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Seiren Musical Project 第58弾公演 「In the Heights」 情報解禁&演出【隈元梨乃さん】インタビュー


「In the Heights」上演決定!

 トニー賞4冠・グラミー賞を受賞し、一昨年映画化もされた大ヒットミュージカル「In the Heights」が、この春、3月13日より、Seiren Musical Projectで上演が決定。


『In the View』 第1弾

 「In the Heights」公演に際して、公演関係者へのインタビュー、その名も 「In the View」を行なっていくこととなった。 今回は演出・振付を担当していただく隈元梨乃さんに、お話を伺った。


隈元梨乃さん


 鹿児島県出身。幼い頃からミュージカルの舞台を経験を踏み、洗足学園音楽大学ミュージカルコースを主席で卒業。在学中から現在に至るまでミュージカルの出演はもちろん、演出・振付・作詞・脚本にも挑戦。2019年にはクリエイターユニット「NEM KiT」(ネムキット)を結成し、オリジナルミュージカル等、活動の幅を広げている。
そんな彼女に、今回学生団体SEIRENの『In the Heights』の演出・振付を担当する思いや、彼女自身の表現への思い・ルーツを語ってもらった。

「SEIREN」・「イン・ザ・ハイツ」との縁

 今回、SEIREN版「イン・ザ・ハイツ」で演出・振付を隈元さんにお願いしたことには、大きな理由がある。今作品は「ワシントンハイツ」というニューヨークにある移民の街を舞台にしたラップミュージックが主軸のミュージカルであり、その文化とラップにリスペクトを持って丁寧に物語を紡いでいきたいという思いがあった。
 そんな中、ご自身のユニット(「NEM KiT」)でラップを用いたオリジナルミュージカルを製作し、脚本・作詞・演出・振付を担当、ミュージカルの中に日本語ラップを落とし込んだ表現に挑戦をしていた隈元さんにお声がけさせていただいた。


 「『In the Heights』は私としてもすごく共感し易くて。ミュージカルの中でも今の生活を生きている人たちのお話だと思うし、私自身も色々模索しながらミュージカルをしているのとか、SEIRENさんも学生が自分たちでやりたくてやっている、そのパッションみたいなものと、この作品はすごく相性が良いんじゃないかなって感じました。
 あと、自分が学生だったときにちょうど前回『イン・ザ・ハイツ』をSEIRENさんでやってたんですよね。実際公演は見られなかったんですが、すごく盛り上がっているっていうのは見ていたので、その親近感もあって、ぜひ挑戦してみたいなって思いました。」

 今を生きる移民たちのリアルが描かれる今作では特に、学生がミュージカルをやる意義を強く感じるという。

 「学生時代って、後から考えると余裕がある時期だと思うんです。みんなでお金や時間を出し合って突き詰めていくことって、今後難しくなってくる。舞台は突き詰めるところに色んな意味があったりするので、学生の時期だからこそできる発見が沢山あると思います。
 『In the Heights』的な話をすると、リンさん(※1)も学生の頃に作った作品なので、そういった意味でも親和性はすごく高いと思っています。今回に関しては、色々経験しすぎてからみんなでやるよりも、見えてくるものがあるかなとも思いますね。

(※1リン=マニュエル・ミランダ。『In the Heights』の原案・作曲・作詞・主演を担当)

「彼らが歌い踊りラップする理由を深掘りたい」

 さらに、演出する上で大切にしたいことや作品の印象を聞くと、舞台であるワシントンハイツの移民街という複数の文化が織り混ざるカルチャーへのリスペクトと、それを日本でわかりやすく受け取ってもらう表現を織り交ぜていく必要があるという。

 「例えば、日本の作品が海外でやられるとして、日本なんだか、なんだかよくわからないみたいな感じになっちゃってたら、ちょっと心がチクっとするじゃないですか(笑) そういうことは絶対にしたくないけど、でも日本で上演するに当たって、見る人もとっつきにくい部分はあると思うし、今のみんな(SEIREN)がやる意味っていうのもきっとあると思うので、そこと絡めていきたいと思っていますね。」

 もう一つ、非常に現実的な問題を描くミュージカルを演出するに当たって、大事にしたいことが、彼らが歌い踊る理由だという。

 「今までのミュージカルってやっぱり、非現実というか夢の世界の話みたいな部分も多かったとは思うんですけど、これ(「In the Heights」)は、確実に現実を生きている人たちの話だと思うんです。そこが音楽にのっている意味ってすごくある気がしていて。彼らが、歌ったり踊ったりラップしたりしなきゃいけない理由がすごく力強いなと思っているので、その辺りをみんなとディスカッションしながら、どんな風に表現できるか深ぼりたいなと思っています。」


「『ルーツ』や『ホーム』は、逃れられないリズム」

 『イン・ザ・ハイツ』の大きなテーマとして、登場人物たちの「ルーツ」や「ホーム」への想いや関わり方が挙げられる。そこで、隈元さんにも「ルーツ」や「ホーム」という言葉に何を思うか、聞いてみた。


 「すごく難しいと思うんですけど…個人的な話ですが、私自身は鹿児島出身なんですよ。18歳で初めて上京した時、なんというか、言葉が違う、って感じて(笑)外国語を喋ってるような感覚があったんですよ。言葉ってリズムだと思うので、アクセントが違うだけでそこに暮らしてる人たちの感性とか、生活のリズムが違って感じるんです。
 でも、「ルーツ」と「ホーム」って必ずしも同じものじゃないと思って。実際今いる場所での生活って、すごく長いものだったり、主戦場でもあって、勿論この今生活している場所に対する思い入れもある。そこからのポジティブなエネルギーもあるけど、そうじゃない側面もあって、「逃げられないもの」っていう感じがあるかもしれない。

 逆に、「ルーツ」や「ホーム」が自分のものでないような感覚があった時、自分とは何者なのかっていうのをすごく考えることもあると思うんです。
 今っていろんなカルチャーにアクセスしやすいじゃないですか。昔と比べたら、家族も小さくなって、色んなところに散らばって…すごく薄いんだけど、だからこそ、特にガラパゴスな日本の中では、一つ一つの文化を大事にしようっていう流れもきっとあると思う。そんな中で、じゃあ自分にとって「ルーツ」や「ホーム」ってなんなんだろうってのを考えると思うんですよね、ふとした時に。私個人としては、やっぱり「逃れられないリズム」って感じですかね(笑)」

「日本語とラップの相性はいいはず」

 言葉や文化の「リズム」を大切にされている隈元さん。冒頭でも触れたが、ラップミュージックをオリジナルミュージカルに取り入れたことも、その意識と繋がっているのかもしれない。

 「日本語のミュージカルでラップって意外と使いやすいんじゃない?って思い始めたのは最近なんですよ。日本語って元々ラップと意外と相性良いなと思って、落語とか、何とか節とか、お囃子とかの中にも、すごくリズムがあるじゃないですか。ほぼラップじゃん!って思うものが沢山あって。
 前回私が自分の作品(※『考える葦』「NEM KiT」製作)でラップを使った時にも、日本のカルチャーとどう混ぜるかって探っていく中で、より使いやすいってことに気が付いて…だからこそ、言葉としても音楽としても、ラップ表現ってめちゃくちゃかっこいいと思っています。

 あるインタビューでリンさん(※1)も、ミュージカルでラテンヒップホップを取り入れているものは全然ないと気づいて、(「In the Heights」を)やってみたんですよ〜って言っていて、「確かに!」と思って。そうやって、日本でも取り入れていけば馴染みがあるものになるんじゃないかって気はしてます。
 勿論歌うのは難しいと思うので、今回もみんなで頑張りたいなと(笑)思っていますね。」


「音楽+空間の『リズム』から生まれる振付」

 さらに、演出や振付を考える際にもやはり「リズム」や、その場の空間作りを重視する、という話を聞くことができた。

 「演出も振付もですが、まずは「ここはどんな空間か」という所から意識することが多いです。結構感覚的なんですが、例えば、台本を読んで主題を考えたりした時に、「今回の色味ってどんなだろう?」とか、かなり抽象的なところからイメージを膨らませます。そこから、空間の材質とか、香りとか「こんな空間が広がってたら良いかも」という半分夢みたいな(笑)そんな想像でワクワクするところから始めますね。

 振付に限るとさらに細かくなっていきます。振付を作ることで空間のリズムが生まれるので、音楽+空間のリズムとして、どんな振付があったら良いかなと考えてから、具体的な動きを決めていくことが多いです。舞台上のリズムに見ている人が心拍数を合わせていくことで、一緒にノっていけると思うので、そこをイメージして具体化していくって感じですね。」

「私たちが歌い踊る理由」

 幼い頃から現在に至るまで、出演から製作側まで多岐に渡りミュージカルに携わってきた隈元さんに、今のご自身にとってミュージカルとはどんな存在かと聞くと、

 「実は、何でもよかったんですよね(笑)最初は。何か、作品作りをして見ようと思った時に、結局自分の中に一番使いやすい状態で、身に馴染んでるプラットフォームがミュージカルだったので、今オリジナルミュージカルを作ったりとか、出演も続けてるっていう感じです。

 なんで、ミュージカルが相性がいいかって感じてるというと、歌とか踊りとかって、やっぱり昔からあるものじゃない?っていう意識を持っていて。大昔の文化が成り立つ前からきっと、天変地異とか、何かどうしようもなくなったら人って歌うか踊るかするしかないだろ!っていうような(笑)って感じるんです。祈りを捧げたりとかね。そういう時ってやっぱり、歌とか踊りに近い何かを使ってきたと思うんですよ。だから現代の日常の中であっても、それらが引っ張っていってくれたりするところってすごく大きいと思って。あとは、日常生活の中でもリズムってあって、それがわかりやすい形で表現されているのが、ミュージカルだと思っているので。
 そのあたりにすごく、ミュージカルをやる意味というものと、表現していきたい部分があるなって思っています。」


「キャスト候補との交流を通じて」

 インタビューをしたのは丁度オーディションを終える頃。キャスト候補と対面した印象や感触を聞くと、色々な可能性を感じたと話してくれた。

 「1次審査で1人ずつやってもらった後に、コールバック(※更に見たいと思った候補者をもう一度オーディションに呼び、審査すること)も色々とやってみると、進むごとに素直になっていくというか、吸収するための土台は一人一人沢山持っているような気がして。やっていけばいくほど、もっともっと色んな可能性があるんじゃないかなっていう希望を、毎日進めるごとに感じているところです。」

 その上で、未来のキャストに向けて熱いメッセージを託してくれた。

 「そうやって色んな面を見せてもらっているうちに、作品としても「もっとやれるかも!」という気持ちは強まっているので、皆さんのポテンシャルをいっぱい見せてくれたら嬉しいなと思っています。私は指導者という気持ちではあまりいなくて、アーティスト同士として作品を創っていきたいなと思っているので、ある意味フェアに、リスペクトしあって。そういうところじゃないと新しいものってできないと思うので、一緒にフレッシュに良いものが作れたら楽しいなと思っています。」


 ミュージカルに対する愛情と挑戦心あふれる隈元さんが創る「In the Heights」。
 本番まで半年弱、非常に熱い作品が作られていくだろうという期待感に溢れたお話を聞くことができた。


文責:山崎真依

あらすじ

 ニューヨーク・“ワシントン・ハイツ”はいつも音楽が流れる、実在する移民の街。その街で育ったウスナビ、ヴァネッサ、ニーナ、ベニーはつまずきながらも自分の夢に踏み出そうとしていた。
 ある時、街の住人たちに住む場所を追われる危機が訪れる。これまでも様々な困難に見舞われてきた彼らは今回も立ち上がるがーー。突如起こった大停電の夜、街の住人達そしてウスナビたちの運命が大きく動き出す。

公演情報

<スケジュール>
2024年3月13日(水)〜18日(月)
<会場>
池袋シアターグリーン BIG TREE THEATER
<演出>
隈元梨乃
<企画>
竹宮陽哉・藤原羽菜・花畑桜子
<製作>
Seiren Musical Project


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