『暗殺教室』赤羽業~岡本信彦が吹き込んだ危険なカリスマ~
『暗殺教室』の赤羽業。
筆者が選ぶ、岡本信彦演じる優しげイケメンボイスの代表的キャラクターだ。人懐っこい仕草をしておきながらも、その裏には危険なオーラを隠している。怪しげな笑みを浮かべている彼には決して近づいてはならない。そんな少年。
今回は、最強生物殺せんせーを幾度も追い詰めた一人の暗殺者について語っていきたい。
物語の舞台は椚ヶ丘中学校の、落ちこぼれの生徒が集められた3年E組。通称「エンドのE組」。そのE組の生徒たちの元に突如現れた新しい担任教師「殺せんせー」は、タコのような見た目をした超生物で、実は地球を破壊しようとする存在だった。殺せんせーは生徒たちに暗殺の機会を与え、卒業までの1年間だけ教師として彼らを指導することに。生徒たちは、日常の学習と共に殺せんせーの暗殺に挑む一方で、彼から様々な人生の教訓を学び成長していく。
筆者が初めて『暗殺教室』の単行本を手に取ったのは中学生の時である。2012年から週刊少年ジャンプにて連載されていたこの作品は、全国の学生の間で大きな反響を呼び、一躍有名となった。筆者も当時ドハマりし、単行本を全巻購入し、アニメも全話視聴した。
『暗殺教室』の魅力はなんといっても、生徒一人ひとりに焦点が当てられるところにあるだろうと筆者は考えている。26人(+2人)全員の個性が尊重され、物語の中で誰一人モブとして扱われることは無い。E組は全員揃ってこそのクラスであるということがポイントなのだ。
そしてそんなE組の出席番号1番こそ、赤羽業である。
名前の読みはカタカナ表記の「カルマ」で、なかなか珍しい。赤い髪で背が高く、女子から「見た目だけは良い」と言われるぐらいのイケメンである。普段の素行のせいで少し評価を落としている次第だ。
運動神経がよく、喧嘩も強い。学力に関しても学内でトップを争うほどの実力を有しており、本来なら上級クラスに所属しているはずの生徒であった。優秀な成績に免じ、普段の問題行為を不問とされていたのだが、とある出来事がきっかけで教師に見放され、停学の末にE組への移籍となってしまったという経緯がある。その件で、彼自身も教師という存在に失望していた。そんな中、殺せんせーと出会うことになる。
筆者の考える赤羽業の一番の魅力は、作中での彼の成長する姿と心境の変化にあると思う。
赤羽業は学業に関しても暗殺に関しても、成績こそ優秀ではあったが、精神的に完成していなかった。クラスの中では割と物事を達観しているタイプであったが、しかし決して大人びているかといえばそうではなく、思春期の中学生らしい悩みも持ち合わせている。非現実的な中二性を持ちつつも、リアリティを感じさせる等身大の中学生像というのが、彼の良さを引き出している。意外とクラスメイトのことを大切に思っているところも、なんだかギャップを感じて、好きだ。
作中での主人公潮田渚との対比もまた、彼のキャラクターを構成する上で重要なポイントだ。
この2人は親友というポジションでありながら、時に意見や方針の食い違いから衝突することもあり、作中において対照的な部分が際立つ場面が多い。それぞれの赤と青の髪がそれを分かりやすく表しているのだろうか、と筆者は考えている。また、潮田渚は人の感情を見抜くことに長けているのに対し、赤羽業は人の適性を見定めることに長けている。この辺りの違いも、物語を左右する要素となってくるため、注目したいところだ。
『暗殺教室』のアニメは2015年に公開されたもので、2016年まで2シーズンで完結している。この時期はちょうど岡本信彦氏が『とある魔術の禁書目録』の一方通行役や『ハイキュー!!』の西谷夕役として出演した後の頃だ。そのためか、岡本氏の飄々とした演技に、今よりも少し若い雰囲気を感じられる。それが、中学生の赤羽業の声としてちょうどよく当てはまっていたと言えよう。
アニメで初めて赤羽業が登場した場面はかなり印象的だった。
停学明け、校庭で体育の授業をしていたクラスメイトの前に姿を現した赤羽業は、初対面の殺せんせーに対してフレンドリーな様子を見せた。それに応じて親密な態度で言葉を交わす殺せんせーだったが、差し出された彼の手を握った瞬間、黄色の触手が崩れて飛び散る。
赤羽業は自身の手のひらに対殺せんせー暗殺用特殊素材のナイフを細切れにして貼り付け、握手を装って攻撃を仕掛けたのだ。この攻撃こそ、E組が殺せんせーに与えた最初のダメージとなる。
殺せんせーは赤羽業の殺気に気付くことが出来ていなかった。彼は巧妙にオーラを隠し、油断していた殺せんせーの懐に潜り込むことに成功したのだ。
このシーンをアニメで見てみると、最初に殺せんせーに挨拶をした時と、不意打ちを仕掛けた後の彼の声音の変化に感動する。短いシーンではあったが、攻撃前と攻撃後では演技の仕方に大きな違いがある。攻撃前は、穏やかな口調ではありつつも、不良生徒らしさを感じさせる多少の粗暴さが見え隠れするような声だった。が、攻撃後には態度が一変。揺れる低い声にシフトチェンジし、圧をも感じる冷たい声音となる。
慌てて後方に距離を置いた殺せんせーの元に近づき、「先生、もしかしてちょろい人?」と煽るシーン、無茶苦茶良かった。最高のパフォーマンスであった。
『暗殺教室』は近年あまりその名を聞かなくなってしまったが、ジャンプ史もとい漫画史に残る不朽の名作であると、筆者は評価している。
中学生×暗殺という独創的でファンタジーな設定にも関わらず、どこか親近感さえ覚える、そんな作品。赤羽業をはじめとするキャラ一人ひとりが生き生きと描かれ、E組と共に喜び、共に怒り、共に悲しみ、共に楽しんでいるようなリアリティに没入できる。中学時代の青春を一緒に味わっているような感覚にさせてくれるのだ。原作者松井優征先生のセンスに、脱帽。
アニメはシーズン1、2で計47話あるが、絶対に観て後悔しないだろう。この作品ほどラストの展開に感動し、「観てよかった……」と最後まで思えた経験は数少ない。
実は先日からまたこのアニメを視聴しはじめ、記事のこの部分を書いている今、ちょうど「最後の出席確認」のシーンに差し掛かったのだが。いやもう、涙で前が見えない……。
それでは、また。
(文章:和田)
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