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野菜村とお肉村

はじめに

この童話を作ったのは2018年の秋。
就職活動が終わり、何をするでもなく、
ウダウダと過ごしていた時に書いたものです。

当時の僕は色々と悩んでいたんだと思います。
この童話はその悩みをぶつけるように書きました。
僕が人生で初めて書いた物語です。

ワケあってライターとしての実績を載せられないので、
今回、この場を借りてライターとしての
原点を載せたいと思います。

野菜村とお肉村

ある国に野菜村とお肉村がありました。
野菜村は村中で野菜を作っています。
村人たちはせっせと畑を耕し、種を蒔き、野菜ができるのを今か今かと待ち望んでいます。

お米の収穫日は、村人揃ってお祭り騒ぎ。
野菜村の女の子はそんなお祭りが大好きでしたもちろんお祭りだけじゃありません。
朝昼晩に出てくる新鮮なお米とお野菜も大好き。
特に家の近くで採れたブロッコリーは彼女のお気に入り。
ブロッコリーが出て来たときはいつも美味しそうにそれを頬張っていました。
お母さんは言います。
「野菜はね、健康に良いからいっぱい食べるんだよ」
「うん、わかった!!」
彼女は元気いっぱいに答えます。

彼女には野菜のほかにもう一つ好きなものがありました。
それはたまに食卓に出てくる牛さんのお肉です。
「野菜も好きだけど、お肉もおいしいね」
彼女頬が緩みます。
でもある時不思議に思いました。
このお肉はいったい何処から取って来たものなんだろう?

「お母さん、お母さん。このお肉は何処で取れたの?」
お母さんは答えます。
「これはね、お肉村で取れたものなんだよ」
「お肉村?」
初めて聞いた言葉でした。
「お肉村って?」
「お肉村はね、野菜村から少し離れた場所にあるの。そこでは、牛さんや豚さん、鶏さんが飼われていていつも貴方が食べているお肉はそこから運ばれてくるのよ」
お母さんはそう答えました。

彼女はびっくりしました。
なにせそんな村があることは初めて知ったのでしたから。
彼女にとってはこの村だけが全てだったのです。
同時にその村に興味を持ちました。
「お母さん、お母さん!私、その村に行ってみたい!!」
考えると同時に口に出していました。

お母さんは答えます。
「うーん、お肉村までは遠いからねぇ。今度休みが出来た時にでも行きましょうか。」
それを聞くと女の子は飛び上がって喜びました。
「やった、やった!絵本でしか見たことない牛さんや豚さんに会える!!」
それが嬉しかったのです。

しばらくたって、ついにお肉村に行く日が来ました。
お父さん、お母さん、女の子でお肉村をめざします。
お肉村までは野菜村から歩いて半日もかかります。
道はなだらかなので危険はありませんが、彼女にとっては全てが珍道中。
途中でお昼ご飯を食べるのも楽しくて仕方がありませんでした。

お肉村に着いた頃には、日は沈みかけていました。
「私こんな遠くに来たの初めて!」
女の子は半日歩いていたのにピョンピョン跳ね回っています。
「早く牛さんのいるところに行こうよ!!」
お父さんとお母さんの手を握っておねだりします。

「まあまあ、そんな慌てないで。今日のところは宿屋に泊まって行こうよ」
お父さんは彼女をなだめるように答えます。
女の子は少し不満気でしたが、宿屋の近くのレストランでステーキが食べらるれと聞いてさっきの不満顔は嘘のよう。
またもやピョンピョン跳ね回ります。
彼女にとって今日の出来事は全て初めてだらけでした。

レストランに行くと今まで見たことのない大きさのステーキが目の前に置かれます。
女の子は目を輝かせます。
「いただきます!!」
言葉と同時にお肉を口いっぱいに頬張りました。
「おいしい!おいしい!!お父さん、お母さん、おいしいね!」
女の子のあまりの勢いにお父さんもお母さんも笑っていました。

すると、隣の席には座っていた大きなおじさんが女の子に話しかけます。
「お嬢ちゃん、もしかして野菜村から来たのかい?」
「そうだよ!」
「どうだ、お肉村の肉は野菜村で食べる奴なんかより数倍大きいだろう。俺は生まれてこのかたこの肉ばかり食べて体を大きくしたんだ。お嬢ちゃんも大きくなりたいんなら野菜ばかり食べてないで肉もしっかり食べるんだぞ!」

大きなおじさんはそう言うとガハハと大きな口を開けて笑っていました。
お父さん、お母さんも笑っていたのでつられて笑ってしまいました。
「おじさんはお野菜は食べないの?」
「俺か?俺は野菜は食べないねぇ。野菜よりも肉の方が美味いからなぁ!この村の連中はみんな肉に誇りを持ってるのさ!!」
またもガハハと笑いました。

でも、今度は上手く笑えませんでした。
なんだか悲しい気持ちになったのです。
「でもお野菜も美味しいよ...」
小さな声でそう言いました
「おお、ごめんよお嬢ちゃん。悪気は無かったんだ。野菜も体に良いしなぁ!でもこの村の人はみんな肉で育ってきてるんだよ。お嬢ちゃんが野菜が好きなように俺たちも肉が好きなんだ」

「この村の人はみんなお肉の方が好きなの...?」
「そうだと思うけどなぁ...もちろん野菜も食べるけどな!」
「そうなんだ...」
女の子はうつむいてしまいました。
こんな経験は初めてだったからです。

野菜村の人はみんな野菜が大好きです。
だから、この村の人もみんな野菜が大好きなんだと思い込んでいました。
確かに女の子はお肉が大好きでした。
でもそれ以上に野菜が大好きだったのです。
ステーキは美味しかったけれど、さっきのような笑顔は彼女にはありませ
でした。

レストランを出て、宿屋に行きます。
女の子は宿屋のおばちゃんに質問しました。
「おばちゃんはお肉とお野菜どっちが好き?」
「うーん...どっちも好きだけど、やっぱりお肉ね!この村のお肉はこの国一番だからね!!」
「そうなんだ...」
またもや女の子はうつむいてしまいました。

お風呂に入ってベッドの中に潜り込んだ後も彼女は頭の中にモヤモヤを抱えていました。
私はお野菜の方が好きなんだもん!私の村のお野菜は一番なんだもん!!
そんな思いがこみ上げてきました。
でも、さっきのおじさんやおばさんが自信満々に答えたのを聞いて、なんだか自分の気持ちがわからなくなっていました。

その日、夢を見ました。
女の子がお肉をいっぱい食べて大きな大人の女性になる夢です。夢の中でみる自分の姿はとても素敵に見えました。
次の日はいつもより早く起きました。
昨日のようなモヤモヤは無くなっていましたが、胸の中に何かつっかえたような感覚はまだ残っています。

でも、それよりもまず牧場で牛さんが見たくてたまりません。
「牛さん見に行こうよ!」
女の子はそう言うと、お父さん、お母さんの手を握って、牛さんのいる牧場まで歩いて行きました。

牧場に行く間、街で多くの村人を見ました。
確かにおじさんが言ってた通り大きくて強そうな男の人がいっぱいです。女の人も、野菜村よりも大きくて綺麗な人がいっぱいいるように見えました。
かっこいいなぁ...
女の子はそんなことを思いました。
牧場はとても広かったです。
その中に牛さんが何頭もいます。
「わぁ〜、牛さんがいっぱいだ!!」
女の子はその大きさに圧倒されながらも、念願の対面に目を輝かせました。

「やっぱり、お肉村はすごいなぁ...」
野菜村には無いものがいっぱいある。
こんな大きな牧場見たことないし、村の人たちもみんな、大きくて強そうだ。
私はお野菜が大好きだけど、お肉ももっと食べなきゃこの村の人たちみたいに大きくならないのかな。
牧場を後にすると、そのまま野菜村に向けて出発しました。
なんだか行きよりも足が前に進みません。
どうやら、初めての旅で疲れてしまったようです。

野菜村の入り口で行商人が仕事をしていました。
彼らの仕事は、お肉村で取れた肉を野菜村に売り、野菜村で取れた野菜をお肉村に売る、と言うものです。
女の子はあまり彼らを見たことがなかったので、興味津々で仕事を見つめていました。
お父さんとお母さんはそんな女の子を見かねて、先に帰ってしまいました。

「夕方までには帰るのよ!」
「わかった!」
そう言われた後も じっと仕事を見ています。
女の子は行商人に近づいて、質問します。

「お兄さんはお肉とお野菜どっちが好き?」
お兄さんは笑って答えました。
「そんなの比べられないよ!どっちも好きに決まってるじゃないか!肉には肉の良さがある。野菜には野菜の良さがあるんだよ!どっちも食べて初めて健康になれるんだ!!」

女の子はハッとしました。
そっか。
どっちもすごいのか。
私は、お肉が好きで、野菜が大好きでそれでいいんだ。
その時、女の子の胸につっかえていたものが取れました。
彼女は自分に自信を持つことが出来たのです。
疲れを振り払うような小走りで、お父さん、お母さんが待つお家に帰って行くのでした。

女の子はお肉村への旅で多くの経験を得ました。
それは、大きなステーキを食べられたことや、広大な牧場で牛さんを見ることが出来ただけではありません。
もっと大切なことを学んだのです。

しばらくたって野菜村に旅人がやってきました。
旅人はフルーツ村から来たと言います。
旅人はこんなことを言いました。
「いや〜、しかし、野菜村ってのは本当に素晴らしい村だね!自然豊かで空気が綺麗だし、野菜は絶品!おまけに美男美女しかいないもんね!」

                                                                                                                                                 おしまい

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