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生きる為に描く、その次にみえること -HERALBONY Art Prizeを見逃してはいけない理由-


もし、あなたが生きる希望と活力が必要なら、今すぐこの展覧会に行くべきだ。

人は必ず死にたいと思ったことがあるはずだ。私は死にたいと思ったこと、何度も何度もある。人間誰でも経験あると思う。そして同時に「死にたくないけど、死ぬかもしれない」と思ったこともある。それは2014年のこと。初めて乳癌を宣告をされた時だった。

当時はその人の悪性腫瘍がどういう形でその人の人生に影響するのか、を調べるには宣告後それなりの時間がかかった。だから私は約数週間、日常生活を過ごしながら待たなければなんなかった。結果として私の乳癌は標準治療を行うことで切除することが可能、という判断になった。その結果が出た後、私は家族の都合で東南アジアに引越。その間私は癌関係の治療の継続をしながら10年が経ち私は結果的に国内外を飛び回る生活を送っている。

私は時々思い出す。もしかしたら死ぬかもしれない。あの時の絶望感を。

そのマインドになると自分がどうしていいか本当にわからなかった。同時にこの絶望と憤りをどうしていいかわからなかった。そしてその不安は今でも私に襲いかかってくる。

病気やアクシデントというのは非常に残酷である。同時に誰にでも突然襲いかかってくる。
そう、他人事など言ってられないのだ。自分を含めて多くの人は、その時に出くわすまで気づかないのだけど。

でも、生きていかなきゃいけない。いや、生きたい。この気持ちになった時にどうすべきなのか。それは「生きるために絶望と共存する術」を得るしかない。

今回、HERALBONYが開催した芸術賞「HERALBONY Art Prize」の知らせを受けた。授賞式にはぜひ参加したかったのだけどあいにくその時東京不在。その後日本国内外を移動する予定が詰まった中、なんとか時間を見つけて訪問することができた。

HERALBONYとは福祉をアートと結びつけて発信を続ける株式会社である。

作家さんは主に障害を持った方である。以前なら彼らのような心身にハンディがある作家さんは作業所と呼ばれる場所で安価な時給で出来る業務を行いながら制作を行ってたことが多かった。そこでの作品の商品化のプロジェクトは以前もあったが、あくまで慈善事業の範疇であった。(外国では表品化に成功してる例もある)。HERALBONYは作家さんとライセンス契約を結び、そこで商品を適正な価格でデザインし、契約によって正当な対価を得られるサイクルの設立に取り組んできた。

そのHERALBONYが今回、2024年に芸術賞「HERALBONY Art Prize」を創設。初となる公募制のコンペティションを実施した。その受賞作品および最終選考作品展が三井住友銀行東館1階アース・ガーデンで9月22日まで開催されている応募総数は約2,000点、世界28カ国・924名のアーティストが応募したこの展覧会では企業賞受賞作品、審査員特別賞受賞作品および最終審査進出作品として総勢58名の作家による全62作品を直接鑑賞することができる。


受賞作品の詳細及び美しい作品群に関してはぜひHERALBONY Art Prizeのサイトを参照してほしい。ちなみにLINE登録をすると大賞を受賞した浅野春香さんによる《ヒョウカ》のポストカードと詳しい解説を聞くこともできる。

HERALBONY Art Prizeより画像引用
HERALBONY Art Prizeより画像引用

ぜひ自前のイヤホンを持参してほしい。(会場には聴覚過敏の方もいらっしゃる可能性があるので小さな音で聴く、というのは難しいので必ずイヤホンの持参をお願いしたい)

自分語りから入ったのは理由がある。このアワードには「不安や絶望と共存し、そして生きる気力をい生み出す術」の1つの具現化であり、この具現化こそ現代の全人類が必要としているもの、というのを強く感じたから。1つ1つの作品に表現に導かれたような強い生命力を感じたから。強い言葉を使うのなら「この表現に出会えたからこそ今、自分は生きていられる」というような強さを感じることができたから。

生きるために表現する。ああ、この表現に出会えて本当に良かったです。私も嬉しいです。泣きそうです。この気持ちに出会える作品を実際に、しかも無料で見れることはなかなか、ない。

大賞を受賞された浅野春香さんによる《ヒョウカ》は会場に足を運んでいただいたら是非近くで見つめてほしい。1つ1つ細かく書き込まれた土台は切り広げられた30kgの米袋。その1つ1つに丁寧に書き込まれた色彩から紡がれる物語は静かだけどとても雄弁。

その他にもとても細かく書き込まれた作品には自分の心の中の隙間を埋めたい、という気持ちの表れのようなものを感じる人も多いかもしれない。心の病気の治療法の1つに「絵画療法」がある。絵画療法は個人が内面的な感情や思考を視覚的な形式で表現することを助ける治療法。その中で、特に「細かい絵」を描くことには特別な意味と効果がある、というのは多くの文献から読み解くことができる。

詳細に細かい描写を作者が自由に描き続けると、瞑想に近い状況を作り出すことができる。同時に細かい絵の描写を自由に続けることは、描き手が無意識に感じている感情や考えを表面化させる手段となるのである。これにより、自己洞察が深まり、抑圧されていた感情を解放する助けとなる、という事例が多く報告されている。

参考:日本保健医療行動科学会年報Vol.11 1996. 6
<焦点2>行動変容の理論と技法  絵画療法 徳田良仁

このブライズに応募された作品は世界世界28カ国から約2000点とのこと。これは「LVMH Innovation Award 2024」の受賞の力が大きい。

画像引用:【応募総数1973作品!】国内外のアーティスト総勢924名が国際アートアワード「HERALBONY Art Prize 2024」に参加

Employee Experience, Diversity & Inclusion: Heralbony

Art license for enterprise with unique narratives by artists with disabilities

Heralbony ensures quality collaboration between artists with disabilities and companies from planning to production. This creates business opportunities for artists, allows companies to integrate inclusive art narratives to promote engagement, DEI.


従業員体験、ダイバーシティ&インクルージョン:障害を持つアーティストの独自の物語を企業向けに提供するHeralbonyのアートライセンス

Heralbonyは、障害を持つアーティストと企業の間で、企画から制作に至るまで質の高いコラボレーションを実現します。これにより、アーティストには新たなビジネスチャンスが生まれ、企業は様々な作家が紡ぎ出すアートの物語を取り入れることで、従業員の積極的な参加ややダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)、インクルージョン(包括性)の促進が可能になります。

FancyTech wins 2024 LVMH Innovation Award Grand Prize at Viva Technology

世界的な認知度の向上はもちろんですが「このアワードに挑戦すること」はどれほどの人を救ってきたか、想像するだけで胸が熱くなる。

表現しないと自分は死んでしまうかもしれない。
死んでしまうかもしれないからこそ、その自分が表現したものを残したい。
不安、絶望感からの逃避から、共存になりそして共存によって得た強い気持ち。
何よりも強く、そして尊い。

作家の背景として作家が抱える病気についての説明がつくのはHERALBONYの特徴であるが、優れた作品に囲まれているとそのような背景がどうでも良くなることが体感できるはずだ。自分ごとに置き換えてほしい。例えば自分が腹痛で苦しんでいる際「次に待ってる人がもっと熱が高いから我慢しなさい」と言われたら悲しくなるはずだ。そう、それぞれの辛さは人それぞれ。そこに比較を持ち込む必要などないのだ。

展覧会で解説を聞きながら注目してほしい点を挙げるとしたら「タイトル」ではないだろうか。スタッフ方にお聞きしたところ、作家さんの状況によって言語表現段階が様々なのでタイトルの設定は作家、作家の家族、作家をサポートするスタッフ、HERALBONYのスタッフで話し合って決める場合も少なくないとのこと。その際の話し合いの際、作家の尊厳を尊重した上で入念なミーティングを重ねるとのこと。ブライズが国際化することで翻訳については更に必要性が高まることが予想されるので、このサポートはとても心強いのではないか。

HERALBONYは「LVMH Innovation Award 2024」を受賞した関係で今年から海外拠点をパリに設けるとのこと。海外での福祉からのアートの発信というストーリーは私はかつて居住していたシンガポールでのストーリーを紹介したい。

この自閉症療育センター(Autism Resource CentreARC)は生徒が手掛けたアート作品を学校が製品化するシリーズを販売している。売れれば生徒に使用料が入る仕組みが確立している。
つまり、造形によって正当な対価を得る仕組みが確立されているのである。

今、日本の美術界隈は大きな岐路に立っているとも言える。美術を購入する、所有する行為について経済的対価が投資側面から判断される時代がやってきた。つまり「美術的表現に対しての対価」において正当かつふさわしい対価を支払う文化を育てないと、文化そのものが埋没する可能性がやってきたとも言える時代がやってきたとも言える。
全ての人が生み出す文化芸術に対して正当な評価と対価を。この活動こそが全ての人の文化芸術に対する世界を救う入口になる、といっても過言ではない。

だからこそ、全ての人に見てほしい。自分が、人が生きるために。