台湾のイマドキ・デザイン事情
今日は、私がデザインの教育を受けた台湾のデザイン事情について、お話ししていこうと思います。
そもそも台湾のデザインって?
台湾のデザインあんまり知らないな・・・って思った方がほとんどだと思います。台湾のデザインは欧米や日本などに比べれば、まだまだ発展途上ということもあって、海外のデザインにはとても敏感で、非常に寛容に受け入れている一方で、台湾独自のデザインとは何か?とか、「本当の台湾のデザイン」というものを、まだまだ模索している途中段階のような気がします。
前回お話ししたように、本屋に行くと欧米や日本などのデザイン先進国の訳本がずらりと並んでいたり、自分の周りの優秀なデザインの生徒たちは、積極的に欧米や日本の名門デザイン学校に、スカラーシップ制度や交換留学を利用して留学したりと、どちらかといえば自国にとどまってデザインを極めるというよりかは、先に海外に出て先進的なデザインについて学んでから台湾に持ち帰る、という風潮があるように思えます。
しかし近年では、欧米や日本のデザインにとらわれずに、「台湾」というアイデンティティから独自の文化を体現したデザインも現れつつあり、既に存在する海外のデザインをただ追いかけるのではなく、この土地に育った「デザインらしさ」みたいなものを模索しているデザイナーもいます。
▲グラフィックデザイナー廖小子(リャオ・シャオツー)が手がけた、歌手李英宏の音楽作品「台北直直撞 Taipei DiDi Long」のCDジャケットデザイン。台湾の工事現場によくあるの仮囲いの鉄板に、職人たちがスプレーを使って自分の電話番号を壁面に残して職を探す文化や、路地裏でよくみかける落書きやグラフィティをビジュアルアートとして捉えデザインに生かした、まさに台湾のローカルカルチャーを視覚化した作品である(https://www.behance.net/gallery/54186569/Taipei-DiDi-Long)
▲グラフィックデザインの領域だけでなく、吳孝儒(Pili Wu) さんがデザインしたこちらの作品「圈凳|Plastic Classic 」は、中国明の時代の上流家庭で使われていた圈椅と、台湾の街角の屋台で見かける庶民文化の象徴であるプラススチック製の椅子を、見事に融合させた作品。本来廉価で利便性しか求められてなかったものに、インテリアとしての価値を与えた( https://www.piliwu-design.com/plastic-classic)
▲台湾に行くと必ず見かけるプラスチック製の椅子。日本では風呂場で使う腰掛けをイメージすると思うが、台湾のローカルなお店では必ずと言っていいほど置いてある。こちらは、ずらりと生活用品を扱っているお店の外観
台湾で今デザインが、アツい
近年の台湾ではデザインが結構アツくなってきていて、有名なデザイナーが総統選挙のキービジュアルを担当したり、政府が公式に身分証明カード(日本でいうマイナンバーカード)のデザインコンペを開催して、幅広くデザイン案を募るなど、自治体や国レベルで推し進めていたりしています。まだなかなか質が追いついていない例も目にしますが、こういった風潮が島のあちらこちらでみられていること自体、私はものすごく喜ばしいことだと思います。
▲台湾で注目されている若手グラフィックデザイナー聶永真(アーロン・ニエ)が、2016年の台湾総統選挙に立候補した、現・台湾総統蔡英文(サイ・エイブン)の選挙グラフィックを製作し、当時デザイン界で話題を呼んだ(https://www.herenow.city/taipei/article/aaron-nieh/2/)
▲台湾の内政部(諸外国の内務省に相当)が2020年の身分証のIC化に伴い、デザインを刷新する段階で、2018年に公式で身分証(マイナンバーカード)のカードデザイン公募を開催。こちらが最優秀賞に選ばれた作品で、これに沿った形で新しい身分証がデザインされる(https://www.cna.com.tw/news/aipl/201806110353.aspx)
▲ちなみにこちらが現在使われている、現行の身分証。ただただ紙をラミネートされただけの仕様で、とても「カード」とは思えないが、表の右下にある赤い文字「統一編號」がマイナンバーにあたり、台湾の個人番号制度は日本よりも早く導入された(https://www.facebook.com/TaiwanReDesign/)
おわりに
以上、まだ紹介しきれてないこともたくさんありますが、今時の台湾のデザイン事情について、発展途上ならではの事情だったり、日本にはまだない事例だったりを、ご紹介させていただきました。少しでも台湾やアジアのデザインについて知るきっかけになれたらと思います。
次回もお楽しみに!