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「新妻エイジ」を軸に語る「バクマン。」の話。

(タイトル画像はバクマン。11巻の表紙より引用)

「自分がアニメオタクになった理由の作品」や、「一番好きな作品」「至高の作品」を他人から聞かれると困るというのはアニオタあるあるであり、
むしろ、断言できる方が少数派で、歴が浅いオタクか一周回ってぶっ飛んだ一点特化型のどっちかであるといえます。

例に漏れず僕も断言できない側の人間です。


但し唯一、断言できること
「アニオタのルーツとなった作品」「バクマン。」であるということです。

「高校時代の陽キャグループが今期のドラマ、K-POPアイドルの話題をするかように、文化部の部室かTwitterで深夜アニメと流行りのソシャゲについて語り明かす側の人間」

これに近い人を広義の「アニメオタク」の定義とするならば

ここでの「ルーツ」の定義
「アニメオタクになる前に見ていた比較的メジャー作品の中で、その後の自分のコンテンツの嗜好に大きく影響を与えた作品」
です。

それが僕にとっては「バクマン。」です。


この作品のイレギュラーさ


基本情報として、

週刊少年ジャンプで連載されていた漫画(2008年~2012年)であり、
テレビアニメ(2010年~2013年)はNHKEテレで放送。


原作大場つぐみ先生、作画小畑健先生という「DEATH NOTE」のコンビ
(小畑健先生は「ヒカルの碁」などの作画も担当)
ジャンプ漫画なのに勧善懲悪を否定した名作を生み出したコンビ、
次に生み出したのはなんと漫画家を主題とした漫画
しかもリアル思考「ジャンプで連載する」という作品で、
実在の編集者をモチーフにしたキャラなども登場します。

主人公は後で解説しますが
真城最高(サイコー)と高木秋人(シュージン)の2人。

ある種、「どうすれば漫画家になれるのか?」という問いに答える作品。
当時、小学生だった自分にとってはとてもセンセーショナルなお話で、
毎週欠かさずに見ていました。

ただし、

「これを見て漫画家を志したって話?」

と聞かれたら、否。
断じて、否。

むしろ「シビアすぎて漫画家にはなれない」
と感じるほど突き詰めたリアル志向に圧倒。
作中の「天才」相手に一矢報いんとする漫画家の姿を見て
熱中と同時に強い諦念を抱かせる作品という説明がしっくりきます。

「バクマン。」というタイトルも1話「夢と現実」でのサイコーの
「漫画家なんてなれねーよ」
「なれるのは本当に才能を持って生まれたごく一部の天才」
「あとはただの博打打ち」

というシニカルでシビアな主人公の価値観から来る
「博打漫画」から来ているともいえます。

ちなみに最終話も同じタイトルで無理やり感がないのもこの作品のオシャレポイントです。

この作品における「天才」は、若き漫画家「新妻エイジ」です。

新妻エイジが明確に天才と表現されている点の中で最も分かりやすいのは
「2人組の主人公コンビ(作画&原作)」「1人の漫画家」と競うライバルというポジションを置かれているポイントです。
一人の天才に二人で立ち向かう、けどもなかなか敵わない。
故に奴は天才、っていう話なんですよね。




余談ですが、うちの大学、成蹊大学吉祥寺にある大学なのですが、

新妻エイジが上京して仕事場にしていた地が吉祥寺であるという、
数奇なつながりもあります。

モデルとなった建物は既に建て替え済で、

取り壊されたエイジの仕事場


現在はヤマダLABI吉祥寺店となっています。
アニメとか今見ると毎朝観る風景すぎて10年前とは違う感想を抱くのかなと考えたり…


フィクションとはいえあんな駅前一等地のマンションが仕事場っていうね


キャラ紹介

真城最高(サイコー)
cv阿部敦さん
漫画家コンビ、亜城木夢叶の作画担当
過労で死んだ叔父(川口たろう/本名真城信弘)が元ジャンプ漫画家の
漫画に詳しい埼玉の中学生(当初)。
当初は漫画への熱を失い冷めた目で人生を過ごしていたが、
シュージンに漫画家に誘われるも、最初はひねくれ断りを決め込むも、
そのまま流れで亜豆美穂(声優志望)にプロポーズをする。


高木秋人(シュージン)
cv日野聡さん
亜城木夢叶の原作担当
サイコー、亜豆と同級生。
学年主席の優等生でありながらも漫画への情熱を持つ。
その文才を生かした原作を書き、サイコーに漫画家になることを打診。
黒縁眼鏡とヘッドフォンが特徴。趣味は人間観察。
原作として得意ジャンルは邪道系漫画(実例:DEATH NOTE的な)
幼少期は教育熱心な母親に詰め込まれるもある時反抗して、
以降は家族と不仲。

亜豆美穂
cv早見沙織さん
サイコー、シュージンと同級生の清楚美女。
美人、上品、声が上品、声で一目惚れ。
声優志望の中学生(最初)でサイコーとお互いの夢がかなったら
結婚、それまではメールと電話という変なプロポーズを受ける。
つまり両片思い。
後に引っ越してサイコーとは離れ離れに
実は母親はサイコーの叔父と過去に文通をしていたものの、
別の相手と結婚してしまったという数奇な縁も。

新妻エイジ
cv岡本信彦さん
青森出身の天才漫画家。
サイコー・シュージンの代の1個上。
15歳でジャンプ連載デビューする。
王道系バトル漫画(実例:ワンピース・ドラゴンボール)を得意とする。
人気投票1位。

※雑学ですが阿部敦さん、日野聡さん、そして岡本信彦さんの3名は
別のライターが紹介する「とある魔術の禁書目録」の3人の主人公の声優さんでもあります。ラノベとジャンプ漫画の面白いつながりだよね。
今回の企画ではちゃんととあるの記事もあるので読んで欲しいですね。

なぜ天才なのか?


バクマン。について個人的にはサイコーの叔父である川口たろうの話、作中屈指の有能編集者服部哲の話、福田組の話などいろいろ書きたいテーマはありますが、

今回はこの新妻エイジを軸に書く記事です。

初登場時を除けば天才っぽいキャラの中でも嫌味さは少ない人物です。
しかし、世の中や(漫画を描く上での)セオリーを知らないことも多い。

でもしっかりと同業者にリスペクトを持っていて
かつ、漫画についてブレていないという面白さがあります。


最初に登場した際の編集長に向かって言い放った

バクマン。2巻より引用

「もし僕がジャンプで一番人気の作家になったら、僕が嫌いなマンガをひとつ終わらせる権限をください」
という一番印象的なフレーズを残した、破天荒(前例がないという意味の方)なキャラクターです。

天才な理由を説明するとすれば

1.書くのが速い

田舎で漫画を描くしかやることがなく、6歳からずっとペンを握って生きてきた新妻エイジは、片方は原作は別とはいえ、一時は週刊連載を同時に二本抱え、その上でどちらもアンケート上位の常連、質をキープしつつのスピードが天才的です。
彼にとって漫画を作るのは呼吸をすることであり、作っていなければ死んでしまうとさえ評されています。
実際に「CROW」という初連載の代表作の2話と3話のネーム(構図などの下書き)を30分で書き上げてしまいました。


2.10年に一度の逸材

考えないで描ける。頭の中にないのにスラスラと描ける。好きなキャラは勝手に動き、動かしたくなってどう動くか自分でも楽しみで止まらなくなる、
その上で、そうして生まれた作品が非常に面白いのが彼の恐ろしさです。
更に他の漫画家のアドバイスを取り入れて短時間で面白くする柔軟性も持っています。
一方で、恋愛経験が薄く恋愛漫画は不得手という人間らしい点も。

3.「漫画」を観る目、及び姿勢

作中において「原作を本人が書いていない」「代わりに誰が書いたか」「連載するための大会において誰が勝つか」などの漫画に関わる予想、これはもはや予言の域です。
姿勢について仲間が休載を強いられた時には一緒になって抵抗しますが、
実力で打ち切りになった場合は手を貸さないというプロ意識の高い反応を示しました。


バクマン。18巻より引用

「CROW」を描いた新妻エイジは世代のトップランナーであり、
亜城木夢叶にとって追いかけるべき背中でありました。

一方、亜城木夢叶作品

人間の脳内情報を携帯端末で売買できる未来世界を舞台とし、
文字通り「金と知恵」で頂点を目指す「この世は金と知恵」

詐欺師で探偵の主人公が変装などのトリックを駆使し、
犯人を罠にはめて捕らえる初連載作品「疑探偵TRAP」

本当に些細でバカらしい悪戯を、いかに「完全犯罪」に仕立て上げるかを
実行する小学生を主人公とした「PCP -完全犯罪党-」

上記のようなストレートな友情・努力・勝利ではない作品が多く
エイジのような「勝手にキャラが動いて考えないで漫画が描ける漫画家」
ではなく、亜城木夢叶「頭で打算的に考えて作る漫画家」
故にエイジ自身には描けない面白い作品があるため、
彼は亜城木夢叶のファンを公言しています。



王道系作品を得意とするエイジというライバル、
邪道系作品を得意とするシュージンという主人公、
そんなシュージンの原作に合った劇画を描けるサイコー。


これ以上具体的に語りすぎるのはネタバレがすぎるので、
紹介は控えようと思います。
実際読んでいろいろ主人公コンビの思想の強さとかを感じてください!

考察


ここからは考察をしていこうと思います。

バクマン。に多く出てくる「王道」「邪道」というフレーズですが、

王道作品の定義はおそらく「ONE PIECE」「ドラゴンボール」「NARUTO」などであると作中でも定義されています。

対する邪道系作品は作中の実在作品での定義はありませんが、

前述した通り、僕の思う実在邪道作品の代表は、
同じ作者の「DEATH NOTE」です。なぜならエグイ話だから。

ただしそれだけではなく、
勧善懲悪から生まれたにもかかわらず、
最終的には悪に染まり罰を受ける主人公の作品です。

加えて細かくは書けませんが、
僕は亜城木夢叶の作中最後の作品には
DEATH NOTEのセルフパロディ的な側面も強く表れています。
故にリアル邪道作品のうちの一つはDEATH NOTEが当てはまるという結論になります。

ほかの純粋邪道作品でいえば、Web or となりのヤングジャンプの
ワンパンマンとかも王道作品のアンチテーゼ的なところが本質なので皮肉さも条件足りえるのかな~と考えています。

では、バクマン。の連載終了後はのジャンプはどうなるでしょうか。
傾向として、どのタイプの作品が多いのか見てみます。

2010~2020年代のジャンプにおける代表的な漫画といえば
「僕のヒーローアカデミア」
「鬼滅の刃」
「呪術廻戦」
「チェンソーマン」

が該当します。

また、ジャンプではありませんが、バトル要素もあり、
編集者に「ジャンプ持ってこい」と言われた
「進撃の巨人」
も近年の有名なヒット漫画であるといえます。

さて、僕の今回の主張(仮説)としては、
近年のヒット漫画はダークな要素を含んでいる
すなわち「邪道の王道」が流行っているのではないかというものです。
これが正しければ、邪道の王道が最終的な結論となった
バクマン。時代が追いついたのではないかというものです。

(2021年のリアルサウンドブックの記事を引用)

っていう話を思いついて数日後にこの記事を見つけて、
「自分だけが気が付いた!!!」と勘違いしていた恥ずかしさはありますが

考察していきます。

※100%王道要素のみの作品もなければ、100%邪道要素の作品も存在しないという大前提の上、比率としてどっちに寄っているのかについての考察です

※話が取っ散らかってると思われるかもしれませんが、バクマン。が漫画内で漫画を描くというマトリョーシカみたいな構造の作品なので、
ここで漫画を語ることこそ最大のバクマン。の紹介であるという考えの下で進めるのでご理解の方をお願いします。

最初に、チェンソーマン進撃の巨人邪道な王道バトルのど真ん中でしょう。

戦闘シーンやその描写、天才的な伏線は王道作品の要素を満たしつつ、非常で死人が多いというか死人を数えた方が早いというのは平和な大団円へのアンチテーゼであるため、邪道さと解釈できます。
七個集めても誰も蘇生しないし。

鬼滅の刃呪術廻戦も上記の2作品よりも王道ですが、
昔の王道ジャンプ漫画と比較すると邪道の要素が強いなと思います。

よって昔よりも大小の差はあれど、邪道要素の強い漫画が増えたという僕の予想はやはり当たっていると思います!

考えられる理由として
漫画の文化が進めばやりつくされて真新しいジャンルはなくなるため、
ある種の裏をかいた作品でないと意外性を持てなくなることと、
ニッチすぎずある程度王道で大衆に受け入れられるものでないと
支持を得られないことがこのタイプの漫画が増えた理由と考えました。

また、業界の裏の話の要素も強い「推しの子」とかが流行ってるのもあり、みんなB面、裏側が好きというか興味を持つ世の中なのかな…
本質的にはやってること逆張りオタクですけどね。

余談ですが、作中で新妻エイジが宇宙ゴキブリの話を持ち出したことがありますが、その後実際にテラフォーマーズが生まれて、帯の推薦文をエイジが務めたことがあります。

僕個人の意見としては、新妻エイジは今のリアルなジャンプについて、漫画についてどういう意見を持つのかな、って少し気になりますね。

本当に長文でしたが、最後までご覧いただきありがとうございました。
(文:Spring)









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