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お米20万トンが突然消失! 世界で最初に飢えるのは日本!? 2025年2月14日放送分

# 米価格高騰、流通、必要な政策
(ゲスト)鈴木宣弘氏:東京大学特任教授

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【目次】
1. オープニング
2. 政府は流通に責任転嫁をしている
3. 生産量は十分でも猛暑で良品が減った
4. 生産者米価がやっと30年前に戻った
5. 小売業者の力で米価が抑えられてきた
6. 小売り業界がやり過ぎた反動
7. 農家の赤字を補填し消費者に安く提供

(深田)
皆さん、こんにちは。政経プラットフォーム、ITビジネスアナリストの深田萌絵です。
今回は東京大学特任教授の鈴木宣弘先生にお越しいただきました。
先生、よろしくお願いします。

最近、巷を騒がせている米価格。なぜお米がこんなに高騰してしまったのか。そして政府はお米がどこに消えたのか分からないから「備蓄米を放出しよう」というバカな話になっています。今、日本の米市場、米環境はどうなっているのですか?

(鈴木)
一昨年も米があまり取れなかったということで、「インバウンドの外国人需要が増えたことをきっかけに米価格が上がった」とか、「2024年の米(新米)が出てくれば落ち着くだろう」とみんなが言っていたわけです。ところが、それが落ち着かずに、まだまだ上がっています。
「なぜ下がらないのか」という話になってきて、今、犯人探しのようなことになっているわけです。
そしてお話になった通り、どうも米が消えている。「本来ならば市場に出て来るはずの米20万トンがどこかに消えた」ということを政府も言っているわけです。
要するに「流通業界の人たちが米の買い占めや買いだめをして、値を吊り上げようとしていることが主因だ」と今は言われているわけです。
でも、そこは少し考えなくてはいけないと思うのです。なぜ政府が流通の責任にしようとするのかを。
そもそも政府は「米はまだ余っている」と言っているのです。

(深田)
足りてないですよね?

(鈴木)
誰が考えても足りてないと思うのですが、政府はこれまで「米が余っているから減反しないといけない」と言ってきました。
「田んぼはもういらない。潰せば手切れ金だけは出してやるから、田んぼなんか無くせ」という政策をやってきた。そして、農家の時給が10円とか、そんな水準まで追い込まれて、米価は一時下がっていたわけです。米60キロ(1俵)が9,000円とか7,000円とかまで下がり、生産現場全体は追い込まれていきました。
減らさせ過ぎたのです。それで、猛暑やインバウンド需要の増加がきっかけで米騒動になったのです。
米は足りているのに、まだ騒動が収まらない。そこで政府は「とにかく流通が悪い。米はある。流通業界がおかしなことをしている」、「余っているという見解は間違っていない」と言い続けている。だから備蓄米も出さないのです。

(深田)
「自分たちは間違ってなかった。米は余っている。だから悪いのは全部流通で自分たちは悪くありません」というのが政府の主張なのですね。

(鈴木)
そうです。なので「米が消えてどこに行ったのか分からない」などと言って、ある意味で責任転嫁をしているのです。
そこまでメンツにこだわるというか、「自分たちが言ってきたことを修正はしません」という基本的な考え方が色濃く出ています。
そもそも政府は「生産量は十分ある」と言っているのですが、何が起こったのかを見てみると、米の生産量が平年に比べてどれくらいかを表す「作況指数」は、2023年当時で101でした。「平年以上に生産はあった」という数字上のデータになっているわけです。2024年も同様です。
ただ、何が起きたかというと、猛暑が当たり前のようになってきて、品質の悪いお米、例えば白く濁ったお米やヒビが入ったお米などの比率が非常に高まったので、主食用として出せる分が減ってしまったのです。
それなので、「生産量はあるように見えても、実際に主食用として供給できるお米がかなり減っている」という認識ができていないのではないかと思います。

(深田)
米全体の生産量は増えているけれど、ひび割れしたりして品質が下がって、私たちが食べるご飯としては使えない。そういうお米は何に使われているのですか?

(鈴木)
煎餅などの加工用ですね。だけど、お店やスーパーの棚から「お米がない」と言われているのは、まさに主食用の米のことなのです。
白く濁ったお米やひび割れたお米は、主食用として市場には出回らないで別の用途に回されます。その部分が増えるということは、店頭に並ぶ主食用のお米の供給量が減っているということですよね。
だから、(この図でもわかるように)生産は需要に合わせてほぼできているように見えますが、実際に主食用として出ているお米の量はこれより少ないのです。

(深田)
ちょっと、これをお見せしましょう。(注:農水省資料から作成した2008年以降の「日本のコメ需給の現状」)
このグラフを見ると、生産量の方が需要量よりも多いように見えます。

(鈴木)
2023年も生産量は平年より多かったのですが、需要が少し増えました。
更に今年は生産量が回復したので「もう十分なのだ」と言いたいのですが、実際に本当に出せるお米の量はこれよりも少ないということです。

(深田)
つまり、一見、生産量の方が需要量よりも多いから「大丈夫だよ」と国は言っているけれども、品質が下がっているから市場に出せてないと。

(鈴木)
そうなのです。だから、実際に本当に出せているお米の量は、このデータよりも少し下にある。それを正確に把握できていないことが一つの問題点です。
それと、もう一つ根本的に考えなくてはいけないのは、「流通の責任だ」と言われていますが、「流通業界がなぜ買いだめや買い占めに走っているのか」と言えば、不足感があるからではないですか?

(深田)
そうですよね。

(鈴木)
そこは市場の原理として当たり前のことですよね。本当に「余っている」とみんなが思っているのなら、こんなふうに買い急いだり、買い占めて価格を吊り上げようとしたりする行動には出ないはずですよね。
だから、市場の関係者は「実質的に米は十分にある状態ではない。足りてないのだ」と分かっているのですよ。そういう状態になっているからこそ「利益を得られる行動をしよう」と考える人たちが出て来ているわけです。

(深田)
“転売ヤー”のような人たちが。

(鈴木)
そうです。今、普段は来ないようないろいろな業者が、農村や農家の庭先にどんどん訪れて、お米を買い付けている。それは事実です。JA(農協)や大手の中間業者であれば、ある程度状況を把握できますが、それ以外の把握できない業者も今年はたくさん出て来ている。
だから「20万トン前後のお米がどこに行ったかわからない」という話になっていると思うのです。
そもそも、なぜ市場の関係者がそういう行動を取るのかと言うと、「足りていない」とみんなが思っているからです。「今後も簡単には米の生産量が増えない」と思っているから、そういう行動を取るわけです。
その意味では、国が言っている「米の生産は十分で余っている」という議論はおかしい。現場はそう思っていない。

(深田)
現に私たち一般市民はお米の価格が上がって「えっ、こんなに高いの?」となっている。家計に響いているわけです。

(鈴木)
そうですね。今、米価が上がって消費者にとって大変なのはよく分かります。
ですが、生産者の視点で今年のお米の価格がどのくらいの水準かを見てみると、実は30年前の米価なのです。30年前、60キロ(1俵)の値段は2万円を超えていました。
それが「余っている」と言われて買い叩かれて、ずっとずっと価格が下がり、1万円を切るような米価になっていたのです。それがやっと今年、30年前の水準に戻ったのです。

(深田)
30年前に戻った!?

(鈴木)
はい。でも、その間に生産資材や様々なコストは上がって来ました。
そう考えると、30年前の米価に戻っただけであれば、農家にとって「これで大増産だ!」と言えるような状態ではない。どう考えても、やっと一息つけるか、まだ赤字だという農家も多い。
消費者の気持ちはよく分かるけれども、実は生産者からすると「今ようやくそこに戻った状態なので、まだまだ苦しい」ということも分かって頂かないといけない。
だって、茶碗1杯のご飯の値段は、上がったと言っても一杯40円ちょっとだから、他のパンなどと比べても、まだまだお米は安いのです。
価格が上がって消費者にとって大変なのは分かるから「そんなこと言うな!」とは怒られるから言いませんが、でも、生産者にとってはそういう状況だから、そこはお互いに理解を深めてもらう必要もあります。

(深田)
農家にとっても「失われた30年」だったということですか?

(鈴木)
まさにその通りです。完全に「失われた30年」です。

(深田)
「米農家の失われた30年」の原因は何だったのですか?

(鈴木)
「お米は需要が減っているから、生産を減らさなければならない」という考えで「減反政策」を進めて、生産を減らす方針が取られました。更に、かつて農家を支えていた「食糧管理法」という法律が廃止され、流通が自由化されました。
それ以降は、農家が少し生産を絞り込んで価格を維持しようとしても、買い叩きの圧力が強くてどんどん値段が下げられていきました。
確かに、主食として一人当たりが食べる量も減ってきたのは事実ですが、一番大きな要因は、大手小売の主導権が高まったことです。
小売価格が決まると、そこから逆算して卸業者は農家に払える価格が決まるという感じになってしまった。農家のコストは関係ないのです。そうして米価は急速に下がって来たのです。
それは「市場が決めたのだから仕方がない」と言う人もいますが、需給が決めたのではありません。市場の取引交渉力のバランスが崩れたのです。

(深田)
農業の中にもパワー関係があるということですか?

(鈴木)
そうです。

(深田)
自動車業界も同じです。部品を製造している下請けに価格交渉力はありません。自動車メーカーに叩かれて価格を決められてしまいます。
お米の場合は誰が叩いているのですか?

(鈴木)
大元は大手小売業界です。彼らが価格を決めてしまいます。安売り競争になるので、ある程度安い価格にしないといけません。すると、卸業者はそれに合わせて農家への支払額を決めます。
それが通ってしまうのは、自動車業界の下請けとメーカーとの関係に似ています。「うちは2倍の価格でないとやっていけません」と言ったとしても、農家も自動車の下請けと同じでたくさんあります。
農家が一致団結して「この価格じゃないと売らない!」と言えればいいのですが、なかなかそうはならない。どうしても、一部の農家が「うちは安くてもいいですよ」と言ってしまうと、徐々に値崩れが起きてしまう。
結局、パワーバランスでは買い手側が強いので、どうしても売り手である農家が弱くなる。農協で共同販売をして一生懸命に価格を維持しようとしても、結局はどうしても買い手である小売に大きな力があるので買い叩かれてしまう。

(深田)
それが今、「本当に米が足りない」となり、お米の価格も上がって来ていると。

(鈴木)
そういうことです。やり過ぎたのです。

(深田)
やり過ぎたのは、小売業界ですか?

(鈴木)
そうです。みんな、ようやく気付いたわけです。これまで随分、自分たちに都合のいいように、農家さんから安く買えるように、ある意味、ずっと価格を抑えてきてしまった。
でも、それをみんながやり過ぎた。政府も「米が余っている」と言い続け、田んぼを潰す政策を進めた。そして、流通業界も価格をどんどん下げ続け、30年間で米価は半分近くになってしまった。
その結果、今、現場を見てみると、米農家がどんどん辞めている。「こんな値段ではやっていられない」とね。
特に、この米騒動の少し前は、お米の価格が60キロ(1俵)で1万円を切るような状況になっていました。私も現場を回っていますが、「あと5年でこの地域では米作りをする人がいなくなる」、「この集落では人が住めなくなる」といった声が、山のように出て来ています。
そうした状況を作ったのは、国の政策、そして市場そのものなのです。買い手側が強くて米農家を買い叩いてきたことが原因です。
そこに猛暑や外国人需要の増加といったことがきっかけとなり、主食用の米が足りなくなってしまった。

(深田)
買い叩く小売店と、「減反政策」で生産量を削減させられてきた農家との間で問題がこじれているわけですが、これを政策的に解決する方法はあるのですか?

(鈴木)
消費者の皆さんは「米価が上がると大変だ」と今すでに言っていますよね。

(深田)
そうですね。所得がそれほど伸びているわけではないですからね。

(鈴木)
「生産者は必要な支払い額に届かず困っている」、「消費者も高くなると買えない」という状況ならば、政策的に農家の赤字を補填するべきです。そうすれば、消費者も安くお米を買えるから、両方助かるわけです。
そうした直接支払いをしっかりと充実させれば、農家が生産を継続できるし、消費者も適正な価格でお米を買い続けられる。流通業界も、今回のような大騒ぎをしなくて済む。つまり、安定した生産が続けられて、価格もある程度の水準で収まる。
この「ギャップ」を埋める政策が必要なのです。
流通業界も「安く買い叩くと生産現場を痛めつけることになる」と反省して、みんなが持続できるような価格水準で買いましょうねと。
消費者も「安ければいい」という考え方をしていると、生産現場がどんどん疲弊してビジネスもできなくなり、食べるものも無くなってしまう。
だから、「今だけ、金だけ、自分だけ」ではなくて、「売り手よし、買い手よし、世間よし」の三方よしの関係を、きちんとみんなで作っていかなくてはなりません。
そのことを反省するきっかけになっているのではないでしょうか。

(深田)
そうですよね。そろそろ政策面でもテコ入れをしていかないと、ちょっとした有事でも、まさに『世界で最初に飢えるのは日本』になってしまう状況ですからね。
確かにパンに比べたらお米は安いです。政治もそこを補填する仕組みを整えて、安定したお米の供給を目指す必要があるということですね。

(鈴木)
そういう課題を今回、みんなは突き付けられました。みんなの行動を変えていく機会にできればと思います。

(深田)
今回は「令和の米騒動」について、東京大学特任教授の鈴木宣弘先生に解説していただきました。先生、ありがとうございました。

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