フクイチと「もんじゅ」から考える、核施設のリスク低減策|【春橋哲史】フクイチ核災害は継続中㊾
フクイチ(東京電力・福島第一原子力発電所)に関して、本年3月15日、東電が「日本海溝津波対策防潮堤(本体部)の設置工事が完了した」旨を公表しました(注1)
尚、本稿では、この防潮堤を「新防潮堤」と記載し、高さは福島第一での海抜で表記します(注2)。
フクイチには、発災後「4号建屋南東側に高さ12・4~14・5㍍・全長約360㍍の仮設防潮堤(2011年6月完成/注3)」「1~4号建屋東側に高さ12・4㍍・全長約600㍍の防潮堤(2020年9月完成/注4)」が設置されています。新防潮堤(高さ14・9~17・4㍍、長さ約1㌔)はこれらを包摂するように設置されました(高さを増す・既存防潮堤の外側に設置、等)。
フクイチの津波対策としては、この他「1~4号建屋・共用プール建屋・廃棄物処理建屋の開口部(127箇所・約1200平方㍍)の閉止」が2022年1月に終了しています(注5/但し、物理的に施工困難な箇所は含まず)。
今後も、建屋内の放射性物質の減量(放射性廃棄物の撤去や抜き取り)、漂流物となりうる設備や建屋の撤去・移転など、取り組むべきことは多く有りますが、津波対策として「水を流入・流出させない」ことを目的としたハード面での対応は、良い意味で区切りを迎えました。
一方で、フクイチ核災害で生じた取り返しのつかない破壊や変化を考えると、「(新防潮堤が)13年前に出来ていれば」という思いも禁じ得ません。
歴史に「たら・れば」は有り得ませんが、高さ15㍍級の防潮堤が13年後に設置できて、13年前に設置できなかった理由が、合理的に説明できるのでしょうか? 新防潮堤の完成を「施設のリスク低減が前進した。良かった」だけでは受け止められません。
ここで「フクイチとの比較」という観点から、高速増殖原型炉「もんじゅ」に話を転じます(注6)。
「もんじゅ」は2023年度に廃止措置の第二段階に移行しました。原子炉内の非核燃料体の取出しが開始され、2023年7月には「水・蒸気系等発電設備」の撤去が開始されています。
2023年6~9月には、核燃料が保管されている燃料池(プール)の水温の継続計測と、強制冷却機能の停止試験が実施されました。
この試験で、水温が35度未満にとどまることが確認されたので、原子力研究開発機構は、燃料池の強制冷却機能を「もんじゅ」の性能維持施設から除外し、今後は冷却水の水質維持を目的とした運転に切り替えるとのことです(2024年2月に原子力規制委員会で開催された「第44回もんじゅ廃止措置安全監視チーム会合」で説明/注7)
「もんじゅ」は、2017年1月には「燃料交換機の点検が必要で、ナトリウムに浸かった核燃料が原子炉から取り出せない状態」であることが判明し、潜在的リスクが高止まりしていましたが、2022年秋に全ての核燃料がナトリウム冷却から水冷に切り替わり、約7年後の今、プール水の強制冷却すら不要と判断されました。
「もんじゅ」で過酷事故(冷却不能となった核燃料が破損・溶融し、環境中に大量の放射性物質が放出される事故)が生じる可能性は極めて低くなっています。核施設のリスク低減が着実に進められている良好事例です。
「もんじゅ」とフクイチを比較すると、発災前に核施設の廃止を決定し、リスク低減を着実に進めることが、私達の暮らしを核災害から守る最も確実な方法だと言えるのではないでしょうか?
核施設のリスクが顕在化してから、どれだけ真摯にリスク低減策に取り組んだとしても、非情な話ですが「手遅れ」なのです。
防止に勝る、対策無し。
だからこそ、動力源・エネルギー源としての核技術の利活用は法的に恒久的に禁止し、その為の核施設は廃止措置に移行させるべきでしょう。
最後に、本題から外れることをご容赦下さい。
フクイチの「処理水」放出(投棄)は、3月17日に2023年度計画分が終了しました。放出水量・放射能量は別掲の通りです。放出量は今後も追っていきます。
注1/
https://www.tepco.co.jp/decommission/information/newsrelease/reference/pdf/2024/1h/rf_20240315_1.pdf
注2/東電資料の高さ表記は「T.P(東京湾平均海面)」。本稿は福島第一の海抜である「O.P(小名浜港工事基準面)」で記載。O.PはT.Pより約73㌢低く、更にフクイチでは平均・約70㌢の地盤沈下が生じている為、T.Pに1・4㍍を加算。参考資料は
https://www.tepco.co.jp/nu/fukushimanp/handouts/2013/images/handouts_130724_08-j.pdf
注3/
https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2012pdf/20120601137.pdf
注4/
https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/osensuitaisaku/committtee/osensuisyori/2021/pdf/23_14.pdf
注5(PDFの7頁)
注6/「もんじゅ」は、当連載第29回(2022年8月)・第32回(同11月)で取り上げています。
注7/
春橋哲史 1976年7月、東京都出身。2005年と10年にSF小説を出版(文芸社)。12年から金曜官邸前行動に参加。13年以降は原子力規制委員会や経産省の会議、原発関連の訴訟等を傍聴。福島第一原発を含む「核施設のリスク」を一市民として追い続けている。
*福島第一原発等の情報は春橋さんのブログ