Leica Summar
数多くのライカ50ミリレンズの中で、ズマールは今最も安価に入手できるレンズの筆頭ではないかと思うのですが、しかしそれは安かろう悪かろうという類のものではありません。一言で言えば良い悪いは使う人次第、使い手も試されるような手強いレンズです。
1930年代初頭に生またレンズですが、あの天才H.C.BとA.Kが共に手を携えてパリの街を闊歩していた時代だったと思えば、それだけでぼくなんかは喉から手が出てしまうほど欲しくなるレンズです。
古いものはすでに齢90を超えていますから、その間誰がどんなふうに扱っていたのかは誰にも分かりません。どんな写りかもしばらく使ってみなければ分かりませんし、すぐに期待通りの結果が得られるというものでもありません。それでついついこのレンズを何本か買ってしまったりする人も少なくないと思いますが、しかしこれはというものに出会ったときのズマールは、もう一生手放せない特別なレンズとの出会いなのです。
手元にも数本のズマールがありますが、そのうちの一本が来るまでは、ぼくもこのレンズについて誤解を重ねていました。ボケレンズ、フレアーゴーストのオンパレード、ピンが甘い等々。しかしこのレンズがこれまでのとは少し違うな〜と思いつつ使い込むうちに、それまでの評価が少しずつ変わってきました。
解放での繊細な描写は凛として、そこからなめらかにフォーカスアウトするレンダリングは、現代のハイテクレンズでは決して味わえない世界です。
ノンコートのレンズだけが捉える微妙な光と空気感もそうですが、モノクロームの写真が最も美しかった時代を背景に生まれてきたレンズらしいと思います。
光学的にはレンズの収差は好しからざるものではあっても、写真的に見れば美しい収差も間違いなく存在します。そしてそれは紛れも無く写真の一部なのです。