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「燃料デブリ880㌧」の嘘|【尾松亮】廃炉の流儀 連載46

 福島第一原発の事故で溶け落ちた核燃料と内部の構造物が混じり合った「核燃料デブリ」は、1号機から3号機であわせておよそ880㌧に上ると推定されている。この燃料デブリの取り出し(及びその後取り出したデブリの管理や処分)という困難極まりない作業があることが、事故原発廃炉特有の難題である。

 当初は2021年中の「デブリ取り出し開始」目標が設定されていた。しかしロボットアームの開発や内部調査に時間が掛かり、繰り返し「開始時期」が延期されてきた。最近の各紙・各局の報道によれば、本年度中にも開始するとされた燃料デブリの試験的取り出し(2号機から数グラム取り出し)が、堆積物の影響でまたしても延期される可能性がある。1月9日NHKの報道は以下のように指摘する。「しかし去年、ロボットアームを入れる配管のふたを開けたところ、内部が堆積物で塞がれていることが確認されました。10日にも取り除く作業を始める予定ですが、原子力規制委員会などからは堆積物の硬さによっては十分に除去できない可能性も指摘されています」

 これら報道を見聞きしても、もう驚いたりあきれるのにも疲れたという読者が多いのではないか? そもそも「40年の廃炉なんて無理」「燃料デブリの取り出しなんてできっこない」と諦観を込めて指摘する専門家も多い。しかし、突っ込みどころは「デブリ取り出しの困難さ」だけでは無い。そもそもの前提条件として誰もツッコまない「880㌧」という推計を信じてはいけないのだ。

 本連載23回で指摘したが、そもそも政府や東電の資料で「燃料デブリ」というとき、その定義が明確にはなっていない。1F廃炉の工程表とされる「中長期ロードマップ」(初版2011年)では、燃料デブリを注記で「燃料と被覆管等が溶融し再固化したもの」と説明している。被覆管以外の物質と溶融している場合や溶融燃料を含有するガレキ等については、どこまでを「燃料デブリ」として扱うかは決まっていない。

 もし溶け落ちた燃料を含むコンクリートや金属全てを燃料デブリと定義するなら、とても880㌧では収まらない量の「燃料デブリ」が存在することになる。さらに2号機、3号機原子炉の蓋部分は20~40ペタベクレル(※)、毎時10シーベルトというとてつもないレベルで汚染されている。2020年末の記者会見時点で更田豊志規制委員長(当時)は「格納容器の底にあるデブリ(事故で溶け落ちた核燃料)が、高いところにもあるようなもの。廃炉にとって極めてインパクトの強い情報だ」と述べている。これら溶融燃料起源の高濃度汚染部材を「燃料デブリ」に含めるなら、取り出し困難、かつ特殊な廃棄物としての管理・処分が必要な「物質」の量はどれくらいになるのか? 溶融燃料の数グラムを取り出したぐらいで、その種々様々な部材と溶け混じった「取り扱い困難物質」全量に対する形状・性質分析などできるのか? 疑問はつきない。

※1ペタベクレル=1000兆ベクレル

 燃料溶融によってどんな金属や石材、どんな部材と核燃料が混じり合った可能性があるのか、その総量はどのくらいになり得るのか、厳格な定義に基づく推計を示すべきだ。「880㌧」を信じ込まず、その推計のやり直しを求めていかなければならない。


おまつ・りょう 1978年生まれ。東大大学院人文社会系研究科修士課程修了。文科省長期留学生派遣制度でモスクワ大大学院留学。その後は通信社、シンクタンクでロシア・CIS地域、北東アジアのエネルギー問題を中心に経済調査・政策提言に従事。震災後は子ども被災者支援法の政府WGに参加。現在、「廃炉制度研究会」主催。


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