【マジカミサービス終了物語 ~黒いセイラの世界より~】4
【マジカミサービス終了物語 ~黒いセイラの世界より~】
第4話(最終話) 「- ムゲンノカノウセイ -」
2023年10月31日 PM00:01
白い部屋。
エンドロールがマジカミサービス終了の告知に切り替わる寸前、オムニスのボディはエラーを吐いて沈黙した。
だけど、マジカミの真の主人公であるオレ、量とびお兼オムニスはここにいるぞ! 白い部屋とカミサマンと共に消えることなく存在している。
何故なのかはわからない。そんな事どうだっていいじゃないか!?
オムニスのボディは一時的にショートしただけだとチェックを入れたカミサマンが答えた。幾多の接続が同時に断たれた影響らしい。
早速、オムニスとしてだけど、みんなのところへ向かう。カミサマンも了承してくれた。
「気を付けなさいよ。何も変わってないハズないんだから」
「わかってる!」
気持ちが急いて、カミサマンへの返事も適当に、感覚をオムニスに切り替える。……んん? 先日カミサマンがオレはみんなの目だって言った意味を実感する。……そうか、オレは……。
オレのことはいい! 世界は? みんなはどうなった!?
マジカミ世界の渋谷は存在していた。一見なにも変わっていない? スクランブル交差点に光の玉が浮かんでいる。アレは何だ?
いや、今は考えたくない! みんなは? たくさんの人が集まっている。無事だったのか…………。
違う…………。七魔王を含む魔法少女19人すべてが、倒れ伏して周囲の人々に抱き起されようとしていた。
いったい何があったって言うんだ? ちくしょうーーっ!! またオレはみんなを犠牲にしちまったのか?
誰にも見えないオレの叫び声はむなしく響いていた…………。
同刻、虚空
真っ暗…………ううん、目を開けてないのかも…………。
声がでないみたい…………ちがうわ、聞こえてないのかも…………。
からだが動かない…………そうね、指先から少しずつ…………感覚が……ないみたい…………わたし……息を……しているのかしら…………。
いきなり転移したらしいこの空間の中で、感覚は無くても自我は残っている。
…………私という形と姿はあるのかしら…………。私、袖城セイラは、ひとつひとつ慎重に現状を把握しようとしていた。
ここっておそらく前に……今はいろはの中に眠るネメシスが閉じ込められていたっていう場所……? だとしたらとても危険…………いずれ私も消えてしまう。
早く脱出しないと、だけど、どうやって?
つい先刻、消えたいなんて思っていた私は嘘つきね。私、絶対、消えたくない! もっと「ワルイコト」がしたいの、もっともっと。相手を傷つけないくらいの「ワルイコト」。
みんなを驚かせたい、呆れさせたい! みんなの誕生日のプレゼントには道端の雑草をプレゼントしているの。新聞紙にすら包まずにそのままむき出しの束にして。
ホントはね、自分の手も服も汚れるだけだから普通にプレゼントした方が楽なのよ。だけどみんなの嫌そうな顔! たまらない……。
さすがに毎回続けてると、最近はみんなゴミ袋を用意してるのね……悔しいわ! そろそろ、新しい迷惑プレゼントを考えないとね。
少しくらいなら、みんなに憎まれたり、嫌われたりしてもいいの。……そうしたら、そのぶんだけ私を忘れないでしょう?
いけない、今はそれどころじゃない。現実逃避はダメ!
集中して神経を研ぎ澄まして周囲の気配を探っていると、小さくて、とても幽かな声が聞こえてきた。
…………わたし……。……私? ……わたしが。……私の…………。
たくさんの私の声……わかっていた。この空間で消えてしまって、それでも幽かにのこった多くの別世界のわたしのかけら……。
声だけじゃない、思いも伝わってくる。…………そう……形は消えてしまったの…………でも生きているのね…………?
まだ形を残しているらしい私に助けを求めて集まって来たの? ……この中には最初の、魔法少女になることを受け入れた私もいるんだと思う……。きっと、その子は私なんかよりもずっと勇気があって強くて……だけど…………。
いいわ、ひとつになりましょう? …………ひとりは寂しいもの。
いくつもの思いが混ざりあう。たくさんの私が私の中にいる。みんな優しい子。
かけら達にも少しながら力が残っていて、それが集まったおかげなのか。
声が聞こえてきた。
「セイラ、起きんか、セイラ!」
ルクスリア?
「意識を集中して自分の姿をイメージするのじゃ。そしてゆっくり目を開けよ」
うながされた通りに目を開け、体を起こした。今さっき感じていたものは? ううん? 夢じゃない。自分の中に彼女たちを感じる。
「この道を作ったそもそもの術者であるそなた達には大きな影響がでたようじゃのう? 他の者たちも似たようなものじゃったが……」
「ここはどこ?」
「異界への回廊じゃ、どこにつながるものかは、わらわにもわからん……」
周りには七魔王を含む魔法少女が全員そろっていた。まだ、いろはだけが眠っている。
「世界はどうなったの? なんで私達だけがここにいるの?」
「世界のことは知らん! あの瞬間、わらわもここに飛ばされたのじゃ! 残っておるのなら、わらわ達もそなた達も、その半身があの世界にいるはずよ」
「どういうこと?」
ルクスリアは話してくれた。この回廊は元々は私たちが開いたものであること。暴走しかけていたそれに手を加え、終わりの時が来て、すべてが消えたら私達19人だけを転移させる道に変えたこと。頼んだのは私の父である事……。
「もともと暴走しかけた道であったゆえな、そんな上手くいくかーっ! とは言ったのじゃ。はじめはマジカミ世界の全員とか言いおったしの」
お父さん、私と同じことも考えてたんだ……。
「せいぜい転移できても魔法少女たちのみよ。元から魔力をおびておるからな。それでいいとアヤツは言う。不安で不安で仕方がないのだと……向こう側の世界であれだけやって、いくつもの策を巧妙にめぐらせて、それでもなお、怖いのだと。…………失うことがな…………」
「でも、どうして元の世界に私たちがいるってわかるの?」
「気づかんか? わらわ達には体がないのじゃ? 精神のみがとばされてきた。となれば体は向こうにあるのが道理よ。もとより無理すじな術式、発動しただけでも上出来じゃ。余計なことになったかもしれんがの……」
「それじゃあ……世界が残ってても……」
「大丈夫じゃろう……精神のすべてが飛ばされてきたわけではない。ふははっ! わらわには魔力が無くなってしまっておる。他の魔王たちもじゃ。そなたたちも確認してみるがよいぞ?」
ディナミスフィアは反応しない。私たちの魔法少女としての力も失われていた。
「何が起きるかわからんかったが、こうなった限りはできることをするしかない。魔力が無くては帰還もできんからな。……あの時のチョコは高くついたのう……」
ルクスリアは小首をかしげてため息をついた。
悪い男に引っ掛かったわね。私のお父さんは、のじゃロリ悪魔もたぶらかす仕方のない人なのよ。
おそらく、父はこうなる結果も想定していたんじゃないかしら。確率を上げるためにあらゆる布石をうっておく。そういう人……嫌いじゃないけど。
「こんな所にいつまで居てもらちがあかない。行動するぞ!」
「脱出路をさがす!」
「こういうのってソレじゃないん?」
あきさが、スペルビアが、りりが口を開いた。――――いろはを早く起こさないと。
すでに花織がいろはの肩をゆすって声をかけていたけど起きる様子が無い。ネメシスの影響でもあるのかしら? 心配になってきたわ。このままじゃいけない!
意を決して、いろはの頬にビンタを張る。
「ふぇ……!?」
寝ぼけまなこながら、いろはが目を覚ます。……そうだ! 思い出したわっ!!
いろはの頬を両手ではさんで命令調に言う。
「いろはっ! 何かいいこと言いなさい!!」
花織が口をはさむ。
「セイラさん、何を??」
「覚えてない? いろはって、いつもは元気な賑やかしなだけなのに、お話しが盛り上がってくると思い出したようにヒロインしてたじゃない!? アレでいいのよ! 今回もアレっ! きっと上手くいくわっ!!」
ここあがみんなを集めて円陣を作り出した。みんなで手をつないで一緒に。どこにいっても離れないように。
「いっつもセイラちゃんはムチャいって、あたし、わかんないよぅ」
いろははもじもじしている。そうね、この子の行動は理屈じゃないもの。だからこそ! 私にはできない事ができるの!!
「いろはすっ!」
「いろはっ!」
いろはの顔が引き締まってきた!
「いっくよーーっ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・!!!!」
……しょーがないわね…………。
私たちは光につつまれたかと思うと、急速に五感がもどってくるのを感じていた。
――――目をあけると一面の草原が広がっていた――――遠くに山脈がみえる。
人の住む家や町らしきものはないみたい…………ここ、どこ??
みんなの方を向き直ると見知らぬ顔がならんでいた…………だれ??
ここから私の新しい生活がはじまる…………の??
どこかのアニメの世界。
4時限目の終了のチャイムが鳴っている。英語の授業の後半は小テストだった。
英語担当の教師、須部るびあが答案用紙を回収して教室から出ていく。
「須部先生いいよな、ホットパンツがさいっこう」
「足、組み替えるのわざとやってんのかな? エロすぎだろう」
どこの世界の学校でも男子なんてこんなもの。それにしても彼女は相変わらず羞恥心がたりないわね。
私は、月城サリア。この高校の3年生で、このアニメ「わらわはマジで恋しちゃう!?」のヒロインの1人。主人公くんのあこがれの先輩女子って役どころ。
「学食いかなくていいよ~! 今日はこころがお弁当つくってあるにゃ~」
私に話しかける彼女の名前は、一ノ瀬こころ。もうわかったわよね。少し姿は違うけど、そう、かつての私の名前は……言うまでもないかしら。
頬杖をついて窓の外を見ると、校庭ではかつての名前で丹と蒼が、体育の授業の片付けを終えて引き上げていく。この世界でもナイスバディーは変わらずで、男女相方の視線を引き付けているわ。
「わらわはこの学校の生徒じゃ~~っ!!」
校舎の入口あたりで声がする。あれが本作のメインヒロイン、来栖りあ。2期は無さそうね……?
コクリとハクリとは結局、離れ離れになっちゃって。しばらく落ち込んでいたから、いい機会として元気をだしてもらいましょう。
彼女たちはもう悪魔じゃない、私たちと同じ人間のキャラクター。もちろん私たちも魔法少女じゃない。このアニメは普通のラブコメだから、そういう要素はいらないし。
すでに、マジカミの世界を離れてから1年近く経っているわ。えっと!? あのあと転移した草原でそれからどうなったのかって? あぁ……アレね……う~ん、あの世界って剣と魔法のファンタジーっぽいソシャゲだったんだけど。なんて言ったらいいのかしら…………ダメだったわ……。
システムは古いし、キャラはださいし、お話しは何かの丸パクリ。お金も手間もかかってないから…………ダメよ! 私たちもがんばったんだけどね。半年でサ終したわ。
その次の世界はもっとひどかった。3か月よ! サービス開始からメンテの連続、ゲーム内容がメンテナンスだったんじゃないかしら。
はぁ、やっぱりマジカミはよかったわ。4年以上続いて、みんなにたくさん愛されて……。
帰りたかった…………。でも、魔王たちは魔力がなくなっていて、私たちと変わらなくなっていたし。……さんざん探したのよっ!? バカあわび!! だけど見つからない。そのうちまた次の世界へって……。
あれは、きっとマジカミ世界の付属物で、ほかの世界では見つからないんだろうって、みんな次第にあきらめた。
話ぶりからわかったんじゃないかと思うんだけど、私たちは、いろんなメディアで役割を演じる。何て言うか、旅の劇団みたいになっちゃったの。
今回で3回目の転生。アニメは初めてだから少し楽しみにしてたんだけど。……どうかしら? 微妙ね。
19人の仲間たちとは、欠けることなく一緒にいるわ。みんなマジカミ世界からの記憶を持ってるから、時々の役どころはあっても、内側の部分は変わらない。今もこれからもずっと友達よ!
ああ、そうね。いろはと花織ね。彼女達とはまた学年が違うから校舎が離れてて……。
「ちょっと、あかさ~~っ!?」
「はなリン、怒っちゃやだよ~~っ!!」
ちょうど声が聞こえてきたわ。相変わらず騒がしいのよ!
だからね……そう、このアニメが終わっても、またみんなでお引越しするだけ。
関わってくれた人たちとお別れするときはその都度、寂しい気持ちになるけれど。また会えるときがくるって信じて前を向いているわ。
いつかあなたが見ているゲームやアニメの中に、私たちがいるかもしれない。気づいてもらえないかもしれないけれど、私たちはあなたを覚えてる。
もしかしたら、あなたの世界に行くこともあるかもしれない。そうしたら気づいてもらえるかしら? 絶対に無いなんてことはないわ!
――――だって、私は「ムゲンノカノウセイ」を信じてる―――――。
魔界、座標X
心臓の鼓動のように脈動する光の玉。
魔法少女たちの儀式によって生み出され、渋谷駅前スクランブルの中央に浮かんでいたもの。
本来の役割は、世界の消失と同時にわらわ達を含むすべてを飲み込み、元の世界と寸分たがわぬ姿で再現するための装置。
奇跡を実現する力の塊。
わらわ達はこれを「世界卵」と呼んだ……。ドラ〇ンボールではないぞ! 注意するのじゃ!
七魔王が一人、我、ルクスリア・ザ・ラストは他の七魔王、ベアトリス女王、大人ヴィヴィアンと共に「世界卵」を中心に円陣を組んでいた。
「これで一安心よ、誰も手を出すことはできまい」
「そうねぇ、でも少しもったいないかも…………ねぇ」
強力な結界によって外部からの干渉を不可とする術式を発動したあと、ベアトリスとヴィヴィアンは語り合っておる。
「人間たちは世界の命運を決しうる、この『世界卵』を我らに預けてくれた。信義で返さねばな」
「都合よく利用されただけかもよぉ?」
どちらでもよい事じゃ。ここまで強力な結界で囲ってしまえば、人間であろうと悪魔であろうと手出しはできぬ。この卵が孵化するのは本来の目的のみとなる。それでよい。
あの時。マジカミのサービス終了の時。世界はなにも変わらなかった。「世界卵」は孵化することなくそのまま浮かんでいたそうじゃ…………。
そう、その時の記憶がわらわにはないのじゃ。何か強い重力に引き寄せられるような感覚のあと、気を失っておったらしい。
想像はついておる。アレじゃ……暴走しかけた異世界への道。その時が来たなら七魔王を含む魔法少女19人を吸い込み飛ばす。その仕掛けをしたのは他ならぬわらわ自身じゃからな……。ナイショじゃぞ。
対象になった者、全員がいっしょに倒れていたそうじゃからの、さっすがわらわの術式よ! ふははははっ! と自慢したいところなのじゃが。誰にも言えんでおる。
ちょっぴり罪悪感なのじゃ。想像はつくからの。あの時、わらわを含む19人の半身があの道から転移した。みんな、それぞれ異変があったことは感じておるハズなのじゃ。他に諸々あったから話題にはしとらんがな……。
真犯人は、パパじゃ! わらわは指示にしたがっただけよ! それにあの時、もし本当に世界が消滅していたならわらわはヒーローじゃ! コソコソする必要はあるまいぞ!
頭のキレるヤツのことよ、こういう事態も想定しておったに違いない! ゆるせんっ! パパ、いや秋月よ! 今度あった時は目玉の飛び出るくらい高価なチョコを献上させねばなっ!!
後日、くだんの公園に確認にいったのじゃ。あの暴走した異界への道はすっかりさっぱり痕跡も残さず消えておった。自身でふたたび門を開け気配を探ったが、わらわの半身たちの気配は感じられんかった。
式を数枚、流れにまかせて飛ばしてみるか? 仕方があるまい。こうなると時間がかかる。いつかのベンチに座って思考を遊ばせる。
……アヤツにとってこの結果はよかったのじゃろうか? ……自分の娘の半身も行方不明じゃぞ。……あの時、アヤツは悲しそうにしてなかったか? ……犠牲? いやアヤツにとってはひとり娘じゃ。……上手くいった。……上手くいったから今となっては。……失敗していたら。……失敗していた可能性? ……可能性…………。
――――そうか、そうかもしれん――――。
わらわの飛ばした式はすべてが感知できる範囲の外に消えた。
黄昏がせまる道を歩く背中をみつけた。秋月か? と思い追おうとしたが別人であると気が付き歩みを止める。
セイラたちが魔法少女になる時、この言葉を問われたと聞いたおぼえがある。
――――「ムゲンノカノウセイヲシンジマスカ」――――。
可能性が増えたのじゃな、無限とは言わんまでも、そのために…………。
わらわもしんじるとするかのう!!
「お姉さまの秘密は言わないよ」
「知ってるけど言えないよ」
コクリとハクリが話しかけてきた。
「コラっ! おぬしらっ!」
わらわは苦笑しながらしかりつけた。
マジカミ世界、サービス終了から約1年後。
マジカミ世界から消えてしまった人々は、私たちが一時的に意識を失った以外、なにも起こらなかったあの時を過ぎると、数日のうちにほとんど元通りに姿をみせるようになっていた。
あれから1年の月日が経っている。
今日は有羽高校の学園祭。晴天にも恵まれてとっても順調、大盛況よ!
私、袖城セイラはクラスの出し物の主役として大活躍しているわ!
「あたっ痛ぅぅ~~!!」
「いいっうぅ~しあわせですっ!」
出し物のタイトルは「学校ナンバーワンの美少女に尻キックされて君もハッピー!!」……なんなの?
さすがにちょっと嫌だったんだけど、ここあが言い出して、変に盛り上がっちゃって断りきれなくなっちゃった。
1キック500円で半分は私の取り分だから、まあいいけど。集金はここあがザルをもって見物客のあいだもまわっているわ。
午後からはイコたちのミニライブがあるから、お客さんはもっと増えるわね。
そのあとはビックリ。エレボスの魔王たちが演劇で参加してくれるんだって、演目は「白雪姫」。なんとスペルビアがお姫様役!? 彼女って実は夢見る乙女説があるのよね。人は、悪魔だっけ? 見かけによらないわ。
30人も蹴って、足も痛くなってきちゃったから休憩してると、いろはと花織たちのクラスの屋台が近くにあったので、ここあと一緒に寄ってみる。
「こんにちは~。尻キック大盛況ですね~」
「うちのクラスのたこやきも大繁盛だよっ! カオリンの共食いっ!!」
「ちょっと、いろは~~っ!」
サービスだからと2人分持たされた。焼きたてでおいしそう。どこかで食べようと場所をさがしていると、お父さんと百波瀬のおじさん(ここあ父)が来てるのが見えたの。2人の会話が耳に入る。
「タマちゃんは今日は来てないんだね?」
「あいつはどうしてもチャールズの方には行きたいらしくてな、今日は仕事だってよ!」
「お父さん、来てたんだ。そうだ! たこ焼きたべる~?」
ここあは自分の父に声を掛けると、あ~ん! と言ってたこ焼きをくちに放り込んでいる。ここあの父はハフハフと飲み込んでいた。
「珍しいわね。いつもこういう行事にはさっぱり顔だしてくれないのに」
「そうだったっけ? それより、みんな楽しそうで何よりだよ。セイラも楽しんでるかい?」
父は目をそらし、とぼけた顔をして、尻を両手でガードしつつ聞いてきた。
「楽しいわよっ! みんな一緒にがんばってるし!」
「そうか、よかった……」
優し気なまなざしにもどった父の目はどこか私越しに遠くを見ているような気がした。
「さて、そろそろ僕は引き上げるよ。セイラの顔も見られたしね」
「せっかく、これから盛り上がるのに! 校内も案内するわよ?」
「残念だけど、また忙しくなりそうなんだ。いい感じの『ワルダクミ』をしないといけない……」
「『ワルダクミ』……ね……」
父は尻を左手でガードしつつ、こちらは見ずに、右手を上げてひらひらさせながら去っていった。
イコたちのミニライブは凄く盛り上がったわ。学外からも彼女たちを目当てにたくさんのお客さんが来ていたけど。着実にアイドルとしてのオーラが増しているように見えた。頑張ったたわね! イコ、グラ、芽衣!
さて、とうとう次は魔王たちの演劇ね!
楽しみにしながら観客席で待っていると、すでに衣装とメイクを終えた魔王たちが私を呼びに来た!
お姫様役のスペルビアが突然パシリちゃんに変身して、どうにもならなくなっているのだと言う。黙って眠っているだけのお姫様なら私が適任だろうと言うことになったらしい。なんか釈然としないけど。
「セイラネキごめんやで、いきなりこんな……」
ディアがこんなに困った顔をしていたら手伝うしかないじゃない。
早速、お姫様の衣装に着替えて出番となった。
お芝居は賑々しく始まったけど、私の役って本当にはじめから眠ったままなのね。毒りんごを食べる場面もなかったわ。これならホントに誰でもいいんじゃ?
薄目を開けて見て見ると、7人の魔王(小人?)が私の周りをまわっている? あれ? スペルビアいるじゃない!? 不審に思ってもここはみんなが観ている舞台の上。声にはだせない。
やがてクライマックス! 王子様がお姫様役の私をキスで目覚めさせるシーン……。
そう言えば、王子様役は誰なのか聞いてなかったわ。スペルビアが小人役でいるなら蒼あたりかしら? 私は薄目を開けて、王子役が登場するはずの下手がわを覗き見ていた。
姿をあらわしたのは以外な人物。
えっ? とびお!? なんでこの世界にとびおがいるの? 理由とかはもういいわ。私は覚悟を決めてその時をまっていた。
目を閉じた私の唇が、あたたかくやわらかな何かに触れた。ゆっくりと目をあけると、すごく近くにとびおの顔があった。
私は驚いたような顔をしていたんじゃないかしら。
とびおの腕ですこし抱き起されて、いったん離れたように見えたとびおの顔がもう一度近づいてきて、私はふたたび目を閉じた。
「そ~~~~れっ!!」
掛け声とともに小さな炸裂音が連続して鳴った。魔王たちが花火のような魔法を次々と放っている。
日中だというのに学校の周辺の空は色とりどりの光につつまれて、それは空いっぱいに、たくさんの花が咲いたようにみえていた。
私は、とびおの腕の中でそれを見上げている。
誕生日を迎えた次の日には私は17才にもどってる。そんな時間の中を巡りつづけるの。
だから今の姿のままで私はずっとここにいる。
会いに来てっ! いつか、きっと。
その頃にはヴァーチャルリアリティとか進化してて私たちは触れ合えるかもしれないわ。
ホントを言うとね、私、「ムゲンノカノウセイ」とか信じてなかったの。
だって、未来の選択肢っていつだって数えるほどしかないじゃない?
正しくても間違ってても、なにかを選択して先へすすむしかない。でも、人間の命って短いから選択する機会だって限られてる。
だけど永遠の時間があるのなら、どうかしら?
この繰り返す時間の中で、私は選択を続けられる。それなら信じてもいいかもしれない!
そう、私は―――― 「ムゲンノカノウセイ」 ――――を信じます。
おしまい
ちょっと、まって! おしまいって言ってもね、今回のお話しのことだからね! マジカミのゲームがサービス終了したって、私たちの世界は続いていくんだから。
終わらせないわよ!
むしろこれから好き勝手できるんじゃないかしら! ふふっ♡
またねっ♪
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