飯舘村キノコ写真2

【放射線量測定】飯舘村秋の恵み測定リポート

いまもキノコから数万ベクレル検出

 秋と言えば紅葉狩りやキノコ狩りが楽しめるシーズン。だが、原発被災地の飯舘村ではいまも汚染が残り、落ち葉やキノコに放射性物質が含まれている。飯舘村内の放射線量を測り続けている男性の〝測定リポート〟を掲載する。


 飯舘村に住む伊藤延由さん(76)は、村内で採取された農産物やキノコ、山菜などの放射線量を測定して、その結果をSNSで公表している。

 測定に用いられるのは、「いいたて村の道の駅までい館」に設置されている非破壊式検査器と、大学教授などから提供され自宅に設置している破壊式検査器だ。

 どのような形で公表しているのか、以下ツイッターへの投稿をいくつか紹介する(読みやすくするため、植物名や放射線核種などの表記、句読点などリライトしている)

 《今シーズン初入荷の蕨平産センボンシメジ測定の結果。セシウム137が1㌔当たり160・4ベクレル、 セシウム134が1㌔当たり7・9ベクレルでした。これまでの測定でも、センボンシメジ、ハタケシメジはマツタケやイノハナダケと違う、低い目? 菌種の違いだそうです。マツタケやイノハナダケは昨年も万ベクレルのオーダーでした。 シメジ類でもサクラシメジは万のオーダーですが》(9月16日)

 《飯舘村蕨平産イノハナダケ(コウタケ)測定結果。イノハナダケ1㌔当たり2万1561ベクレル。土壌1㌔当たり8万0052ベクレル。昨年同じ場所で採取したイノハナダケは1㌔当たり1万1000台でしたが、今年は乾燥しているから?》(10月2日)

 《本年初のマツタケ! 非破壊検査結果1㌔当たり3849・7ベクレル》(10月3日)

 《昨晩作ったイノハナダケご飯。3合のコメに350㌘のイノハナダケで約1500㌘のご飯が炊き上がりました。村の非破壊検査では1㌔当たり1131・8ベクレル(測定時間10分)でした。破壊検査の結果は1479・2ベクレル(11時間)。3合のイノハナダケご飯を全部食べて約2200ベクレル、ホールボディカウンター(※編集部注・内部被曝検査用の装置)に乗れば出る。 3合で約1500㌘のご飯ができることが分かった》(10月7日)

 《柿の実、葉っぱと土壌は? 柿の実1㌔当たり5・1ベクレル(下限値1㌔当たり1・6ベクレル)。葉っぱ1㌔当たり30・4ベクレル(下限値1㌔当たり5・1ベクレル)。 土壌(周辺半径1㍍内の表土5㌢20カ所採取)1㌔当たり5010・6ベクレル。除染済み農地ですが、耕作していないのでカリは散布してない。移行率0・1%ですか? 干し柿にすると1㌔当たり25〜50ベクレルですが貴方は召し上がります?》(10月29日)

 あらゆるものを測定することで、周りの山や収穫物が実際にどの程度汚染されているのか把握できる。その数値を見ると、想像以上に高いものもあるし、どんなものにも確実に放射性物質が含まれているということを実感させられる。

 今年の秋に採取したキノコの主な測定結果をまとめたのが別表だ。

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 食品中の放射性物質の基準値は一般食品1㌔当たり100ベクレルと食品衛生法で定められている。だが、伊藤さんが測定したキノコのほとんどは100ベクレルを上回っていた。最も数値が大きかったのは10月2日、同村蕨平地区で採取したイノハナダケで、セシウム計2万1561ベクレルだった。

 8年以上経過し、半減期2年のセシウム134が減少の一途をたどる中でもなおこれだけ高い数値が出るのだから、深刻な汚染度であることが分かるだろう。

 基準値を下回っているのは流通品のシイタケ。市場を経由した流通品は比較的線量が低いということが証明された格好だが、逆に言えばそれでも28ベクレル含まれているということでもある。このあたりは人によって受け取り方が異なるところ。

 そういう意味で、観光地の露店や飲食店など市場を経由していない場所での購入・飲食は要注意。高線量のものがノーチェックで流通している可能性が高いからだ。本誌昨年1月号で、飲食店でコシアブラを食べた後に内部被曝検査の数値が急上昇した男性の事例を紹介したが、そうした危険性もあることを覚悟して利用した方がいいだろう。

 生だと1㌔当たり約250ベクレルだったセンボンシメジもゆでると基準値以下の68ベクレルまで下がっており、ゆでることで放射線量を低減できることがあらためて分かる。

モミジの葉も汚染

 キノコや柿と併せてモミジの落ち葉も測定したところ、しっかり放射線物質が検出されたという。ツイッターでは次のように紹介している。

 《いちまーい、にまーい……150まーい。飯舘村小宮のモミジの葉の汚染具合を測ります。6月の青葉は1枚0・3㌘、0・026ベクレルでしたが、秋は1枚0・19㌘。さてさて今晩一晩測ってみます》(11月15日)

 《モミジ(葉)の測定結果! なんと1㌔当たり434・1ベクレルでした。葉っぱ1枚0・19㌘でしたから、1枚当たり0・08ベクレル。6月の生は0・026ベクレルでしたから水分が抜けて濃縮? いずれにしても葉っぱにはセシウムが入っている》(同日)

 森林における放射性セシウムは循環している。原発事故直後、空から降ってきた放射性物質は樹木の枝葉や樹皮、地表部に付着した。その後、土壌に吸着し、その一部が植物の根を介して樹木や草に取り込まれた。取り込まれた放射性物質は再び幹から枝、葉に移行し、落ち葉となって地面に落ちた。そしてまた土壌に吸着するといった流れを繰り返す。

 1枚0・08ベクレルのモミジの葉はそうした循環を構成する構成物の一つと言える。思わず目を惹かれる美しい紅葉だが汚染を象徴するものでもあるから皮肉なものだ。

 「森林で放射性物質が循環していたり、台風19号で河床に溜まった汚染土が氾濫により拡散されたのを見ると、一度拡散された放射性物質を除染などで完全に取り除くのは困難であり、自然の循環サイクルの中で減衰していくのを待つしかないと思わされます。それには数十年はかかるでしょう」(伊藤さん)

 放射性物質が循環する森林で生えてくるキノコは当然、高い放射性物質を含む。伊藤さんによると、同じキノコでもサクラシメジやイノハナダケは高い数値が出るが、センボンシメジやハタケシメジは比較的低い傾向があり、「菌種の違い」によって差が出るのだという。特に今年は高い数値が出る傾向にあるようだ。

 「サクラシメジは昨年の最高値で1㌔当たり2万7000ベクレルだったが、東京新聞の企画(10月16日付記事《食用キノコ セシウム汚染は今〜福島県飯舘村〜》)で測定したところ、1㌔当たり8万4088ベクレルもありました。生えているエリアや年によって汚染度は全く違うということであり、だからこそ、1つだけ測って『はい大丈夫』と安全宣言はできないし、毎年細かく測定していく必要があるのです」(同)

 伊藤さんは秋のキノコだけでなく、春の山菜シーズンにコシアブラなどの山菜も採取・測定している。

 同じく東京新聞との企画(6月5日付記事《福島・飯舘村 山菜のセシウム汚染は今》)で調べた際の結果はコシアブラ1万2304ベクレル、コゴミ1019ベクレル、ゼンマイ347ベクレル、ワラビ226ベクレル、タラの芽14ベクレル、シドキ31ベクレルという結果だった(いずれも1㌔当たり)。コシアブラは飛び抜けて高いが、全体的には低減化が進んでいるようだ。

生活圏なのに除染されない山林

 こうした調査を通して伊藤さんが実感するのは、山の中の汚染状況のひどさだという。

 「山菜やキノコを採取する際には必ず周辺の空間線量や土壌の放射線量を測定しています。原発事故前の空間線量は0・05マイクロシーベルト毎時、土壌の汚染度は1㌔当たり10〜20ベクレルだったと言われています。しかし、採取した場所の空間線量は1〜2マイクロシーベルト毎時のところが多く、土壌を持ち帰って測定すると1㌔当たり1万ベクレル以上というところもざらにあります。除染範囲は『生活圏及び林縁部から20㍍圏内』というルールなので、山の中は手付かずで、いまも汚染されたままになっています」

 では、住宅の周囲や農地の除染はどうかと言うと、「ずさんな除染で、十分に線量が下がり切っていないところが多いし、土手やあぜ道、水路などは除染対象外なので思いがけず高い数値が出たりする」という。

 「実際除染エリアにフキノトウを取りに行って、空間線量を測定したところ、ほとんどの地点(高さ1㍍)で1マイクロシーベルト毎時を超えていました。毎日長時間農作業をする農家はもちろん、その前を通る近隣村民は無用な被曝を強いられていると思います」(同)

 「山が汚染されているなら生活には支障を来さない」と思う人もいるかもしれないが、伊藤さんは山が汚染されたことは村にとって何より大きなダメージと考えている。と言うのも、村民の生活において、山がもたらす「恵み」が大きなウエイトを占めていたからだ。

 「私がこの村に住むようになったのは2009(平成21)年11月ごろだが、経済的に裕福なように見えなくても心豊かな人が多いのが印象的で、たまに食事に招かれた際の食卓もとても豊かに見えました。なぜかと思ってしばらく観察していたら、自然の恵みを使った料理が多く並んでいることに気付きました。4〜5月の山菜の季節には、ワラビやフキを採取して塩漬けにして保存し、野菜が無い時期に塩出しして食べる。各人の家でつくった野菜や料理はお裾分けする。貨幣経済の統計上には表れないけど、とても豊かな生活をしていたのです。3世代同居で世帯収入が多い家が多数を占めていたのも大きかったと思います」(同)

 にもかかわらず、こうした実態を無視して、ハコモノ政策により復興・帰還を推し進めようとする国や村に対し伊藤さんは異を唱える。

 「原発事故により山が汚染され、子育て世代が村外に避難したことで家族がバラバラになりました。村外避難している村民は村にいればタダで手に入った野菜や山菜などをスーパーで購入しなければならなくなりました。村民にとって生活圏だった山を除染せず、道の駅や交流センターなどの公共施設を整備したところで帰ってくる人は少ないし、そうした公共施設の建設に多額の税金をかけるのはナンセンスです。そもそもずさん除染で空間線量が高い場所がまだまだ残っていることを考えると、居住地としてどうかと思うし、被曝リスクが高いとされる子どもを住まわせるのはおすすめしません」

 本誌2〜8月号で脳神経科学者・伊藤浩志さんが執筆していた連載記事「なぜ、福島は分断するのか」では、里山でキノコや山菜を取るということは、家計やコミュニティー形成に役立つ以上に、先人から受け継いだ知識や技術、経験を生かし、その土地における役割を実感できる貴重な機会になっていた——と指摘していた。

 いままでのように山で「自然の恵み」を享受できなくなった時点で、住民にとって帰りたい環境ではなくなったということだろう。そう考えるといま進められている復興は果たして誰のために行われているのか。

失われた「秋の恵み」

 本誌7月号「菅野飯舘村長『帰還政策』の欺瞞 生業再生後回しでハコモノ整備」という記事で、ハコモノ整備や教育・子育て環境の充実に注力する菅野典雄村長だが、基幹産業である農業復興に向けた営農再開支援はいま一つで、農産物の安全性を高めるための再除染などを国に要望する姿勢も見られないことを報じた。生業や従来の生活が成り立たなくなったとなれば戻る人が増えないのも当然だ。

 同村の避難指示は帰還困難区域を除き2017(平成29)年春に解除された。村のホームページによると11月1日現在の村内居住者数は1361人。9月末現在の住民基本台帳人口は5504人なので、7割超の住民がいまも県内外で避難生活を送っている計算になる。

 「避難指示が解除された」という事実だけ見ると、まるで地域一帯の除染がすべて完了して安全宣言が出されたかのように感じてしまうが、実際には前述した通り、ずさん除染で空間線量が高いところが多いし、土手やあぜ道、水路、山などは全く除染が行われていない。いまの状況では小さい子どもでも特に制限なく出入りしたり、近くに住めてしまう。少なくとも立ち入り禁止エリアを設けたり、行政が汚染マップを作成し無用な被曝を避けさせる必要がある。

 伊藤さんによると、自然の恵みを受けられなくなったことに対する賠償は東電から支払われていないという。事故の原因を作った国や東電は、住民からそうした環境を奪った対価をしっかり払うべきだ。東電旧経営陣3被告の責任を問う刑事裁判は全員無罪判決という結果に終わったが、一企業が自然を汚した責任が問われなくていいのか。「恵みの秋」を当たり前に過ごせなくなった事実はあまりにも重い。


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