小説をClaude3.5sonnetと一緒に書く

とりあえず現時点では最高の執筆体験。最終的な本文だけ公開しておく。

第一話

# 第一幕:骨を拾う朝

朝焼けの光が、街の瓦屋根を赤く染めていた。

石畳の隙間から立ち上る霧が、獣人の傭兵が啜る酒の匂いと混ざり合う。その毛むくじゃらの手が、人の骨とも獣の骨ともつかない白い欠片を齧り、それを投げ捨てた。

少年は素早く動いた。朽ち果てかけた骨を、慣れた手つきで籠に拾い上げる。その指先には古傷が幾重にも重なっていた。黒い髪と黒い猫の耳を頭に備えた少年は、骨を見つめた。ぼーっと。何を考えるでもなく。

 貧民街の子供たちにとって、それは日課だった。燃料にもなり、薬の材料にもなる。時には食いつなぐための最後の手段にもなった。

「おい、そこのガキ!道を開けろ!」

裕福な商人とその護衛の傭兵たちが、石畳を踏みしめながら近づいてくる。子供たちは慌てて立ち上がるが、籠を落としてしまう。骨が石畳の上に散らばる音が、朝の静けさを破った。

その時、子供たちの前に影が差した。

商人の前に立ちはだかる金髪の若い女性。その赤い瞳に、獣のような警戒心を示す光が宿る。まるで魔族の血を引くかのような、不自然な輝き。

「な、なんだお前は...」

女性のあまりの威圧的な雰囲気に商人が後ずさる。護衛の一人が耳元で囁く。
「暗殺ギルドです」

商人の顔から血の気が引く。街で最も恐れられる組織の名前。それは貧民の味方であり、同時に闇の裁き手でもあった。

「し、失礼」
そそくさと立ち去る一行。

「ありがとう、レカ姉ちゃん!」
少年が満面の笑みを浮かべる。

「おー、タンザ。朝から働き者じゃん。えらいえらい」
レカは少年の頭を撫でながら、優しく微笑んだ。タンザはレカが面倒を見ている子供の一人だ。この貧民街では、暗殺ギルドが秩序を保っている。レカは世話役というわけだ。レカは可愛らしい弟分に顔を綻ばせるも、その瞳の奥には何か暗いものが潜んでいた。

「ふふ、レカ姉ちゃんほどじゃないよ。みんな言ってるんだ。貧民街は姉ちゃんが守ってくれるって」

「あーしらのギルドのシマだからなァ、仕事だよ」
軽く受け流すレカ。先日スリを叱った少年だと気づく。今は古鉄を集める籠を抱えている。善良な仕事に変えたことに、少しだけ救われる思いがした。

通りの向こうから冒険者ギルドの警官が現れる。少年の体が強張るのを感じ、レカは自然と彼の前に立つ。へりくだった態度で先手を打つ。

「おはようございまーす。今朝も早いっすねー」
陽気な声で呼びかける。警官たちは「暗殺ギルド」と囁き合い、黙って立ち去った。

少年の肩から力が抜ける音が聞こえる。レカは路地の奥、パン屋の明かりを見つめた。温かな光が、朝もやに染み出していた。

「よーし、今日も大量買い付けなきゃ行けねーんだ。ホラ、この金でおめーも食え」
ポケットから取り出したコインを投げ渡す。

「ありがとう、姉ちゃん...」
満面の笑顔の後に曇る表情。夜の商売の方が稼げたことを、言葉にはしない優しさ。

レカも一瞬表情を落とす。街の闇が子供たちを蝕んでいく現実。それを変えられない自分への苛立ち。

「...きのうまでみたいに、スリを続ける方がよかったか?」

少年は首を振る。レカはじっとその姿を見下ろした。骨を集める籠の中で、白い欠片が朝日に照らされて光る。

「よっし!今日も元気でいくかー!」
声高に叫ぶ。誰に聞かせるでもない。ただ、心の底に沈む暗い何かを、必死に打ち消すように。

白々と明けゆく空の下、レカは貧民街の路地を歩いていた。壁にもたれかかる廃人となったエルフたち。かつては魔法の使い手だった彼らの目は、今や虚ろだった。レカは思わず自分の血筋に触れる手を押さえる。

その時、通りですれ違うフードの男から、何かが手に捩じ込まれる。あくまでさりげなく。レカは何もなかったように歩き去り、路地でそれを広げた。いつもの、ボスからの指示書だった。内容を一瞬で記憶すると、捨て去る。それはまるで掻き消えるように一瞬で燃え尽きた。暗殺ギルドの魔法の紙だ。

路地の向こうで、家家の煙突から煙が立ち始めていた。レカの影は、朝日に照らされて長く伸びる。その先には、街の中心、大時計塔の尖塔が、朝もやに浮かんでいた。巨大な歯車の音が、遠くから響いてくる。

# 血の橋

「布告!布告!我々傭兵ギルド最強の獣人部隊!この街を三ギルドの支配から解放する英雄!寄付を募る!この橋を通る者は誰でも寄付できる!解放に協力せよ!」

朝靄の中、レカは瓦を踏む音一つ立てず身を潜める。瞳に一瞬、魔力の赤い光が宿る。父から受け継いだ、人ならざる力。それは彼女の誇りであり、同時に呪いでもあった。

(アレが...ボスが言ってた最近チョーシこいてる傭兵ギルドのアホか)

近くを急ぐ冒険者ギルドの警官たち。明らかな違法行為にも手が出せない。街の力関係が、そこに如実に表れていた。

(ッケ、子供のスリには厳しいくせに。情けねえ)
だからこそ、レカのような暗殺者に仕事が来る。正義の名の下に、闇の裁きを下す役目。

屋根に跳び移る。軽やかな動きに、魔力の赤い光が一瞬だけ瞳に宿る。瓦を踏む音一つ立てず、標的を確認する。

「確かに情報通り。傭兵ギルドめ、まーた勝手な真似してやがる」

「よし、橋の封鎖はいい儲けになるな。通行料……じゃなかった。寄付金を払えない奴は通すな」

「金払えない貧民どもを追い返せばいいんですね」

「そうさ。傭兵ギルドの権限だ。文句は通らん」

レカは目を細める。この橋を封鎖されれば、貧民街の人々の生活が立ち行かなくなる。幼い頃、自分もそうだった。母と二人、橋を渡れず、空腹を抱えて引き返した記憶が蘇る。

間違いなく命じられた暗殺対象、標的だ。

レカの暗殺のスタイルは、その超人的な身体能力を活かした速攻である。人間はおろか、獣人の動体視力ですら認識不可能な速度で、対象を一瞬で殺す。それは父から受け継いだ技術であり、誇りでもあった。

警戒する傭兵たちが突き立てる槍の隙間を計算する。一瞬の迷いも許されない。相手の懐に侵入すれば、もう勝負は決まっている。

超人的な動体視力で状況を把握する。傭兵たちの槍、逃げ道、そして...中隊長の傍らにいる小姓の少年。

(邪魔だ...下がってくれよ...)

祈るような思いで、レカは最適なタイミングを待つ。だが躊躇する時間なんかなかった。少年は離れない。

(...仕方ない)

瞬間、レカの姿が消える。槍を踏み台に、獣人の動体視力すら捉えられない速度で侵入。中隊長の首筋に指が触れた時、

(ごめん)

同時に倒れる二つの影。レカの指が震える。また一人、罪のない命を奪ってしまった。

(また...また巻き込んじまった...)

橋の欄干から川へ。水しぶきが上がる前に、既にレカの姿はない。体が勝手に動く。獣人傭兵の中にはやっと反応できたものがちらほら。

「中隊長がやられた!? 暗殺ギルドか!」

「み、見えなかった…」

「水音がしたぞー!川だ!撃て!」

水面に銃弾が着水する中、レカは水中で膝を抱えたまま、流されていった。冷たい水が、彼女の熱い罪悪感を少しずつ洗い流していく。

# パンの匂いの路地

パン屋の裏路地に辿り着いた時、店の中から怒鳴り声が聞こえる。

「この役立たず!」

ミーチャの悲鳴に混じる暴力の音。まだ戦場の緊張が抜けないレカの体から、無意識に殺気が漏れ出る。かつて街で最強と謳われた父の血が、彼女の中で目覚める。

「な、何だ...!?」

獣人の夫が震え出す。死の気配に本能が反応したのだ。よろめきながら逃げ出す背中を、レカは虚ろな目で見送る。また暴力で問題を解決しようとしてしまった自分に、どこか嫌気が差す。

「……あーしのいうことが聞けねえのかな。なんども警告してるのに」

まだ殺気が漂うその言葉に、獣人のパン屋ミーチャは体の埃を払いながら言う。

「仕方ないよ。この街に暮らしてると、みんな鬱憤がたまるのさ。あたしを殴るだけで済んでるなら、まだマシさ…。あんたこそ大丈夫かい? なんだかひどい顔してるよ?」

レカは素直に驚いてみせる。自分の心の闇を見透かされたような気がして。

「え? あーし?」

努めて明るく振る舞おうとする。仮面のような笑顔を作って。

「あ、ああ! なんでもねえ! パンをとりに来たのさ!」

ミーチャは黙ってレカを見つめた。その瞳には、全てを見透かすような優しさがあった。母性とも慈悲とも違う、深い理解。

「...ちょっと待ってね」

奥から大きな包みを抱えて戻ってくる。温かいパンの香りが、レカの緊張を少しだけ解きほぐす。その香りは、いつも彼女に安らぎを与えてくれた。

「リリアさんの救貧院行きね。いつもありがとう」

レカは頷くことしかできない。言葉にできない思いが、喉に詰まる。

ミーチャは柔らかく微笑んだ。まるで全てを理解しているかのように。

「気をつけて行きな、レカ。今日はなんだか...霧が濃いから」

その言葉に、レカは強がるような笑顔で答えた。でも、その手は確かに震えていた。

包みを抱え、レカは歩き出す。その背中をミーチャは見送り続けた。朝もやの中、レカの姿が消えていく。路地には、パンを焼く香ばしい匂いだけが残された。ミーチャの夫がいそいそと姿を表し、禿げのある毛皮をかきむしって言った。

「あのガキ、バケモノだぜ。あんな気配、おれぇあ、初めてで…」

 ミーチャは無視して空を見上げた。昼の光の向こうで、大時計塔の鐘が鳴り始めていた。その音は、また新たな一日の始まりを告げている。あの優しい暗殺ギルドの若い戦士にとっては、また新たな罪を重ねる一日の始まりを。
 

第二話

# 血を吸う夜

## 悪夢の朝

「うわあ!?」
 
埃が舞った。レカのセーフハウスは貧民街にいくつかある。掃除をする余裕はない。仕事をして帰ってきて、体も拭かずに倒れ込むように寝る日もある。昨晩はまだマシな寝入りだったが、冷や汗で目を覚ますことになった。昨夜の暗殺の記憶が、まだ生々しく残っていた。暗闇の中で指先に触れた人の命。その温もりが消えていく感覚。えずきそうになる胸の不快感。窓から差し込む朝もやの中に、彼女の起き上がった上半身が揺れた。

薄暗い部屋の隅から、汚れた鏡が彼女を見つめ返す。そこに映るのは、まだ10代後半の少女の顔。本来なら、無邪気な笑顔を浮かべていてもおかしくない年頃だ。だが、そこにあるのは疲労に蝕まれた暗い表情。赤い瞳だけが、生気を宿しているようにも見える。

「またか...」

ため息をついて手のひらを見る。自分でも気づかないうちに、爪が食い込んでいた。痛みを自覚すると、少しだけ現実に引き戻される。レカは部屋の隅に置かれた水差しに手を伸ばし、顔を洗う。冷たい水が、熱を帯びた肌を撫でていく。

街に漂う、糞尿と死臭が混じりの湿った空気を肺いっぱいに吸い込む。まだ早朝の、誰もいない時間。貧民街特有の静けさが、レカの神経を少しだけ和らげる。

そう思った矢先、通りから物音が聞こえてきた。

「ここです!エルフの死体です!」

レカは身を乗り出して見下ろす。路地の奥で、朝市の準備をしていた商人たちが、何かを取り囲んでいた。その中心に横たわる細い影。首筋に不自然な傷。血が抜かれたような痕跡。

「また一人か」

街の片隅で死んでいくエルフたち。それは珍しい光景ではなかった。だが、この死体には何か違和感があった。まるで...儀式のような整然さ。レカは屋根の上から、群衆の間を割って進む一人の人影に目を留める。魔法使いのローブに身を包んだ、まだ若い女性だった。

「冒険者ギルドの者です。通してください」

人だかりを掻き分けて進む若い女性の姿。上位冒険者の証、金槌級の銀バッジが朝日に輝く。周囲の警官たちが慌てて道を開ける。彼らも冒険者だが、ダンジョンでなく地上勤務を選んだ以上、そのキャリアの中で交わる機会は少ない。憧れと敬意、そして物珍しさの目線が、オレンジのケープを着たその姿に注がれる。

そして、レカは彼女の耳に目を留めた。エルフのそれと同じ形。街で珍しい、エルフの血を引く冒険者だ。その存在に、レカは一瞬だけ心を揺さぶられる。

「ルゥリィ様、今回で三件目です」

ルゥリィは魔法使いであることを示す幅広の帽子を取らずに頷いた。
「書類は見ました。傷痕のパターンは?」
「はい、前回と同様です」

丁寧に現場を調べながら、周囲の住民から話を聞いていく彼女の姿には、貧民街で異彩を放つ品格があった。その一挙手一投足に、エルフの血を引きながら地位を得た者としての矜持が感じられる。長く美しい金髪を風になびかせながら、ルゥリィは人々に話しかける。彼女の柔らかな物腰に、人々は自然と心を開いていく。

「エルフの方々への暴力は看過できません。冒険者ギルドは全力で捜査に当たります」

その声には強い使命感が滲む。屋根の上からそれを見下ろすレカは、彼女に同胞としての親近感を覚える。エルフの血を引く者の中でも、こうして表で戦える者がいることに。だが同時に、自分との立場の違いにも思い至る。闇に紛れ、血を流す者と、光の中で正義を貫く者。レカの心に、嫉妬にも似た感情が芽生えていた。

(でも、この傷...)
レカの赤い瞳が細められる。
(人工的すぎる。吸血鬼の仕業を装ってるな)

「...誰かいるの?」

鋭い勘が、ルゥリィにレカの存在を察知させる。二人の視線が一瞬交錯する。だがその時にはもう、レカの姿は屋根の上から消えていた。宵闇に紛れるように、まるで夜の生物のように。

## 街の影で

レカは屋根伝いに移動しながら、朝の巡回を続ける。暗殺ギルドの非公式な構成員として、彼女には街の治安を見回る義務があった。日差しを避けるように、軒先の影を選んで歩を進める。時折、下を行き交う人々の会話が耳に届く。

「また、エルフが殺されたって?」
「ああ、あの忌々しい長耳族が一匹減るのは構わねぇが...まともに働きもしねぇくせに」
「おい、あんまり大きな声で言うんじゃない。冒険者ギルドの連中に聞かれでもしたら...」

レカは苦々しい思いで立ち止まる。エルフへの差別は、この街に根深く残っていた。彼女自身、その血を引く者として、幼い頃から偏見の目に晒されてきた。だからこそ、タンザのような子供たちを守りたいと思うのだ。

そこで目にしたのは、いつもの光景。裏路地で、商人に足蹴にされるエルフの少女。盗みの疑いをかけられているらしい。

「待て」

商人の腕を掴む少年の姿。エルフと獣人の混血児、タンザだった。彼もまた、レカの保護を受ける子供の一人だ。

「てめぇ、このガキが!」

商人がタンザに掴みかかる。その瞬間、レカは地上に降り立った。朝日を背に受け、風にはためく金髪。その佇まいは、どこか女神のように見える。

「おはようございまーす。なにかお困りですかぁ?」

陽気な声。だがその目は笑っていない。商人は一瞬で血の気が引いた。彼女の赤い瞳に、暗殺者の本性を見てとったのだ。

「な、なんでもない...」

慌てて立ち去る商人を見送りながら、レカはタンザの頭を撫でる。少年の髪は獣人特有の剛毛だったが、その感触は彼女の手に馴染んでいた。

「よくやったな」

「レカ姉ちゃんに教わった通りだよ。暴力はダメだって」

その言葉に、レカは複雑な思いを抱く。自分が説いていることと、自分がしていることの矛盾。でも、少なくともタンザは更生の道を歩んでいた。彼の瞳に宿る希望の光を、レカは曇らせたくない。

「タンザお兄ちゃん!」

先ほどの少女が駆け寄ってくる。純血のエルフの特徴である銀色の髪が、朝日に輝いていた。レカは思わず目を細める。まるで昔の自分を見ているようで、胸が締め付けられる思いがした。

「大丈夫か、キナ?」

タンザが少女の体を確かめるように見回す。キナと呼ばれた少女は、嬉しそうに頷いた。

「うん!タンザお兄ちゃんが助けてくれたもん!」

レカは二人を見つめながら、心の中で祈るような気持ちになる。この街で、エルフと獣人が兄妹のように寄り添って生きていける。そんな小さな希望が、確かにここにある。それを守るためなら、どんな汚れ仕事も厭わない。そう自分に言い聞かせながら、レカは再び屋根へと駆け上がっていった。

## 冒険者の執念

ルゥリィは、死体の傍らで膝をつき、細かなメモを取っていた。彼女の専門である魔法の知識を活かし、傷の成り立ちを分析する。

「三件とも、月が変わる前後に発生。被害者はいずれもエルフ...」

傍らの警官が報告を続ける。
「今回の被害者も、娼館から姿を消したエルフです」

ルゥリィの手が一瞬止まる。彼女自身も、かつて娼館で育った。母親は娼婦として働きながら、ルゥリィに読み書きを教えてくれた。エルフの血を引く者の多くが、そこに流れ着く。冒険者ギルドの試験に合格し、今の地位を得られたのは、奇跡に近かった。

「被害者の名は?」

「マリーナといいます。純血のエルフではありませんが...」

「そう...」

立ち上がったルゥリィの目に、強い決意が宿る。一つ一つの命に向き合うことで、彼女は偏見に立ち向かう。エルフであろうと人間であろうと、すべての命に価値があると信じている。

住民への聞き込みで、彼女は新たな情報を得ていた。

「最近、奴隷商人たちの動きが活発になっているんです。特に純血のエルフを探し回って...」

(エルフ狩りと吸血鬼騒ぎ。この二つは無関係じゃない)

太陽が昇りきり、路地の影が短くなっていく。ルゥリィはエルフの死体に白い布を掛けると、祈るように目を閉じた。彼女の仕事はまだ始まったばかりだ。

## 廃墟の教室

崩れかけた建物の中で、タンザがキナに読み書きを教えている。満ち溢れる日差しを遮るように、ぼろ布が窓に掛けられていた。埃の舞う床の上で、二人は向かい合って座っている。

「ほら、こうやって『パン』って書くんだ」

タンザが石の床に、指で文字を書いてみせる。キナは真剣な表情で、その動きを目で追った。

「難しい...でも、頑張る!お兄ちゃんみたいになりたいもん」

そう言って、キナは自分の指でなぞってみる。支離滅裂な線に、タンザは思わず吹き出しそうになる。けれども、彼は優しく微笑むことで、それを堪える。

タンザの手には、レカから借りた教科書。ボロボロの表紙からは、幾度も読まれた形跡が伺える。キナの純粋な瞳に映る「兄」の姿に、彼は救いを見出していた。

外から物音。二人が身を潜める。通り過ぎる奴隷商人の群れ。彼らは純血のエルフを求めて、貧民街を荒らし回っている。キナの小さな体が震える。砂埃を被った銀髪に、恐怖の色が滲む。

タンザは、キナの頭に手を置いた。

「大丈夫。俺が守るから」

その声は震えていたが、彼の瞳は揺るがない

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