MADE IN SEIJO~電話営業支援ツール~成城学園で出合った「哲学的思考」で起業。電話営業のあり方を変えて生産性の豊かな社会に
『sful-成城だより』では、私たちの身近にあるものやサービスなどの中から、成城学園の卒業生が企画・制作にかかわった事例を紹介する「MADE IN SEIJO」という企画を連載しています。今回のテーマはVol.16で掲載した電話営業支援ツール。AI搭載型クラウドIP電話「MiiTel (ミーテル)」を開発した、株式会社RevComm(レブコム)の創業者で代表取締役の會田武史さんに伺ったお話を、誌面の都合で載せられなかった内容も含めて再編集しました。開発経緯や起業の心得、會田さんがテクノロジーを活用して目指す社会についてお伝えします。
幼少時代に養われた起業家精神
人工知能(音声解析AI)を搭載することで、電話営業時の顧客対応の内容を可視化するクラウドIP電話「MiiTel」。例えば、営業担当者と顧客が話す割合や速度、沈黙した回数などを示したり、顧客管理システムと連携して着信時に顧客情報を自動表示させたりするサービスが話題となり、2018年のリリースからわずか3年あまりで導入社数累計1,150社、29,000人以上のユーザーを獲得しています。これを生み出したのが、レブコムの創業者で代表取締役を務める會田武史さんです。
會田さんが起業を志したのは、小学4年生の時。家業が文具メーカーだったこともあり、会社経営は身近な存在だったといいます。
「これからは自分で事業を展開し、世の中の仕組みを作って日本のビジネスを世界に発信するべきだと思ったんです。起業には、『すべき』『できる』『やりたい』という3つの要素が重要ですが、『すべき』はこの時に決めていたことになりますね」
哲学的思考を得た成城学園での生活
成城学園の高等学校時代、定期試験の国語のテストの題材として使われていた鷲田清一氏の文章を読んで感動した會田さんは、すぐさま学校の図書室に駆け込んだそう。以来、カント、デカルト、アリストテレスといった哲学者たちの書にハマり、やがて自分なりの哲学を模索。そこで、人はなんのために生きるのか考えたことで、より「すべき」が明確になったと振り返ります。
「人はなんのために生きるのかと考え続けた当時の私が導き出した答えは、自分が幸せになるためでした。では自分とは誰なのか。アイデンティティを突き詰め、自分の内に答えを探したものの見つかりませんでした。デカルトの“我思うゆえに我あり”という言葉に思いを巡らせても、それはただの思考停止なんじゃないかと。デカルトを疑った時に、論理的思考、つまり弁証法に限界を感じました。そこで観察論というアプローチから見つけたのが、私の考えついた『自己相対性理論』です」
これはどういうことかというと、成城学園の先生と接している會田さんと家族と接している會田さん、ガールフレンドと接している會田さん、それらは微妙に違いますが、すべて會田さんであることは間違いありません。
「つまり、自己というのは他者によって定義される非常に相対的な存在だということです。私の考えた生きる目的“自分が幸せになるため”の主語である自分が相対的ならば、述語である幸せが絶対的な存在であるわけがない。だから、他人を蹴落として自分だけが幸せになるなんてありえない。自分が幸せになる手段はただ1つ、他者を幸せにするしかないということです。それならば、私はビジネスで人を幸せにし、自分も幸せになろうと思いました」
「やれることはなんでもやる」を貫いた大学時代
事業を興すことは明確になったものの、「やりたい」ことを見つけるのに時間がかかったという會田さん。そんな中、大学時代に留学したアメリカのアリゾナで、起業へと駆り立てる忘れられない経験をしたといいます。
「アリゾナには、おいしいチリドックの店がたくさんありました。そこでルームメイトがチリドックのEC販売を思いついたんです。『絶対に失敗する』と止めたのですが、彼は『やってみなきゃ分からない』と強行して起業し、案の定数カ月で大失敗しました。しかし落ち込むことなく、『君は正しかった、次はなにをしよう?』と言われたことに衝撃を受けました」
その時、安全な場で「やりたいことがないと言い訳して、自分はなにもやっていなかった」という痛恨の念が強く残ったといいます。帰国後、その経験から會田さんは、「なんでもしよう」と学生団体やNPO法人を発足し、運営に奔走。多くの起業家とのつながりができたことで、卒業直後に起業する選択肢も生まれました。しかし、それが本当にやりたいことかと自分に問いかけてみると、答えは「NO」。そこで一旦、就職する道を選び、商社に入社しました。
生産性の低い営業を救うサービスを着想
グローバルな環境で働ける商社での日々は充実。瞬く間に過ぎていったものの、ある日、自室で休んでいる際にアリゾナでの出来事が、會田さんの脳裏に蘇りました。
「気づけば大学2年から社会人6年目まで、なにも進化していなかったなと。私は常に挑戦することのリスクを考えていて、挑戦しないことのリスクを考えていなかった。このままでは絶対に後悔すると考えると怖くなりました。そして、『やりたい』は見つけるものではなく、決めるものだと気づいたんです」
覚悟を決めたら、その後は早かった。
「今後5年間で主流になるであろう要素技術の中で、興味のあったディープラーニング(深層学習)と、日頃自分が課題に感じていたコミュニケーションコストを掛け合わせて、事業を興そうと考えました」
そしてボイスコミュニケーションを核にしたビジネスに行き着き、常々課題だと感じていた営業部門の生産性の低さを向上させるために、電話営業を可視化する「MiiTel」に辿り着いたといいます。
「起業で重要になるのは、『誰の』『どんな課題を』『どう解決するか』。課題が本質的であればあるほど、汎用的で誰もが抱えている問題になるため、ビジネスとして成り立ちやすいんです。そこで、営業担当者と顧客がどのような会話をしているか分からない“営業のブラックボックス化問題”を課題と定義しました。営業担当者と顧客との会話が改善できれば、顧客獲得につながります。ただ、Aさんは話しすぎる傾向があり、Bさんは話す速度が速いなど、個人の課題はさまざま。自分の課題を定量的に知ることができれば、営業成績が上がり、担当者もポジティブになれるはずだと考えました」
周囲の反対を乗り越え起業に邁進
新しい発想のサービスだったため、「そんなサービスは上手くいかない」という声は多かったものの、自身との問答の末に會田さんは起業を決断。その背中を押したのは、成城学園時代にはじまり、人生のさまざまな場面で今なお役立っているという哲学的思考でした。
「この思考法によって、なにかを判断する時には自分を批評的な目で見る習慣がつきました。ビジネスでも重要な局面ではもう一人の自分に問いかけ、考えを俯瞰し、批評した上で結論を出しています。多くの人から事業を始めることを反対され、無理に決まっているといわれた時にも、自分が正しいことを証明しようと前向きに考えられた。振り返ると、『常識を疑いなさい』『とにかく自分で考えなさい』『自由でありなさい』という教えも含めて、成城学園時代の出合いと学びが私の指針になっていますね」
最新のテクノロジーで、過酷なイメージの営業の仕事を変えたいという想いを熱心に伝えることで仲間も増加。そして、起業に重要な3つの要素の最後の1つ、「できる」が定まっていきました。
「私にとっての、ビジネスの原理原則は、世のため人のためであること。ここにも、人を幸せにすることで、結果自分も幸せになれるという自己相対性理論が生きています。テクノロジーを活用した私たちのサービスで業務効率が向上。その結果、心に余裕が生まれて人が人を想う社会になることを目標としています。そのためにユーザーをより広げ、もっと社会に貢献していきたいですね」
こう語る會田さんは、少年時代に掲げた目標に、着実に近づいている。
まさに立て板に水のごとく、會田さんには成城学園時代の思い出や起業のために重要な心得、「MiiTel」の開発経緯や今後のビジョンなどをお話しいただきました。ご自身で行き着いた「自己相対性理論」につながる哲学との出合いや、常識を疑い自分で自由に考える姿勢など、高校卒業までの間に成城学園で培った学びを、非常に大切にされている印象を受けました。ある意味、會田さんご自身が「MADE IN SEIJO」なのでは? と感じています。
(編集担当)
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