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【尾松亮】NHKは誤報を正すべき|廃炉の流儀 連載49

 3月16日放送のNHKスペシャル「廃炉への道2024 瀬戸際の計画 未来はどこに」の中に、いくつか危うい誤報が含まれている。

 この番組では、1979年米国スリーマイル原発事故後の汚染除去活動で住民がどのように議論に参加したのかを取材している。そしてスリーマイルの住民参画の取り組みを、福島第一原発の廃炉に向けた参考例として伝えるものだ。スリーマイル原発事故後、汚染水の河川放出を止めた「市民パネル」や訴訟の活動は、筆者も兼ねてから日本で参考にすべき例として紹介してきた。公共放送がこの事例を広く紹介することは歓迎すべきである。しかし残念なことに、この番組ではスリーマイル2号機廃炉に向けたプロセスについて、いくつか決定的な誤報があった。

 まず単純な誤報例として、この番組では現在のスリーマイル原発廃炉計画が「2037年終了を目指している」と報じた。実際にはその計画は見直され、2023年3月末時点の報告書では2052年を終了目標時期と示している。つまり1979年の事故時から70年以上要する廃炉計画なのである。このことを伝えず、「住民と議論して廃炉が進んでいる」かのように報じるのは不正確だ。

 そして番組では、スリーマイル原発の汚染水対策などを住民が主体になって議論した市民パネルの取り組みを伝えている。そして現在も別の新たな市民パネルが設定されて、廃炉事業者と廃炉の今後について話し合っている、というストーリーになっている。しかし、番組が言及しない重要な点がある。これら市民パネルは「廃炉の最終形」を住民が議論して決めるものではない、という事実だ。前者の80~90年代にかけて活動した市民パネルは、助言委員会法に基づく公的な組織で、除染や汚染水対策に重要な影響を与えた。だが「汚染除去市民パネル」という名が示すとおり、廃炉より手前の汚染除去が議題である。後者の現在進行形の「市民パネル」は廃炉事業者が住民意見を聞くために設立したもので、法的権限も弱く、「廃炉の最終形」を議論するものではない。

 そもそもスリーマイル原発の廃炉完了要件は法律(連邦規則集)で決まっており、施設解体や敷地の基準値(0・25ミ  リシーベルト/年)未満へのクリーンアップの徹底が求められる。地元住民が「この程度で終わりにして良い」といったところで、法的に認められないのだ。

 番組では、国の機関の委員長の「場合によっては無理です、という結論になるかもしれない」との発言を伝え、廃炉の最終形を地元住民や東電職員を交えて議論する「1F地域塾」の取り組みを紹介している。この文脈で先例として紹介すると、スリーマイルでは地域住民が話し合って「廃炉の最終形」を決めているかのように伝わる。しかし繰り返すが、スリーマイルの廃炉完了要件は法律で決まっており、市民パネルも「廃炉の最終形」を議論する組織ではない。

 これは単なる取材不足とは思えない。スリーマイルの先例を歪めて伝えることで、福島第一原発の廃炉完了要件を、「地元」の合意を取り付けて緩くしよう――とする動きを後押しする意図を感じる。つまり燃料デブリ取り出しも施設解体・クリーンアップも行わないで「廃炉終了」とする動きを後押しする意図だ。

おまつ・りょう 1978年生まれ。東大大学院人文社会系研究科修士課程修了。文科省長期留学生派遣制度でモスクワ大大学院留学。その後は通信社、シンクタンクでロシア・CIS地域、北東アジアのエネルギー問題を中心に経済調査・政策提言に従事。震災後は子ども被災者支援法の政府WGに参加。現在、「廃炉制度研究会」主催。
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