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日産利益9割減、大量リストラの原因は〇〇 2024年11月18日放送分

# 日産大量リストラ
(ゲスト)池田直渡氏:モータージャーナリスト

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(深田)
皆さんこんにちは、政経プラットフォーム、ITビジネスアナリストの深田萌絵です。今回はモータージャーナリストの池田直渡先生にお越しいただきました。池田先生、よろしくお願いします。

今回は池田先生に『EV推進の罠』の共著者の一人として、EV推進を日本で最も推進してきた日産自動車についてお聞きしたいと思います。日産自動車が利益9割減、9000人のリストラ、さらには自動車工場の2割を閉鎖するという衝撃的な発表がありました。この背景について教えていただけますか?

(池田)
はい。この話は少し長くなります。まずコロナ禍で自動車生産が止まっていましたが、その背景は半導体不足だけではありません。ウクライナで戦争が起きたため、ハーネスという配線や、ASEANの国々がロックダウンしたことによって簡単な樹脂部品など、人手に依存する製品が止まってしまったということがあります。これらの製品は労賃が安いところでないと生産ができないため、他の場所に移管することも難しい。車の原価が変わってしまうからです。

これらが原因で車が作れなくなりました。需要に対して供給が不足したため、みんな高値で買ってくれました。それが2023年の決算で日本のメーカーの業績が良かった理由です。記録的な決算を叩き出していました。

(深田)
絶好調でしたよね。

(池田)
需要に対して供給が全く追いついていない状態だったため、アメリカのディーラーはパニックに陥り、見込み発注を大量におこないました。日本ではお客さんがディーラーに行って欲しい仕様を伝え、発注がおこなわれた後にメーカーが作り始める受注発注ですが、アメリカはそうではありません。アメリカではディーラーが見込み発注をおこない、先に在庫を持っているのです。お客さんが場合によってはその場で持って帰ることもできる環境です。そのため店頭在庫がないと分かると、お客さんは怒って帰ってしまう。それがアメリカのディーラーがパニックに陥った原因でした。

しかし、部品供給の問題が解消されると、アメリカ全土のディーラーに大量に見込み発注していた全メーカーの車が入ってきます。さらに、当初車が不足していた際、ディーラーはお客さんの足元を見て高いグレードの車を発注していたため、在庫が膨れ上がりました。その結果、値引き競争が始まり、利益が削られることになりました。そのようにして失ってしまった利益が、今回の日産の決算に表れています。

(深田)
そういう流れだったのですね。アメリカの車がどのように売られているのか、分かっていませんでした。日産の利益が失われてしまった原因には、在庫が積みあがってしまったということがあったのですね。

(池田)
そうです。カルロス・ゴーン時代の戦略が影響しています。彼はリストラの天才と言われる一方で、攻めの戦略には弱みがありました。中国市場が成長していた2000年代に次の成長市場として ”ASEAN” を狙い、日産が昔使っていた伝統あるブランド「DATSUN」をリフュージョンブランドとして展開しました。しかし、新興国の経済事情の立ち上がりが予想よりも振るわず、投資は失敗に終わりました。

その時代「利益率」は上がっていましたが、それはカルロス・ゴーンがリストラで原価を絞りに絞っていたためであり、売上も利益も高くありませんでした。ですので、投資するための原資は元々あまりない。それを捻り出すために、アメリカと日本の新車開発費を止めて、それを東南アジアに投資したのです。生命線として今増えているマーケットである日本とアメリカへの投資を止めて、これが中国市場並みに化けたら大逆転というギャンブルをやったのです。決定したのが誰かは知りませんが、「ゴーン時代」におこなわれたことです。

(深田)
ここ3年くらいハイブリッドやガソリン車の新車開発に全然お金を割いていなかったため、マーケットがEV推進から『ハイブリッドやガソリン車の方がいい!』と流れが変わった時に売るものがなかったという話を、元日産のエンジニアから聞きました。

(池田)
そこは少しだけ違っています。日産は2011年に世界で初めて量産EVを始めました。EVは元々『原子力の深夜電力を使って充電』というプラットフォームと一体になったプランでした。カルロス・ゴーンがフランス出身ということもあり、原発推進にメリットが出るような形になっていたのです。ところが、発売3ヶ月後に3.11(東日本大震災)が起こり、原発が全部止まってしまいました。それによって、安い深夜電力と一体になっていたプランが全て駄目になってしまったのです。

(深田)
自動車は各国のエネルギー戦略にかなり左右されるのですね。

(池田)
はい、そうなのです。それでオイルショックの時も大変なことになりました。話を戻すと、『原子力の深夜電力を使って充電』というプランが3.11によって駄目になってしまったため、リソースをリクープできなくなってしまいました。                  

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※リソース:目標達成するための「資源」。
※リクープ:損失を取り戻し、費用を回収すること。
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これを回収するために、2016年にエンジンで発電して、モーターで走る『e-Power』というものを出しました。つまり、電気からあとはEVと全く同じ仕組みです。

EVの場合はバッテリーから電源をもらいますが、e-Powerの場合はエンジンで発電して、その電力で走ります。e-Powerというのは、ハイブリッドなのです。現在の日産の屋台骨を支えているのは、このe-Powerなのです。

ヨーロッパの自動車メーカーがEVの開発に全振りして困ってしまい、”すぐにハイブリッドやプラグインハイブリッドを作らなくちゃ”と、いま必死になっていますが、日産はそのフェーズを2016年にすでに終えています。e-Powerというハイブリッドも出しています。しかし、e-Powerのシステムは、どちらかというと小さい車用なのです。大容量の発電を、ずっとエンジンでおこなうことには大きな負荷がかかります。エンジンとモーターを両方ともボンネットに収めなければならないため、どちらも大きいサイズでは積めません。それなので結局、昔の日産でいうとサニークラスよりも下、トヨタだとカローラより下のサイズの車に主に使うことになります。

今頑張って、”エクストレイル” と “セレナ” にそれを無理やり積んでいますが、それよりも上のサイズの車に積むことは難しい。ところが日産のアメリカでの主力は “インフィニティ”。もっと大きいセダンです。

(深田)
そうですよね。アメリカでは小さい車ではなく大きい車に、皆さん乗ってらっしゃいますもんね。

(池田)
僕たちはBセグとかCセグというのですが、”マーチ” と”サニー” 系統がこれに当たります。このクラスはアメリカでは軽自動車扱いなのです。都市内で使う足車です。

それよりも大きい車になると、インターステート・ハイウェイ(州間高速道路)を走って、隣の州まで行く車ということになってきます。日産にはこのクラスの車に積めるハイブリッドがまだないのです。それから日産の戦略の一つの誤りは、2016年にe-Powerを日本でリリースしていたのに、少しもアメリカに投入していなかったことです。去年発表した投入計画は、なんと『2025年』です。

(深田)
そんなに遅いのですか。

(池田)
そうです。日産は、「アメリカの需要は大型車なので、大型車用のハイブリッドは持っていない」ということが理由だったのだと思います。とはいえ、小型車だって一定の需要はあるのだから、早めに投入しておくべきだったと思います。

(深田)
そうですよね!

(池田)
今回、上半期の決算の時に、「アメリカのハイブリッド化はもっと遅いと思っていた」「それは間違いだった」と日産は認めました。

アメリカにハイブリッドを投入しなかったという意味では、ハイブリッド化の遅れというのは確かです。しかし、欧州のメーカーのように方向間違いで、”ハイブリッドに全く手を付けていなかった” というわけではありません。

(深田)
ハイブリッドはあったのだけど、間に合わなかったということですね。

(池田)
はい。小さいサイズのe-POWERは、日本・ASEAN・南米で売れています。ところがASEANと南米には、中国が過剰生産したEVが、ものすごく安い価格でどんどん投入されています。叩き売りです。これに売上を奪われています。

日産は運も悪いのですが、舵取りも間違えています。それが僕が見る今回の上半期決算の理由です。

(深田)
日産は今、三菱自動車の株を売って700億円位は調達し、手元の資金を調達すると言っています。しかし、格付会社からは「BBB+」から格付けを格下げすると言われています。リカバリーにはどれくらい時間がかかりそうですか?

(池田)
三菱の株を手放したことに関しては、日産の説明によると、前々から計画していたことであり、今回のタイミングと偶然合ってしまっただけなので、手元資金が足りないと言われていますが、手元の流動性は大丈夫です!と、ものすごく強調しています。

「キャッシュは大丈夫。このことはあくまでも三菱とのアライアンスを考えていく上で、三菱の裁量権を上げる方がアライアンスにとっていいだろうという判断で手放しました」ということを日産は言っています。

日産がこれからどうしていくかということについてなのですが、日産は元々700万台くらいの生産キャパを持っていました。それを今の内田社長になってから、500万台強くらいまで落としてきました。

700万台というのは、中国の成長とASEANの成長を見込みすぎていた話であり、とにかく博打のようでした。

(深田)
しかも、ASEANと中国は、最も中国メーカーにマーケットを取られているところですよね。

(池田)
そうです。中国に関しては、中国政府の方針が変わって、外資に儲けさせるのはもう嫌なのです。だから、国内メーカー優先優遇策をどんどん出しています。これは詳細を調べ切れていませんので、印象論になってしまいますが、世界中の外資の自動車メーカーは、もう中国は頼りにならないと撤退方向の流れです。政策側がそのような流れにしています。”技術を移転するのは十分終わった” ということです。

(深田)
そうですよね!移転した技術で中国だけが大儲けし、移転した方はマーケットを取り込めず、取られてしまっただけになってしまった。

(池田)
僕がヨーロッパの大きな失策だと思っていることは、中国にものすごく色々なことを教えたことです。環境規制のやり方や基準も揃えさせたのです。ドイツが狙っていたことは、同じ基準にしておけば輸出の量がどんどん増加する、儲かるという見立てだったのですが、「それは危ない」と僕は当時から言っていました。同じルールにするということは、こちらから向こうに送り込めるだけではなく、向こうからも流れ込んでくるということです。

(深田)
そうですよね。結局EVの中でも一番儲かるバッテリーのマーケットを中国に持っていかれたということですよね。

(池田)
そうなのです。作戦立案だけはやったのですが、現実性のないプランでした。どういう意味かというと、ヨーロッパのバッテリー工場を北欧に作ろうとしていたのです。特にノルウェーは水力発電がほぼ100%だから、バッテリーに国境炭素税をかけるとヨーロッパのバッテリーだけ、環境にいいバッテリーということになります。そして中国などでは石炭の発電をたくさん使っているので、そこから入ってくるバッテリーには多くの税金をかけて排除してやろうとしたのです。

(深田)
そういう目論見をしていたのですね!

(池田)
そうなのです。ノースボルトというバッテリー会社は、ヨーロッパの自動車メーカーとみんなで作ったのです。

(深田)
ところがリチウム鉱山そのものを、根っこの部分を押さえられたということですか?

(池田)
計画が発表された当初から、「原材料の入手はどうするの?」と僕は思っていました。

(深田)
えっ!?その構想は作ったけど、リチウム鉱山の方は押さえていなかったのですか?

(池田)
そうです。ヨーロッパはいつも「抜け策」なのです。大枠のプランができると、「いいじゃん、それ!」となる。アジア人を舐めているところもあると思います。

(深田)
そうですよね。「EV推進で日本車をヨーロッパから追い出してやる!」ということをやって、気がついたら中国に乗っ取られていたということですね。

(池田)
そうです。人を落とそうと思って落とし穴を掘って、自分が落っこちるというのが毎回のパターンです。歴史的にたくさんやってきました。

(深田)
この後、日産はどのようにリカバリーを図る予定なのでしょうか?

(池田)
500万台減らしたのを、次は340万台まで落とすと言っています。それをどうやってやるのかというと、工場をどんどん削減するのではなく工場の速度を落とす。速度を落とすと回転率が落ちるのですが、設備を温存したまま原価を落としていける。では、そのペースを落とすために何を削減するかといったら、人の配置を変える。もっとゆっくり回すなら、もっと少ない人数で回せる。だから、9000人のリストラなのです。プラン自体はとてもよくできています。本当にできるかどうかは、また別の問題です。

(深田)
労働組合が強いとか。

(池田)
そうです。色々な問題があります。
これをやっておかないと340万台まで縮めた後、もう一度成長の軌道に乗せなくてはいけない時に、当分手元にお金はないので、工場を新たに建設することはなかなかできません。なので、今ある工場を温存しながらペースを落とすことで、どうやってコストを落としていけるかという闘いを、いま日産はやろうとしています。

(深田)
しかし、その割には開発費は全く削らない。6500億円、据え置きですよね。

(池田)
はい。しかし、今はバッテリーなどの競争はやっておかないといけないので、開発費はどんなに苦しくても削れないのですよ。もっと言えば、先ほども述べたように、大型用のハイブリッドを何とかしなくてはいけないじゃないですか。

(深田)
確かに、そこはやるべきですよね。

(池田)
開発費は日産にはとても必要なのです。

(深田)
それなのに、足元絶不調という状況ですね。

(池田)
その中でどうやって撤退戦をやりながら、しかも撤退のスケールの中に再浮上する時のための設備を削らないでできるかというところで、日産は今、一生懸命計画を立てて、実現できるかどうかというところにいます。

(深田)
今後の日産はEV終了後というより、マーケット環境も変わったので大型のハイブリッド。もともと計画していたとおり、アメリカにe-POWERを入れて。

(池田)
アメリカにe-POWERを入れて、ある程度下支えしながら頑張って研究開発費を工面して、もう少し大型のSUVなどに使えるハイブリッドを開発するか、例えば三菱などアライアンスの中から調達するか。そういったことをやっていかなければならないでしょうね。

(深田)
そうすれば、何とか蘇ることができるかもしれない…?

(池田)
そうですね。ホンダからの供給も今アライアンスの組み直しをやっているじゃないですか。

大型モデル用というのはどちらも必要なので、アメリカのマーケットはホンダも重要です。ホンダの場合の大型のハイブリッドは、e:HEV/EV に近いハイブリッドというものがあるのですが、これで大型エンジンを作って、それを日産とシェアするような形になると両者にとって大きなメリットがあるかなと思って見ています。しかし、本当にそこまで話が進んでいるかどうかは、社内で揉めていて大変だろうなと思います。もともと社風があまり合う会社ではないと、僕は思うからです。

(深田)
そうですよね。ホンダの中も今ゴタゴタしている状況があるようです。
二輪の儲けをEVが喰っている。二輪が絶好調なのに、EVに現を抜かすなんてといったような。

(池田)
社内の中にはそのような雰囲気があるでしょうね。

(深田)
そうですね。なかなか難しいかもしれませんが、日産が蘇ってくれたら日本人も安心です。

(池田)
そうですよね。日本人の中に「日産なんか潰れてしまえ」と思っている人はいません。みんなエールを送りながら、「不安だよ」と思って見ている状況ですよね。

(深田)
そうですね!
今回はモータージャーナリストの池田直渡先生に、日産不調の原因と、その解決策についてお話をいただきました。池田先生ありがとうございました。先生、どうもありがとうございました。

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