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【尾松亮】廃炉の流儀 連載3

廃炉完了まで40年は誰が決めるのか

 「Holtec Decommissioning International(HDI)は今後10年でオイスタークリーク原発の廃炉を完了することを目指す」

 これは、米国の原発廃炉事業者Holtec社のリリース(2019年6月21日付)からの抜粋である。この一文には何気なく読み飛ばしてはいけない情報が含まれている。

 オイスタークリーク原発は米国ニュージャージー州に立地する沸騰水型原子炉(1969年稼働開始、615MW)。同原発は2018年9月に完全閉鎖し、廃炉フェーズを迎えた。昨年6月には発電事業者Exelon GenerationからHoltecグループの廃炉事業者にライセンスを移譲することが認められた。原子炉解体や使用済み燃料保管の技術をもつHoltecが担当することで、廃炉期間を大幅に短縮することができるという。

 「30〜40年というのは事故を起こしていない原発の廃炉にかかる時間」(NHK時論公論2020年3月9日)と言われるように、日本では何となく「30~40年かかるもの」あるいは「40年あれば廃炉完了できる」という認識が広まっている。実際に2009年に閉鎖し廃炉作業が進む浜岡原発(1号機、2号機)の廃止措置計画では期間を約30年と想定(2036年までに解体撤去)している。昨年廃炉が決定した福島第二原発(1~4号機)も「廃炉完了まで40年超」という見込みが伝えられている。発電容量や敷地周辺環境が異なる複数の原発の廃炉について「およそ40年」「40年超」という見込みの期間が繰り返し報じられてきた。

 オイスタークリーク原発は、浜岡や福島第二より規模が小さいものの「10年で廃炉完了を計画」と聞けば驚かざるを得ない。「30~40年」という前提認識はそもそも何に基づいているのか。

 「事故の起きていない」原発に限れば、世界で廃炉経験が蓄積されるにつれ、技術的にはより短い工期での廃炉も可能になるだろう。しかし、期間が短ければ良いというわけではない。「オイスタークリーク原発の10年で廃炉完了」を掲げるHoltecに対して、地域住民からは「コスト優先で手抜き工事になる」「施設を解体しても使用済み燃料は残される」といった批判の声が上がっている。

 実はオイスタークリーク原発では当初、廃炉開始を2075年以降とする計画であった。施設の汚染レベルが下がるまで数十年間管理した後に解体工事に着手することで、作業員の被曝や周辺環境の汚染を最小限にする戦略(SAFSTOR方式)だ。それに対して、Holtecが推進するのは早期に解体工事に着手する方式(DECON方式)である。即時廃炉のメリットは発電事業者の従業員の一部をそのまま廃炉事業で雇用できること、比較的早期に原発の敷地を更地にし、別の産業用途に活用する見通しが立てやすいこと等である。

 今後問われるのは技術的可能性だけでなく、誰がどんな意思を持って廃炉期間を決めるかである。できるだけ早く解体工事を進めてほしいのか。廃炉完了が先になっても環境や作業員への負担を小さくすべきか。そして「何をもって『廃炉完了』と認めるのか」。「40年」を所与の前提とせず、地域社会から議論を起こす必要がある。「閉鎖原発」という負の遺産に対峙する地域社会が「何を願うのか」、その意思が問われる。


おまつ・りょう 1978年生まれ。東大大学院人文社会系研究科修士課程修了。文科省長期留学生派遣制度でモスクワ大大学院留学。その後は通信社、シンクタンクでロシア・CIS地域、北東アジアのエネルギー問題を中心に経済調査・政策提言に従事。震災後は子ども被災者支援法の政府WGに参加。現在、「廃炉制度研究会」主催。


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