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日本のInsurTech Startupが勝つために必要な考え方

2022年5月1日でSEIMEI社を創業してから5年が経過した。
自社が巨大マーケットに適切にアプローチできていることを確信する一方で、5年前に思い描いていた成長スピードからはあまりにもかけ離れて遅いというのが正直なところだ。

5年という歳月は誰にとっても平等に長く、次の5年後に自分は43歳になっていて、全力で働ける人生の残り時間は少ない。
ここまでの5年間は保険プラットフォームの立ち上げフェーズだと捉えればまだ納得感もある。
プラットフォームビジネスは時間がかかる。
とはいえ5年後にはもう大成功していなければいけない。

起業家は時価総額というただ一つの指標、その結果でしか評価されない。

自分自身が最短距離で成功を掴むために、「日本のInsurTech Startupが勝つために必要な考え方」を備忘録的に書き留めておく。

保険業界には「モメンタム」がない

この5年間で最も急速に伸びた市場を見てみよう。
まずはなんといっても仮想通貨市場だ。
2017年5月1日と2022年5月1日で比較すると、ビットコインの価格は156,512円から4,937,002円に値上がりしている。5年間で実に31.5倍だ。
この仮想通貨市場はweb3と名前を変えてリブランディングし、更に大きな伸びを予感させる。
Astar渡辺さんのような27歳(今年39歳の僕より一回りも若い!)でユニコーン超え時価総額の日本人起業家も出てきている。

次にVTuber市場。
当社と同じ2017年5月に創業したANYCOLOR株式会社がつい数日前に上場承認が降りた。創業者の田角さんはさらに若い26歳!
2022年3Q累計の売上は100億円、経常利益は30億円を超える。
通期に単純換算すると、創業して僅か5年経過時点で売上133億円、経常利益40億円の会社を作ったことになる。
VTuberという言葉が生まれたのは2016年12月。
市場の黎明期から目をつけ、ビッグウェーブに乗った素晴らしい事例と言える。
(ただUUUMが株価低迷していることと同様に、中長期的に競争優位性を保てる市場には全く思えないのは懸念点ではある。早期にコモディティー化して株価は値崩れするだろう)

翻って日本のInsurTech Startupはどうだろうか。
ジャストインケース、400F、当社SEIMEIあたりが主なプレイヤーだと思うが、この5年間でイグジットした会社はまだ1社もなく、数10億円の大型資金調達をした会社も1社もない。

この残酷な差は市場規模だけでは全く説明がつかない。
日本の保険市場規模は50兆円。
Vtuberの市場規模はまだ1,000億円もないはずで、市場規模だけなら圧倒的に保険業界の方が大きいのだ。

ではこれは起業家のレベル差なのか?
Astar渡辺さん、ANYCOLOR田角さんは超絶優秀で、ジャストインケース畑さん、400F中村さん、SEIMEI津崎は彼らと比べて1/10以下の能力しかないダメな起業家達なのだろうか?

いや、スタートアップにおいて「起業家が優秀かどうか」「経営チームが優秀かどうか」なんてものは成功要因の1%程度に過ぎなくて、全くの誤差でしかないことを痛感している。
(そして個人的には、畑さんも中村さんも非常に優秀な起業家だと思っている)

勝敗の全てを決めるのは「市場の成長スピード」だ。
参入市場にモメンタムがあれば、何をやってもうまくいく。
モメンタムがなければ誰が何をやってもうまくいかず、スモールビジネスに留まるのが精一杯となる。

つまり、保険業界にはモメンタムがない。
日本で最も規制の強い巨大産業であり、強大な規制の壁があるためにモメンタムが最も起こりにくい市場である。

この5年間で、保険料をビットコインで支払える保険会社が1社でも誕生しただろうか?
いや、ない。

Vtuberを企業広報戦略に取り入れた保険会社や保険代理店が1社でもあるだろうか?
いや、ない。

新しいテクノロジーは、「1番最後に仕方なくやっと取り入れる」のが保険産業だ。
なのでAstarやANYCOLORのような「新テクノロジーに市場黎明期からトップスピードで乗る」ことは諦めるしかない。

それでもなんといっても保険は市場規模が超デカいのは間違いない。
日本の保険市場は世界3位の規模。
人口が世界11位であることを考えると、更に魅力は増す。
この中で勝ち抜くことができれば、ユニコーンどころかデカコーンだって決して夢じゃないはずだ。

僕はこの5年間の経験値から、日本のInsurTech Startupが勝つためには以下の3つが必要条件だと考えている。

  1. 保険代理店に課金する事業と、自ら保険会社を経営する事業は行わないこと

  2. 保険会社に課金する事業であること

  3. 2年後の制度改正または法改正から常に逆算すること

それぞれ個別にみていこう。

保険代理店に課金する事業と、自ら保険会社を経営する事業は行わないこと

まず1つ目は踏み込んではならない落とし穴の確認をしたい。
日本にはとてつもなく多くの保険代理店がある。
生命保険代理店数は81,806店(法人保険代理店33,114社+個人事業主48,692)、損害保険代理店数は165,185店(法人保険代理店95,383社+個人事業主69,802)

この数だけを見ると超魅力的なマーケットに思えるが、保険代理店に課金するという市場の選択は、最初から致死率が極限まで上がる自殺行為に等しい。
保険代理店は募集人に多額の手数料を還元してしまっているため、社保負担なども考慮すると粗利で10%も残らない。

要するに金がない。

粗利が多く残る事業形態として、募集人を固定給で雇っている来店ショップ型、テレマ型代理店、金融機関系保険代理店もあることにはあるが、この時点で分母は一気に減ってしまう。

お金を持っていない相手に対してどんなに素晴らしいソリューションを提供しても、お金を得ることはできない。

次に、保険会社を自ら経営するのも危険だ。
「保険金・給付金支払」という、潜在的に大量の在庫を抱えるビジネスと捉えるとわかりやすいかもしれない。
マーケティングやオペレーションをどんなにITで効率化したところで、シンプルに在庫リスクがある商売であることは変わらない。
先日のジャストインケース社のコロナ保険破綻のように、在庫原価が売上の何倍にも跳ね上がるリスクまである。
そのリスクを飲み込んで経営して仮にIPOできたとしても、ライフネット生命のように、日本における保険会社の株式市場からの評価は異常なまでに低く、まさに「労多くして益少なし」

web3で世界を相手に保険会社をやるならアリだ。
だが日本国内で保険会社をやるメリットは本当に全く無い。

この2つの領域には踏み込まないとすると、可能性があるのはどこだろうか?

保険会社に課金する事業であること

当然のことながら、保険業界構造の胴元は保険会社である。
保険会社が保険商品を開発し、①契約者から保険料を集め、②保険金・給付金を契約者に支払い、そして③保険代理店に手数料を支払っている。
保険会社のこの3つの業務フローのどれかをDXする事業でないと日本においては大きくなることはないだろう。

川下に相当する保険代理店の業務フローは、川上の保険会社オペレーションが変わると連動して変わらざるを得なくなる。
この仕組みはGoogleのSEOアルゴリズム変更に似ていて、かつて10億円前後で美しくイグジットした数多くのメディアが、今はその売却額のほぼ全額を減損処理されて無価値となっていることを思い出してみて欲しい。
この点でも、保険代理店に課金する事業は成り立たないのである。

①と②の領域で戦っている日本のInsurTech Startupは以下の4社

※フィナテキストは上場済かつInsurTechがメイン事業ではない

大手SIerが担ってきた保険会社の基幹システムをSaaSに置き換えるというわかりやすい文脈で、保険会社の中でも大きな予算が流れているので、市場も大きい。
この4社同士で微妙に競合はしているが、SIerからSaaSへのリプレイスというトレンドはあるので伸びていく市場だとは思う。
ただ、モメンタムはなく、残念ながらやはり時間はかかりそうだ。
保険会社には金がある。金があって困っていないところには、同時にソリューションも存在しないのだ。

③の保険会社⇔保険代理店で事業展開しているのが当社である。

当社は「保険会社→保険代理店へのソリシター営業のオンライン化」、ちなみに400Fは「保険募集人→契約者への保険商談のオンライン化」という対面営業のオンライン化という文脈では2社は共通している。

コロナによる非対面トレンドは確かにあるものの、こちらも残念ながらモメンタムと言えるほどではない。
対面営業は根強く残り続け、「ソリシターの対面営業は違法」というような強制新制度も実現し得ない。
今のままではIPOまでたどり着けたとしても時間はかかり、IPOサイズも小規模に留まってしまう可能性が高いと感じている。

保険会社に課金する事業は確かに市場は大きいものの、やはりモメンタムがない。

日本発InsurTech Startupとしてワランティーはアメリカで成功した。
成功するためには、ワランティー社のように日本を出るしかないのだろうか?

いや、まだ悲観することはない。
1つだけ突破口がある。

2年後の制度改正または法改正から常に逆算すること

保険会社は必ず、向こう3年間〜5年間の中期経営計画を立てていて、そこから外れた経営は原則として行うことができない。
しかし、金融庁の意向は何よりも優先されるので、制度や保険業法が変わるタイミングだけ、トップダウンで一気に全てが変更となる。
この変更スピードだけはVtuber市場の急成長スピードを上回る。

例えば、「○○に関するコンプライアンスを遵守してもらうために○○をオンライン化することに決定した」など。

この決定は唐突に行われるものではなく、金融庁内やワーキンググループで何回も協議が行われてから発表となる。そして正式発表から施行までだいたい2年間の猶予期間がある。
保険会社の予算組みは年1回しかないことから、保険会社に予算をもとに施行させるまで最大2年間空ける必要があるのだ。

つまり、2年後に変わる新制度を誰よりも先に把握し、施行日から逆算してプロダクトを作り込んでおく。

新制度なので、大企業もスタートアップも勝負は横一線。

この逆算から戦略を実行するのが、日本のInsurTech Startupが勝つただ一つの突破口だ。

保険会社にとって金融庁のトップダウン指令は、「コロナだしソリシター君とかいうオンラインサービスもちょっと取り入れてみようかな」というような生易しいものではなく、「期日までに絶対に導入しなければならない」必達事項となる。

そのようなサービスを作るためには保険業法、金融庁、生命保険協会、損害保険協会などの動きを常にウォッチし続ける必要がある。
そこで当社は今、一つの仮説を立てて動いている。この仮説が外れたとしても、今後も戦略の軸は「2年後の新制度からの逆算」という方針はブレずに貫いていく。

プラットフォーム事業は多額の資金が必要

戦略は明確になったものの、プラットフォーム事業にはやはり多額の資金が必要だ。
エムスリーは純粋なメディアなので医師会員数を獲得するためのマーケ費用のみにアクセルを踏めば良いだけで、大きなJカーブを掘る必要はなかった。

しかしエムスリーは製薬会社⇔医師という2層構図に対して、SEIMEI社は保険会社⇔保険代理店⇔保険募集人という3層の業界構造であることから、メディアとしてではなく、業務コミュニケーションツール+メディアというハイブリッド型で構築していかなければならないことが分かってきた。

そもそもエムスリーが特殊なだけで、本来プラットフォーム戦はとにかく資金がかかる。
例えばPayPayは創業から4年弱で登録者数4700万人、加盟店数366万ヵ所に到達させるまで、実に3,700億円を調達している。

当社がいくらホリゾンタルサービスよりは金がかからないバーティカルサービスと言っても、昨年JAFCOから調達した3億円ではとても足りず、少なくとも50億円はないと十分には勝ちきれない。
マイルストーンを着実に達成して、必要な資金をしっかり集めて、ユニコーンを目指していく。

円安だから今はユニコーンも時価総額1,302億円必要なのか、、、
エムスリーが現在PSR14倍、PER44倍なので、IPOプレミアムでPSR20倍、PER60倍に下駄を履かせても、年商65億円、当期純利益22億円を叩き出さないといけない。

自社メンバーだけではなく、ステークホルダーやユーザーも巻き込んで必ず実現させる。
そのために自分自身の24時間は1秒に至るまで、人生の全てを事業に使っていく。

やっていこう!


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※直近の僕のインタビュー記事はこちら
世界唯一のInsurTech Startup起業家 兼 現役MDRT・TOT会員 津崎桂一。炎上、前澤ファンド、3億円調達、コロナ感染…波乱の2年を経て辿り着いた新たなステージ
https://thekeyperson.biz/interview/tsuzakikeiichi_3/?fbclid=IwAR1LClXrLh-KYLtFgoNg6pB1sNENGOmBix5ErXLBbtaTXFruDMfnuK_YJiE



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