「教育費」の呪縛は、もはや時間の問題だ。
学歴=家の財力という時代があった。
子供の教育費が不安だ。それは、金銭的に困るというより、イメージとして捉えられないからだ。
教育費は親という立場の者にすれば、あらがうことのできない、いわば聖域である。
「子供の教育だけは」というのが、世の親の赤心であるし、私もそんな気持ちでいる。
話はそれるが、ひと昔前まで、学歴はなかばカネで買えた。露悪的な言い方であるが、要はカネがなければ大学には行けなかったのである。
昭和15年生まれの我が親父殿は大学卒だ。一橋大学に入るのに、あの時代、二浪までしている。
カネの出所は実兄、私にとっては伯父にあたる。
伯父は大蔵省を不祥事でクビになり、金融ブローカーとなっていた。金回りはよかったようで、20歳離れた我が親父殿を我が子のように面倒をみた。
あの伯父がいなければ、親父殿の学歴は得られなかった。
我が母についても同様だ。母の父上は歯科医師であったが、32歳で急逝した。
寡婦となった祖母ではあるが、女手一つで仕事もとくにしないで、子供3人を大学まで行かせた。
学費の出所は今もって謎であるが、嫁ぎ先も実家も資産家なので、そこから引き出したのであろう。
我が両親は身近な人たちの財力によって、大学進学を果たすことができた。
彼らより勉強ができた人でも、カネがなければ大学には行けなかった。学歴とは資力であるといってもいいだろう。
教育投資が見合わなくなってきている。
たとえば私大の歯学部の学費は、卒業までの6年間で5000万円ほどかかるという。
我が家では、妹2人が歯学部卒である。他にも私と三女もいるので、4人ぶんの教育費は、生活費など諸々含めて、2億円近くになっていたのではなかろうか。
あの時期、バブルを迎えていなかったら、とうてい捻出できなかったはずだ。
こんな現実を突きつけられれば、なぜ教育費におじ気づくのかわかる気がする。要は、教育費に対する恐怖心は、展開が読めないところに起因するらしい。
子供の学業成績がいいことは喜ばしいが、突如襲いかかる学費は恐怖でしかない。備えを手厚くしたくなるのもわかる。
つぎに、教育費を収支でみてみることにしよう。
歯学部を出た妹2人のうち長女のほうは数年勤務医をしてから、歯科医師と結婚。現在は専業主婦だ。収支という点ではトントンといったところか。
次女の経営するクリニックは繁盛しているので、こちらは十分ペイしているといえる。
いまや歯科医院はコンビニより多い。たとえば、妹が開業する山梨県上野原市ではコンビニが8軒なのに対し、歯科医院は15軒もある。
いったん開業したものの、立ち行かなくなり、勤務医に戻ったという歯科医師も少なくない。
こうした実情をみると、投下した学費に対して、十分なリターンが得にくい時代になってきたともいえる。
それまでは、投資に見合ったリターンを得られていたから、親もがんばって教育費を捻出してきたが、こうなると、教育費についての認識も変わらざるを得ない。
大学より兵役のほうが、男は成長できる。
ひと頃、大学の禄を食んでいたことがある。私の授業は学生にとても評判がよかった。
その理由は明らかである。私ほど、学生の幸せのために全身全霊で尽くした講師はいなかったからである。
こんな不遜な男が、学生たちの幸せのために、憐れなほどの訴えかけをした。もし選挙ならば、悠々と当選していたであろう。
これは冒涜することになるかもしれないが、ほかの先生方には、そこまでの懸命さはなかった。
講義録に目を通すと、目の前の学生たちの幸せに向けてアレンジした形跡はなく、「自分」の切り売りでしかないように思えた。これでは、学生たちの心には響かない。
だがこれは、大学というものが抱える宿痾かもしれない。
経営していたNPO昭和の記憶には、多くの求職者がコンタクトしてきた。それも著名大学の大学院生など、高学歴の人が多かった。
彼らに通底していたのは、それまで自分がやってきた研究や活動を、私のところでやらせて欲しいという態度であった。
NPOのミッション遂行や運営に寄与しようという姿勢はなく、「自分」の一部をそのまま買わせようというのである。
そんな「商品」を買うほど、私はお人よしではない。面接するたびに、うんざりさせられたものだ。
どうやら大学という場は、そんな幼稚な態度が許される気風があるようだ。その傾向は中学や高校以上に濃厚であるように思われる。
高校生のときまでは、毎朝きちんと起きて通学していたのに、大学の4年間を経たら、すっかりだらしない人間に堕ちていたなんてことはままある。
その昔なら、徴兵があった。兵役を経た男たちはシャキッとしていた。大学とは真逆である。
人生は短い。ひとたび、だれてしまうと、ふたたび、ひたむきさを取り戻すには同じかそれ以上の時間がかかる。
大学という浮世離れした場に、人生のだいじな時間を投下すべきか。そんな損得勘定は、これからいっそう取り沙汰されることになるだろう。
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