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政治用語bot更新原文(2023.09.14)

2ヶ月ぶりの更新。
今回は特段なんということもなく、新規に書いた用語が中心。
最近、ポスト・コロニアリズム関係の文献を読んでいたため、植民地主義の基本用語と、マルクス主義、司法関係の用語の続き。
そして「ライシテ」に関する本を積ん読していたのを消化したので、関連して宗教関係をいくつか。
(実は社会主義法についての文献から、イスラムにも触れる機会があったため、その文脈もある)
その他は以前読んだがほったらかしにしていた論文等から引っ張ってきたのと、最近「whataboutism」だとか「シーライオニング」などをTwitterで見かけたので、その辺も追加しておいた。

ところで最近モノクロプリンタを買ったが、やはり家にプリンタがあるというのは便利だ。とても便利だ。



植民地主義関連

「宗主国」

ある国家に対し、政治的・経済的・社会的に多大な影響力を及ぼす国家のこと。その影響力に服する国家は従属国などと呼ばれる。なお「宗主」は、元々はヨーロッパの封建制秩序における上位者や、東アジアにおける「朝貢を受ける国≒中国」を指す言葉であり、その後国際法における国家間の従属関係を指す言葉に転じ、現在では旧植民地保有国家と旧植民地国家の間の、政治的・経済的・社会的結び付きを示す言葉として「旧宗主国」という言葉が用いられる。

「保護国」

条約によって、自国の主権の行使の一部を他国に委ねている国家のこと。理念的には、自国の国家としての独立性・自律性を維持しつつ、あくまで自国の利益のために他国に主権の行使の一部(特に外交権)を委ねている国家であり、主権の行使を委ねられた他国は、それにより得る利益の代わりに、保護国を保護する義務を負う。しかし、実際には大国による植民地支配のための方便に過ぎない例が大半を占める。

「傀儡国家」

形式的には独立国とされているものの、その統治のほとんどが他国の指揮監督の下で行われており、実質的には独立国と言えない国家のこと。政権単位で見た場合は傀儡政権と言う。本来、独立国であること、主権国家であることは「その統治に他国の干渉を受けない」ことを意味するが、傀儡国家はそうではなく、その実体は植民地である。満州事変後に樹立された満州国、日中戦争中の南京国民政府(汪兆銘政権)、太平洋戦争中のベトナム帝国、第二次世界大戦中のフランス(ヴィシー政権)、二次大戦後のベトナム国など。

「衛星国」

独立した主権国家であるものの、その政策(特に外交政策)の多くが特定の大国に追随し、協力する形となっている国家のこと。「傀儡国家」との区別は曖昧だが、比較的に主権国家としての実質を持つものを衛星国と呼ぶことが多く、東ドイツやポーランド人民共和国、モンゴル人民共和国といったいわゆる「東側」の社会主義諸国がそのように呼ばれた。

「植民地主義」

コロニアリズム。自国外に「植民地」を獲得し、その近代化と収奪よる利益獲得を目指す考え方や政策のこと。15世紀後半-20世紀後半にかけて欧州・日本で採用された。侵略行為の積極的推進として当時から批判もあったものの、「未開人に文明をもたらす」というエスノセントリズム的・社会進化論的・西洋中心主義的言説によって正当化された。

「新植民地主義」

ネオ・コロニアリズム。解放・独立を達成したかにみえる旧植民地国に対し、それらの宗主国が、解放・独立後であるにもかかわらず、旧植民地国に対する政治的・社会的・経済的影響力を保持しつづけていることを批判する言葉。例えば宗主国企業が独立後も旧植民地国への進出を継続し、産業・市場を事実上支配しているのであれば、それは結局のところ植民地状態が継続されていることになる。1960年代に定着した概念であり、「従属理論」はこの考え方に基づく。

「ポスト・コロニアリズム」

ポスト植民地主義。俗にポスコロと略。旧植民地地域の政治・社会・文化を、その地域の価値観によって内在的に理解しようとするアプローチの総称。それらについての従来の評価や研究が、旧支配国の価値観や判断基準を暗黙裏に前提しているがために、文明国による未開地域への評価の域を出ていない(=西洋中心主義)として批判する。1960年代の新植民地主義批判と共に登場した立場。

「ブロック経済圏」

複数国家・地域で形成した排他的・閉鎖的な経済圏のこと。圏内貿易は低関税、圏外との貿易は高関税とするなどの保護貿易政策により成立する。世界恐慌後、先進各国の不況対応としてそれぞれの植民地を基盤に形成されたものが有名で、それらは基軸通貨名を冠してスターリングブロック、フランブロックなどと呼ぶ。しかしこれは経済圏内でほぼ全ての需給を賄わなければならないことを意味するため、経済的に行き詰まる経済圏も必然的に生じ、このことが第二次世界大戦の一因となったと言われる。

EU関係

「欧州理事会」

欧州連合(EU)の執政府にあたる最高政治機関。加盟国首脳と欧州理事会議長、欧州委員会委員長で構成されることから、EU首脳会議、EUサミットとも呼ばれる。その構成員の性質から重大な政治的影響力を有しており、EU全体の政策方針の決定、政府間協力で解決しえない問題への対応、EU内の主要役職の任命、EUの外交・安保政策の設定といった役割を持つ。

「欧州連合理事会」

EU理事会。欧州連合(EU)の立法議会の一つ。「欧州議会」に対する上院に相当する。殆どの場合「欧州議会」と共同で法案・予算審議を行う。政策分野毎に10に分けられた会合として開催され、会合毎に各加盟国でその分野を担当する閣僚と、欧州委員会の担当委員が一名ずつ出席する。立法の他にも加盟国間の政策調整や、EUの外交・安保政策策定、EU外との国際協定締結も行っている。

「欧州議会」

欧州連合(EU)の立法議会の一つ。「欧州理事会」に対する下院に相当する。議員任期は5年で、加盟国から比例代表制で選出される。「欧州委員会」により提出された法案・予算案を審議する。欧州議会は法案提出権を持たないが、欧州委員会に法案起草を求める権限や、不信任決議によって欧州委員会を総辞職させる権限を保有する。

「欧州議会議員選挙」

欧州連合(EU)の立法議会の一つである「欧州議会」の議員を選出する選挙のこと。定数705名の議員を基本的に人口に比例した形でEU加盟国に割り振り、ある程度各国の裁量による比例代表制によって選出する。1979年を第1回とし、以後5年毎に行われる。他の選挙で比例代表制を採用していない国家においてはこの選挙が小政党の躍進の切っ掛けとなることがあり、欧州ポピュリズム政党のいくつかがそれにあたる。

「欧州委員会」

欧州連合(EU)の行政府にあたる機関。各加盟国から1名ずつ任命された欧州委員28名による合議体。またこれを支える事務局を含めて呼ぶこともある。欧州理事会の選出と欧州議会の承認によって任命された委員長が、各国政府との協議で他の委員を指名した上で、その全体を欧州議会が承認することで成立する。主にEU法案の策定と提出、EU予算の策定・管理、EU政策の執行、EUの対外的代表といった役割を持つ。

司法関係

「司法省」

各国に存在する省名の一つ。法務行政を管轄する省。「法務省」とある程度互換性があるが、裁判官人事に関する権限を持つものを「司法省」、持たないものを「法務省」と呼び分けるのが通例。

「終身刑」

収監の期限を、収監者が死亡するまでとする刑罰のこと。一般に、死刑がない、もしくは廃止された国家における最も重い刑罰。期限自体は定められているのが無期懲役などの無期刑との違いだが、無期刑であっても収監者が死亡するまでを事実上の期限としており、また終身刑であっても仮釈放によって社会復帰を認める国家もあるため、そもそも区別の必要がないとする見方も有力なほど、その区別は曖昧。

「職権審理」

裁判所などが、紛争当事者による訴えを待たずに、裁判所自らの職権によって裁判を行い、判決を下すこと。裁判所の権限や政治的役割が大きい国家に見られる制度であり、インドや、中央アジア旧社会主義国家がその例。この仕組みは司法を社会的弱者に開くという側面があると同時に、職権審理の濫用が問題視されることもある。

「検察官」

刑事事件において被疑者を訴追することを主任務とする法律専門職・官職のこと。またそのための犯罪の捜査(検察官自らによる捜査と、警察による捜査の指揮)、確定した裁判判決を執行する役割も担う。法律専門職の中でもとりわけ公益の代表者として国家の側に立つという特質を持ち、国によっては司法や行政全体に対する監督権を持つ場合もある。

「法務大臣の指揮権」

日本の法務大臣が有する、検察官を指揮する権限のこと。この権限を発動することで、検察による捜査の強制中止や、強制的な不起訴処分などを行いうる。但し、個別事件の取り調べや起訴の判断などについては、指揮できるのは検事総長までであり、個々の検察官に対して直接指揮することはできない。日本の検察官は強大な権限を保有するが故に政治的意図を排して独立して行動することが求められるため、指揮権の発動は国家公務員法・検察庁法で定められる権限であるものの、その発動は検察官に対する政治的介入と認識され、発動事例も一件しかない。

「弁護士自治」

弁護士の管理監督から国家の関与を排すべきという考え方や、それを実現するための諸制度のこと。私人の権利保障を担うが故に、時には国家に対峙して職務を遂行しなければならない弁護士が国家の管理下にあることは不合理だというのがその理由。一般に、自由民主主義国家では多かれ少なかれ認められる傾向にあり、特に日本は弁護士自治が強固な国家とも言われる。

マルクス主義関係

「ソビエト制」

かつてのソビエト連邦で用いられた政治の仕組み。選挙によって各地から選出された代議員からなるソビエト(評議会)を、国家の最高意志決定機関とするもの。議会制に似るが、ソビエト制は三権分立を否定するため、通常の議会は立法権のみを司るのに対し、ソビエトは執政・行政権も司るという理念的な違いがある。ただし、その実態は時期により変遷したことに注意。

「社会帝国主義」

マルクス・レーニン主義用語。社会主義を標榜するにもかかわらず、他国・他地域に対する介入や侵略を正当化する態度を指す言葉。「社会主義」は全世界的な労働者の連帯を目指すことが本来の姿であるが、社会帝国主義では自国労働者の利益のみを考慮し、他の労働者を抑圧しているという考え方によるもの。元々は一次大戦でのロシア社会主義者の戦争協力を批判する際に登場した言葉だが、二次大戦後には中国によるソ連批判、更にその後は東南アジア社会主義国による中国批判に用いられた。

「革命的祖国敗北主義」

マルクス・レーニン主義用語。自らの国が戦争を行っている時、その支配者が反社会主義・反共産主義(=帝国主義)を採っているならば、社会主義者・共産主義者はその戦争に協力してはならず、むしろ戦争遂行を妨害することで自国を敗北させ、その混乱に乗じて社会主義政権を樹立すべきという考え方のこと。レーニンが第一次世界大戦時のロシア帝国で主張したもの。ロシアでは成果を収めてソ連の樹立につながったが、一方ドイツにおいては敗戦を共産主義者=ユダヤ人の陰謀であるとする言説の根拠となった。

「ユーロコミュニズム」

共産主義思想・運動の一潮流。20世紀後半の西欧諸国で生まれ、発達した、多元主義的な共産主義を追求する立場のこと。それまでの「マルクス・レーニン主義」(≒スターリン主義)から離れ、自由民主主義的な一政党としての共産党、自由民主主義体制内の一思想としての共産主義を模索したもの。一定の成果を収め、一部は政権獲得にも至ったが、それは共産党自身による共産主義の放棄と表裏一体でもあった。特にイタリア共産党、フランス共産党、スペイン共産党が典型であり、他国に対しても影響を与えた。

「経済決定論」

国家、政治、法、宗教、倫理、精神、芸術、文化といった様々なもののあり方が、ひとえに「その社会の経済の構造」に規定されているという考え方のこと。この考え方では、社会の本質は経済の構造であって、その他のものはその現れに過ぎない。「マルクス主義」の特徴として批判的に用いられ、「ポスト・マルクス主義」はそこからの脱却の模索であるが、実のところマルクス主義がどこまで経済決定論的であったのかには疑いもある。

陰謀論関係

「陰謀論」

何らかの社会的・政治的事象について、それらを特定の人物やグループによる作為であると説明付け、なおかつその根拠が極めて乏しいか、荒唐無稽なもののこと。社会的・政治的不満のはけ口を見つけ出すための、数多くのデマのある程度体系だった集積と言うこともでき、その説明を強化・維持すべく新たなデマを再生産し続ける傾向にある。

「Qアノン」

2017年末頃から米国を中心に世界に急拡大した、英語圏の匿名掲示板(4chan)に2017年末頃に現れた人物(通称「Q」)の主張に基づく陰謀論を信じる人々のこと。世界は一種の秘密結社である「ディープステート」に支配されているとし、当時のドナルド・トランプ米大統領をディープステートの支配に抗う救世主と位置づける。現実世界での影響も大きく、2021年に発生した米議会襲撃事件など様々な事件を引き起こしている。

「ディープステート」

DSと略。陰謀論用語。アメリカ合衆国を始めとして世界中の政府を裏から支配する、一部の政治家・官僚・金融・経済エリート・文化人などからなるネットワークのこと。実際には存在しない。「表向きの政府よりも深いところにある政府」という意味。「Qアノン」系陰謀論や、トランプ(元)米大統領が頻繁に援用する。なお、「政府の意思決定権が事実上少数のエリートにより握られている」という発想自体は政治学において珍しいものではない。

「反ユダヤ主義」

反セム主義とも。ユダヤ人、つまりユダヤ教徒やその子孫に対する偏見や差別感情、またそれに基づくユダヤ人排斥運動・思想のこと。異民族・異教徒としての社会的・政治的排斥を受けたユダヤ人達は、近代以前に賤業とされた商業や学問で身を立てていたが、近代以降に商業の役割が高まると、今度は富の簒奪者として排斥の対象となった。歴史的に度々社会的・政治的不満のはけ口とされ、ナチス・ドイツによるユダヤ人迫害はその端的な例。

優生学関係

「優生学・優生思想」(botでは分割)

遺伝学に基づいて人間の遺伝的形質を改良すべき、つまり人間を品種改良すべきという考え方と、その目的による研究や実践の総称。障がい者や性犯罪者などを劣った遺伝的形質とみなし、子を残させない「断種」や「人工妊娠中絶」。逆に何らかの優れた形質を持つと見なされた者への生殖の奨励といったもの。遺伝学の発展と共に19世紀後半に登場し、20世紀前半に大々的に称揚されて各国で政策として実施された。障がい者差別や人種差別と表裏一体であるため、現代では公に標榜されることは少なくなったもの、出生前診断等の形で現在まで維持されている。なお、優生思想は優生学よりも広く、障がい者差別一般に近いニュアンスがある。

「人工妊娠中絶」

単に中絶、堕胎、「堕ろす」とも。人為的な方法で妊娠を中絶させること。この行為を法的に容認するか禁止するかは、医学的な観点、宗教的な観点、フェミニズム的な観点、リベラリズム的な観点、性犯罪被害者の観点など様々な要素が絡み合い、解決が困難な政治的・法的争点の一つとされる。

「プロチョイス/プロライフ」

主にアメリカ合衆国における人工妊娠中絶の容認・禁止を巡る議論において、容認派を「プロチョイス」、禁止派を「プロライフ」と言う。人工妊娠中絶の容認・禁止を、「母体女性の選択権(チョイス)と、胎児の生命(ライフ)のどちらを優先するか」という論点として解釈・構成したもの。なお、この区分には「誤った二分法」を内包している疑いがある。

宗教関係

「宗教」

定義が極めて困難な言葉の一つ。一般的には、神や来世といった超自然的なもの、人智を超えたものの存在を前提として構成された体系的な思想で、なおかつある程度多くの人々がそれらを信じ、それらを維持し、実践しているものと、そのために必要な聖典や教義、儀式・儀礼、組織、建築物、秩序、実践の総体のこと。有史以前から人々の思考に深く影響を与え、様々な思想や文化を花開かせる原動力となった一方、戦争や抑圧を引き起こす原動力ともなった。

「ライシテ」

フランスにおける「政教分離」を指す言葉。フランスの基本原則の一つとされる。公共の場における宗教的なものの存在を全く許さない、非常に厳格な政教分離原則というイメージを付加して用いられることが多い。しかしその解釈はフランス国内においても多様かつ争いが絶えないのが実態であり、実のところ一般の「政教分離」概念と明確に区別できるものではない。

「イスラーム主義」

イスラム教の教義に基づく政治・社会思想・運動、とりわけイスラム法(シャリーア)に基づく国家を建設し、維持しようとする思想・運動のこと。特に1980年代頃からの各国イスラム教徒の再自覚現象と共に興ったものを指す。既存の国家内での実現を模索する穏健なものから、既存の国境・国際秩序の変革を視野に入れて軍事的な手段に出るものまでその内実は多様。

「イスラーム」

イスラム教。回教。現代における「世界宗教」の一つ。預言者ムハンマドを開祖とし、アラビア半島で7世紀初頭に興った。唯一神アッラーに帰依する一神教で、聖典はクルアーン。特に西アジア・中央アジア・東南アジア・北アフリカに多数の信者を持つ。信仰と生活の一体性を特徴とし、生活の全てを規律することから厳格なイメージを持たれやすいが、教義解釈に一定の柔軟さを持つ宗教でもある。なお、ユダヤ教・キリスト教とは教義が異なるものの、信仰する神は同じとしている。

「キリスト教」

基督教。現代における「世界宗教」の一つ。イエスをキリスト(救い主)であると信じる一神教。1世紀にユダヤ教の分派として興った。聖典は旧約聖書と新約聖書。特にヨーロッパの歴史・文化に極めて強い影響を与えた宗教であるが、その反面として近代以降にはその影響力を排しようとする潮流も巨大となった結果、現代では世俗化がかなり進行した宗教ともなっている。

「カトリック教会」

ローマ・カトリック教会。1054年の東西キリスト教会の分裂によって成立したキリスト教の教派の一つで、単一の教派としては最大。総本山はバチカン市国にある。特徴は様々だが、大きなものとしては各地の教会組織・信徒全てがローマ教皇を頂点とする階層構造で構成されることや、歴史的に世俗の政治権力に匹敵する独立した権力であった期間が長かったことが挙げられる。

「プロテスタント」

新教徒。16世紀ヨーロッパにおける「宗教改革」によって、「カトリック教会」から分派したキリスト教の様々な教派の総称。聖書のみを信仰の拠り所とすること(=カトリック教会における教皇を中心とした組織形態の否定。=カトリック教会に属することなしに救いはないという観念の否定)を最大の特徴とする。あくまで総称であるため、統一的な組織があるわけではなく、各プロテスタント教派がそれぞれ独立して活動している。

「正教会」

ギリシャ正教。東方正教会。1054年の東西キリスト教会の分裂によって成立したキリスト教教派の一つ。東欧・ロシアにおける主要な宗教である。「カトリック教会」と異なり、その組織は単一ではなく、教義を共有する4つの総主教庁と、独立正教会、自治正教会といった教会組織が連合した形態をとり、世俗の政治権力と並び立つ独立した政治権力としての性格は極めて弱かったという歴史を持つ。

「仏教」

現代における「世界宗教」の一つ。紀元前6世紀頃にインドで興った、釈迦(仏陀)の説いた教えを中心に信仰する宗教。東アジア・東南アジアに特に信者が多い。インドから各地に伝播し定着する過程で多種多様な分派が産まれ、それぞれ独自の発展を遂げていることを特徴とし、政治との関係も多様であるため、一概に説明することは難しい。

「儒学」

儒教。紀元前6世紀、中国の孔子を始祖とする思想・哲学大系のこと。儒学の研究者・教育者を儒学者・儒者と呼ぶ。中国を始めとして東アジアとベトナムにおける政治思想・社会思想として、その文化や社会制度・政治制度に多大な影響力をもたらした歴史を持つ。人々の社会生活や内面を規律するものであるため宗教として扱われることもあるが、神などの超常的な存在を語らず、また現世の改善を志向する実学重視の側面を持つことから、宗教としては極めて異質。

「ユダヤ教」

紀元前13世紀頃に興った、ヘブライ人(=イスラエル人)の民族宗教。唯一神であるヤハウェを信仰する。聖典は「律法、預言書と諸書」(いわゆる旧約聖書の別バージョン)。ユダヤ教の信者とその子孫は「ユダヤ人」と呼ばれる。ヘブライ人の自国の喪失という民族経験を反映し、苦難や律法を神により与えられた試練とする選民思想・律法の厳格な遵守、救世主思想といった教義を持つ。キリスト教はユダヤ教の分派を起源としている。

「民族宗教/普遍宗教」

宗教のうち、ある特定の「民族」に固有の宗教として存在しており、他の民族が信仰することを想定されていない、もしくは実際に他の民族によって信仰されていないものを「民族宗教」と呼び、ユダヤ教や神道はその例。対して、全人類が信仰することを想定され、実際に民族を超えて信仰されている宗教を「普遍宗教」と呼び、キリスト教、イスラーム、仏教はその例。

「シーア派」

イスラム教の(大まかな)一派。イスラム教徒全体の約1割を占める少数派。イスラム教徒の共同体(ウンマ)の指導者について、預言者ムハンマドの従弟かつ娘婿であるアリーとその子孫のみを認める(血統主義)立場であり、そこから発した歴史観の違いや少数派故の迫害の歴史から、スンニ派とある程度異なる教義理解を持つ。イランに特に多く、イラク・イエメンがそれに続く。

「スンナ派」

スンニ派とも。イスラム教の(大まかな)一派。預言者の代理人(カリフ)に選出された者をイスラム教徒の共同体(ウンマ)の指導者として認める立場のこと。但し、現在スンナ派全体で認められたカリフは存在しない。イスラム教徒全体の約9割を占める多数派であり、イランやイラク、イエメンなど以外の多くの国家で優勢である。

「カリフ」

イスラム教徒の共同体(ウンマ)の指導者の称号。キリスト教圏における教皇と王の両方を兼ね備えた存在だが、教義を解釈・決定する権限は持たず、イスラム法学者により決定された教義解釈の施行、すなわち行政にあたる権能のみを持つ。但し、シーア派はアリーとその子孫以外のカリフを正統な指導者とみなさない。さらに1922年のオスマン帝国滅亡以来、全スンナ派によって承認されたカリフも現在まで存在しておらず、このことは現在の中東紛争などの一因とも言われる。

哲学(?)用語

「遂行的矛盾」

行為遂行矛盾、遂行矛盾。ある主張をすること自体が、その主張の内容と矛盾する状態のこと。「『人は何も語るべきではない』と語る」、「『学校でモノを教えるべきではない』と学校で教える」「『他人に意見を押しつけるな』という意見」といった状況はその例。

「意図せざる結果」

ある行為者が何らかの目的を意図して行為することで引き起こされる、その行為者本人が意図したわけではない結果のこと。望ましい結果である場合もあれば、そうでない場合もある。社会科学の研究対象の一つであり、またその理論に度々現れる要素の一つ。「予言の自己成就」「神の見えざる手」「コモンズの悲劇」や、「プロテスタンティズムの精神と資本主義の倫理」における議論はその代表例。

「予言の自己成就」

ある予測・予想が、本来であれば実現しないはずであるにも関わらず、人々がそれらを信じて行動することによって、結果的にその予測・予想が実現してしまうという現象のこと。この種の予想・予測を「自己成就的予言」と言う。「ある銀行が倒産しそうだという予測に人々が従い、預金を引き出そうと大挙して押し寄せた結果、本当にその銀行が倒産する」という「取り付け騒ぎ」はその例。

「(神の)見えざる手」

自由市場においては、人々がそれぞれの自己利益のみを追求して経済活動を行うことで、結果的に社会全体の利益が増進するというメカニズムを指す言葉。現代ではもっぱら市場における需要と供給、価格の自動調整プロセスを指して用いられる。元々はアダム・スミスが『国富論』にて、当時の重商主義・保護貿易政策を批判する際に用いた言葉。

「顕在的機能/潜在的機能」

ある社会的活動・行為によって引き起こされる結果のうち、その活動者・行為者による活動・行為の目的に一致するものを「顕在的機能」。一致しないものを「潜在的機能」と言う。例えば雨乞いの儀式は、実際に雨を降らすことには役立たないとしても、参加者の連帯感をもたらす点で潜在的機能を持ちうる。なお、この区別はその結果が当人達にとって望ましいか、望ましくないかによる区別ではない。

「鹿狩りゲーム」

スタグハントゲーム。ゲーム理論における「2人が協力すれば最大の利益。一方が裏切れば裏切った者は少しの利益、裏切られた者は利益無し。両方が裏切れば両方に少しの利益。行動はそれぞれ1人で決定する」状況においては、協力と裏切りの両方が合理的な選択肢となるというモデル。「囚人のジレンマ」に似るが、囚人のジレンマでは裏切りのみが合理的選択となる点で異なる。

「論争的」

ある事物、特に概念に「確定的な解釈や定義が存在せず、常に解釈・定義を巡る論争の中に置かれているものである」ことを示す形容詞。「論争的な概念」「○○の解釈は論争的だ」といった形で用いる。また「本質的に論争的な○○」と言った場合には、「その解釈・定義が確立することはありえない」という意味であり、「民主主義」はその代表例。

「緊張関係」

一見すると複数の事物が一つに組み合わさったり、結合したりしているように見えるが、実はそれら事物は互いに反発し合っており、小さな切っ掛けで分裂したり、他方を破壊するような関係のこと。「自由主義」と「民主主義」の関係はその一つ(自由主義を強調すれば人民の意志が反故にされ、民主主義を強調すれば人権が否定される)。

「アルキメデスの点」

ある知識や思想、価値観の体系について、その全てを正当化するための究極的な根拠となる絶対的な知識や信念、土台・基礎のこと。あらゆる知識の根拠について問い、その根拠をまた問うことを繰り返すことで最後に到達する根拠とも言える。アルキメデスの点それ自体は論理的な正当化を要さず、その正当性は自明である。アルキメデスが「我に支点を与えよ。されば地球を動かさん」と述べたという逸話に由来する言葉。また、アルキメデスの点の存在を前提とする立場を「基礎づけ主義」、そうでない立場を「反基礎づけ主義」と呼ぶ。

「基礎づけ主義」

ある知識や思想、価値観の体系について、その全てを最終的・究極的なレベルで「基礎づける=根拠づける」ことのできる絶対的な知識や信念が存在するか、存在していなければならず、またあらゆる知識等はそこから発していなければ不当であるとする立場のこと。プラトンのイデア論に始まりデカルトの「我思う、故に我あり」などと、長らく哲学の伝統的立場であったが、現代ではこの立場に対抗する「反基礎づけ主義」も有力。

「反基礎づけ主義」

ある知識や思想、価値観の体系について、その全てを最終的・究極的なレベルで「基礎づける=根拠づける」ことのできる絶対的な知識や信念は「存在しない」とする立場のこと。この立場からは、絶対的知識・信念を探究したり、それを明らかにしたと称する主張・議論は、あくまでも歴史的に形成された言説の一つであるに過ぎず、むしろそうであるからこそ意味を持ち、また改善しうる。

「テクニカルターム」

訳すと術語、専門語、専門用語など。ただし、あえてカタカナで表記する場合には、「この言葉は社会一般や他の分野でも用いられる言葉である。しかし、この研究や分野においては、それらと異なった意味で用いている」という、論文・書籍の読者に注意を促す意図を表していることが多い。その意味では「テクニカルターム」という言葉自体も「テクニカルターム」の一種。

「家族的類似」

複数の事物をまとめて言い表す機能を持つ「言葉」や「概念」について、それが「複数の事物の共通する本質を指し示すもの」ではなく、あくまでも「それぞれが部分的に似通っている複数の事物をまとめたもの」であることや、そのような見方を示す言葉。例えば「ゲーム」という言葉で指し示されるものは、チェスやポーカー、パズル、RPG、ソーシャルゲーム、サンドボックスゲームなど様々なものがあるが、それら全てが何かしら共通する「ゲームの本質」を持つわけではない。その類似の様が、両親や兄弟姉妹の間の類似性に似ていることから、このように呼ぶ。

「蓋然性」

probability。がいぜんせい。ある事象・結果が発生することの確実性の度合いを指す言葉。蓋然性を数値で表したものが「確率」である。「可能性 possibility」と近い概念だが、可能性は単に「起こりうること」を指し、蓋然性は「起こりうる可能性の程度」を指すとしたり、蓋然性の方がより客観的なニュアンスを持つとしたり、蓋然性はある程度可能性が高い事象にのみ用いるしたりする蓋然性が高い。

「思考実験」

現実世界で行われることを前提としない、思考の上で行われる実験のこと。高度に抽象化・純粋化された仮想的な状況を設定し、検証したい理論がその状況下でどのような帰結に至るかを、抽象的・論理的な思考によって導出する作業。また一種の調査として、理論形成のための材料や論点を探るためにも用いられる。現実に人の手で用意することが技術的に不可能であったり、倫理的に許されない状況設定を要する際に採用される手法であり、実験器具を要さないためいつでもどこでも可能であるという利点もある。「トロリー問題」や「中国語の部屋」は有名な例。

「トロリー問題」

トロッコ問題とも。倫理学における、「5人と1人のどちらかを殺さなければならないとしたら、どちらを殺すか」という思考実験。功利主義と義務論の差異を説明する例や、自らの意見に「理由付け」することを学ぶための教材として用いられる。ただし、元々は単にどちらを殺すかではなく、「『不作為によって』5人を殺すか、『作為によって』1人を殺すか」という問いであり、積極的義務/消極的義務の概念について説明するための例である。

詭弁・誤謬など

「発生論的誤謬」

発生論の誤謬とも。詭弁・誤謬の一種。ある事物や事象について理解したり、評価を下す際に、その出自のみを根拠としてしまうこと。理解・評価の対象が、その事物・事象それ自体ではなくその出自にすり替わっているため、誤りとなる。「『貴様』は尊敬語として生まれた言葉なのだから、失礼な言葉ではない」という主張はその例。「トーンポリシング」や「権威に訴える論証」はこの一種。

「人格攻撃」

個人攻撃とも。詭弁・誤謬の一種で、論点すり替えの一類型。相手の主張の内容について批判・反論するのではなく、その相手の人格や属性について批判・非難すること。「あなたは政府から金を貰っているからそのように主張しているのではないか?」はその一例。仮にその人格攻撃の内容が事実であったとしても、それは相手の主張の不当性の根拠とはならないが、相手の主張の信頼性の低さを示す効果は持ちうる。

「Whataboutism」

ワットアバウティズム。詭弁・誤謬の一種。ある非難・批判に対して「○○はどうなんだ?」(What about~?)「○○だってやっているじゃないか」と訊ね返すことで、論点をすり替える論法のこと。この論法はそもそも非難・批判に対する直接的な反論を避けるものであるため、この論法を用いる者の正当性が示されないのはもちろんだが、直ちに不当性が示されるというわけでもない。

「お前だって論法」

詭弁・誤謬の一種で、論点すり替えの一類型。自らの行為についての非難・批判について、その非難者・批判者を対象に「お前だってやっているじゃないか」と反論する論法。自らに対する批判・非難を相手にも向けることで、自らの相対的な正当性をアピールする。また、この論法は自らの行為の不当性を認めた上で、相手「も」不当であると主張する無理心中的な論法としても理解できる。

「ストローマン論法」

藁人形論法。論点すり替えの一種。ある対象を批判する際に、実際にはそれとは別の(典型的には架空の)対象を批判しているにもかかわらず、あたかも元々の対象を批判しているかのように見せかける論法のこと。つまり批判対象のすり替え。「糖分の取り過ぎは健康に悪い」という主張に対し、「ならお前は砂糖の販売を禁止しろと言うのか」と返すのはその例。また「糖分の取り過ぎは健康に悪いと主張する者は、砂糖の販売を禁止しろと言う異常者だ」のように「人格攻撃」に応用される場合もある。

「シーライオニング」

主にインターネット上における、「質問攻めによる嫌がらせ」を指す言葉。そもそも相手の発言・主張を真剣に受け止め理解するつもりがないにも関わらず、ひたすら質問を重ねることで、相手が疲弊することを狙うもの。この事例が登場したwebコミックに登場するアシカに由来する言葉。ただし、この言葉は質問に答え、証拠を挙げるべき立場の者がその責任を回避するための方便としても用いられうる。

「両論併記の罠」

両論併記(ある事柄についての対立した見解を両方とも記す、一般的に中立とされる報道・解説の仕方)が、「論の名に値しない」ような粗雑な見解に権威を与えてしまうという問題のこと。本来であれば考慮に値しないような見解であっても、既に確立された見解と「併記される」ことで、それが既に確立された見解に匹敵する見解であるとの印象を読者に与えてしまうことによる。

「戯画化」

ある(社会科学)理論や主張、主張者を批判する際にしばしば行われがちな、「批判対象の持つ様々な要素のうち、批判者が批判したい要素のみを誇張し、あたかもその誇張された要素が批判対象の全てであるかのように単純化する」誤りのこと。戯画化の上での批判は、その妥当性を大きく減ずる。なお、ある理論等が社会に広く受け入れられる中で戯画化が発生したり、むしろ戯画化によって社会へのインパクトを獲得した理論もあるため、単純に戯画化を批判者の悪意によるとすることも妥当性を欠く。

「悪魔化」

社会一般の傾向や研究潮流としてしばしば出現する、特定の理論や事物を既に完全に否定された絶対悪として扱い、改めての批判や検討の対象としない態度のこと。「神格化」の逆の極ということもできる。「神格化」と同様、本来的に望ましい態度というわけではないが、ある社会や研究潮流が成立するための共通の基盤を成立させるものとして機能する場合もあるため、一概には言えない。

「悪魔の証明」

証明することが極めて困難であり、ほぼ不可能と言い切れる類いの証明のこと。現代においてはもっぱら「ある事象が存在しないことの証明」を指して用いられる。「ある事象が存在『する』こと」の証明であれば一つの具体例を挙げれば済むが、「ある事象が存在『しない』こと」の証明に具体例を挙げることは不可能であり、せいぜい例えば「現時点の理論的予想として、存在しないと言える」程度に留まる。

「エコーチェンバー現象」

単にエコーチェンバーとも。互いに似通った主張を持つ人々からなる閉鎖的なコミュニティにおいて度々発生する、それら人々の主張の偏りが増幅・先鋭化する現象のこと。閉鎖的なコミュニティではその外部からの批判や知見に接する機会が少なくなり、代わりに似通った主張を持つ者同士で互いの主張を肯定し続け、その主張が支持されているという感覚を強化し続ける自体に陥りやすいことによる。特にインターネット掲示板やSNSがこの閉鎖的なコミュニティとなりやすい。その様子を「自分の声が反響し続ける」反響室に例えた言葉。

「フィルターバブル」

インターネットの検索サービスが提供する、「利用者個人が求める情報を優先的に表示する仕組み」によって、結果的に検索サービスの利用者達が「自分の見たいものだけを見る」状態に陥ってしまう現象を指す言葉。この仕組み自体は利用者の利便性と満足度を高める目的を持つに過ぎないが、それが結果的に利用者がインターネットを用いて多様な情報に触れることを阻害するという事態である。検索サービスによる情報のフィルタリングが、人々を自分の世界(バブル)に閉じ込めることから名付けられた言葉。

「ダブルスタンダード」

二重規範の訳語。ダブスタと略。本来であれば同じ評価軸で評価されるべき複数の事柄について、恣意的に別々の評価軸を用いて評価する一貫性のなさを示す言葉。詭弁・誤謬の一種とされるが、別々の評価軸を用いることに一定の正当性・合理性がある(=一貫性がある)ならば、メタ的な評価軸が別に存在しているため該当せず、憲法学における「二重の基準論」はその一例。

その他

「エリート主義」

政治・社会・経済において、何らかの意味で一般の人々よりも優秀とされる「エリート」が高い地位を保持し、支配権を握る体制や、それを正当化する考え方のこと。対義語は大衆主義や平等主義など。貴族制や官僚制、能力主義などの形で有史以来広く受け入れられている考え方だが、それ故に批判も数多い。なお、貴族制のような血統を根拠とするものは除外される場合がある。

「専決処分」

日本の地方自治体の首長等の権限で、本来は当該自治体の議会の議決・決定を要する事柄を、例外的に、議会の議決・決定なしに処理することを指す言葉。その事柄の緊急性や議会の機能不全により議決を待てない場合(地方自治法179条)と、事前に議会による委任がある場合(地方自治法180条)に認められる。専決処分の対象は議会の権限全てに及びうるものであり、また後に議会による承認を得られなかったとしても、専決処分は無効にならない。

「体感治安」

ある社会や地域の人々が「主観的に」感じている社会秩序の悪化の程度のこと。犯罪の発生・認知件数の多寡、迷惑行為の発生件数の多寡によって変化するが、必ずしもそれらの客観的な多寡によって変化するわけではなく、凶悪犯罪の報道の増加や、社会的インパクトの大きな犯罪の発生によって変化する。そのため、この言葉が使われる場合、「体感治安が実際の治安と乖離している」というニュアンスを持つことも多い。

「治安」

ある国家や社会の秩序が保たれている程度のこと。これをある一定水準に保つべく組織され、ときに実力を行使するべく国家が設置するのが「警察」である。また少なくとも近代国家成立以前においては、各地域で組織された自警団や、ヤクザのような組織による治安維持が大きな役割を果たしており、国家の治安維持能力が機能不全を起こしているような地域では今なおその役割を果たしていることがある。また国家による治安維持あっても、それを名目に政治的な対抗勢力への弾圧を行う場合があるため、注意を要する。

「特別多数決」

過半数の賛成があれば可決とする一般の多数決ではなく、過半数をさらに超えた一定数の賛成によって可決とするタイプの多数決のこと。その事柄の決定に慎重を要することや、そもそも理想的には全会一致で決定すべき事柄など、何らかの要因により過半数の賛成で可決とすることが馴染まない事柄について用いられる。例えば日本国憲法改正の発議はその例(出席議員の3分の2の賛成を要する)。

「供託金制度」

選挙に立候補する際に、公的機関に一定の金銭を預け、選挙で一定の得票を得られない場合にはそれを没収されるという仕組みのこと。その金銭を供託金という。供託金を拠出できない、もしくは返還が望めないような人物に対し立候補料として機能することで、売名目的の立候補や泡沫候補の乱立を防ぐもの。被選挙権の不当な制限として批判されることも多く、日本は特に金額が高いとして知られる。

「ヤングケアラー」

広義には、本来大人が担うべきとされる家事・育児・介護といった家族を世話する役割を日常的に担う子ども・若年者のこと。定義に揺れがあり、、家計収入のために労働する者を含む場合や、障害・疾患・薬物中毒を持つ親兄弟の世話をする者に限る場合がある。その役割を果たすために教育機会や、友人関係、健康、人生設計など犠牲にせざるを得ない状況に陥りやすいとして、1980年代頃から英国で問題視され始め、日本では2000年代後半頃から認知されはじめた。

「権限争議」

政府の行政機関の間で発生する、「その事案を管轄し、処理する権限はどの行政機関が持つのか」に関する紛争のこと。互いに自らに権限があると主張するものを積極的権限争議、逆に双方が権限がないと主張して事案を押しつけ合うようなものを消極的権限争議という。権限争議は、通常の行政機関の間の他、特別裁判所を置くような国では裁判所同士で発生したり、連邦制の国では連邦と各州の間で発生したりもする。なお、元々典型的な権限争議とされ、問題視されていたのは、裁判所同士のものである。

「性善説/性悪説」

儒学で唱えられた学説で、人間は生まれながらに善であるとするのが「性善説」。人間は生まれながらに悪であるとするのが「性悪説」である。現代ではここから「他者の善性を信頼する」考え方を「性善説」、「他者の善性を信頼しない」考え方を「性悪説」と呼び、法律や制度を論評する際に用いられる。ただし、元々の学説のテーマは「人が悪をなすとすればその原因は何か」であり、他人を信頼するかどうかという話ではない。

「アメリカ同時多発テロ事件」

その発生月日から「9.11」とも。2001年9月11日に、イスラム主義テロ組織アルカイダによって行われた、アメリカ合衆国に対するテロ事件。4機の旅客機をハイジャックし、目標に意図的に突入させたもの(一機は失敗)。現在に至るまで最悪のテロ事件と認識されており、以後の各国における安全保障政策・治安政策を決定づけ、2001年のアフガニスタン戦争に繋がった他、時代や世界秩序の変化を象徴する出来事としても言及される。

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