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ミズクラゲ1
※これは松下洸平さんの『つよがり』から刺激を受けて書いた妄想二次創作物です。
「足りない覚悟」とは?「キスのあとのため息」はなぜ?そんなことを考えながら書いてみました。楽曲とは一切関係がありません。
【プロローグ】
「僕にはあなたを愛する資格ないのかもしれないな」
彼はそう言って悲しく微笑んだ。
何も言えなかった。私はもう決めたのだ。この恋を終わりにしようと。
「ずるい」と彼は言った。
「一人で決めちゃうんだね」
だよね。逃げた私がずるいね…。
【第一章】
彼と初めて出会ったのは取引先の社長の接待での席だった。部署の未来がかかる大切なプレゼンの後、その社長の誘いでよりによって競合相手の会社の担当者たちも一緒に飲むことになった。
飲むとたちが悪くなる社長のご要望で、お決まりの王様ゲームが始まった。
「えー、いよいよお待ちかねの大人の時間がやってまいりました〜。では次は…2番と4番がキッス!!」 上機嫌の王様(社長)の命令が下され、ゆうは渋々立ち上がり4番の札を探した。
「はい来ました!4番でーす。今回の企画には美人さんが多いですかね〜。さて、2番はどなた?」
なんともチャラいノリで立ち上がったのが彼だった。彼は2番がゆうだと気づくと「なんとラッキー!今日イチの美人さんに当たりましたぁ!」とおどけて場を笑わせた。そして皆が笑っているあいだにゆうの耳元に口を寄せ、こうささやいた。「みんなが驚くくらい本気でいきますね」 「え?」「大丈夫。僕に任せてください」
やんやと沸くテーブルの真ん中で最初は軽いキス。それだけでも場は大盛り上がり。そのうち彼は宣言通りの熱いキスを仕掛けてきた。そっと唇をこじ開け熱い舌を差し入れてくる。ゆうも恐る恐る応える。だんだん熱を帯び意識がぼうっとしてくる。
「おいおいおい〜、やらしいなぁ。君らデキてるんと違うかぁ?」
ただの酔っ払いセクハラおやじと化した社長が手をたたいて喜ぶ。周囲があんまりにも盛り上がりはやしたてるので、とうとう二人もこらえきれず噴き出してしまった。
「あーせっかく我慢してたのに笑っちゃったぁ。でもとりあえず大成功!ですね」
笑い泣きしながら、彼はそっとウィンクをよこした。
王様ゲームがさらなる盛り上がりを見せる頃、ゆうはそっとトイレに立った。
鏡の前の上気した自分の顔を眺めながら、ぼんやりとさっきのキスを思い返す。
(…すごかった…)
同性とのキスは久しぶりだった。彼の唇は柔らかくて暖かく弾力があり、軟体動物のように自由にその形を変えた。その舌は優しく力強く絡まる。意識を遠くに飛ばしていなければ思わず身体が反応してしまいそうなほど気持ちが良かった。
(久しぶりに相性がいいと思うキスだったな)
それにしてもあいつ、橋田っていったっけ?男同士でキスしたことあるな…。
夜も更けてうっすらと青ひげが目立ち始めた顔をパンパンと2度はたきつけ、ゆうは男性トイレを後にした。