人脈に支えられながら未知に挑む海外貿易会社(後編)
日々多くの情報に接していても、実際には、私たちは限られた範囲の中で生活している。河原町出身で海外貿易会社を経営する坂口氏は、知らない人と積極的に出会い、失敗も恐れない。安全な日常に甘えがちな私たちに、思い立ったらすぐにでも未知の世界へ飛び込むべきと教えてくれる。
(前編はこちらから)
サラマック貿易株式会社 代表取締役 坂口勇
聞き手:北村真吾/中小企業診断士
(取材:2018年9月26日 掲載:旬刊政経レポート2018年10月25日号)
日本の埋もれた技術を海外で実用化する仕事を手がけてきた坂口社長ですが、判断に迷う場面も多かったのでは。
本来であれば経営者とは、リスクやコストを考えた上で経営判断すべきなのでしょう。そしてこつこつと利益を貯めるのだと思います。しかし私は人脈を広げること、深めることを楽しみながら経営をしてきました。判断に迷うことはあまりありません。そういう意味では、私はよい経営者ではないのでしょう。
私たちがベストを尽くした上で失敗したならそれはそれでいいではありませんか。時には利益がなくとも、損をしてでも仕事をすることがあります。このお客さんのために何とかせねばという気持ちだけです。その時、その時、一生懸命考えてのことなので、リスクを取ったことに後悔することはありません。
まあ、そもそも取引がなかったと思えば、失敗は大したことではないですよ。
海外出張が多い坂口社長ですが、移動時には何をなさっていますか。
この8月(2018年)はタイ、ミャンマーに加え、フィリピンにも行きました。その時にこんなことがありました。
隣に座った男性があまりに現地の言葉が堪能だったので、私は「フィリピン人ですか」と尋ねました。すると彼は日本語で日本人だと答えました。よくよく話を聞くと、フィリピンで太陽光発電等を手がける事業主でした。飛行機の中で話が盛り上がり、日を改めてまたビジネスの話をしようということなりました。
他にも30年ほど前に、飛行機の中で有名な大臣の秘書をされていた政治家や官僚をよくご存知の方と知り合いましたよ。そのまま今でも付き合いが続いています。どこでどんな人に出会えるか分からないものですね。
あと、飛行機を利用する度に思うことがあります。以前は高価なビジネスクラスにも乗っていたのですが、最近は安価なエコノミークラスに乗ることが増えました。フィリピンに私が出資する会社があります。聞けば、現地の人たちはその日の食事にも困るほど貧しく、例えばお米を買うのにも5kgのパックが高くて買えないとのこと。5kgまとめて買えば割安なのに、そのお金がないのです。そんな現地の人への援助とは、単にその日のお米を買うお金を渡すことではない。もっと大量にお米を買ってそれを小分け販売するような事業を現地の人が自らやりたいとなった時、出資することが本当の援助ではないか、と。
そんな所得の少ない人達のことを思うと、体力的にちょっと無理をしてでもエコノミークラスに乗り旅費を節約すべきかと考えます。
日本と海外でビジネスの違いはありますか。
私は79歳。日本の感覚でいったら、「いい歳をしてまだ現役でビジネスをしているのか」との違和感があるかもしれません。他にも日本には、会社の「格」が釣り合わないと取引ができないとか、学閥の風潮があるように感じます。
しかし海外では、若いビジネスマンと話をしていてもジェネレーションギャップを感じることはありません。さらに彼らは年齢だけではなく、学歴、会社の大小など、まったく問題にしないのです。重視するのは、今まで誰とどんな取引をしてきたかということです。海外では、アイデアと実行力があればチャンスをつかめるのです。
坂口氏のデスクに置かれていた英和辞典。古びた表紙から英語習得への執念が伝わる。
海外と関わる仕事をしたいという気持ちは昔からあったのですか。
私の実家は河原町の農家です。両親は小さな田んぼをやっていましたし、兄も鳥取や中国各地の郵便局に勤めていました。誰かの影響があったりだとか、何かのきっかけがあったというわけでありません。高校の頃から自然に海外へあこがれていたように思います。
河原町に住む高校生だった自分を振り返れば、学校の英語教育ではなく外国人と接する機会がもっとあれば良かったと思います。高校卒業後、貿易商社で働くため英語の勉強でそれなりに努力したと思います。教会の外人牧師は英語ができます。信仰のためではなく英会話上達のため、英会話学校だけではなく教会にも通ったものでした。
そんな過去を振り返ると、外人とのコミュニケーション感覚を身につけてほしいと、若い人にお伝えしたいです。今や海外の人たちと共に生きる時代になりました。海外が身近になりインターネットも便利になった現在、中学生でも高校生でもチャンスは多くあります。行ったことがないから、知らないからと尻込みせず、どんどん出かけてほしいです。若い皆さんが海外を見たら、私よりもっといいビジネスアイデアが出ることでしょう。
今後の展望を聞かせてください。
数年前に大病を患いました。それでも今日も生がされていることはありがたいことです。出来れば死ぬまでに国家レベルの大きなプロジェクトがしたいですね。大手商社ではできない、人脈がある私ならではの仕事ができれば幸いです。
あと、故郷である鳥取の役に立ちたいという思いもあります。もし、この記事をお読みの方の中で海外ビジネスをしたい方がいらっしゃれば、すぐにでも現地にお連れしてプロジェクトの実現、合弁会社設立などお役に立てれば望外の喜びです。(おわり)
【企業情報】
サラマック貿易株式会社
代表取締役 坂口勇
事業内容:海外貿易商社
所在地:大阪市西区江戸堀1-22-38
従業員数:4人
資本金:1000万円