人間関係をベースに自らを変化させる化学品商社(前編)
60才。仕事人として第一線を引き、第二の人生をスタートさせるタイミングかもしれない。大阪で化学品商社を経営する智頭町出身の武田氏は、61才で初めて会社を起こし、85才の今なお現役の経営者である。創業のいきさつと同社の変遷についてお聞きする。
ティーエーケミカル株式会社 代表取締役社長 武田彰正
聞き手:北村真吾/中小企業診断士
(取材:2018年5月24日 掲載:旬刊政経レポート2018年6月15日号)
御社の事業内容を教えてください。
化学品を取り扱う商社です。当社の化学品は、主にバッテリー、デジタル機器ディスプレイ、自動車タイヤなどに使われています。これらの部品を作るメーカーと、材料となる化学品を製造する会社の間をとり持つ役目を当社は果たしています。
具体的には、メーカーが求める化学品の開発を製造業社と一緒になってお手伝いしたり、製造業社が開発した新たな化学品をユーザーに提案したりしています。
当社を設立するまで、私は会社員として化学品製造業社に20年、化学品商社に16年勤務してきました。今年で25年目になる当社ですが、創業は私が61才の時です。一般的には遅い創業ですよね。
会社員時代の経験が御社の経営に役立っているのでしょう。
最初に就職した化学品製造会社には自社内に実験室があり、よく実験室を使わせてもらいました。新入社員だった私は実験室の人たちと積極的に飲みにいき、いろんな話を夜通ししたものです。
実験室で自分の思うものを作ってみたり分析してみたりしていました。「こういう試作品を作ってほしい」と相談する私に、彼らも気軽に応じてくれていました。私の発案で開発された商品もあったのですよ。
現在も当時と同様、化学品商社である当社にとって、今でも研究者からの情報はとても重要です。どういう技術がどこまで進んでいるのか。どういう化学品であれば部品メーカーは採用してくれるのか。
メールのやり取りではなく、やはり会って話をしないと情報は入ってきません。会社員時代では、研究者とのコミュニケーションの大切さを学びました。
開発面の他に、営業面では何かありますか。
ちょうど30才前後の頃、私は九州の出張所で営業職を担当していました。その時に一緒に営業をしていた人には大きな影響を受けました。
製造業の地方営業だった私たちは二人で決めたことがありました。それは「煙突があればそれは製造業である。お客さんを増やすため、煙突を見たならば必ず飛び込み営業をしよう」ということです。そしてそれを二人で実践しました。
もちろん一度訪問したぐらいでは買ってはもらえません。何度も、何度も訪問し、ねばって、ねばって、何とか売上を増やしたものでした。同行しながら私は、彼の熱心さやねばり強さにほとほと感心したものです。ここでの経験で、人と会って話をすれば商売を大きくしていけるものだと学びました。
そうこう仕事を続けて迎えた61才。実はもう引退しようと思っていました。しかし、複数の会社から「武田さんに売ってもらいたい」「引退と言わずご自身で会社を作ってでも売ってもらえないか」との声かかかり、ならばと当社を創業するに至ったのです。
創業時から現在まで、取り扱い商材に変化はありましたか。
それはもう大きく変化していますよ。当初は、食品を包装するアルミ箔や、フィルムの蒸着に使う蒸着材料、溶鉱炉で使う保護管などを扱っていました。
その後、リチウムイオン電池の材料を扱うようになり、当社は大きく発展しました。他社に先駆けこれを取り扱えたのも、知り合いの研究者からの情報があってのことです。人と人とのつながりはやはり大事だと改めて思います。
61才で創業され今年で25年目。御社が今日までやってこられた要因は何でしょうか。
思えば、私の知り合いでも化学品商社を始めた人は多かったのですが、今日まで残っている会社は殆どありません。つくづく、会社とは創業するより存続させる方が難しいものだと感じますね。
私が考える当社の存続要因は二つあります。
一つ目は販売先を分散させていることです。最初にお伝えしたように、当社が関わる業界は、バッテリー、デジタル機器、タイヤと3つあります。売上比率はちょうど三等分です。
仮にどれか一つの業界が落ち込んだとしても残り二つの業界からの売上が上がれば、当社の業績は悪化しません。特定業界に依存せず、複数の業界をカバーできていることが当社の存続要因です。
もう一つはやはり、ねばり強い対面コミュニケーションですね。化学品といっても種類は膨大にあります。例えば現在の当社のメイン商材であるイオン液体でも200種類以上はあります。部品メーカーから「こういう用途で使いたいのでサンプルをもらえませんか」という問い合わせがあれば、それに応えられる化学品を提案せねばなりません。
当社は20年以上、化学品の取り扱い経験があるとはいえ、やはり一度で決まることは少ないです。電話やメールのやり取りで済ますことなく、ダメなら次、ダメなら次と、何度も対面しながらねばり強く提案しています。
新たな商品の開発も、新たな顧客の開拓も、実際に人に会うことが基本だと私は考えます。これは会社員時代から変わっていません。
後編ではこれまでの苦労話と今後の展望をお聞かせください。
【企業情報】
ティーエーケミカル株式会社
代表取締役社長 武田彰正
事業内容:化学品商社
所在地:阪市中央区高麗橋2-3-15
従業員数: 8人
資本金:1,500万円