箱根外輪山一周トレイル(1)箱根湯本〜明星ヶ岳
10月21日(水)。現地の天気予報、晴れのち曇り。
早起きして小田急線に乗り、箱根湯本駅に到着。
駅を出ると、すぐに登りが始まる。普段おみやげを買う商店街を下に見ながら、坂道を登っていく。いつもの温泉旅なら、通らない道だ。
都民にとって癒されたくなったときに行きやすい旅先・箱根は、個人的には「たまの癒し旅」の行き先である。足しげく通うのはなんだか申しわけない。それで、私の近場登山といえばもっぱら高尾方面、次いで丹沢方面、奥多摩方面だ。県境越え自粛中は、高尾方面と奥多摩方面だった。
しかし考えてみると、いちばん近い高尾方面を除き、交通費と所要時間はそこまで差がない。個人的にもったいないあまり、大事にしすぎた登山エリア、それが箱根方面なのである。以前、箱根旧街道を少し歩いて残りをバスでスキップしたことがあるので、二度めの箱根登山となる。
舗装路を、通過点の阿弥陀寺めざして登っていく。
私は、2018年にスペイン巡礼を経験して以来、またロングトレイルに行きたくて仕方なかった。スペイン巡礼があまりにも楽しく、快適だったからである。健康オタクである私は、とにかく体が心地よいところをめざす。
とはいえ、現在求職中でもあり、コロナ禍も収束していない。二度目のスペイン巡礼はもちろん、海外のロングトレイルに大手を振って行けるのはとうぶん先の話。しばらくは近場で登山だな、と若干窮屈な気持ちでいたところ、この秋ふと「京都一周トレイルなんていいんじゃないの?」と思った。
そのうえで、「京都府民はいいなあ、京都一周トレイルが近くて……」と思ったとき、私は気づいた。
私も、私の近場でロングトレイルすればいいじゃない。
検討の結果、真っ先に出てきたのが「箱根外輪山一周」だった。(次に出てきたのが「秩父札所巡り」と「富士山一周」。これも次、待ってらっしゃい)
ということで、自分の登山レベルに合わせて一日のコースをつくり、分割、日帰りで箱根外輪山一周することに決定。
初日の今日は、箱根湯本駅を出て塔ノ峰、明星ヶ岳まで縦走し、そこから宮城野バス停に降りる5時間程度のコースだ。
フォレストアドベンチャーを横目に、さらに進んでいく。フォレストアドベンチャーは塔ノ沢駅だと思っていたけど、思っていたより箱根湯本駅に近いのだな。
だんだん山道らしく。しかし、箱根湯本からほど近い場所なのに、ほぼ無人である。晴れ予報のわりに暗く、しばらくドキドキしていた。周囲に人がいない状態で山に入っていくとき、いつも最初は少し緊張する。
たまに青空が見えるとほっとしたり。
通過点の阿弥陀寺に入ってきた。
水が気になるけど、事前に情報をチェックしていないのと、名水の看板なども出ていないので、またの機会に。
独特の雰囲気の阿弥陀寺。
入っていいかどうかよくわからないのだが、ちょくちょく親切な案内板が立っている。
最初、無人だわ曇っているわヤブっぽいわでまごついていた私だが、徐々に晴れ間も出てきて、うしろからトレランさんが風のように追い抜いていき、道もはっきりしてきて、いつのまにか不安は消えていた。
日が翳ったとき、下を向いてしばらく歩いていると、あるとき急に足もとから光が湧き出てきた。
塔ノ峰に着くと、頭上は青空。
それから、ようやくの展望。
祝福のような木漏れ日の下を行く。
小田原の街が見えている。
この道が好き。
もういっちょ、小田原。
ここでいったん、舗装路に下りる。
舗装路歩きも爽快。
おっと、海だ。
ここから明星ヶ岳へ。
登りはじめてすぐ、箱根の山々を見晴らせる展望台があった。
ふっと見ると、富士山も少々(※下の写真、右のほう)。出発したときは空が暗くて期待していなかったので、うれしさもひとしお。
天気はかなりよくなってきたけど、登りがちょっときついような……最近スロージョギングサボり気味だから、鈍ってるのか? それともエネルギー切れか? クッキーをかじりながら、じりじり登る。
息を切らしながら、ときどき足をとめる。いつも高尾山で聞こえる鳥の声が、ここでも聞こえる。私はこの鳥の名前をまだ知らない。
花の名前も、まだほとんど知らない。でも、最近はいろいろなところで「このあいだも見た」が増えてきた。そのうち覚えると思う。
樹林帯を抜けて、頭上がひらけてきた。
また、箱根のぽこぽこした山々と出会う。かわいい。
今日は、この白い花がちょくちょく群生している(これも名前を知らない)。
名前を知っている数少ない花、トリカブト。ポーラ美術館の遊歩道で出会ったのが最初。あそこの案内板で覚えた。管理されていない状態で遭遇するのは初めてで、ちょっと緊張。
これまた展望のない、明星ヶ岳の頂上に到着。
登りで少しよけいにかかり、もうあまり時間に余裕がない。軽く昼ごはんを食べて、先を急ぐ。
ここから下山。
少し下りたところで、今日いちばんの眺め。
しかも、振り返ると、富士山。思わず声が出てしまう。
しばらくうっとりしていたら、雲も晴れるし。
名残を惜しみつつ展望を離れたら、そのすぐ下に広場がある、だと……。
どう考えても、昼ごはんをここで食べるべきだった。
富士山はもう隠れていたけれど。
なんとか長居したい気持ちを抑えて、出発。
おや、富士屋ホテルのあの特徴的な建物が見える。
まだ箱根の土地感が掴めていないけれど、箱根外輪山を一周するころには、少しは理解できているかしらん。
さあ、下山。
下から見る山もかわいい。
このあたりは別荘地の雰囲気。軽井沢に似ている。
ああ、ここ、昔来たことがあるな。懐かしい。
次回は、またここから明星ヶ岳に登る。
宮城野バス停に来たら、ふと看板が目に飛びこんでくる。「嬰寿の命水」……これは期待できそうだ。なんとかバスの時間に間に合いそうだったので、湧き水めざしてダッシュ。
お菓子屋さんの店先(車のうしろ)に、湧き水が出ていた。
あまりに人家の目の前すぎて、無断で水を汲む気になれない。お土産を買わせてもらい、2リットルペットボトル2本分お水を汲ませてもらう。
バスの時間が心配だったが、渋滞で遅れに遅れていたため、余裕だった。というか、バスが遅れた時点で、このあと渋滞に捕まるだろうことを推測できていれば、せめて電車を使っただろうに(仮定法過去)。
登山で疲れた状態で4リットルの水を背負い、満員バスで渋滞に1時間捕まるのは、なかなかしんどかった。
最後の最後で疲労困憊してしまったが、翌日、いただいた水でコーヒーを淹れると、とんでもなくおいしかった。今までの湧き水コーヒーで、ベストの味わいかもしれない。
(母製のリンゴケーキとともに)
登山3年目。やっぱり、山は楽しい。
今回の箱根湯本駅〜塔ノ峰〜明星ヶ岳のルートは、小田急線から直通の箱根湯本駅で下車し、外に出たらすぐ登山が始まる、アクセスしやすいルート。しかし、帰りはバスまたは箱根登山鉄道でえんえん帰ってこなくてはならない。まさに、行きはよいよい帰りは怖いルート。空いているときなら……とは思うが、バリバリの平日だったのにバスも道路も激混みだった。宮城野バス停ではなく、強羅駅まで歩いて箱根登山鉄道で帰るほうがまだマシだったかもしれない。コロナ禍はどうした? というぐらい通常どおりの混雑具合だった。「嬰寿の命水」は本当にかなり美味な水なのでオススメである。湧き水のあるお菓子屋さん「花詩」さんの店主も激推ししてくださったが、本当に激推しする価値のあるおいしさだと私も思った。なおこのお店、この日は休みだったのに、知らずに入ってきた私のためにお菓子を売ってくださり、水汲みも快く許可してくださった。大変お世話になり、ありがとうございました。ちなみに、なぜ湧き水の存在を知らなかったのに水汲みペットボトルを2本持っていたかというと、帰りに風祭駅の鈴廣さんに立ち寄って箱根百年水を汲む予定だったからである。湧き水ファンの私にとって、箱根まで来て水を汲まない選択肢はないのだ。しかし次回、宮城野からトレイルを再開するとなると、ここで水を汲んで数時間山歩きをするかどうかはちょっと微妙なところである。水を背負って混雑するバスに乗るのは、本当につらかったから……。