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アベノミクス第一人者が語る。MMTよりリフレ派金融政策が正解! 2025年1月25日放送分

# リフレ派、MMT派
(ゲスト)原田泰氏:名古屋商科大学ビジネススクール教授

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【目次】
1. オープニング
2. リフレ派は金融緩和で短期的に経済成長
3. 長期的にも失業率が下がった
4. MMT派は国債を発行しても問題ない
5. 金融政策で物価はコントロールできない
6. インフレになれば労働政策

(深田)
皆さんこんにちは。政経プラットフォーム、ITビジネスアナリストの深田萌絵です。今回は名古屋商科大学ビジネススクール教授の原田泰(ゆたか)先生にお越しいただきました。
元日銀審議委員としてアベノミクスを支えてこられた原田先生に、今日はMMT(モダン・マネタリー・セオリー=現代貨幣理論)とは何か、アベノミクスとは違うのか、という所を教えていただきたいのですが、その前に先ず伺いたい事があります。先生は経済学者の中でも「リフレ派」と呼ばれる謎の派閥(笑)に入っているそうですが、そもそもリフレ派とは何なのでしょう。

(原田)
別に謎ではないのですが(笑)リフレ派というのは、デフレ状況から金融緩和や財政緩和によって経済を活性化すれば、結果として物価も上がり、GDPや雇用・失業率などの「実体経済」が改善されると主張している学派です。

(深田)
金融緩和をしたら緩やかなインフレになり、失業も減り経済も成長して、いいことがいっぱいあるよ、という宗教だと(笑)。

(原田)
宗教ではなくて(笑)、日本では異端学派のように言われていますが、私の見方ではこの主張が事実であり、世界的な経済学から言えばリフレ派が主流だと思っています。

(深田)
例えば元FRB議長で、ノーベル経済学賞も受賞されたバーナンキ氏がそうですね。

(原田)
はい、それから今最も売れている経済学教科書を書いたグレゴリー・マンキュー(Gregory Mankiw)氏などもリフレ派です。

(深田)
マンキューの教科書、私も買いました。

(原田)
そこには金融政策によって一時的に雇用を良くさせ、経済を成長させる事ができますよ、と書かれています。

(深田)
その金融政策とは、金利操作ですか。

(原田)
金利を下げる、お金(通貨)を直接増やす、どちらでも結果的に「お金が(市場に)増えれば短期的には経済が活性化される、ただし長期的なスパンで実質GDPや雇用などが改善されるかは分からない」とマンキュー氏は書いていて、これが主流派、つまりリフレ派の経済学です。一方リフレ派に反対している人達は、短期的に改善されるという主張も否定しているわけです。

(深田)
長期的にどうなるか分からないけど、短期的にはお金をばら撒いているのだから少しは経済が上向くはず、という見方さえも反リフレ派は「あり得ない」と言っているのですね。

(原田)
そうです、だから非主流なのは反リフレ派の人達で、世界的に見ればリフレ派が主流なのです。

(深田)
先生はあくまでご自身が主流派であると。

(原田)
はい。それでは実体経済がどの位長い間良くなるのか。アベノミクス前は失業率が3~4%でしたが、現在は2%まで下がってきていますし、物価も上がっていません。

(深田)
物価、上がっていませんか?

(原田)
現在の物価上昇率は2%少々ですが、かなりの部分が資源価格上昇のためですから、これが無くなれば物価上昇率が2%を切るのは確かです。そうすると、お金をばら撒く事によって失業率が半分になった、と言えるわけです。失業率は半減し、物価は2%までしか上がらなかったのですから、これは良い結果だったと言えるのではないでしょうか。特に若い方々、新卒の方々は就職が楽になりました。かつての就職氷河期とは……

(深田)
まさに私です、98年卒だったので迷惑しました。

(原田)
そう、就職氷河期だった深田さん世代と今では、まるで変わりました。

(深田)
今は売り手市場ですね。

(原田)
そうです。これは好ましい経済状態ではないでしょうか。しかもそれが結構持続していますから、長期的に見ても効果があっただろうと評価するのがリフレ派の見解です。
同様に米国で、長期的なスパンでも経済は良くなるという立場をとっているのが、今年1月に退任された前財務長官のイエレン氏(元FRB議長)らです。長期的な効果は国の状況にも左右されますが、少なくとも日本での実績は評価できるでしょう。

(深田)
今はリフレ派の主張を中心にご解説いただきました。ところで、実は私「MMT」とは何かをよく理解していなくて「金融緩和でお金をジャブジャブにする事だろう」くらいに思っていたのですが、どうも違うみたいですね。

(原田)
まあ途中までは当っています(笑)。MMTというのは政府債務を問題にしていて「政府がいくら国債を発行しても問題ない、大丈夫だ」と考えます。何故かといえば財政赤字で積み上がった国債の償還は現金(お札)で返すので、それなら(新たに)お札を刷って渡せばいい。だから「国債などいくらでも返せるだろう」というのが現代貨幣理論、MMTなのです。

(深田)
なんだか、魔法の解決策みたいですね。本当にその理論で成り立つのかずっと疑問に思っているのですが。

(原田)
ある程度は大丈夫です。政府の借金に対して政府の新札で返せばいいのだから大丈夫だと。

(深田)
そんなにうまく行きますか?

(原田)
いいえ、だから物価が上がったわけです。

(深田)
つまり物価高の原因は、市場のお金をジャブジャブにしたからだと。でもそうすると、先程ご説明いただいたリフレ派の金融緩和政策でもお金を市中に流してジャブジャブにするわけですから、MMTとどこが違うのでしょうか。

(原田)
リフレ派の立場では2%の物価上昇目標を設定しています。つまりその目標を越えたらお金の投入は止めます。要するに財政を重視しているわけです。
MMTは、まずは財政ありきと考えます。財政をファイナンスする為に「後からお金を刷る」ということです。

(深田)
ではリフレ派の場合は。

(原田)
リフレ派は「先にお金を刷る」立場です。ただし物価上昇率には2%までという上限の「蓋」がついています。そこを越えたらお金を締める、つまり金利を上げて市場から余剰なお金を引き上げます。そうすれば物価上昇率を2%の範囲内で維持でき、(実際にアベノミクスでは)失業率が4%から2%に半減して、若者の就職が楽になったわけです。

(深田)
時給も上がっていますね。私事ですが先日事務員さんを探すために調べたら、今都内での時給相場が1500円から1800円くらいでした。2011年に私が起業して事務員を募集した時は、時給1000円でいくらでも応募がありました、1000円でですよ。

(原田)
そう、上がったわけです。だから良い事が起きているではないですか、女性も高齢者も働けるようになりました。

(深田)
ところで先生、MMT派の人たちは『もっともっとお金を刷ったらいい』と考えていて、半導体政策で10兆円をファイナンスするためにも国債発行を予定しているのですが、どう考えても失敗しそうな事業に10兆円投資して穴があいてもMMTの主張では平気なのですか。

(原田)
いや、平気ではないです。それはインフレになります。GDPの供給力が増えるような事にお金を使うのであれば、需要も供給も増えるのであまりインフレにはなりません。しかし10兆円のプロジェクトが失敗するという事は、全く供給力が増えないわけです。

(深田)
必要とされていないものを作るわけなのです。

(原田)
それは売れないものを作るから失敗するわけですよね。ということは、供給が増えていないのと同じなのです、在庫が積み上がるだけで実際に売れないのですから。例えば車でも何でも売れて初めて意味があるわけで、作っても在庫にしていたら、形式的なGDPは増えるでしょうが、実質経済としては意味がありません。これではインフレになってしまいます。しかもMMTでは『金融政策では物価をコントロールできない』と言う立場なのです。

(深田)
え、え?!

(原田)
私はその主張はおかしいと思いますが、彼らはそう言っています。

(深田)
MMT派は「金融政策でインフレはコントロールできない」と言っているのですね。

(原田)
日本のMMT派は色々ごちゃごちゃにしていますが、元祖MMTは「財政政策で物価はコントロールできない」という立場です。ではどうするか。それが雇用保障計画です。「財政を出していくらでも人を雇えばいい、そうすれば失業は減る」と。では物価はどうやってコントロールするのか。政府の職員を最低賃金で雇っておきます。景気が次第によくなると、最低賃金よりいい職があるので徐々に政府職員は退職していく、そこで物価はコントロールできるという理論です。つまり政府に雇われた職員が辞めていくから政府支出・財政赤字が減り、その結果で国債発行額も減るからインフレは収まるとMMT派は主張するわけです。

(深田)
本当に、そうなりますか?

(原田)
いや、そう疑い深そうな顔をされても(笑)私ではなく彼らがそう主張しているだけですから。でもこれは少々変なのです。仮に失業者全部を雇うとしても、彼ら全員が最低賃金で雇われたいと思うかは分かりませんし、そんな仕事は嫌だと言われたら雇えません。
例えば(サンダース上院議員の研究所顧問でもある)経済学者ステファニー・ケルトン氏はMMTの大家ですが、(失業対策には)公共事業への(労働力)募集を考えていたようです。しかし非力で重い物が苦手な人は募集に応じません。「ならば図書館司書として本の整理をすればいい」とステファニーさんはおっしゃられたそうですが、政府が各自の希望を無視して仕事を割り振ったら、まるで社会主義そのものではありませんか。

(深田)
そうですね、これでは社会主義政策ですね。ただMMTの政策というのは基本的に公共投資、例えば道路を作ったりという施策にお金をどんどん注ぎ込むわけで、昭和の日本みたいな気がするのですが(笑)。

(原田)
もちろん役に立つ公共投資もあるので、それはやった方がいいと思います。あくまで私の印象ですが、アメリカはもっと公共投資をやった方がいいのではないでしょうか、道路に穴が開いたりしていますから。

(深田)
日本の例だと小笠原諸島の、どこにも通じない行き止まりの道にアスファルトを敷いています、行き止まりなのに。こういう公共事業は信用創造しているでしょうか。

(原田)
信用創造はともかく、供給が全く増えないから無駄だと思います。

(深田)
乗数効果が無いですね。(乗数効果=政府等の投資増大で、賃金増大→消費増大→企業収益増大→賃金増大の好循環が一定期間続く経済効果)

(原田)
乗数効果は低いと思います。ただアメリカの場合はまだ公共事業の余地がありますね、道路の穴埋めや、擦り切れて見えない横断歩道の補修など。

(深田)
大阪もそうですね、一部で横断歩道が見えにくくなっています。某政党が仕切っているせいかも知れませんが(笑)。

(原田)
そうなのですか(笑)まあ道路のペンキ塗りとか、そういう基本的なインフラ整備にはお金をかけるべきでしょう。しかし党がいくら人を雇えばいいと言っても、本当に必要な事ばかりではありませんから、これは変な形の社会主義ではないかと思っています。

(深田)
そうですね、公共投資で労働者の賃金を下げればみんな民間に逃げていくからインフレが収まるという考え方は。

(原田)
いや下げるのではなく、もともと最低賃金で据え置きにしておけば、インフレになって民間の賃金が上がればみんな逃げて(退職して)インフレは収まるという理屈なのです。そういえば、イーロン・マスク氏が政府支出1000兆円の7%、70兆円を削ると言っていますね。どうするかというと、多数いる在宅勤務を禁じればいいと。大多数はオフィスまで出勤するのが嫌だから退職していくだろう、だから政府支出は簡単に削減できるとマスク氏は言っています。

(深田)
むしろ、給料欲しさに出勤するのではありませんか(苦笑)。

(原田)
在宅で業績を上げられる人は多少IT能力が高いでしょう。政府からそういう人が多数退職したら、マスク氏は自分の会社に安値で雇い入れてこき使う算段なのかもしれません。

(深田)
いや、マスク氏のテスラ車が通勤用に売れたら、と考えているのかも知れません。

(原田)
なるほど、そこまで考えますか。

(深田)
あくまで想像の話ですけれどね。では最後にまとめです。アベノミクスはリフレ政策であってMMTではないのですね。

(原田)
そうです、つまり社会主義ではありません。財政であれこれするのではなく、基本的には金融政策で調整するやり方です。金融政策ですから、物価が上がり過ぎたら金利を上げて締めるだけという極めてシンプルな仕組みです。

(深田)
MMTは直接国債を発行しまくり、お金を刷りまくる。この最初の一歩はリフレ派と同じですよね。

(原田)
そこで、物価が上がり過ぎた(2%越え)時にどうするかの違いです。

(深田)
キャップ(上限)が無いのがMMTで、キャップがついているのがリフレ派、ですか。

(原田)
それから、市場経済についてどう考えているかという違いもあります。金利を安くするわけですが、(リフレ派は)安くなった中で何が一番いいかは民間が考える事としています。だから金利が安くなって経済が非効率になる事は余りないわけです。
しかしMMTのように政府が直接介入してあれこれ指示を出していたら必ず非効率になる、非効率の度合いが大きくなります。この点、MMTとマスク氏の経済政策は似ているなと最近私は気がついてしまい、やはりMMTはおかしいのではないかと益々思うようになりました。

(深田)
なるほど。今回「MMTとは何か、アベノミクスとの違い」についてお話を伺いました。蓋(上限)が決められているのがリフレ派で、MMTは上限なしでお金を刷り、インフレ超過になったら労働政策で吸収するという「謎の手段」を使うと。

(原田)
そう、謎の手段ですね、リフレ派の明確な手段に対して謎の手段。それは経済を非効率にします。

(深田)
そうですね(赤字続きで雇用保険料からの補填も批判を浴び2010年で閉館した)「私のしごと館」とか、いつまでも完成しない大阪万博とか、そこに投資してどれだけ意味があるのか、失敗したらどうするのかと思います。民間企業なら絶対ありえない事です、採算がとれませんから。

(原田)
民間なら先が見えた時点で撤退できるわけです。

(深田)
公共事業は止められませんね。そのあたり、MMT式のやり方には懸念が残ります。
ということでMMTとは何か、原田先生にご解説いただきました。
ありがとうございました。

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