと辛さが同居してしまった。
保健所に通い始めて2か月ほど経った8月中旬頃、何回プログラムを受けても相変わらずギャンブルをやめることができなかった。このころにはもう、ボーナスで返した借金が復活していた。18万円ほどになっていた。
だが、このプログラムにある変化があった。入院経験があるギャンブル依存症の人と一緒に受けることになった(以後Aさんと呼ぶ)。話を聞くとその人は、歯止めが効かなくなるくらいギャンブルを行い、最終的には家族に刃物を向け通報された経験がある人らしい。非常に深刻であるが、ためになる話が多かった。
と思っていたのは最初だけだった。Aさんは、自分語りが止まらないのだ。プログラムを進める中で「Aさんはこれについて何かありますか?」と聞かれた時にはもうアウトだ。10分くらいひたすら本題から逸れた自分が足りを続ける。ドラマが面白いとか、安くなった総菜を買うのが楽しみとか、米が高いとかひたすら自分の身に起きた話をし続ける。本題とは一切関係ないのに、それを自覚することもなく暴走を続ける。
毎回約1時間のプログラムのうち30分が自分語りで潰れることもある。黙っててくれ、お前の話を聞きにやって来ているわけではない。
余計にストレスが溜まってしまう。何かで発散しないと。そう思うたびに私はパチンコ店へと足を伸ばし、負けを繰り返していた。
このくらいから収支の記録を付け始めた。収支を付けた方が良いのは分かっていたが、あえてつけなかった。理由は、絶対にやめると誓っていたからだ。収支をつけるということは、長い目で見るということである。長い目で見るということは、長く付き合っていくという意思表示である。
私は長く付き合っていきたくはないため絶対に収支をつけていなかったが、どうにも治りそうではないので諦めて収支をつけることにした。
それからまた時は過ぎ8月31日、ギャンブル依存を加速させる瞬間が訪れる。
万枚が出た。万枚というのは文字通りスロットで1万枚出したという意味で、
1万枚×20円=20万円分の景品がもらえる。大勝ちである。自分の給料より高い額の現金が、5,6時間で貰えてしまった。私の1ヶ月がたった6時間で達成されてしまったのだ。この時の脳汁の放出はとんでもなかった。
収支を付けた初月に大勝ちをした。ぞくぞくし、ぞわぞわし、興奮が止まらなくなる。いつまでこの快感が続くのだろう、やっと借金がチャラになるどころか少しプラスになる。様々なポジティブな思考が巡り、今まで経験したことのない気持ちよさだった。
借金を返し切った場合、普通の人はこう考える。
「本当にもうやめよう。借金生活は辛かったし、これからまともになるんだ」
だが、私の思考は普通の人ではなくなっていた。
「もう一度この快感を味わいたい」
「もう一度万枚を出せばあっという間にお金が溜まる」
「また借金してもすぐ返せる」
明らかに暴走していた。勝った時だけの気持ちが先行し、通う頻度が多くなっていった。
その結果、、、
9月に22万3600円負けた。たった一月で22万円も金をドブに捨てたのだ。加速度的に借金は膨らみ、1回の給料ではどうにもならなくなった。2枚目の銀行のキャッシングにも手を出し、返そう返そうと必死になった。でも一向に返すどころか借金は増えていく一方だった。
10月こそはギャンブルを控えよう。
その結果、予定が入っていたこともあり、月3回のスロットで済ませることができた。だが、その3回全てで負けてしまい、より借金は膨らむことになった。
そんな惨状を保健所の職員に伝えた10月の末に、こんな提案があった。
「実は10月末に、実際のギャンブル依存症の人たちが集まって実体験を聞く催しがあるので行ってみませんか?終わったらみんなでお昼ご飯でも食べて帰りましょ♪」
迷わずに承諾した。基本的にこういう催しは嫌いで、ましてや人と行くなんて絶対に嫌な私は迷っていなかった。この人たちの温かさに甘えていたのかもしれない。
そんなわけで、次回は実際のギャンブル依存症患者の実体験を聞いた催しのエピソードを語りたいと思う。次が最終回なので、もう少し付き合ってほしい。
(つづく)
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