【小説】パイロット版01
フロントウィンドウに不規則なパターンでこびりついた白い霜の、最後の残りがワイパーのパッキンにこそぎ落とされる。それはパラパラとボンネットに落ちた。街灯に照らされた霜の粒は、一瞬だけ星屑のように輝き、風に押し流されて夜の真っ黒な道路に落ちていく。男の運転する車は、ある地方の深夜の車道をゆっくりと進んでいた。左右の路肩には、除雪車が押し上げた雪が灰色の壁となって続いている。フロントガラスの端には、デフロスターの温風が届かない場所に、まだ霜の花が咲いていた。ワイパーが不規則に軋む音が、車内の静寂を刻む。助手席には誰もいない。時折対向車のライトが差し込むたび、運転席の男の横顔がホラー映画の演出のように浮かび上がっては消えた。
バックミラーに青と赤が交互に点滅する光が映った。それは瞬く間に大きくなり、車内までちらつき始める。男はアクセルから足を離し、ゆっくりとブレーキを踏んだ。路肩に寄せた車の周りを、回転灯の光が無言で旋回する。パトカーのヘッドライトが、サイドミラーに反射して眩しい。 助手席側の窓に、制服の影が落ちた。不意に厚いガラスがコンコンと鳴り、男は無造作にパワーウィンドウのスイッチに指を乗せる。車内の暖気が逃げるのも構わず、彼は窓を一番下まで下ろした。ブイーと独特なモーター音が聞こえて。車のウィンドウが下がる。ガラスにこびりついた白い霜がパラパラと落ちていく。
「なんでしょう?」
運転席の彼は怪訝そうに言った。隣で回転する赤色灯が眩しいので、少し目を細めている。警官はニヤッと笑って、
「随分出してたねえ」
と言った。彼は少し顔を戻してハンドルを見た。そこにカンペでもあるというように。警官は続けてこう言った。
「免許証見せてもらえる?」
男は黙っていた。五秒経っても反応がない。警官の顔から笑顔が消え、怪訝そうな、それでいて怒りが滲んだ表情になった。肥満体で、土佐犬を思わせる警官だった。
彼はもう一度、
「免許証見せてもらえっかな」
と、今度は方言の混じった強い調子で言った。運転席の彼は少しも焦る様子もなく、ハンドルから目線を警官の方へ移した。はっきりした視線だった。
「あなたは今朝、11歳の息子と喧嘩した」
警官の顔から怒りが消え、別のものが現れた。
「え、あんた、なに、言って……」
運転席の彼は畳み掛ける。
「理由は毎日の日課の観葉植物の水やりを息子さんが忘れたから。ひどく怒鳴ってしまった。でもあなたは後悔している。叱るべきだったのは事実だけど、怒鳴り方が酷かったのは、昨日上司が無理に誘った賭け麻雀で負けた八つ当たりを含んでいたから」
警官は信じられないという顔で口を開けたまま突っ立っていた。さらに男は続ける。
「そしてあなたは今日帰ってから、息子さんと仲直りする。大好きなお菓子を買って帰るつもりなんだ。でもね、息子さんはそのお菓子を食べないよ。意固地になってるんだ。そしてあなたはまた自分を抑えきれずに息子さんに暴力を振るってしまう。そして明後日、息子さんはその鬱憤を学校のクラスで最悪の形で発散し、嫌われ者に認定される。五年後の傷害事件につながる大きな転落の最初の一歩になるんだ。悪い事は言わない。今日は息子に普通に接した方がいい。それじゃあね。本当に気をつけた方がいいよ。じゃあ。さようなら」
警官は言葉もなかった。車のウィンドウが閉まる。男が車を発進させる。しかし、警官は動けず、ただ車の後部を見つめて立ち尽くすだけだった。
※描写の追加はAIのClaudeに頼った。