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トランプ氏の相互関税はアメリカに利益をもたらすか?

2025年2月、トランプ氏は各国の貿易関税に対応する関税を課す「相互関税」の導入を目指していると報じられた。

米国が巨額の貿易赤字を抱えていることを問題視しているようで、また雇用者確保の意図もあるかもしれない。

日本は自動車関税がゼロだったり、コメや肉以外の関税は全般的にかなり低い水準にあるものの、米国にとってはそれでも貿易赤字の相手国であり、その理由を「構造的障壁がある」とこじつけている。

相互関税の期待効果は二つ

今回の相互関税導入で、相手国があわてて関税率を下げれば輸出が増えることが期待できるし、もし相手国が関税率を下げない場合は同じだけの関税を課すことで輸入に制限を掛け、結果として米国内に工場を設立させることで米国人の雇用が増えることが期待されるため、どう転んでもメリットがあると踏んでいるようだ。

この政策でアメリカの貿易赤字は解消されるのであろうか。

赤字解消の可能性は低い

アメリカが貿易赤字に陥っている理由について、第一生命の齋藤氏が簡潔に指摘している。氏のレポートによれば貿易赤字の理由は主に

・国内消費が旺盛だから(注:輸入品需要高い)
・ドル高(注:輸出品の価格競争力が低く、輸入品が安い)
・賃金が高い(注:同上)

第一生命経済研レポート2017.07「どうして米国は貿易赤字??」https://www.dlri.co.jp/pdf/dlri/04-20/1707_a.pdf

の3つということになる。
いずれも関税率を動かすことで根本的に解決できるものではないことがないことがわかる、それどころかいずれも米国経済が好調であることを示しており、そもそも貿易赤字が米国にとって致命的な問題なのか疑問符が付くところでもある。

価格競争力をくつがえすほどの効果は期待できない

とくに価格競争力の面で、米国のコスト高とドル高を関税政策だけで打ち消せるものか疑問である。
米国内に工場を誘致しても米国は人件費が高いので結局は価格競争力の面で輸入品に勝てない可能性がある。
トヨタなどが工場をメキシコに持っているのは輸送コストもさることながら人件費が安いからである。これに関税をかけたからと言って米国内に工場を作る、とはならないのではないか。
それどころか原材料費が関税によって高くなり、米国内工場で生産するほうがコスト高になる可能性すらある。

移民抑制政策との相性が悪い

相互関税により、それを回避するために外国メーカーが米国内に工場を建設したとして、その増えた工場の従業員をどう確保するのか。アメリカの失業率は現時点でもそれほど高くない。
トランプ政権は移民を制限する方針なので、労働者が不足するか、しないまでも高い賃金水準が維持されることになる。となると価格競争力で結局は輸入品に勝てない可能性がある。
つまり移民抑制政策と関税による工場誘致政策は、相性が悪いと言える。

米国製品自体に魅力があるのか?

また、貿易においては価格だけがすべてではない。そもそも輸入したくなるような魅力的な商品でなければならない。
さきに紹介したとおりアメリカは日本に対して「構造的障壁」があると指摘したが、これはおそらく自動車のことを指していると思われる。
というのも日本は輸入車に関税をかけておらず、外国メーカーにとって勝負しやすい市場であるのだが、アメリカ車の売れ行きは一部を除いて大したものでないからだ。

実は以前も日本の構造的障壁として「軽自動車規格」を批判してきたことがあった。日本政府の増税志向も相まって軽自動車税が若干増税されたものの、「アメリカも軽自動車を作ればよい」というもっともな反論も根強く、抜本的な改定とはならなかった。
そもそもどの国のメーカーの車でも、規格さえ合致すれば軽自動車として認定される。かつてはスマートというドイツのメーカーが軽自動車を販売していた。

米国車はそのサイズや性能、デザインが日本市場に合わないのもあるが、そもそも右ステアリング仕様を設定しないケースが多く、それだけでも不利になっている。右ステアリング仕様を用意しているジープなどは米国車だが日本でもよく売れていた("た"としたのは昨今の急激な値上げで売れ行きに急ブレーキがかかったから)。
そういう意味ではメーカー自身の努力不足の面があるのだ。

もしかすると逆効果かも?

ということで、相互関税を導入しても米国製品が売れるようになるとは限らないし、米国内に工場が増える保証もないし、増えたら増えたで移民抑制のせいで賃金が高止まりする可能性があるしで、いまいち米国の製造業が活性化する未来が見えない。
また、関税率の上昇は米国内の消費者にとってはデメリットである。欲しい商品が買いにくくなったり、物価が上昇することで、むしろ米国民の不満が高まる可能性もある。

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