Lamb of God - Lamb of God

 New wave of American heavy metal / Pure American Metal最後の希望、Lamb of God(LoG)の通算8枚目のフルレンス・アルバムがセルフタイトルでリリースされた。
前作、VII: Sturm und Drangからカバーアルバムを1枚挟み、オリジナルとしては約5年のスパンで発売となった今作。世界中のファンが首を長くして待ち続けていたであろうが、当初決まっていた発売予定日から急遽延期が発表されるという予期せぬ「お預け」をくらうことに。その結果、一ヶ月強もの間、やきもきしながらの生活を余儀無くされてしまった。

 今作を語るうえで外せないのは、長年バンドの屋台骨を支えてきたドラマー、Chris Adlerの脱退劇であろう。
手前味噌な話で恐縮だが、ドラム経験者な自分にとって、Chrisはまさしくドラムヒーローだった。
ドラムプレイをコピーし、教則DVDを見ては真似をして、シグネチャーモデルのスネアドラムやドラムスティックを買い求めていたくらいには入れ込んでいたのだから、当然、脱退するというニュースは大変ショックだったし、「もうこんなのLoGじゃねぇや!」という思いだった。
後任は、ツアーサポートドラマーのArt Cruz。彼の叩いているライヴ映像を見て、やっぱりChrisじゃなきゃ!と思っていた矢先のニュースであったから、余計に落胆したというところもあるだろう。
バンド公式のFacebookに、Chris関連について決して少なくない数のネガティヴなコメントがついているのを観ても、多くのファンが同じように思っているということは想像に難くない。

それでは、フィジカルから紹介する。
毎度お馴染み、K3n Adamsのアートワークが光るCDジャケット。

CDレーベル面のアートワークもGood。

バンド公式通販で買えるオルタナティブ・カバーCD。

背面も抜かりない。鳥があしらわれた時計の針。

開いた中のアートワーク。ジャケットの拡大。

直筆サイン入り歌詞カードが別に付属。

 バンドで一番好きだったメンバーを欠いた新譜、ということで前作に負けず劣らず期待値は低い物となっていた。ところが、リリースされた新譜は、その感情は捨てざるを得ない傑作だ。リフのキレは衰え知らず。徹頭徹尾ハイボルテージで、日和ったり迎合したりという感情は皆無という代物である。

 M1. "Memento Mori" は、アルバム1曲目としては最高の出来であろう。イントロの囁くようなクリーンVoからトップギアまで一気にぶち上がる。テンポを落とし、ザクザクと掘り進むギターリフ、コードを意識したコーラス、炸裂するスクリーム。元々は別の曲であったが、プロデューサーのJosh Wilburにより、一曲に纏められたとのこと。メメントモーーリャーーー!!
続くM2. "Chakemate" はグルーヴィなザクザク系リフで、まさにLoG印そのもの。Resolution収録のGhost Walkingに似てる?細けぇこたぁ良いんだよ。アルバム内で最初に公開された曲であり、すなわちメンバーになったArtのドラミングを初めて聴いたわけだが、「思ったより違和感がない」というのが正直な感想。
今作で最もブルータルなのがM6. "Resurrection Man"だろう。雨音、雷鳴そして奇怪な弱々しいオルゴール音のSEから、ドロリとしたドゥーミーなリフでスローテンポに始まる。ウネりにウネったあとはお約束のゴリゴリ掘削系リフパートと、ドラマチックに緩急がついたナンバー。
M8. "Routes" はハードコアでパンキッシュな進行。コーラスではTESTAMENTのVo. Chuck Billyがゲスト参加している。M7にも言えるが、今作のゲストアーティストの入れ方は実に巧妙で、楽曲のクオリティアップにちゃんと貢献している。前作の「Chino Morenoの無駄遣い」のようなことはない。
M9. "Bloodshot Eyes"は、M1とともにVo. Randy BlytheのクリーンVoが使われているが、クリーンはヴァースの前半のみで、プレコーラスではスクリームと入り混じる。コーラスではメインリフとともに怒涛のスクリームがブチまけられる。これよこれ。
アルバム最後の曲だからと油断してはならない。10. "On the Hook"は怒涛のブラストビートでスタート。前半パートはテンション高めのLoGらしい曲が展開。後半パートではトーンダウンし、3連のリフとバスドラのユニゾンでぐいぐい突き進み、一気に〆感のある曲調へと変化する。

 結局、蓋を開けてみたらそこにはいつものLoGがあって、寸分の隙もない、職人技の粋を集めた珠玉の10曲が綴られていた。
この10という数字は、LoG作品の中でも1番少ないが、収録時間はさほど他の作品とは変わらない。曲数が減った分、むしろ濃厚濃密に仕上がった作品と言えるだろう。

前ドラマーのChrisが良いという声は、痛いほど理解できるし、自分も同じ気持ちを少なからず持っている。前述のとおり、並々ならぬ入れ込みようだったからだ。だが、アルバムを通して聴くと、ArtのドラミングはChrisの後任として申し分ないようにも感じられた。
Chrisは手数系ドラマーを代表する1人だ。テクニックは元より、流麗なドラミングは人々を魅了し、LoGの台頭と共に多くのドラマーに影響を与えてきた。そんな彼も、もう50歳に近い年齢だ。
これに対し、Artはまだ30代。すなわち、Chrisの影響を受けつつ、他のドラマーからも影響も受けてきたはずである。当然、引き出しの多さ、柔軟性においては、Chrisを上回る場合もあるだろう。インタビューにも、Artは多くのアイディアをスタジオセッションに持ち込んだとあり、実際アルバム内の随所にみられる手癖のようなドラミングだけみても、間違いはなさそうである。
今作について、「ドラマーがChrisじゃない」という理由だけで評価を下げたり、レビューしたりするのはあまりに狭量、あまりに安直であろう。そもそもLoGはリフを主体とした超攻撃的なヘヴィメタルバンドであり、今作でもその出自から一片もブレていなかった。仮にChrisとタイプの違う、仲良しバンドから引き抜いてきた同年代のドラマーだったとしたら、この根幹から揺らいでいてしまった可能性もありえないだろうか。「Chrisの遺伝子を継承しつつ、新たな血も入っているドラマー」を迎えた結果、バンドのレベルがさらに一段階上に上がったように感じられた。
ドラムがぐいぐいこないと言う声もちらほら聞こえるが、正直ミックスと使用機材違いの域を出ないと思われる。

日本でのLoGのライヴは、2016年のKNOTFEST以来行われていない。単独はなんと2012年を最後に途絶えてしまっている。
新ドラマーも入り、さらに勢いが増している今、是非とも日本で、かつ単独で彼らの轟音を堪能日が来るのを願ってやまない。

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