見出し画像

【論文】組織理論における感情の意義/金井・高橋(2008)

全然更新できていなかったnoteですが、進学している大学院で「論文はまず100本読みなさい!」という刺激的なメッセージをいただき、今月から論文記録を始めることにしました。
まだまだ自分の専門領域が絞りきれていないので、論文を読みながら学びを深めつつ、興味のある領域のつながりを紐解いていきたいと思います。
ちなみに私の現時点でも興味があるキーワード(かなりざっくり)は、
『感情労働』『リーダーシップ』『チームワーク』『ジョブ・クラフティング』『復職者支援』『育児』『キャリア』『エンゲージメント』『資質』『強み』『人間関係』・・・
まだまだあるけど、これ以上書くと、散らかりそうなので一旦この辺で。
毎週2本ずつ読めば、来年の夏には100本終わるかも!?
どうぞお付き合いください。


今日の論文

初回の今日は『感情労働』のキーワードより、そもそも組織理論のなかで感情の研究ってどんなものがあって、どんな意味ががあるの?ということで、

『組織理論における感情の意義』金井壽宏・高橋潔(神戸大学)

組織科学 41巻 No,4 p p .4-15(2008)

を読みました。
この論文は組織理論における感情研究の大まかな地図が提示されており、感情労働やリーダーの感情、管理職の感情、カリスマの言葉に見られる感情、ポジティブ行動に見られる感情などの視点から感情についてまとめてあります。

そもそも感情って?

人間誰しも、感情って日々抱きますよね。
論文の中で紹介をされていたのはこちら。

「喜び、悲しみ、恐れ、怒り、驚き、嫌悪、平静、不安、悩み、憂鬱、落胆、自慢、羨望、嫉妬、罪悪感、恥、後悔、愛などの状態」

Coles 1998

感情には、自分の身を守るための生存にまつわる感情(恐れ、怒りなど)とされる「1次的感情」と生殖のためにつがいを求め、ひとりでは生きていけないので社会的関係に依拠するためにおこる感情である「2次的感情」に分けられるそう。

自分の中で湧き起こるものと他者との関わりの中で湧き起こる感情があるということですね。

感情と行動の繋がりについて、論文では、
・嬉しいから笑う
・悲しいから泣く
という感情→行動という繋がりを示しつつ、
・笑うから嬉しくなる
・泣くから悲しくなる
という行動→感情のつながりを考察しています。
↑面白い視点!

Schacter&Singer(1962)の研究において、
目の前で起こっている同じ現象(怒っている人)を複数の人がどのように感じるかを調査したところ、
同じものを見ていても「怒り」と解釈する人と「幸福」と解釈する人が現れ、
状況に応じた個人の解釈の違いによって、異なった感情が経験されることがわかりました。
ということは、自分のコンディションが感情の捉え方に大きく影響するってことですね。
イライラしてる人は、どんなものにも怒りを感じてしまったり、
気持ちが沈みやすい人は、マイナス思考になりがちだったり、
思い当たることはあるかも。。。

表情から読み取る感情

表情として表面に現れる6つの基本的感情は、
喜び・悲しみ・恐れ・怒り・驚き・嫌悪で、
この6つの感情は他者から読み取れるものであり、文化が違っても普遍的であるとされています。
日本人は他の文化の人より「怒り」の感情の読み取りに長けていないそう。
これは、日本人は空気を読んで場に感情を出さなかったり、愛想笑いという言葉もあるように、上部だけで場を過ごすという文化から、そのような傾向があるようです。

感情を表に出さない規則がある!?

仕事によっては、本当の感情を隠す必要があることもあります。
例えば、お医者さん。
手術不安だなーと思っていても、患者さんの前ではそのような表情や不安な様子を見せることはありません。患者さんの不安を煽るだけですし、信頼も失います。

そういった本当の気持ちと表に出す表情をコントロールする(表情の統制)にはいくつかの法則があります。

①文化的表示規則:例)「男らしく振る舞え」というような文化的に浸透している理由による規則
②個人的表示規則:例)「イライラしても我慢しなさい!」と育てられたなどの個人的事情による規則
③職業的表示規則:例)「看護師だから血や傷を見ても動揺してはいけない」という職業規範による規則
④状況から生じる規則:例)「上司の怒りが爆発しそうだったので、イライラがバレないようにした」などのその場面、その時点のあり方による規則

日本人は、下位の人には怒りを表現してもいいが、上位者にはそれを示してはいけないと認識されている研究(工藤・マツモト 1996)もあるらしい。
「目上の人は敬え」の言葉からきているのかなー。
下位の人にとっては、勘弁してくれと言いたくなる話です。

感情労働と感情管理

感情労働とは、「相手に適切な心の状態を喚起させるように、自身の感情を引き起こしたり抑制したりすることを要求」するもの(Hachschild 1983)とされ、肉体労働、精神労働(知的労働)についで、第3の労働とも言われます。
私の仕事である客室乗務員も、感情労働の代表例として、よく取り上げられるのですが、
疲れていても、嫌な場面に遭遇しても、目の前のお客様の前では笑顔を作って仕事をしなくてはいけません。つまり、自分の本来の感情を抑制したり、管理して仕事をしています。このことが、多くの精神的苦労を課すので、感情労働におけるメンタルケアの必要性についても、以前より叫ばれているように体感しています。

また、感情労働に限らず、私たちの身の回りではその場に合わせた感情の出し方(感情規則)もあります。
例えば、お葬式で喪服を着て悲しい表情をする、お顔を見せないなど、仮に楽しい気分でも、その場ではそれを出さない(感情管理)していることもありますね。

論文では、この感情の表示規則を演技論(Goffman 1956)と交えて2種類紹介しており、
「表層演技(surface acting)」:自分の感情がわからないように巧みに演技する⇨日本でいう、うわべで対応する、建前で言うなどはこれ
「深層演技(deep acting)」:本当になりきって演技する、本来の自分の感情すら騙してしまう
⇨女優さんもそうですね。感情労働もこちらです。

感情労働の特徴は
①相手と対面、あるいは直接話すこと
②相手に対して特定の感情状態(喜びや楽しみなど)の換気を促すこと
③従業員の感情活動に対して、教育や指導を通じて会社側が影響力を行使すること
(Hochschild 1983)
とされていて、サービス業務や接客業務における感情労働による精神的な疲弊に警鐘が鳴っており、Hochschildは、感情を管理することに対して『管理された心(managed harts)』『管理の対象となった感情(managed feelings)』と表現しています。
アメリカの仕事のおよそ3分の1が感情労働と言われているらしい。
これから、AIがますます発達したり、DX化が進んだ先に残るものは、私は人によるおもてなしだったり、無形の付加価値だと思うんですね。
そう思うと、サービス業や対人業務に限らず、至る所で感情労働は増えてくる気がします。

感情管理をいろんな立場で考えてみる

リーダーの感情

わかりやすく言えば社長さん。
役割上、部下に対して感情に訴えかけるようなことも必要であり、感情をうまく扱えることもリーダーたるものに求められる資質とされています。

管理者

「管理者は、人前で愛想良く微笑む背後で、全ての情緒と意図を覆い隠し、鉄のように事故を律する能力を持たなければならない」(Jackall 1988)ともされており、管理者は感じた不安を見てないように管理する場面もあります。

カリスマの言葉

マーチン・ルーサー・キングの” I have a dream…."の演説が代表例ですが、聴取の感情に訴えるような語り口や表情をしています。行動面で人を動かすためには、人の心を動かすことが最も良いそうです。

ポジティブ組織行動とポジティブ感情

これまでのポジティブな感情にまつわる研究はネガティブな感情の研究ほど進んでいなかったようです。
ネガティブな感情、例えば、恐怖や怒り(感情)は、逃げる・避けるなどの特定の狭い行為のレディネスを高めるとされています。
一方で、ポジティブな感情はこのような機能がないとされていました。

そんな中でもFredricksonは、「拡張ー構築理論」を樹立し、
ポジティブな感情、例えば、興味や喜びは、それらに伴う夢や希望のレパートリーを広げてくれることがわかったそうです。

感想

最も私が感じたことは、DX化が進み、今後はもっとヒューマン要素が求められるような気がしています。つまり、感情労働が仕事をする中で付加価値として求められ、至る所で発生するのではないか。とすれば、組織における精神面でのサポートはますます重要になってくると感じています。
自分の仕事でもある感情労働を研究することで、未来の働く人になにが良い支援になるのか、どのような効果をもたらせることができるかを得られるかもしれないと思いました。

今日はこの辺で^^


いいなと思ったら応援しよう!