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テスラ自動運転タクシー「サイバーキャブ」発表! タクシー運転手の仕事は消えるのか!? 2024年12月26日放送分
# テスラ自動運転タクシー
(ゲスト)池田直渡氏:モータージャーナリスト
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【目次】
00:00 1. オープニング
01:09 2. 拡散するために見栄え重視
04:26 3. シェアして汚物で汚される
06:28 4. 自動で止まったために犯罪に遭遇
09:25 5. トップレーサーよりも運転が上手い
12:32 6. すべてのケースでは不可能
15:18 7. 限りなく山積みしている問題
(深田)
皆さんこんにちは。政経プラットフォーム、ITビジネスアナリストの深田萌絵です。今回はモータージャーナリストの池田直渡先生にお越しいただきました。先生よろしくお願いします。
(池田)
よろしくお願いし ます。
(深田)
先日出演していただいた後、すぐにテスラのお騒がせCEOのイーロン・マスク氏がサイバーキャブを市場投入するとして「この自動運転タクシーを買うと、車が勝手にタクシーとしてお金を稼いできてくれるので、皆さん買いましょう」と発表をしているのですけれども、そんなことはあり得るのですか。
(池田)
まず発表された車の形を見ると、いわゆるタクシーのパッケージではないですね。乗り心地が良さそうには思えないし、乗り降りも大変そうです。そういう意味で言うとあれはやはり、写真映え前提のデザインというか、自動運転のタクシーというガジェットを投入したいのですね。それが普通のタクシーの格好をしていたら、彼らとしては見栄えが悪すぎるわけです。
(深田)
未来感を表現するためですね。
(池田)
なぜ今までのタクシーはみんなそのような、ある意味野暮ったい格好をしているのかと言うと、実用性のためにはその格好でなければならないからです。
テスラは機能よりも「映え」を選んだ。パリコレクションのモデルが着ている服みたいなもので「それで街は歩けないよ」という話です。それはスタイルとしてはいいのでしょう。そこに思想性の高さであるとか提案したいものが込められているのはよくわかります。未来の乗り物なので「未来らしくしたい」というのは本当によくわかります。しかし現実には外を歩ける服ではないです。
(深田)
そうですよね。一時、1990年代に流行ったデザイナーズの建築みたいなものですね。
(池田)
日本のメーカーが少し学習すべきなのは、あのように「映え」を大事にすることで、ものすごく拡散して世界中に伝わるというのもあるのです。真面目すぎるのも問題で少しは学んでほしい。
(深田)
確かにAppleなどは、最初は「映え」を追求していました。そういう部分を日本のメーカーも学んだ方がいいというのはその通りだと思います。
(池田)
そこで原理主義になって「こんなパッケージでは客を載せられない」と言っているだけではだめな時代になりつつあるので、そういう「映え」的な世界観、いわゆるネットで拡散しやすいような見栄えと現実的な使い勝手をどう融合させるかというのが、新しい課題になってくるのではないですか。
(深田)
写真を撮った時の「映え」感は重要ですものね。
(池田)
食べ物でもありますね。映え的には凄いけれど食べてみると美味しくない。
(深田)
生クリームいっぱいのパンケーキとか。
(池田)
僕にはその類いのものに見えます。プロトタイプとして世の中に発表する時はあのような形で見せておいて、後日もっとまともなパッケージのものが出てくるのであれば、それは非常に戦略的ということですね。
(深田)
例えばAppleのMacBookを持って「スターバックスでノマドな生活をしよう」みたいにコンピューターがライフスタイルの提案とセットになっているわけですよね。
この車も、未来には自分たちが働くのではなくて、「人工知能付きの車が自分たちの代わりにお金を稼いでくれるので自分は悠々自適だよ」というイメージを全面に押し出しているのですけれども、アメリカの技術系の雑誌WIRED(ワイアード)は「テスラの自動運転技術はウェイモよりも遅れているが、どうするのか」と酷評されています。
(池田)
今、2つの問題があって、1つはまず個人が私財として自分が愛着を持っているものを自由に人に使わせた結果、例えば車の中で子供がお菓子をボリボリ食べていて、行ってみたら、ゴミだらけ靴跡だらけになっているとか。あと、非常に微妙な話ですけれど、カーシェアを使うと車のシートをよく見ないと座れないのです。
(深田)
どうしてですか。
(池田)
多分、お年寄りだと思うのですけれど、失禁していることがあります。
(深田)
あー!?そうですか。
(池田)
そういうことが起こり得るわけで「自分の車だったら許せますか」ということですよ。仮に完全に投資家の目線で「この車はお金を稼ぐ道具であって、俺が乗ることはない」というものだったら別にそれでもいいです。メンテナンスをしなければいけないにしても、そういう使い方をされるのであれば、僕は時間貸しというのはないわけではないと思う。
個人が投資用のマンションを持って貸し出すのと同じであって、例えば3人とか4人家族で最初から住む気がないワンルームマンションを買う。それは完全に投資用だから別によいが、新築の家を建てて「今は単身赴任だけれど、帰ってきたらみんなで住もう」と思っているところに誰かが先に住むのはやはり嫌ですよね。
(深田)
確かにそれはありますよね。あとは夜お酒を飲んで、自動運転車の中で吐いてしまう人とか出てきますよね。それを掃除しても匂いが残ったりするので掃除も大変で、そういうことを考えるとまだまだ非現実的ですね。
(池田)
リアリティの話をすると、エッジケースと言うのですが、しょっちゅう起きることではなく、たまに起きるが、起きた時は深刻な事態で、自動運転でもあります。例えば、今ヨーロッパなどでは環境活動家が道路封鎖したりしています。道路に手を張り付けて車の前に横倒しになって車を止めてしまう。
(深田)
自動運転車ですか。
(池田)
普通の車です。普通の車はドライバーがぶん殴って、車を強引に走らせて通っていくのだけれど、自動運転車であれば動けないですよね。
(深田)
そうですよね。サンフランシスコで結構あるのですが、進入禁止のオレンジ色のコーンですね。ボンネットの上に置くと、カメラにずっとそれが映っているから動けなくなる。
(池田)
もっと深刻なのは、例えば女性が夜一人で自動運転車に乗っている時に、車の前に飛び出したら車は100%止まりますよね。自動運転車に乗っている人は比較的お金を持っている。これではあまり幸せな未来は見えないです。
(深田)
昔、中国で、「北京から上海まで高速道路が通ったから車で運転していこう」と友達に言ったら「山賊が出たらどうするんだ」と言われた。「えっ、山賊が出ても高速道路だから無視して走ったらいいでしょう」と言うと「そうじゃない。中国の山賊というのはまず高速道路に横たわって寝ている。それを引いたら殺人で捕まる。ただしそこで止まったら、車を止めた瞬間に青龍刀を持った山賊が現れて、殺されるかもしれない。それでもいいのか」と言われて、そんなことがあり得るのかと思っていました。
(池田)
第三世界などでは、それこそ山道でライフルを持った男たちが突然何十人も出てきて車を止めることが起きるわけです。
(深田)
そういう時はアクセルを踏んで走って逃げないといけない。
(池田)
緊急避難で撥ね殺してもよいという国もあるらしいです。
(深田)
緊急避難で人殺しですか。
(池田)
山道でライフル持った人たちがいっぱい出てきたら、これはもう明らかに正当防衛です。
(深田)
そうですね。なんかすごいです。私はカルチャーショックを受けました。
(池田)
社会のルールをみんなが守っていると何も問題はないです。だけど守らない人が出てきた時にどうするのかということをプログラムに書くことはできないのです。
ケースバイケースの判断です。裁判になって正当防衛かどうかが揉めるレベルの話です。それを機械に判断しろというのは無理です。そういう問題がいっぱいある状態で、自動運転に移行するというのはどう考えても時期尚早ですね。
(深田)
「もっとしっかり考えてからにしてください」ということですね。
(池田)
自動運転に関して言うと「池田さん、自動運転はどうなるのですか」と聞かれるのですが「あなたの言う自動運転とは何ですか」という話です。自動運転の定義によります。例えば12月中旬に国土交通省がトラックをコンボイに組ませてカルガモ運転で先頭だけドライバーがいて後ろは全部それについていくという実証実験が東名高速道路で始まります。
(深田)
そうですよね。あれはいいですよね。
(池田)
人が入ってこない日本の高速道路のような環境だったら当然できます。それに合わせて今度はここからドライバーが運転してくださいと乗り降りするような場所の準備がいりますよね。そういうインフラ整備がセットされるのであればできます。
あるいはトヨタがやっているのはガーディアンというシステムです。例えば前に車が事故を起こして、止まっている。このままでは突っ込むしかなく、死んでしまうかもしれないという時に自動運転がシークレットサービスみたいにパッと運転を変わってくれて、しかもものすごく運転がうまいのです。トヨタのラリーチームの監督がそのシステムに挑んで、タイム3回目でやっと勝ちました。
(深田)
そんなにうまいのですか。
(池田)
現役時代はWRC(World Rally Championship)最多出場ドライバーです。その人が3回目でようやく勝った。それ位うまいのです。道路を走っている99.99%のドライバーよりうまいです。そういう人がコンピューターの中で変わってくれて、生きるか死ぬかのところから運転をリカバーしてくれる。
これは、お酒を飲んでも運転して連れて行ってくれるとか無免許でも目的地まで着けるという、普通の人がイメージする自動運転とは全然違うけれども、今すぐに実現ができる。そういう状態だったらエッジケースもなにもないです。
死んでしまうかもしれないところで、車の性能とか色々な問題があって本当に助かるかどうかわからないけれど、一か八かではあるが、多分ベストである方法でトライしてくれる。こういう自動運転だったら割とすぐにでも導入できます。
(深田)
緊急時にパッと運転を変わってくれるというのはどういう形ですか。
(池田)
いわゆるデジタルツインの形です。普段から運転をしている時にコンピューターがずっとシミュレーションをしているのです。この状態であればこうすると内側で運転をしているのです。言ってみれば、メインパイロットからコパイロットに操縦を引き継ぐみたいな形で、ドライバーからハンドルとアクセル、ブレーキを取り上げてシステムが運転を変るというやり方ですね。僕はこのガーディアンってシステムならすぐに実用できるだろうと思う。
(深田)
そのデジタルツインのコパイロットという考え方はかなり面白いですよね。それだけプロのレーサーよりも運転がかなりうまい。それでも全ての道路を自動運転でAIに走らせるのはまだ遠い。
(池田)
例えば中野のブロードウェイ、あそこは道が何本も横切っている。あそこで、人間はどのように運転をしているのか。法律では完全に人の流れが途切れるまで止まって待っていないといけないのですけれど、ブロードウェイは途切れるわけがない。そうするとそろそろ進みながら、優しい人が立ち止まってくれるのを待っているわけですよね。現実にそのように運転しています。
(深田)
私もそのように運転します。
(池田)
法律的には本当はアウトです。警察がいたとしても「ここはしょうがない」と大体はお目こぼしをしてくれる。ただし、虫の居所が悪いと「お前、今のは違反だ」となって免許の点数を引かれるリスクをドライバーが負って運転しているわけです。言ってみれば、法律が未整備なわけですね。途切れるまで行ってはいけないとなっているけれど、途切れないケースはどうするのかの定義がないです。
(深田)
そうですね。あんなところ、途切れることがない。絶対途切れないです。だから「ごめんなさい、ごめんなさい」とそろそろ行く。
(池田)
法律を守っていたら1時間でも2時間でも止まっていないといけなくて、後ろが大渋滞になってしまう。
(深田)
ブーブーとクラクションを鳴らされそうです。
(池田)
そういうケースを考えると、法律の方が未整備なことを現場の運用で、ドライバーは「万が一捕まったらいやだな」と思いながら違反をする。警察も「ここではしょうがない」と違反を見逃す。でも時々運悪くそれが捕まるみたいな非常に曖昧模糊とした運用で流れている。
さっき色々なAIの話をしましたけれども、AIが勉強をして、人間はそうするのだと学習したとします。その時は誰が違反をしているのかということですね。日本という法治国家において、法律で決められたことをコンピューターのAIが自動判断で独自に破っていくことを認めるのかという話です。
(深田)
一番難しい問題ですね。
(池田)
そういう問題が山積みになっている中で、自動運転ができると簡単に言うこと自体が僕はいかがなものかと思う。自動運転はできるところではできるけれども、今の状態で、オールラウンドにどこでもどんな状況でもできるというのはほぼ無理です。
(深田)
L5(自動運転レベル5)の世界は絶対にないですよね。
(池田)
自動運転の車は判断できないので人間の方が避けなさいというルールになったら動けるかもしれない。
(深田)
時速100kmで突っ込んでくる車をあなたは避けられますかみたいな。
(池田)
エッジケースを見ていくと、きりがない。そこに目の不自由な方が通りかかった時どうするのですか。自動運転の車はどうやって判別するのかなど、切りがなく問題が山積みなのです。
新型コロナ時に偽陽性と偽陰性がありましたね。陰性の反応をしているが本当は陽性の人、陽性の反応をしているけれど本当は陰性の人だった。
これが自動運転の問題では、ブレーキでも起きるのです。例えば前に何かいて、本当は止まらないといけないのにブレーキが効かない。そうすると突っ込んでしまいます。
(深田)
何もないのにブレーキがかかるゴースト現象もありますよね。
(池田)
ファントムブレーキと言います。実はファントムブレーキの方が問題で、例えばセンサーをいっぱいつけて多重にするというのは怪しい時に安全な側に倒すという概念に乗っているのです。今までのエンジニアリングでは、安全の基本的な考え方です。それはなぜ整理するかと言うと空振りを許容するからですね。
何にもない所で止まってしまうことは「まあいいじゃないか」という話ですが、例えば高速道路で後ろに大型トラックがいて、ファントムブレーキで乗用車が突然フルブレーキをかけると、これは危ないです。
(深田)
私も今乗っている車がそういう機能がついているのですけれど、曲がる時におそらくレーダーがどこかに反射するのですね、それでファントムブレーキがかかるのですよ。結構早く走っている時には後ろの車が追突仕掛けて、避けて通ってくれたから生き残っていますけれど、後ろの車が避けてくれなかったら、どうなっていたか。
(池田)
乗用車ぐらいの運動性だったら、避けてくれるかもしれないけど20tトラックだったら絶対避けられません。後ろが二輪車だった場合、下手をすると殺してしまいます。
自動運転の安全性を高める話についても、偽陽性の話を考えると、とても怖いです。この辺の問題がいっぱいあることを全部放置して「でも未来に進む力が大事だ、できない言い訳をするな」と言うわけです。いやちょっと待って、今死んでしまう話をしているのだけれど、死んでしまう話を「できない言い訳」というのですか。
(深田)
開発の現場にいた身からすると「まだ自動運転できるレベルではない」というのが私の感想です。
(池田)
さっき言ったようなガーディアンシステムであるとか、高速道路のカルガモ運転であるとか、やはり、そういうところから地道に積み上げていくという現実を馬鹿にしてはいけないと思います。
(深田)
その通りだと思います。これまでも日本は規制のために、公道でなかなか自動運転の実験をできなかったということもあるので、まずは制限された利用ケースでだけで少しずつデータを積み上げていくところからやらないといけないのかなと思います。サイバーキャブに乗ったことはありますか。
(池田)
いえ、もちろん乗ったことないです。誰も乗ったことないです。
(深田)
誰も乗ったことないですか。やはりあれはコンセプト発表だけなのですね。株価を釣り上げるためにああいう派手なことやっているかなと思いました。
(池田)
Appleはずっとそういうやり方です。
(深田)
そうですね、テスラもそうなのですね。今回はモータージャーナリストの池田直渡先生にテスラ・サイバーキャブと自動運転の課題についてお話をいただきました。どうもありがとうございました。
(池田)
ありがとうございました。