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中国EV世界一! 日産ホンダは滅ぶ運命か!? 2025年1月10日放送分
# 中国EV過剰生産
(ゲスト)池田直渡氏:モータージャーナリスト
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【目次】
00:00 1. オープニング
01:25 2. 中国EV過剰生産でアセアンに輸出
04:15 3. EVだけが環境に良いと信じ込まされている
08:07 4. 中国製バイクはすぐ壊れて嫌われた
10:37 5. 付加価値で闘い文化の輸出をする
14:52 6. 中国は余剰生産なのに海外にも工場を作る
18:20 7. アセアン市場は日本に返ってくる
(深田)
皆さん、こんにちは。政経プラットフォーム、ITビジネスアナリストの深田萌絵です。今回はモータージャーナリストの池田直渡先生にお越しいただきました。先生、よろしくお願いします。
最近日産の利益が9割減ということで大騒ぎになっているのですが、売れている車の状況を見ていると急にASEANでの売上がガクンと落ちています。ホンダも同じようにASEAN地域での売れ行きが下がっているのを見ると、どうも世界一の車輸出国となった中国に押されている状況です。私、中国のことを見くびっていたのですが、自動車の世界で日本の車がよもや中国に押されるなんてありえないと思っていました。この辺り、先生どうなのですか。
(池田)
マーケットで言うと、多分その前に中国本土があって、本土に関しては中国政府が圧倒的に国内系のメーカーを後押しするという方向になっていてもう外資はいらないという感じになっているので、みんな日本のメーカーだけではなくて外資系の メーカーみんながもう嫌になっている。なんなら出ていってしまおうか、ということに今なっています。実はそうなった背景としては、中国は前にもお話したかもしれないですが、これが次のビジネストレンドだというと全員がわーっとたかってくる。それは鉄鉱の時もそうだったし、太陽光パネルの時もそうだったし、不動産もそうだし、今まさにEVがそうなっている。とにかくみんなでやったらオーバーシュートするのじゃないかという普通の予測がなぜかできないのです。なぜかとしか言いようがありませんが。
(深田)
猫も杓子もみんなその仕事をするという。
(池田)
そうそう。
(深田)
本当に昨日までアパレルやっていた人が「今日から自動車メーカーです」と本当にやる世界の人たちですからね。
(池田)
「俺はこれに魂を捧げる」みたいなのはない。お金を儲ける手段だから儲かればそっちの方がいいのだという話になってしまった。EVに関して言うともう明らかに過剰生産能力を中国本土が持っているので、これはどこか海外に売るしかないわけです。それで売りやすいところは、最初はヨーロッパを攻めようとした。しかしヨーロッパ も関税をかけると言って防衛姿勢を取った。アメリカはもっと早くからインフレ抑制法で関税100%という、「お前らやるにしても程度問題っていうのを知っていろよ」という話ぐらいのことをやったのでアメリカにも行けないし、ヨーロッパにも行けない。そうすると地の利的に一番扱いやすいのはASEANなのです。
(深田)
距離的にも輸出しやすい。
(池田)
それからASEANの国々にはやはり華僑文化が大抵ある。
(深田)
結構あの辺りは政治に強いのが中華系の人です。しかも政府に入り込んでいるので数が少なくても中華系の人たちの方が優遇されるようになっています。
(池田)
そうですね。途上国が多い。国名は具体的には言いにくいので、あくまでもざっくりした話になりますが、やはりこういう体質があるわけです。ワイロをもらってどこかに有利な法律にしてしまうとか、決定をしてしまうとか、そういうことが起こりやすい。そしてまた中国はそういう攻め方が得意です。
(深田)
そうですね。我が国もやられているような気がします。
(池田)
一時的には中国は入り込みます。ただASEANの国々というのはずっと60年、70年前から工業国として日本が育ててきました。例えば車を作ったりすることを考えると、タイとかインドネシアとかいろんな国が車を作っていますが、車を作れるようになるまでというのは結構大変です。まず水が確保できないといけない。それは水に関するインフラが整うということで、そして電気は当然ないといけない。自動車を作るための部品を作る工場もないといけない。ということはそこで働く人たちの教育レベルが求められる、といったいろんな段階を積んでいかないと自動車を作れる国にはなれません。今、実際、国連加盟国のうち4分の1ぐらいしか車を作れる国はない。だからそもそも車を作れること自体がある程度エリート、工業国としてエリートです。そういう中において、日本がずっとそういう面倒を見て、いや電気はこうしよう、水はこうしようというところから育ててきたものを今彼らは中国からいろんな攻略を受けている中で、どうするか決めあぐねているところなのです。
日本の自動車メーカーは各社訪問して、「君たち、今ここで欲得に駆られると全部取られるよ、インフラから何から何まで全部取られるよ」ということを言っています。個人個人に聞くと、この間某国に行ってこういう話をしてきましたと言うわけです。多分そういう工作は皆がしています。とはいえ、やっぱり一時的に安い価格でEVが入ってくるとこっちの方がいいのではないかと、しかもあまり考えない人々にとっては「EV=環境」に擦り込まれている。
(深田)
本当に日本でもまだ信じている人がいます。
(池田)
別にEVが環境に悪いとは言いませんが、EVだけが唯一オンリーワンで環境にいいわけではなくて、この前も話したように、比べ方によっては「軽」の方がよかったりするわけです。本来はもっとちゃんと水平に比較して、条件を整えて平らなとこに置いてちゃんと背丈を比べようという話なのですが、そういうのがないところでは、EVは環境にいいのでしょ、うちも環境にいいことしたいからEVにしたい、しかも、EV輸入すればいいのでしょう、というようなことになりがちです。
(深田)
そうですね。そういう風な短絡的な発想になりますね。
(池田)
ただ、やっぱり彼らもバカではないので、国によっては、今年EV輸出してきた数と同じ台数は来年うちの国内で生産してくださいというルールを作ったりとかしている。そうすると輸出したが最後、来年それと同じ数作らないと罰金を取られてしまう。だからASEANも別にやられっぱなしではないのです。そういう中で日本は ちゃんと先に進出して彼らを物づくりのセンターとして世界に向けて輸出しているわけです。例えばトヨタのハイラックスというトラックがありますが、あれはIMVシリーズと言ってあれからいろんな形の商用車を作れるベースになっているのですが、このIMVシリーズはトヨタの利益の三分の一を稼ぎ出しています。
(深田)
そんなに稼いでいるのですか、IMVシリーズが。
(池田)
そうです。それがタイの工業力の基礎になっていたりするわけです。
(深田)
すごいですね。知りませんでした。
(池田)
ですから、そういうものを失ってでも安いEVを買うのかという話です。それで本当にいいのかということです。
(深田)
しかも、EVに乗って1、2年経ったら急にバッテリーが劣化して、その交換で何十万円もかかるということになると、実は安くないということに気がつきますからね。
(池田)
思い出すのは前例として2000年代の頭、2003年とかそのぐらいだと思いますが、ベトナムで日本のバイクメーカーが中国の電動バイクに圧倒的に負けた時代がありました。
(深田)
そんなことがあったのですか、 ベトナムで。
(池田)
ぐわっと起こってどうにもならなくなった。でも 全然勝てない。でも、みんな壊れてしまう。
(深田)
(笑)確かに。
(池田)
それで現地の人も乗ってみて、いや確かに安かったけれども丈夫な日本のバイクと比べると、コストはこっちのは全然かかる。もう3年ぐらいしか乗れないなら話にならないと言って、うわっと戻って今やもうホンダの天下になっています。
(深田)
そうですよね。ホンダの二輪はもうASEANでぶっちぎりで売れていますから。
(池田)
だから一回みんな経験してだめだこれはと言って戻っているわけです。逆に日本のブランドが証明されたということです。一緒じゃないと、一緒に見えて値段はこんなに違って日本は高いと思ったけれども高くないとみんなが思い知るぐらいの結果になったりしている。だからこれが自動車でもその通りになるかどうかはわかりませんが、そういう前例もあって消費者はバカじゃないということです。
(深田)
そうですね。自動車ってやっぱり使用感がすぐに現れる、車だけじゃなくてバイクもそうだと思いますし、高いけれども長く持つのか、そのメカニカルな機構が本当に強いのかというのは、このノウハウはやっぱりもうサプライチェーン全体で培われたものだから、一朝一夕ではパクれない。その一方で、家電、特にディスプレイなどは結構簡単にパクられてしまって、しかも使用感にあまり差が出ないから負けてしまったわけですが、単に設計をパクれるITの世界、エレクトロニクスの世界よりはメカニカルな機構の部分がやっぱり入っていて、素材の強さ、素材が摩耗しにくいとか、その強度とか粘度とかそういう部分も含まれているので盗むのはなかなか難しいです。
(池田)
トヨタのある幹部が「池田さんね、今後もし車なんか安くて動きゃ何でもいいっていう風に世界のスタンダードが動いたらトヨタは滅びますよ。だけれども、やっぱり車はこうでなきゃいけないというものがあるのであれば、我々は戦いようがある、 だから我々はもっと価値の高いものを作っていかなきゃいけないしそういう車を作る」と言っていました。5、6年は前に聞いたと思います。
今、実際トヨタの新型車に乗ってみるとそういうもになっている。いいものになっている。そういう付加価値で車を売っていく。もっと言うと今ASEAN諸国でトヨタが何やっているかと言うと、年何回か「GRフェスティバル」を開催してGRの車を持っていき、会長自らそこでドリフトやって現地のお客さんを助手席に乗せてぐるぐる回って、わあ楽しいっていうのをやって見せているわけです。それは文化の輸出なのです。
(深田)
そうですよね。やっぱり何か格好いいなというのが憧れになる、お金を稼いだらあれを買うのだという楽しみがそこの文化として根付けば自然とトヨタが広がっていくということですね。
(池田)
だからただ単に商品の価格をお互いに下げて安売り合戦をやっても勝ち目はないし、勝ったとしても焼け野原です。
(深田)
そうですね。誰も勝者はいない、みんな赤字を垂れ流して。
(池田)
だからそんな戦いやってもしょうがない。そうではなくて付加価値で戦う。特に文化の輸出をする。そこは非常によくわかる。例えばそういうモータースポーツ的 な文化で憧れを作っていくというのは日本もかつてヨーロッパのそういうものに憧れていたわけです。だからそれと同じように、例えばASEANのレースのシリーズで勝つと日本の決勝戦に出てこれると、それをさらに成績がいいとヨーロッパのレースに行けるというようなステップを今トヨタは作ろうとしているのです。そういう階段で目指す未来、目指すべき目標としての日本ができると、彼らは車を買う時にもっと 大きな夢を乗せられる。その付加価値が作れないとダメだし、逆に付加価値さえ作れればいい。中国はレースのレの字もないし、彼らは文化としてやっているのではなくて商売としてやっているだけですから。
(深田)
そうですね。美人のレースクイーンを何人並べるかで戦っていますから。そうではなくて、ブランディング戦略というのはすごいと思います。こういうのはやはりヨーロッパ、特にフランスは強いといつも思います。鞄でも、物が入れば何でもいいようなものですが、その鞄を50万、100万円で売っていく中で、あれに女性の憧れというもの、こういうハイソな人たちはこういう鞄を持っているというイメージをセットに売り出す。そうすると女性はお金を稼いだらいつかこういう鞄を持ってみたいなという、うっすらとした憧れを持ちながら生きてきて、憧れた先にその鞄を手に入れるというのがあると思います。
(池田)
100万円のハンドバッグとか普通に考えれば頭おかしい。
(深田)
頭おかしいです。
(池田)
エコバッグなら100円という話なのですが。
(深田)
そうそう、鞄なんか物が入ればいいのに、わざわざ100万円—
(池田)
でもそこにそういうものが100万円はともかくとして、ブランドのバッグを買うということには一定の意味が社会的にも共有されているわけです。それはそのブランドが築いてきた価値なわけで、多分そういうものを日本は今はちゃんと作っていかなきゃいけない。
(深田)
ここから日本が、ブランディング戦略でトヨタの車に乗ることがステータスなのだとなると、こう一段上がりますから。これまで日本車というのは安くて丈夫だからというイメージだったのが、ステータスになっていくというのは戦略として非常にいいと思います。ブランディングは中国が最も弱い部分ですから、そこで日本が勝ち残れることになります。
(池田)
本当にそうです。だからあの失われた30年を振り返ると、当時日本の戦い方はすごく間違っていた。30年前に日本がバブル崩壊した時に、日本人のレイバーコスト(人件費)は中国人の10倍だったわけです。要するに彼らが物を作って挑んでくる以上、彼らと戦うには日本人のレイバーコストを10分の1にするしかないわけです。だからずっと人件費が上がらずに、韓国と中国が隣にあってそういった価格で挑んできた時に、それと物づくりで戦うことはずっと爪に火をともす消耗戦を強いられることになった。しかし、そういう戦い方しても本当に何も生まれない。それで実際30年を失ってしまったことを考えると、ブランドを構築して高付加価値化していくという戦略の方がはるかに人々にとっても夢があると私は思います。
(深田)
確かに私もそう思います。もうここからは日本製品というのが社会的ステータスなのだという方向に力を入れていくべきだと思います。それで今ASEANの市場の中で日本車が一時的に負けている、でも2、3年も経たないうちに戻ってくるのではないかと。
(池田)
まず彼らは基礎戦略に無理がある。というのは元々国内で生産力が余剰にある状態だから輸出したかったにもかかわらず、輸出したいがために海外にまた生産拠点を作っているわけです。これどう思います。
(深田)
生産余剰で余っているから売っている。
(池田)
うちの国に売るならうちの国で来年同じ数作ってくれないとダメだと言われたら、売りたいから工場を作ってしまう。そんな戦略があるのかという話です。
(深田)
自殺行為にしか見えません。
(池田)
笛に踊らされて川に飛び込んでいくネズミといった感じです。
(深田)
そうですね。でもやっぱり文化の違いというのはすごいですね。日本系の企業だとそんな危険なことなかなかやらないです。
(池田)
だから何かで儲かると言っても、みんな使わないで金利などほぼないのにずっと銀行に入れている。この保守性というのがやはり日本のある種の特徴だし、そこでとにかく借金してでも投資してしまうという中国の、不動産なんて完全にその構造で、親戚一同から金を借りて、足りなくて金融機関からも借りてそれで投資してしまうというのは、日本人にはやれません。そのリスクテイクの強烈さというか、あのアニマルスピリットの強さがやはり尋常ではない。
(深田)
すご過ぎて圧倒される時もありますが、ネズミが自殺する、集団でバーっと崖から落ちていくというああいうものにも見えます。
(池田)
見えますね。資本主義の経験が少ないからリスクテイクにはリスクがある。リスクテイクだからリスクがあるのは当たり前です。そういうことが分かっていない。だからよくあんなに怖がらずに投資ができるものだと思います。
(深田)
あの突っ込み方は他の国では見ない行動です。しかもみんなが一斉に同じことをやるという。
(池田)
アメリカでは日本よりやる人が多いけれども、それをヒーローとして称える。お前はナイストライをしたと。ということはできない人がいる。拍手する側の人たちが。でも中国はそうではない。全員でトライする。
(深田)
そうですね。挑戦することがすごいみたいな人はいません。どうしてお前はやらないのだ、儲かるらしいぞ、というような乗りです。でもそのアニマルスピリットで過剰生産で余っているものを売っているのに、その余ったものをさらに売るために工場を作って来年はもっと余るだろうという。
(池田)
それは多重債務のやり方です。だから私には先に商業的成功があるように見えない。よく飲んだなと思います。
(深田)
どう見ても地獄への近道ですよね。
(池田)
というか、普通に考えるとそうですが、もしかしたら私たちの方ががチャレンジスピリットが欠けているだけなのかもしれません。それぐらいの勝負をやらないと覇者にはなれないと言われたらそうかも知れませんが、だったら私は普通の人でいいやと思ってしまう。
(深田)
そうですね。でも1年後2年後となると中国製EVのバッテリーが劣化して交換するのに何十万とかお金がかかってくるとなった時に売れなくなり、そして余剰の現地工場のものも売れなくなると一斉に崩壊しますね。
(池田)
あれは逆に言うとASEAN諸国へのプレゼントになるかもしれないです。
(深田)
なるほど、ODA。
(池田)
どこかで売るしかありませんから。中国と違って国家所有の土地ではないので、この工場はどこかがありがとうと言って受け取って、発展していく。そういう絵柄に私には見えます。
(深田)
そうですか。中国もついに社会貢献をする国になれるかもしれない。
(池田)
最初から社会貢献しようとしているわけではないところがミソです。結果的にでも社会貢献。
(深田)
ということでですね、今日本は中国にASEAN市場を取られているけれども数年後には返ってくるだろうという明るいお話をいただきました。どうもありがとうございました。