藤野論58:荒ぶる母グマと藤野婦人

シュタイナー学園から、わずか300メートルほどのところに熊が出た。ともすれば、校庭を走りまわりかねない距離だ。
クマは母子らしく、その直前にも近隣の車道で目撃されている。
この時期の母グマは気が立つというから用心したい。
私はよくクマの夢を見る。必死に逃げ惑い、九死に一生を得るという展開がほとんどだ。
クマ恐怖は吉村昭の『羆嵐』に起因する。
体長3メートルもあるヒグマが、北海道の開拓村ひとつを壊滅させたという史実はまさに心胆寒からしめるものがある。
そんなクマ怖しの私であるが、秋田県のマタギの里・阿仁には毎年のように出向いている。イワナ釣りの師匠が移住され、そこを訪ねるのだ。
師匠の家にはクマよけスプレーが常備されていた。近隣に出没するというから必需品だ。今後、藤野にも必要になりそうだ。
いつなんどきクマが出没するかわからぬという緊張感ははかりしれない。
道草食おうものなら「あるひ、森のなか、クマさんに出ああた♪」なんてことになりかねない。
母親の運転するクルマで厳戒登下校。せっかく自然のなかに身を置きながら、むしろ都会以上に炭素文明の世話になってしまうというパラドックスは痛々しいばかりだ。
さらには、先の台風で崩落している箇所もあり、ところどころで大渋滞。「いったい何ゲーよ?」というくらいのエクストリーム通学を余儀なくされている。
でも、母グマ恐怖はたかが知れている。本当に怖いのは気が立った藤野婦人だ。
災害やクマ出没にストレスを募らせた母親のほうが、よっぽど危険だ。
道路が復旧し、クマが冬眠に入っても、藤野紳士の厳戒態勢は続く。

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