同級生と結婚式の余興

「うわー懐かしー」
「パンツ見えそうなの誰w」
「まりちゃん変わらなすぎる」「ね、脚ほっそい!」
「このとき振付けめっちゃ練習したよね!」
女子たちがきゃあきゃあ言いながら、Zoomの共有画面で5年以上前のそのなかの一人の結婚式の余興の動画を流していた。

わたしは、誰の結婚式に出席したか/してないか、あるいは、出席した式でもいつだったのか、誰と一緒の席だったか、基本的に記憶が無い。
それはあまりにも友人が多くて脳内キャパオーバーとかそういうことではなく、むしろ非常に少ないコミュニティ内での話なので、記憶が無いなんて余計にややこしい。(だから誰にも言えない。)

動画の余興では、当時20代半ばの友人たちが高校時代の制服を身に付け、際どいスカート丈でくるくる踊っている。こんなの、ほぼストリップじゃねぇか。誰も何も思わないのかよ。

とりあえず動画を凝視して、自分が居ないことを再確認してほっとする。結婚式は恐ろしい。こんなことをやらされるぐらいだったら欠席して本当に良かったと心から安堵する。
しかし、この動画はいつまで保存されるのだろうか。もしかしてSNSに投稿とかされてるのだろうか。メンションとかつけて?・・・地獄。

この子達が参列者からの性的な眼差しに気づいてないわけがないと思う。
でもきっと当たり前の流れ的なノリ的なカルチャー。
制服×踊る×若い女子という組み合わせっていつまで存在するのだろうとうんざりしながら、てきとうに「わぁ」とか「ほぉ」とか気の抜けた反応をする自分にも嫌気がさす。

流れにのって、「実は・・・」と左手のダイヤモンドとともに結婚報告する友人がひとり。みんな一斉におめでとうの言葉の嵐。

あ、嫌な予感。

残る独身はわたしともう一人となったタイミングだった。
友人Y「次はmyoだね!早く式やってね、楽しみにしてる!」と無邪気発言。
とっさに表情筋をフル稼働させながら笑顔をかたち作る。
「あ~・・・わたしはやらないよ~」
誰も何も突っ込まず、当の本人も何も説明しない、一瞬の時間が無駄に長く感じた。
目じりの痙攣がZoomの画面上でバレてないといいんだけど。

結婚式は嫌いだ。気持ちが悪い。でもこの場でその発言・思想はあまりにも不適切だ。

Zoomの友人たちの顔が一斉に小さくなり、一つの顔が追加された。
「おっつかれ~」と、本当に疲れ果てた声と、子どものぐずっているような背景音とともに新たな友人がZoomに入ってきた。

(あー 子どもの話だな。トイレ行こう。)

子持ちが入ってくると、ママ同士で子どもの話でひとしきり盛り上がるため、子無しのわたしは黙っている。
全般的に興味がないし、わたしの場合は友人の子どもを可愛い可愛いと愛でるようなタイプではない。すごく可愛いと思うときも稀にあるが、8割がた「ふ~ん小さい」。その他の感情が揺さぶられることはほぼない。だから、同じ子無し友人が「〇〇ちゃんこっちみて~?」「いないないばぁ~!」とか画面越しに赤子サービスしてるのをみると、なんかもう同じ人間とは思えないなぁと、魂が抜けた目で眺めてしまっている自分がいる。


「いいなぁ myoは都会でバリバリ働いててかっこいい。」

まただ。
いやぜんぜんバリバリ働いてないけど。。派遣で定時上がり厳守だし、生活費ギリギリ&休職してた分借金まであるし、仕事覚えられなくて本当につらいし、つか、バリバリってなに。バリバリ。頑張るのってそんな偉いか。そもそもわたしバリバリ働きたくないし。養われて主婦やってる友人の方が100000倍羨ましいわ。

口が裂けても言えない言葉をビールで流し込む。
主婦は立派な無賃金労働者で、年収に換算するとかなりの額になったよねたしか。リスペクト、リスペクト。

Zoomは平日の深夜をまわっても続き、わたしは本当に言いたいことは言えず、面白かった思い出話や最近の仕事の愚痴をポップに話したり聞いたりしてキリが良さそうなところで
あっそろそろ・・・という表情をつくって「明日早いから寝るね!おやすみ~!」とバイバイのジェスチャーをしつつ退会ボタンを押した。

共通言語で話せたかな
なんか嫌味な表現してなかったかな
誰に何のお祝い用意すればいいんだっけ・・
ぐるぐる考えながらソッコー化粧を落とす。そしてシャワーを浴びて寝る。

わたしの世界とあの子たちの世界は本当に繋がってるんだっけ?
またこの記憶もなくなるかもしれないから5年日記に書こう。ちょっと疲れたから明日書こう。

すこんと眠って、朝になって、満員電車に揺られて、
新宿を一望できる高層ビルの45階のオフィスの窓をのぞく。
都会だよ。こっちは大都会。だけど、わたしにとってはなにもない都会だよ。なんでもあるように見えるけどなんにもないから。

「申し訳ございませんが、体調不良のため早退します。」上司にチャットを送って、席を立つ。

すんごい眠くて、家帰って思いっきり寝てやろうとも思ったけど、
胸のざわめきを鎮めてからにしようと思い立ち、カラオケ館に入る。

中島みゆきのファイトをうたって胡麻化した。

さて、おなかがすいた。ランチならなんでもある。






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