第16回 成城学園正門前で撮影された映画
引き続き、成城学園の風景が見られる映画篇。今回は、当学園正門前で撮影された映画をご紹介しましょう。
成城学園では牛込からの移転後、1928(昭和3)年に現在の場所に門を設置。門はその時のものが綿々と維持され、街と一体化した「開かれた学園」のポリシーどおり、敷地を閉ざす門扉は今でも設けられていません。
映画の中で、筆者が最初に確認した学園正門の姿は、加山雄三がスポーツ万能で大食い、歌も上手くてお年寄りに親切な田沼雄一という大学生を演じた‶若大将〟シリーズの第三作『日本一の若大将』(62/総天然色:当時はカラー作品のことをこう言った)にて。若大将は京南大学の学生ですから、当然この校門にも「京南」の名が刻まれています。この門は、もちろん東宝の美術スタッフによる‶作り物〟ですが、いかにも大時代的で、まったく成城らしくないのがご愛敬。次作の『ハワイの若大将』(63)で雄一は、カンニング容疑(もちろん青大将絡み)で停学を命じられたことから、砂利敷きの正門前で、父親の久太郎(有島一郎:成城五丁目住まい)から‶お約束〟の勘当を申し渡されてしまいます。
次に発見したのが、日活の『女を忘れろ』(59)というモノクロ映画。石原裕次郎作品で実績を挙げていた、舛田利雄監督によるハードボイルド・アクションで、主演は若き日の小林旭。‶マイトガイ〟の呼称が定着する直前のアキラがボクサー崩れのドラマーに扮し、「東邦女子大」学生役の浅丘ルリ子の下校を、門前で待ち受けるというシーンが、なんと当学園の正門前で撮影されていたのです。
何気なく購入したDVDの中に成城の風景を発見したのは初めてで、狂喜乱舞したことはともかく、1958年末に撮影したと思われるこの映画では、正門前に立つ松の木の本数が今より多いだけでなく、並木を成すいちょうの木も、現在と比べてかなり細いことに気づかされます。南口駅前から移転してきたばかりの成城堂書店は、2017年に解体された時とほぼ同じ外観を見せており、これも驚きです。いや、もっと驚くのは書店横の道から小田急バスが姿を現すこと。マイトガイなら馬で去っていかねばならないところですが、アキラは正門前に停車するこのバスに乗り込み、成城を後にしていきます。
なお、前号で紹介した『思い出の指輪』(68)にもヴィレッジシンガーズの面々や山本リンダがいちょう並木を走る小田急バスに飛び乗るシーンがありましたが、この当時、並木道を走る路線バスはなかったとのことなので、これらの車両は撮影用に特別に借り出されたものだったのでしょう。
学園の正門で撮影された映画には、以前紹介した『唐手三四郎』(51)や『まごころ』(53)、『サザエさんの新婚家庭』(59)、さらには『狂熱の果て』(61)や『夢のハワイで盆踊り』(64)といった作品がありますが、これらの映画で門の姿を確認することはできません。ところが、意外な作品、それもテレビドラマで成城学園の門柱を見ることができるのです。
その作品こそ、1971年10月から翌年9月にかけて放送された「気になる嫁さん」というホームドラマ。本作は石立鉄男と榊原るみのW主演によるものですが、学園正門は、榊原が嫁さんになる相手の関口守(やはり本作に出演する佐野周二の次男。兄は関口宏)が通う大学として、第一話に登場します。関口扮する純という大学生が、正門前の成城堂書店から榊原扮する婚約者・めぐみに電話をかけるシーンを見れば、筆者が入学する少し前の成城大学の正門&中庭の姿が眼前に展開。自らの学生時代を追想できるという、これは大変有難い作品なのです。当時は当たり前だった立看板もなく、緑豊かなキャンパス風景を見れば、誰もがこの大学に入りたいと思ったのではないでしょうか?
ちなみに、この「気になる嫁さん」(ユニオン映画制作/日本テレビ系)は、榊原るみが以前から出演中だった「帰ってきたウルトラマン」(1971年4月放送開始:TBS系)を、宇宙人に殺されたことにして途中降板して馳せ参じたほど力の入った作品です。1年に亘り放送され、榊原はアイドル並みの人気を集めましたが、筆者のような‶成城ウォッチャー〟にとっては、全編で成城ロケが敢行されたテレビドラマとして大きな価値があります。
舞台となる清水家(家長は佐野周二、子供たちには山田吾一、水野久美、石立鉄男、山本紀彦ら、婆やさんに浦辺粂子が扮した)は、成城ハイム=当時は労働科学研究所前の踏切を渡って坂道を下った左手にある設定でしたので、本作ではほぼ毎回、1970年代初頭の成城や砧の街並みを見ることができます。権利の関係で画像をお見せできないのが残念ですが、当時から成城にお住まいの方や学園の卒業生なら、落涙されること間違いなし。是非、CSでの再放送やDVDでご覧いただきたいと思います。
数年前、知人を通じて榊原さん(相変わらず可愛らしくてビックリ!)と成城でお会いしたときは、懐かしがるご本人を思わず清水家のロケ現場までお連れしてしまいました。
参考:『思い出の指輪』『唐手三四郎』『サザエさんの新婚家庭』が登場する記事↓
参考:『狂熱の果て』『夢のハワイで盆踊り』が登場する記事↓
※『砧』823号(2021年11月発行)より転載(「気になる嫁さん」の項を加筆)