見出し画像

政治用語bot更新原文(2022.05.06)

1年半ぶりに政治用語bot(https://twitter.com/seijiyougobot)を更新した。

リアル事情でやること多かった上に、ウマ娘とかマスターデュエルとかいろいろ誘惑ががが・・・

さて、今回の更新だが、1年半かけてぼちぼちネタ見つけたり書き溜めていたものの放出である。関連語を逐一書こうとしてたらいつまで経っても更新できないので、とりあえずある程度で止めたらこのくらいになった。自分で作業を増やしてそれが終わらないってパターンは自分の悪い癖だろう。

更新していない間色々あった。その中でもロシアのウクライナ侵攻を受けて、「ユーラシア主義」や「ネオ・ユーラシア主義」も書きたかったが、どうも調査のとっかかりが掴めず、まだ着手できていない。

今回は代わりに、以前からの懸案「憲法について」を少々と、(「ネオ・ユーラシア主義」も本来その一部だが、)オルタナ右翼系の用語をいくつか書く、というのがメイン。
そして最近私的に調べていた国際開発系の用語と、新聞読んでたら「敵対的買収」関連の出来事が色々あったので、企業買収・株関連用語もある。

他には政治学基本用語と、フェミニズム関連の用語をいくつか。特に「ポピュリズム」「コミュニタリアニズム」は前から書こう書こうと思っていたが書きづらかった言葉なので、今回結構上手くまとめることが出来たような気がして俺は満足している。
政治学用語内だと「超大統領制」だけはさしあたりロシアにも関わる言葉である。

次回更新はまた来年とかになりそうだが、まあゆっくりやろう。
国際政治学・国際関係論基本用語と、憲法条文関係、あとは日本史関係も増やしたい。国際政治学関係は今回「ネオネオ統合」だけ書いたんだが、「リアリズム」「リベラリズム」を書いたつもりで忘れており、bot更新時に気づいた次第。ちょっと今日書くのは流石にやる気が出なかった。

「司法消極主義」
司法(裁判所)の姿勢を示す言葉の一つ。既存の法規範や政策の変更を求めるような司法判断を避け、あくまでも現行の秩序の範囲内で法的紛争を処理するような司法の態度のこと。立法府・行政府に比して民主的正統性の弱い司法府の自己抑制であるが、立法・行政への監視機能、法に基づく正義の実現といった司法の役割を果たしていないとして批判されうる。対義語は「司法積極主義」。

「司法積極主義」
司法(裁判所)の姿勢を示す言葉の一つ。司法の役割を現行秩序の維持貫徹に限定せず、既存の法規範や政策の変更を求める司法判断を積極的に行う態度のこと。司法の持つ立法・行政の監視機能や、法に基づく正義の実現を重視するものだが、立法府・行政府に比して民主的正統性の弱い司法府の積極的態度はむしろ民主主義の原理を阻害するとして批判されうる。対義語は「司法消極主義」。

「国家訴追主義」
刑事事件での起訴権限を国家機関(多くは検察)が持つべきとする考え方、またはそのような制度。「起訴独占主義」はこの一種。刑事事件裁判を公益とみなし、起訴は被害者感情などを廃した中立的判断によって行わなければならないとする、大陸法系国家で発達・採用されやすい。対義語は「私人訴追主義」。

「私人訴追主義」
刑事事件での起訴権限の保持者を国家機関に限らず、私人による個人の判断で起訴することを認める考え方や、制度。「国家訴追主義」の対概念。刑事訴訟と民事訴訟の区別が弱く、法の役割をあくまで私人間の紛争解決手段とする英米法系の考え方。ただし、イギリスにおいても国家機関である警察が起訴することがほとんど。

「内閣不信任決議」
議院内閣制において、議会からの信任によって行政権の行使を委任される「内閣」に対し、議会がその信任を解く意志を示すこと。議院内閣制において内閣の存在を正統化するのは議会による信任のみであるため、内閣不信任決議が行われると内閣はその存立を維持できず、直ちに総辞職するか、解散権を行使して選挙をやり直し、新たに議員が選出された議会による再信任を求める他ない。二院制議会の場合は下院にのみ不信任決議の権限があることが多い。

「解散権」
議会制民主主義における、議会の議員全員を直ちに解任する権限のこと。解任後に総選挙を行って議員の再選出を行うのが通常。元々は君主制国家において君主が議会に対抗するための権限であり、そこから行政府による立法府への対抗のための権限として維持されている。議院内閣制において内閣がこの権限を持つのが通例だが、議会の地位を高めるために解散権を廃止する例や、内閣の任意のタイミングでの解散権行使は認めない例もある。

「建設的不信任制度」
主にドイツにおいて採用される、内閣不信任決議を行う際には、事前に新たな内閣を組閣する次期首相を選任しなければならないという制度。内閣不信任決議が恣意的に乱発・成立することで組閣そのものが難しくなり、政治が不安定化することを防ぐ仕組み。

「日本国憲法7条」
日本国憲法における、天皇の「国事行為」について定めた条文の一つ。1-10号に分けて国事行為を列挙するもの。法律の交付や国会召集など、列挙されている行為の多くは大日本帝国憲法における天皇の大権事項だが、日本国憲法下ではあくまでも形式的・儀礼的行為に過ぎない。

「国事行為」
日本国憲法4・6・7条に規定される、天皇の権能のこと。政治・統治に関係の無い形式的・儀礼的行為である。ただ、それ自体が政治的な行為であるはずの国会の召集や衆議院解散がなぜ形式的行為と言えるかには困難があり、その実行の決定者は他の条文に定められているためとする説や、「内閣の助言と承認」によって実行が決定されるためとする説がある。

「(衆議院解散の)制度説」
日本の衆議院の「解散」を、内閣が自由に行うことができる法的根拠に関する学説の一つ。議院内閣制を取っている以上、議院内閣制の通例として、内閣は自由に衆議院を解散することができる、というもの。実のところ、議院内閣制であっても内閣が自由に解散権を行使できない仕組みをとる国もあるため、通例とは言い難い問題がある。

「(衆議院解散の)65条説」
日本の衆議院の「解散」を、内閣が自由に行うことができる法的根拠に関する学説の一つ。行政権には「解散権」も含まれているため、行政権を司る内閣は、自らの裁量で自由に衆議院を解散させることができるとするもの。そもそも行政権に解散権が含まれているとはいえない、という批判がある。

「7条解散/69条解散」
日本の衆議院の「解散」について、その根拠となる日本国憲法の条文によって呼び分けたもの。第7条では、天皇の国事行為としての解散が規定され、第69条では内閣不信任決議への対抗としての解散が規定されている。この呼び分けが重要なのは、7条のみに基づく解散では天皇の政治関与という疑いが生じ、一方69条では内閣不信任決議を受けない内閣独自の判断による解散が不可能になるという問題が発生するため。

「衆議院解散」
日本における、内閣の権限で衆議院議員全員の議員資格を喪失させることを指す言葉。解散後40日以内に総選挙が行われる。内閣不信任決議が行われた場合の他、内閣独自の判断によっても可能。しかし、独自判断による解散の法的根拠には論争がある。

「内閣総辞職」
議院内閣制において、内閣を構成する首相および国務大臣が同時に全員辞職することを言う。首相・内閣が議会の信任を失った場合(内閣不信任決議)や、首相・内閣を信任する議会議員の更新時(総選挙後の最初の議会招集)、死亡などで首相が欠けたときその他政治的事情によって内閣がその存立を維持できなくなった際に行われる。なお、総辞職後新たな首相が選定され、内閣が成立するまでの間には総辞職前の内閣が引き続きその職務を遂行するため、行政権に空白は生じない。この状態は職務遂行内閣と呼ばれる。

「閣議」
内閣で行われる会議、より正確には、首相含む国務大臣全員からなる合議体のこと。日本では毎週火曜・金曜の定例閣議と、その他の日程での臨時閣議、書面のみによる持ち回り閣議がある。その意思決定は必ず全会一致によらなければならず、また原則非公開。なお、閣議の進行の仕方などは法律ではなく、慣習で決まっている。

「閣議決定」
内閣が行う意思決定のこと。日本では憲法や法律で内閣の権限とされる事項(予算案策定や条約締結、政令の制定、官僚人事など)の他、重要政策などで行政上何らかの統一的方針を決定しなければならない場合などに行い、全会一致方式で決定する。行政府の最高部である内閣の意思決定であり、政治的安定性の確保の見地から容易には変更できないが、閣議決定自体が法的拘束力を持つというわけではないことには注意。

「閣議了解」
本来は所掌する国務大臣のみで意思決定できる案件であるが、案件の重要性から他の国務大臣の意向を汲む必要があるであろうものについて、「閣議」によって内閣全体の了解を得ること。形式上、意思決定を行うのはあくまで国務大臣である点で「閣議決定」と区別される。

「閣議報告」
閣議で行われる議事のうち、各審議会の答申やなんらかの調査結果を閣議で報告し、内閣全体でその内容を共有することを言う。それら審議会や調査を所掌する国務大臣によって行われる。

「閣僚」
主に議院内閣制における「内閣」の構成員のこと。首相及び各国務大臣を指すが、場合によっては内閣官房長官など、事実上内閣を構成する役職を含むこともある。「○○閣僚会議」のように、議院内閣制をとらないもしくは内閣を置かない政治制度を持つ国家の国務大臣も含むことがあるが、これは閣僚がminister(大臣)の訳語の一つであることによる。

「不規則発言」
議会や会議などにおいて、そこで扱われている議事と関係がなく、かつその会議の手続に則らずに行われる発言のこと。いわゆる野次。不規則発言の内容を議事録に残すかどうかなど、不規則発言の扱いは当該議会・会議のルールによる。例えば2021年現在の日本の国会においては、議事に関係がないとして議事録に残らない。

「内閣人事局」
日本の内閣官房に置かれる部局の一つ。審議官級以上の官僚人事を管轄する機関。内閣が官僚幹部クラスの人事を掌握することを通して行政のコントロールを強化し、いわゆる「政治主導」の実現および「縦割り行政」の回避を行うとして2014年に設置されたもの。構想自体は1996年頃にまで遡る。ただし、この施策は官僚の自律性をあえて縮減させようとするものでもあるため、その功罪は複雑。

「人事院」
日本において国家公務員の人事を司る行政機関の一つ。内閣が所轄する機関だが、国家公務員の人事の中立性・公正性を担保すべく、内閣に対し独立して職務を行う。国家公務員の採用・昇任・給与水準に関する国会・内閣への勧告、福利厚生、不利益処分に関する審査など、国家公務員全体の労働基準に関する事務を行う。歴史的には、国家公務員法等で労働基本権を制限される国家公務員への代償・代替制度として成立した経緯を持つ。

「超大統領制」
超然大統領制とも。アメリカ等を代表とする通常の大統領制に比して、大統領の権限が非常に強大な大統領制を指す言葉。特にロシア連邦などの旧社会主義国における大統領制・半大統領制に対して用いられる。大統領が三権分立の上もしくは外部に存在し、大統領令が法律と同等の拘束力を持つ。それ故に議会による法律と大統領令の齟齬が生じやすいという問題を持つ。また権威主義の温床となっているとされる。

「デュベルジェの法則」
議会議員選挙で小選挙区制を採用する議会は二大政党制になりやすいという経験則。より正確には、各選挙区で当選しうる有力な候補者はやがて当選者数+1人となり、結果として一区一人当選の小選挙区制は有力な候補者は2人(≒2政党)となるため二大政党制を生み出しやすい、というもの。死票を避ける有権者の心理的な要因と、支持者数が当選者数+2位以下の政党は当選者を送り出しにくいという数学的な要因による。

「国民国家/主権国家/近代国家」
現代の「国家」について、その性質のどの面を示すかによって呼び分けたもの。その成立によって「一つの国民が一つの国家を持つ」ことが確立したことを示す政治哲学的呼称が「国民国家」。そういった国家はその国民の統治を自らの意志のみで行う権限(主権)を持つという法的側面を示す呼称が「主権国家」。こういった国家の成立が近代の始まりと共にあることを示す歴史的呼称が「近代国家」である。

「ネオネオ統合」
1980年代の国際関係論において、二大主要理論である「リアリズム」と「リベラリズム」がその理論的前提・方法論を共有することになったこと。リアリズムが科学的手法を取り入れて「ネオリアリズム」となり、リベラリズムはそれに加えてリアリズムの前提たる国家を主要アクターとする無政府的な国際社会観を受け入れて「ネオリベラリズム」となった結果生じた。ただし、その後のリベラリズムはこのリアリズム的前提を再度問い直しており、両者の距離は再度離れつつある。

「新しい社会運動」
1960年代末頃から現れ、それまでの社会運動とは異なる性質を持つ社会運動の総称。環境運動・反差別運動・平和運動、学生運動・女性運動など。従来の社会運動が産業社会における経済的利益の追求を目的とし、労働組合という組織を基盤とする「労働運動」であったのに対し、新しい社会運動ではポスト産業社会状況に応じた非経済的な理念の追求を目的とし、その組織・担い手も流動的かつ多様とされる。現在では単に社会運動と言う場合、新しい社会運動がイメージされることが多い。

「ハッシュタグアクティヴィズム」
SNS上で行われる社会運動、特にTwitterなどのハッシュタグを用いて行われるもののこと。いわゆるツイッターデモはその一種。従来の社会運動との明確な違いとして、一個人から始められる参加の手軽さ、国家や地域の境界線による縛りの緩さ、高い匿名性が挙げられ、社会運動の新たな局面として捉えられる。その一方で、参加があまりにも手軽すぎることなどから、集団としての結合性や運動としての継続性を欠いた個人的活動の集合に過ぎず、社会運動とはいえないとの指摘もある。

「スラックティヴィズム」
社会運動への参加が、実際には何ら社会的・政治的意義を持たないにもかかわらず、参加そのものを目的化して自己満足に陥ってしまう様を指す言葉。slack(怠け者)とactivism(社会運動)を結合したもの。このような事象は時代を問わず発生するものであるが、現代においては参加の手軽な、特にインターネット上、SNS上での社会運動に対して用いることが多い。

「ポストフェミニズム」
ジェンダー平等が十分達成され、フェミニズムが役割を終えた状況。もしくはそのような状況認識が蔓延することで、フェミニズムの観点からすれば未だ解決されていない問題や新たに生じた問題が見過ごされるような状況のこと。第二波フェミニズムが一定の成果を得た1990年代頃に現れたとされる。この発生にはバックラッシュもその背景にあり、ポストフェミニズムも事実上の反フェミニズムの色彩を帯びる。しかし、ポストフェミニズムそれ自体はジェンダー平等などのフェミニズム的価値観・理想を共有していることから、バックラッシュと同一視できるものではない。

「ジェンダー主流化」
男女平等・ジェンダー平等の達成のために、ありとあらゆる政策領域においてジェンダーの視点を取り入れる政策方針。またはそういった傾向が増しつつある状態のこと。公的には1985年の第三回世界女性会議で提示された概念であり、以後現在に到るまで様々な場所・方法で模索されつつある。

「フェモクラット」
フェミニズムの価値観・理想に共鳴し、国家機構の内側からフェミニズム政策を推進し、また国家外部のフェミニズム運動への支援を行う(女性)官僚のこと。1990年代以降の「国家フェミニズム」分析において登場した概念であり、フェモクラットの存在は「フェミニズムを国家が推進する」可能性を示すものの一つとされる。

「ナショナルマシーナリー」
国際本部機構と訳。国家機関のことだが、あえてナショナルマシーナリーと言う場合には、男女平等・女性の地位向上を管轄する国家機関で、なおかつその中核に位置するものを指す。日本においては1994年に設置された男女共同参画審議会が最初とされる。

「国家フェミニズム」
ステイト・フェミニズム。国家の政策として推進されるフェミニズムのこと。1980年代に登場した概念。国家は家父長制的性質を持つが故にフェミニズムの担い手とはなり得ない、とする従来のフェミニズムの考え方を実証的に問い直すための分析概念。またこの言葉は、国家によるフェミニズムの推進が他の目標を持つ政策の一部として行われたことで、本来のフェミニズムの目的が換骨奪胎されてしまったという主張を含み込む場合もある。

「差異派フェミニズム」
フェミニズム内における、男女間の差異を肯定し、女性独自の役割・問題を強調することで女性の地位向上を目指す立場のこと。男女間の差異を否定し、女性が男性と同等の地位を得ることを求める従来のフェミニズム(平等派、リベラル・フェミニズム)では女性固有の問題の解決に役立たないという認識を背景とする。しかし、この立場には男女不平等的な制度・政策の隠れ蓑として用いられる危険性も孕んでいる。

「国体」
旧字体で國體。国のあり方、国のかたちを指す言葉。特に明治中後期~占領期日本において度々用いられ、イデオロギーとして機能した概念。主に、天皇によって永久に統一され統治される日本、及びそのことが日本を他国に比して道徳的に優れている所以であるという含意として理解される。しかし、明治期においても水戸学による国体概念と法学による国体概念という二つの潮流が重なりつつ対立しながら存在しており、後には国体とマルクス主義を結びつける例まで存在するなど、その内実は曖昧で、国体を重視する論者間でも解釈の差異が大きい。

「政治任用制」
情実任用制とも。行政府における重要ポストを、何らかの適性審査や要件を満たしているという資格によって与えるのではなく、任命権者である政治家の裁量によって与える、(官僚)任用方式。任命権者が独自に求める能力や高い忠誠心を持つ者を重要ポストにつけることで、政府運営の機動性が高まるが、一方で政治腐敗の温床となる危険性も抱える。米国は大規模な政治任用制を運用していることで有名。対義語は「資格任用制」。

「エリート主義的民主主義」
何らかの素質や能力、地位を持つ「エリート」達の争いの手段として、人民の支持獲得競争を用いるという方式の民主主義、あるいは民主主義をそのようなものとして理解する考え方のこと。民主主義によって人民全体の共通利益が見いだせるという考え方は不可能かつ危険であるとして、規範性をあえて捨象し、民主主義をあくまでエリート達の競争方法の一つという単なるプロセスとして捉えたもの。

「参加民主主義」
ラディカル・デモクラシーの一派。民主主義の本質を市民による積極的な政治参加に求め、選挙での投票に限らない様々な政治参加の重要性を強調する考え方。政治参加自体が市民の政治参加能力を高める手段でもあるとし、国家や政府のレベルに限らず、より身近な、職場やサークル、家族などにおける「政治」への参加が、市民の能力を高めるために必要であるとする。

「ポピュリズム」
特に現代における、「エリート」と区別された「大衆」に訴えかける特異な政治手法。従来常識的とされた政治秩序や慣習の軽視・否定、汚れた既得権益層と無垢な大衆という極端に単純な図式、思想的な基軸・一貫性のなさなどの特徴が指摘されるが、確立された定義があるわけではなく、「ポピュリズム」という言葉が先行しているのが実情。それに伴い、政治理論・政治哲学による評価も「民主主義の破壊者」から「民主主義の純粋形態・再活性化の契機」と大きな幅がある。衆愚政治や大衆主義などと訳すことも可能だが、現代における独特の含意を示すために訳さないことが多い。

「代表制民主主義」
人民による主権の行使、もしくは政治を、人民から選出された「代表」に委ねる方式の民主主義。現代の(自由)民主主義国家を特徴づける要素の一つ。個々の人民は直接的には主権行使・政治に関与せず、代表の選出などで間接的に影響力を行使する。人民の直接参加を前提としない(もしくは否定する)ため、民主主義の不完全な形態とされやすい。しかし、近年の研究では再評価の向きもあり、むしろ代表制は民主主義の確立・維持発展と不可分とされることもある。

「地域代表/国民代表」※botでは分割した。
代表制(代議制)民主主義において人民から選出される「代表」は、「自らの支持者(自らを選出した地域)の利益を代表しており、その利益に反する行為は認められない」とするのが「地域代表」。対して「自らを支持しなかった者を含む国民全体の利益を代表しており、自らの支持者の利益に縛られてはならない」とするのが「国民代表」である。現代にいたるまで主流となっているのは後者だが、このどちらが適切かは、長らく論争の対象であり、政治哲学上の古典的な論点の一つ。

「議会制民主主義」
人民による主権の行使の一部または全部を(多くは人民から選出された代議士で構成される)議会に委ねる民主主義の一方式。現代の民主制国家において一般的な仕組みだが、議会制自体は君主主権を前提とした身分制議会から民主主義とは別個に発達したものであり、理論的にも民主主義との間には緊張関係がある。また「代表制」と同一視されることも多いが、上記した議会制の成立経緯や、「代表」の意味内容を踏まえれば、厳密には区別される。

「代表」
何らかの人々や集団を代理するもの、あるいは体現するもののこと。代表制民主主義においては選挙によって選出された議会(議員)や大統領などを指すのが通例。ただし、代表の実際の機能や意義、本質を鑑みれば、それを単なる代理や体現として捉えるのは不適切であり、また代表が代表たり得る根拠も選挙のみに限定され得ず、現代に到るまで様々な代表観が提示されている。

「(代表の)権威付与理論」
代表制民主主義等における「代表」を、何らかの人々や集団を代理する権威を付与されたものと捉える代表観のこと。他者の意思決定を行うことが正統化・正当化されたもの、と言い換えうる。トマス・ホッブズの社会契約論に範をとっており、最も古典的かつ現代においても支配的な代表観。ただし、権威付与論のみでは一度権威を付与されたものが「永久に代理し続ける」ことを許すため、事実上の独裁を正当化するという問題がある。

「記述的代表」
描写的代表とも。代表制民主主義等における「代表」を、何らかの人々や集団を表現するものと捉える代表観のこと。それら人々や集団を描いた絵画・縮図としての役割を果たすもの、と言い換えうる。この考え方によれば、例えば議会での議席配分が社会の成員全員の意見・属性・立場等の縮図となるよう、選挙制度に比例代表制を採用することが求められる。ただし、この縮図はあくまでもその目的に応じてデフォルメされたものであり、社会全体をそのまま表現することはそもそも不可能。

「答責的代表」
代表制民主主義等における「代表」を、自らが代表する人々や集団に対して説明責任を果たし、また責任を問われるものと捉える代表観のこと。「権威付与論」で生じる、一度権威を付与された代表への事後的な関与が働かず、事実上の独裁を許すという問題への対応として提出されたもの。ただし、答責的代表観をとったとしても、代表される者が代表による意思決定自体に関与する契機は存在せず、あくまでも意思決定の後、意思決定の結果に対して責任を問えるに過ぎない。

「象徴的代表」
代表制民主主義等における「代表」を、ある人々や集団を代表していると「単にみなされたもの」と捉える代表観のこと。この代表観に基づけば、所与として存在する人々や集団が代表を選ぶのではなく、むしろ代表がある人々や集団を代表していると先に称し、それに基づいて「代表される人々・集団」が形成されることによって代表が成立する。この際、当該代表と人々・集団の間に何らかの関係性・同一性などが実際に存在するかどうかは問題とならない。

「(代表の)形式的見解/実質的見解」
代表制民主主義等における「代表」の性質の捉え方の分類の一つ。代表をもっぱら単なる政治制度上の地位・役割と捉えるのが形式的見解であり、「権威付与理論」はその一つ。ただ、この見解は実際に代表が果たす機能や代表が代表たり得る所以の把握・基準の確立には役立たない。そういった代表の実質的内容を捉えようとするのが実質的見解であり、「描写的代表」はその例。

「言説代表」
討議的代表とも。社会の多様性が増し、人民という紐帯の不自明性の進行する現代においては、ある特定の人々の利害を代理・表現する者を「代表」とする従来の考え方では対応出来ないとして、「代表」を人ではなく言説(言葉で語られる意見や考え方)を代理・表現する者であり、選挙を経ずとも成立しうるものとして再解釈したもの。熟議(≒話し合い)を民主主義の核心として考える「熟議民主主義論」から提示された概念。

「くじ引き民主主義」
ロトクラシー、抽選代表制。単に抽選制とも。民主主義における公職者選出の方法としてくじ引きを用いる方式のこと。その起源は古代アテネに遡る。現代で用いられることは少ないものの、選出に際して党派性や資金力、縁故主義といったものの影響力が極小化することから、選挙よりも社会の多様性を反映しやすい「民主的な」方法であるとして注目する動きがある。

「アカウンタビリティ」
説明責任、答責性。なんらかの意思決定を行う人々や組織が、その意思決定の結果によって影響を受けるであろう者に対して負う、その意思決定の結果・背景・根拠・過程について説明する責任や義務。および、そういった人々や組織が、その意思決定の結果に応じ、意志決定権者としての地位を失うなど、何らかの形で責任をとる可能性のこと。元々は企業統治を論じる中で登場した概念。アカウンタビリティは「良い統治」のための条件として重視されるが、一方でアカウンタビリティの形式的な重視が政治家や官僚、専門家を過大に拘束することで却って「良い統治」を困難にしていることも指摘されている。

「構築主義的代表論」
政治においてしばしば登場する「代表」について、単に所与の人々・集団が代表を選び出すと捉えず、「代表するもの」と「代表されるもの」これら自体が、相互に影響・構築しあうことで初めて成立する、と考える議論のこと。この議論において、代表とは「ある人々・集団を代表していると承認されたもの」であり、当該人々・集団が現に存在するかどうか、選挙などの明示的手続で選出されたかなどは、あくまで代表を成立させうる一要素に過ぎない。

「反動」
いわゆる進歩主義思想・運動に対して反発する思想・運動の総称。もしくは何かしらの社会改革に対し抵抗する者(この場合は守旧派)のこと。フランス革命に対する王政派、社会・共産主義に対する反共運動、自由主義に対する封建主義や権威主義などが含まれる。進歩主義運動等の側からの他称として用いられるのが通例で、自称することは少ない。

「新反動主義」
二次大戦後から現在に至るまでに発展した自由主義、民主主義、人種間平等、男女平等、多様性、グローバリズムといった価値観、社会制度を否定し、それらの存在しない過去への回帰を望む思想・運動のこと。2000年代後半頃に登場。それまで個々の社会変革に対する現行秩序からの個別的反発であった「反動」を、一つの思想としてまとめ上げたもの。但し、新反動主義自体は現行秩序からの反発というよりも、現行秩序への反発という要素が強い。

「暗黒啓蒙」
自由・平等・人権・民主主義・普遍性・多様性・反差別などの「啓蒙」的考え方は社会の進歩の原動力ではなく、むしろ社会を停滞させる原因であったとして、それらを否定することをこそ「啓蒙」すべき、という立場、もしくはそのような「啓蒙」活動。いわゆる「新反動主義」の影響を強く受けており、しばしば同一視される。

「新保守主義」
英語から略してネオコンとも。1970年代頃のアメリカで登場した保守主義の一潮流。アメリカの伝統たる自由主義・民主主義を「保守」する手段として、それらを他国に輸出・定着することを求めるもの。元々はアメリカ社会において疎外されがちであったユダヤ系・移民系の知識人や、彼らを含むトロツキー派共産主義者(トロツキスト)の反スターリン主義とその反共主義への転換を源流とし、民主党タカ派として登場し、従来の保守派と対立・混淆しながら成立。「法と開発」運動や、イラク戦争やアフガニスタン戦争といった、共和党政権の積極介入外交の思想的基盤となった他、日本の外交方針にも影響を与えている。

「ペイリオコン」
paleoconservative(原保守主義)の略。アメリカ合衆国における、白人ナショナリズム系政治派閥・思想の一つ。二次大戦直後・公民権運動以前の白人中産階級・キリスト教(プロテスタント)を中心としたアメリカ社会を理想化し、回帰しようとするもの。外交的な孤立主義、保護貿易、反個人主義、反移民、反イスラム、反フェミニズムなどの要素を持ち、1960年代以降形成されたアメリカ社会の状況の多くに反発する。

「オルタナ右翼」
オルトライトとも。主にアメリカ合衆国で2000年代後半頃からで勢力を増した白人ナショナリズム系政治思想・運動の総称。白人中流階級中心の社会を理想とする「ペイリオコン」から発展し、その実現手段として、白人の他人種からの分離・相互不干渉を志向する。従来のアメリカ保守・右翼と異なり、キリスト教や個人主義との結びつきが弱く、またインターネット上(4chan Reddit等)での活動の比重が大きい。

「白人ナショナリズム」
ナショナリズムの一種。白人には白人固有のアイデンティティが存在するとし、その固有性・純粋性を保護・維持しなければならないとする立場。白人としての同質性に根ざした社会の成立を目指し、そのためには近代以降の自由や平等といった価値観をも否定する。ただし、近年では必ずしも白人の優越性を主張するわけではなく、単に他人種との住み分けを求める傾向にある。

「アメリカ例外主義」
アメリカ合衆国を、世界で唯一の純然たる自由民主主義国家、世界史上卓越した地位にある例外的な国家とする考え方のこと。またこの延長として、世界で最も優れた国家であるアメリカ合衆国には他の国家に介入し、世界を導く責務があるとする考え方のこと。その始まりはアメリカ合衆国の成立期にまで遡るとされる。

「加速主義」
社会の発展や技術革新によって発生した、もしくは発生しうる問題について、それを解決・改善するのではなく、それら発展・革新をより加速させることによって大きな社会変革を起こそうとする思想の総称。ここでの加速には、「問題をより悪化させる」ことも含まれる。資本主義の発展が限界を迎えることで社会主義に移行するという社会主義・共産主義の考え方から派生したもので、現在は右派思想にも結びついている。

「積極的自由/消極的自由」
自由主義などで重視される「自由」が指し示す2つの意味。他者から干渉されないという意味の自由を「消極的自由」と言い、信教の自由などはこれにあたる。対して、自らが従うべきものを自ら決定するという意味の自由を「積極的自由」といい、これは参政権などがあたる。この区分はアイザイア・バーリンが1958年に提唱したものであり、そこでは「積極的自由」はその過度の重視が権力の暴走を正当化しうるとした上で、「消極的自由」の意義を強調するものであった。現代に至るまで政治哲学に大きな影響を与えた区分であるが、それ故に多くの疑義も示されている。

「正義」
一般的に正しいこと、良いことを指す言葉だが、政治哲学・法哲学(特にリベラリズム)においては、個人レベルの道徳や倫理とは区別された、社会の成員全員の自由を保障するために必要な、社会全体が求めるべき最小限の正しさ(個人の自由の制限)を指す。正義が具体的にどのようなものか、またそれをいかにして実現すべきか、実現できるかは、リベラリズムの重要テーマの一つ。

「自由民主主義」
個人の自己決定・自由を重視する「自由主義」と、ある国家の決定はその構成員全員によらなければならないとする「民主主義」を組み合わせたもの。民主主義を是とした上で、その「行き過ぎ」の歯止めとして自由主義を用いる。現代では、議会制、普通選挙、人権の保障、三権分立といった要素を備えた国家を自由民主主義国家と呼ぶことが多く、日本もその一つ。

「コミュニタリアリズム」
共同体主義、共同体論とも。政治が関与すべき領域を諸個人の自由を守るためのルールに限定するリベラリズムに反対し、共同体として求めるべき「善い生き方」の模範(共通善)にも政治が関与すべきとする考え方のこと。自らの生き方を自由に決定する個人という観念に批判し、実際の個人の生き方は、自らの属する共同体が決定した共通善によって相当程度規定されているため、その決定を政治の俎上に載せないことは却って問題とする。

「中立国家」
社会の成員個々人の考える「善き生き方」に対して中立の立場をとり、原則として介入しない国家・政府のこと。中立国家は社会の成員それぞれの自己決定を最大限に尊重し、他者危害原理などによって介入を行う場合であっても、なんら特定の「善き生き方」にのみ有利になるような介入は行わない。自由主義思想において国家の理想形態とされる。

「善に対する正の優越」
自由主義、特に現代のリベラリズムにおける原則の一つ。個々人の考える善き生き方・人生の目的(=善)は最も尊重されるべきものだが、全ての人が平等に善を追求するために必要な最小限の制限(=正、正義)には従わなければならない、という考え方のこと。個々人の自己決定権すなわち自由の重要性と、その制限が正当化されうるための条件を示す言葉。

「卓越主義・完成主義」
人間の生き方には価値ある善い生き方とそうでない生き方があり、国家・政府は各人が価値ある善い生き方をするために必要な支援や介入を行うべき、または行っても良い、という考え方のこと。共産主義や共同体主義などの多くの政治思想が持つ性質の一つ。リベラリズムとは相容れないとされやすいが、リベラリズムにおいて卓越主義を導入する試みもある。

「リベラル―コミュニタリアン論争」
1971年のジョン・ロールズ『正義論』刊行以後1980年代まで行われた、リベラリズムと後のコミュニタリアニズム(共同体主義)の論争。主に、リベラリズムの前提する「自らの善を一人で追求できる個人」という想定とそこから帰結する「全ての善に対し中立な国家」という構想を巡るもの。この論争によってロールズは自らの考えの放棄または修正に至ったものの、この論争にはすれ違いが多かったともされており、未だこの論争とその結末への評価は定まっていない。

「公私峻別原理」
国家・政府が介入することのできる領域(公)と、国家・政府が介入してはならず、あくまでも個々人の判断に任せるべき領域(私)は、明確に線引きされなければならないという考え方のこと。自由主義における原則の一つ。個々人の自由・自己決定権に対する過度の介入を予防するために考え出されたものだが、ひとたび「私的」とされた物事は政治的議論の対象とならなくなる側面も持つ。

「鉄の三角形」
鉄の三角同盟とも。政(政党・政治家)・官(官僚組織・官僚)・財(財界・業界団体等利益団体)からなる、政策形成過程における協力・協調関係を指す言葉。多くの国家で見られる現象。互いの既得権益を保全する癒着関係を指摘するネガティブな意味合いが強い言葉。

「硬性憲法/軟性憲法」
憲法のうち、改正に要する手続が厳しく、比較的に改正が難しいものを硬性憲法、そうでないもの(=比較的改正が容易なもの)を軟性憲法と呼ぶ。より具体的には、改正の際に通常の法律よりも厳しい手続を要求するものを硬性憲法、通常の法律と同じ手続で改正できるものを軟性憲法と呼ぶのが通例。現代のほとんどの国家の憲法は硬性憲法である。

「制度的保障」
憲法における規定、または考え方の一種。個人の権利・自由を直接保障するのではなく、それと密接に関わる制度を保障することで、間接的に権利・自由を保障する規定・考え方。例えば大学の自治は、学問の自由の制度的保障、私有財産制は、財産権の制度的保障である。ただし、制度的保障自体は、制度変更による人権の実質的制限をも正当化しうる側面を持つ。

「集合行為問題」
人間を「自己利益のみを合理的に判断して追求する個人」と想定すると、理論的には人々は互いに協力することができないが、「それでも実際には協力しているのは何故か?」あるいは「では協力するためには何が必要か?」という問題のこと。経済学・政治学などの研究対象の一つ。

「囚人のジレンマ」
人間が自己利益のみを合理的に判断して行為すると想定すると、協力した場合に全体の利益が最大、自分だけが裏切った場合に自己利益が最大、全員が裏切った場合には自己利益・全体の利益が共に最小になる場合、全員が裏切ってしまう、というモデル。このモデルを説明する際に囚人で例えられたため、このように呼ぶ。「ゲーム理論」における代表的なモデルの一つで、経済や国際政治など様々な分野で説明に用いられ、また条件を変えた様々なバリエーションがある。

「共有地の悲劇」
コモンズの悲劇とも。非排除性を持つ(全ての人が利用できる)が競合性も持つ(有限である)種類の財・資源は、人間を「自己利益のみを追求する個人」と想定すると、いわゆる「早い者勝ち」となってすぐに枯渇する、というモデル。経済学・政治学などで用いられる。これを防止するためには何らかの政策的・法的施策が必要。

「財の四類型」
財、すなわち物品や資源やサービスなどを、排除性の程度(その利用・取得に対価を有するかどうか)と競合性の程度(その利用・取得によって減少するかどうか)によって四つに分類したもの。私的財(排除性高・競合性高、自動車など)、クラブ財(排除性低・競合性高、図書館など)、コモンプール財(排除性高・競合性低、プールなど)、公共財(排除性低・競合性低、空気など)。

「純粋公共財/準公共財」
財、すなわち物品や資源やサービスなどのうち、排除性(その利用・取得に対価を有するかどうか)が無く、競合性(その利用・取得によって減少するかどうか)も無いとみなせるものを純粋公共財といい、空気や警察や知識はこれにあたる。対して準公共財とは、排除性・競合性の一方が低い財を指し、クラブ財(図書館など)やコモンプール財(プールなど)がこれにあたる。

「外部経済/外部不経済」
ある経済活動が、市場を通さずに第三者の経済活動に及ぼす影響のうち、好ましい影響を「外部経済」、好ましくない影響を「外部不経済」と呼ぶ。ここでの第三者とは、いわゆる取引相手などではない者を指す。「外部経済」の典型例は鉄道開発による沿線地価の上昇、「外部不経済」の典型例としては「公害」が挙げられる。

「市場の失敗」
全ての参加者が利己的に行動することで全体にとって最適な状態、高い経済的効率性が達成される、という市場メカニズムの想定に反して発生する、経済的効率性の低い事象のこと。公害や、独占市場、フリーライダーの発生などの総称。市場メカニズムが正常に働かない、もしくは市場メカニズムで網羅できない経済的影響が生じることで、発生する。

「法多元主義」
ある領域や社会を秩序づける「法」は、国家によって制定・運用されるものに限らず、同時に複数が並存している、もしくは並存しうる、という考え方のこと。「法」を社会を秩序づける規範と考えれば、それは国家によるものだけでなく、より大きな超国家的組織、より小さな社会や集団、人々の活動する領域・物事毎に「法」がある、とする。

「法体系」
全体として一つの統一されたシステムとみなせる法・法令のまとまりのこと。例えば日本の場合、憲法を頂点とした民法・刑法などの一般法やその他特別法、条例、各種政令等が日本という国家の法体系となる。また、この法体系には判例を含む場合もありうる。法・法律の歴史的な繋がりを指す「法系」とは異なる概念。

「権力」
他者に対して、本人が望まないもしくは本人にとって望ましくないであろう行動を行わせる力のこと。実力(暴力)の他、権威、地位、立場、属性など様々なものによって支えられる。権力を行使する者も個人や集団に限らず、制度や社会構造そのものの場合もある。例えば国家は、その権力によって支配領域内の秩序を維持し、また国家の意思決定は、様々な集団の権力の相互作用の下で行われる。

「一次元的権力(観)」
いわゆる「権力」を「他者に、その本人の意に反することを行わせる力」とする捉え方、もしくはそのような種類の権力のこと。日常的に「権力」という言葉を用いる場合この意味であることが多い。また、何らかの争点を巡り紛争が発生し、それを集合的意思決定によって解決する際に、その意思決定が紛争当事者の誰かの選好を反映するのであれば、この種の権力が働いたと理解できる。

「二次元的権力(観)」
いわゆる「権力」を「なんらかの対立が争点として現れることを防ぐ力」とする捉え方、もしくはそのような種類の権力のこと。現に存在している利害対立を争点として集合的意思決定の俎上に載せず、集合的意志決定自体を回避する権力であるため、非決定権力ともいう。言い換えれば「ある問題を政治の問題として扱わせない権力」である。

「三次元的権力(観)」
いわゆる「権力」を「なんらかの対立が存在することを、その対立の当事者にすら認識させない力」とする捉え方、もしくはそのような種類の権力のこと。「一次元的権力」「二次元的権力」では、なんらかの利害対立を当事者が認識していることを前提とした権力だが、「三次元的権力」はその当事者の認識それ自体に働く権力であるという特徴を持つ。

「国会議員」
日本国の立法機関である「国会」の議員のこと。衆議院議員465名、参議院議員245名、合計710名の総称。日本の国政において、唯一国民によって直接に選出される「代表」である。ただし、あくまで国民全体の代表であって、一部の地域や人々の代表ではない。国会会期中の不逮捕特権、国会での発言の責任を国会外で問われない免責特権などを持つ。

「政治資金」
政党・政治家等がその政治活動のために用いる資金の総称。日本においては「寄付金」「政治資金パーティー収入」「政党交付金」の三つが主な収入源。一方支出については人件費や光熱費などの「経常経費」と、実際に様々な政治活動を行うために用いられる「政治活動費」に分けられる。収入源・支出先の透明化のために、「政治資金規正法」により規制されており、政治資金の収支は「政治資金収支報告書」に記載の上、選挙管理委員会か総務大臣への提出が必要。

「資本金」
企業の信用力を示す指標の一つで、株主による出資の総額のこと。一般に、企業規模の大きさ、企業体力の高さを示すとされる。減らすことを「減資」というが、株主の3分の2の賛同が必要なため赤字補填などの最後の手段の意味合いが強いが、資本金額によって税制上は「中小企業」扱いとなり税金が安くなる場合があることから、あえて踏み切る場合もある。

「戦争被害受忍論」
国民受忍論とも。戦争という非常事態による被害は全国民が等しく受忍すべきものであるが故に、国家はそれを補償する責任を負わない、という考え方。1968年の在外財産補償請求事件最高裁判決によって、戦後処理に伴って戦後に発生した損害への補償を否定する論理として登場し、以後戦時中の戦争被害への補償に対象を拡大しつつ、用いられ続けた。ただしこの受忍論は日本国憲法の趣旨への適合性が低いため見直しを求める主張が強いことから、現在ではこれ単独で補償責任を完全に否定する論理はとられず、戦争被害受忍論を併用しつつ、補償は立法の裁量権に属するという形になっている。

「受忍限度(論)」
人の活動によって騒音や振動、悪臭といった権利侵害が発生しても、社会通念上人びとが社会生活を営む以上致し方ないものと判断される程度であれば受忍すべき、とする理論・主張を受忍限度論、ここでの「受忍すべき被害の程度」を受忍限度という。受忍限度の判断は侵害の程度・態様、被侵害利益の性質と内容、侵害行為の持つ公共性、公益上の必要性、侵害行為の開始と継続の経過および状況、被害防止のための措置の有無およびその内容・効果より総合的に判断される。人が何かしらの活動を行う際にある程度の権利侵害が発生することはほぼ必然といえるため、そういった権利侵害を全て問題とすることは合理的ではないという考え方による。受忍限度論を否定する立場もあるが、判例では採用されていない。

「RCEP」
地域的包括的経済連携協定。日中韓、オーストラリア、ニュージーランド、ASEAN諸国の計15ヶ国による多国間経済協定。2012年交渉開始、20年署名、21年発効。物品・サービスの貿易、税関手続、産品規格、投資、人の移動、知的財産、電子取引など貿易に関わる様々な分野について総合的なルール整備を行うもの。

「WHO」
世界保健機関。「全ての人々が可能な最高の健康水準に到達すること」を目的とする国際連合の専門機関の一つ。1948年設置。肉体的・精神的・社会的に満たされた状態を「健康」と定義した上で、それを基本的人権として捉える。疾病対策のための研究活動、医薬品等の普及活動、医療・保健政策のためのガイドライン作成、災害時対応、ライフスタイルの啓発活動など、その活動は広範。

「QUAD」
クアッド。日米印豪4カ国による、主に安全保障と経済における協力枠組みのこと。インド洋・太平洋を囲む自由民主主義国家4カ国の連携・協力によって、年々勢力を増す中国に対抗しようとするもの。第一次安倍内閣が提唱したが進展せず、第二次安倍内閣以降に本格化した。英語で「4つの」を意味する言葉。

「OPRC条約」
正式名称は、油による汚染に係る準備、対応及び協力に関する国際条約。1990年採択、95年発効。タンカー等船舶事故や海底油田事故に伴う大規模海洋汚染対策について包括的に取り決めた国際条約。国際海事機関の主導で策定され、また2000年には対象を油以外の物質にも拡大したOPAC・HNS議定書に発展した。

「国連気候変動枠組条約締約国会議」
1992年に採択された「国連気候変動枠組条約」に基づき1995年以降毎年開催される国際会議。地球温暖化対策に関する目標・施策について協議される。COPと略し、開催回数に応じて数字を付す。例えば1997年に京都で開催され、京都議定書が採択されたのはCOP3。なおCOP自体は「締約国会議」の略。

「京都議定書」
1997年に京都で開催された第3回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP3、地球温暖化防止京都会議とも)にて採択された、国連気候変動枠組条約に依拠する、法的拘束力を持った最初の条約。第一約束期間として先進国に対して2008-12年の温室効果ガス年平均排出量を1990年より5%以上削減することを義務づけ、多少の紆余曲折を経て2005年に発効したが、さらに2013-20年の第二約束期間については未発効に終わった。

「国連気候変動枠組条約」
UNFCCC。正式名、気候変動に関する国際連合枠組条約。1992年採択、94年発効。全国連加盟国が締結・参加する、温室効果ガス削減・濃度安定化を目標とした国際的取り決めとして著名。全締約国の義務として温室効果ガス削減計画の策定・実施、排出量の公表を定め、先進国にはさらに途上国への資金供与・技術移転推進義務を規定する。またこの条約に基づき締約国会議(COP)が毎年開催され、より具体的な方針について取り決めが行われており、「京都議定書」や「パリ協定」はその成果。様々な別称がある。

「ILO87号条約批准闘争」※botでは「ILO闘争」で更新。
より広義にILO闘争とも。日本において特に1957-60年代頃まで行われていた、結社の自由・団結権保障を定めるILO87号条約への日本が批准することを求め、また公共企業体等労働関係法等による団体交渉拒否・争議行為禁止の不当性をILOに訴える労働運動のこと。この運動はILOによる調査団派遣に至り、また条約批准・関連法規整備も達成したものの、争議権の回復は行われないままとなった。

「スト権スト」
スト権奪還闘争とも。法令等によってストライキ権、もしくは争議権を持たないとされる労働者による、ストライキ権を獲得するためのストライキのこと。日本においては1975年の日本国有鉄道(国鉄)で行われたものが有名。法律上の違法性については判断が難しく、議論がある。

「三公社五現業」
旧三公社五現業とも。日本においてかつて存在した公共企業体及び国営企業の総称。日本専売公社、日本電信電話公社、日本国有鉄道の三公社と、郵便・郵便貯金等の事業、国有林野事業、紙幣等の印刷事業、造幣事業、アルコール専売事業の五現業をまとめた言葉。現在では全て特殊会社・独立行政法人への移管が行われている。

「地方三公社」
日本の地方自治体が特別法に基づき設立することができる3つの公社の総称。地方住宅供給公社、地方道路公社、土地開発公社からなる。それぞれ単独の特別法により規定され、各地方自治体が単独または複数自治体の共同で100%出資する。設立は任意であるため、どの自治体にもあるわけではない。

「第三セクター」
日本において、国・自治体による出資・出捐が行われている民間の法人・組織を指す言葉。いわゆる半官半民企業の一種。特に都市開発事業や鉄道事業のものが有名だが、実際は農林水産、水道、文化・スポーツ振興事業など様々な事業がある。国・自治体を第一セクター、私企業を第二セクターとした上で、それらとは区別される組織としてこのように呼ぶ。
元々は1969年に閣議決定された「新全国総合開発計画」や1973年に経済企画庁が作成した「経済社会基本計画」から始まる、公共的分野の事業に民間の資金・技術・手法を導入しつつ国・自治体が関与することで公共性を確保する目的を持つもの。しかし、時代の変遷と共にその目的・役割には変化が見られ、また第三セクターの経営悪化という問題が顕在化している。
ただし、以上は日本独自の用法であり、国外で「第三セクター」という場合、NPOや市民団体など民間の非営利組織を指す。
多分一番シンプルかつ包括的にまとまっているのはこのページhttps://www.jri.co.jp/template/print.html/

「公共企業体」
公社とも。国や自治体による資金提供によって設立され、公益性・公共性の高い事業を営む企業のこと。最狭義には日本の旧公共企業体労働関係法に規定されていた三公社(専売公社・電信電話公社・国有鉄道)を指すが、単に公社という場合は、これら以外にも「公社」と名の付く組織や公益社団法人、公団、事業体を含んだり、公共企業体にあたる海外の組織なども含んだより広い概念となり、あまり厳密ではない。

「みなし公務員」
準公務員とも。日本における、公務員ではないが、刑法上公務員とみなされる者。その職務が公務員の職務に準ずる公共性・公益性を有する、もしくは公務員の職務の代行であることから、贈収賄罪や虚偽公文書作成罪など、通常公務員にのみ適用される刑法法規が課される。ただし公務員とみなされるのは刑法法規に関してであって、民法・労働法法規においてはあくまでも民間人として扱われ、争議行為の禁止などは課されない。例えば国立大学の役職員や国立病院の役職員、自動車教習所の技能検定員はこの「みなし公務員」である。

「無断転載禁止/無断引用禁止」
しばしば著作物に付される語句。著作者の意志に反した転載(著作物をそのまま複製し、別の場所で公開すること)を禁ずる意思表示と、著作者の意思に反した引用(著作物を、自らの著作物のあくまで一部として複製し用いること)を禁ずる意思表示。しかし、そもそも法律上無断転載は著作者の意思表示なくとも禁止されており、引用は本来的に無断で行われるものであって著作者に拒否する権利はないため、これら語句は象徴的な意味しか持ち得ない。

「コンコルド効果」
埋没費用効果の俗称。認知バイアスの一種。ある対象に対して投資を継続することが損失を拡大させ続けるにすぎない状況下で、その状況を認識しているにもかかわらず、それまでの投資が無駄となること(投資費用の埋没化)を恐れて投資を中止できなくなるという、人間の心理的傾向のこと。この呼称は超音速旅客機コンコルドの開発をこの典型とする見方が定着したことによる。

「新制度論」
合理的選択論の制度無視的な側面を批判して登場した、政治学・社会学理論の総称。アクターと制度の相互作用を重視する。過去に採用された制度のもたらす結果がアクターの選択を枠付け、新たな制度を規定するとする「歴史的制度論」。制度がゲームのルールとして働き、諸アクターはその合理的プレイヤーとして行為して新たな制度が形成されるとする「合理的選択制度論」。制度はアクターの行動や現実理解を規定する「文化」として存在し、それによって新たな制度も規定されるとする「社会学的制度論」、以上三つが代表例だが、これら三つに還元されない理論も新たに登場している。

「拡大自殺」
自殺のうち、自殺願望のみならず他者・社会に対する復讐願望や、一人で死ぬことへの孤独感を抱き、他人を道連れにする形で行われるものを指す言葉。元々は1990年代に登場した精神医学上の概念だが、病名ではない。銃乱射事件や大量通り魔事件などの無差別大量殺人の多くが拡大自殺にあたると言われる。自らと無関係な者を対象としたものに限るかどうかなど、定義には揺れがある。

「しらけ世代」
1950-60年代頃に生まれた、政治を含む様々な社会的・協同的活動に無関心な(しらけた)世代のこと。大学入学-若年期にオイルショック・高度経済成長の終焉やあさま山荘事件・学生運動の終焉といった出来事を経験したことで、政治・社会に対する無力感が醸成され、結果として政治的無関心・政治活動への忌避感、個人主義的傾向が蔓延した世代とされる。

「巡航ミサイル」
航空機に類似した形状を持ち、ジェット機と同様に揚力とジェットエンジンによる推進力を用いて大気圏内を水平飛行することで目標に到達するタイプのミサイルのこと。ミサイルとしては射程が長く、またレーダーによる探知の難しい低高度を飛行できるため早期発見が困難という特徴を持つ。核弾頭を搭載することも可能だが、多くは通常弾頭を搭載して運用される。

「極超音速兵器」
ハイパーソニック兵器。極超音速(マッハ5以上)の速度で飛翔し、弾道飛行を行わず、もっぱら水平飛行によって標的に到達する兵器の総称。「弾道ミサイル」と異なり、高度100km以下の低空を飛翔するため地上レーダーによる捕捉が困難という特長を持ち、従来のミサイル防衛網を突破しうる兵器として注目される。1960年代にソ連が開発に着手し、一時凍結されていたが、現代では米中ロによって開発競争が繰り広げられている。

「経済的規制/社会的規制」
行政による何らかの規制のうち、経済活動を対象として行われるものを経済的規制、人々の生命・健康や環境保全などを目的とするものを社会的規制と呼ぶ。1970年代頃からの先進各国における行政改革の流れの中で、経済的規制はかなりの程度緩和が進められてきたが、社会的規制については緩和すべきでなく、むしろ強化すべきとの立場も有力。またこれらの定義からも分かるように、経済的/社会的の区別は相互排他的ではなく、経済的規制であるとともに社会的規制でもある例は珍しくない。

「補完性の原則」
補完性の原理とも。行政の役割は個人が担うべき役割を補完することに限定すべきという原則。そもそも自由で自律的な個人の集合として成立する国家・社会においては、その運営も個人の自由な活動と自己責任を前提として行われるべきであり、そこに行政が干渉することは望ましくないという考え方に基づく。ただし、この補完性の原則の強調は、自由市場による経済的格差や環境問題の深刻化、社会的分断といった様々な問題を放置することにも繋がる。

「検挙・摘発」
警察・検察が、犯罪行為を働いた者を特定し捜査に至ることを「検挙」、犯罪行為の発生を確認して公表することを「摘発」という。ともに法律用語というわけではなく、慣例的に使われる言葉。

「書類送検」
警察がある事件についての捜査を行った後、捜査で得られた証拠や供述書その他書類を検察に送付すること。書類送検をもって事件の捜査は検察の権限に移り、起訴・不起訴の判断を行う。警察が事件を捜査した場合は原則として全て書類送検を行うが、軽微な罪の場合は例外。書類送検の段階では起訴・不起訴の判断も下っていないため、当然前科はつかない。

「逮捕」
人を短時間の間拘束してその行動の自由を奪うこと。またはそれを手段とする強制処分のこと。相当の疑いのある犯罪被疑者の逃亡・証拠隠滅阻止のために行われ、それ以外の場合は違法となる。「身体の自由」の侵害行為であるため、法令に定められる要件・手続きに基づいて行われなければならず、例えば日本では「現行犯逮捕」「緊急逮捕」を除き、裁判官による逮捕令状の発付なしに行いえず、また逮捕時に必要以上の実力行使は認められない。

「通常逮捕」
いわゆる「逮捕」のうち、裁判官の発した令状(逮捕状)に基づき行われるもの。原則として逮捕時に被疑者に対して逮捕状を提示するが、特に緊急性を要する場合はその限りではない。なお、憲法において原則とされる類型の逮捕であるためこのように呼ぶが、検挙数自体は「現行犯逮捕」の方が多い。

「逮捕状」
逮捕令状とも。いわゆる「逮捕」を行う際に必要な、裁判官の発付する令状(許可・命令書)のこと。日本においては「現行犯逮捕」を除き、逮捕令状無しに逮捕を行うことはできない。まず検察官か公安委員会の指定する警部以上の警察官が地方裁判所・簡易裁判所に令状を請求し、裁判官その請求を審査した上で発付されるが、審査の厳しい裁判官を避けるために審査裁判官次第で一度撤回して請求し直す例もあるとされる。逮捕状には、被疑者の氏名・住居・罪名・被疑事実の用紙・引き渡しすべき官公署その他の場所・有効期間・有効期間経過後は逮捕できず、令状を返還しなければならない旨・発付年月日などが記載される。

「現行犯逮捕」
いわゆる「逮捕」のうち、被疑者が犯罪行為を行った(行っている)ことが明白な状況で、逮捕状の発付なしに行われるもの。通常、逮捕は「身体の自由」の侵害行為であり、その合法性を担保するには裁判官の審査を経て逮捕状の発付を待たなければならない。しかし現に犯罪行為を行った(行っている)者が明白な者であれば直ちに逮捕しても誤認逮捕の危険が少なく、「身体の自由」の不当な侵害になりにくいため、例外的に認められている。現行犯逮捕は検察官・警察官だけでなく、誰でも可能である一方、軽微な罪について現行犯逮捕することはできない。

「現行犯人」
現行犯とも。現に犯罪行為を行っている、または行い終わってから間がない人のこと。「現行犯逮捕」の対象。ただし、「間がない」が具体的にどれくらいの時間を指すかは判例によって一定しておらず、また刑事訴訟法においては、「犯人として追呼されているとき」などの「準現行犯人」とも呼びうるものも現行犯人に含まれており、憲法33条との整合性が問題とされる。

「緊急逮捕」
逮捕のうち、死刑、無期または最長3年の懲役・禁錮刑にあたる犯罪を行ったことを疑うに足りる十分な理由があり、かつ緊急性が認められるときに行うことができる、捜査上なしの逮捕のこと。代わりに逮捕後直ちに裁判所に捜査状を請求する。この類型の逮捕は憲法33条に適合しないとの疑いが持たれているが、現在のところ「通常逮捕の一種」とするのが多数説。

「ジョブ型/メンバーシップ型雇用」
企業等の雇用形態・人事制度を、雇用者の雇用目的・労働者の立場によって分類したもの。ジョブ型雇用における労働者は特定の職務のみのために雇用される者であり、その立場はその職務の位置づけと結合しており、職務の必要性がなくなれば容易に解雇されうる。対してメンバーシップ雇用における労働者はその企業の半永久的な構成員として雇用され、企業内で様々な職務の渡り歩きや兼務が行われる。メンバーシップ型雇用は日本企業で主流化しており、終身雇用制、賃金の年功序列、部署を超えた人事異動はその要素。

「職業別労働市場」
企業横断的労働市場とも。同じ職業・職種内で労働者が企業横断的に移動することを原則とする労働市場の理念型(モデル)のこと。労働者の移動が起こる際には、別企業の同じ職種への移動となる。この労働市場では労働力の流動性が高く、企業が独自に労働者を教育する動機が小さくなり、労働者の能力は就労以前に獲得するものが大きな比重を占める。

「企業内労働市場」
企業縦断的労働市場とも。一度企業に雇用された労働者の移動が、原則その企業の内側での昇進・降格のみとなる労働市場の理念形(モデル)のこと。労働力の流動性が低いため、企業には労働者を独自に教育して能力を高めるインセンティブが働きやすく、就労以前に得た労働者の能力はあまり重要とならず、むしろ採用の際には「伸びしろ」が重視される。日本の労働市場はこの性質を強く持つと言われる。

「SWIFT」
スウィフト。国際銀行間通信協会の略称、またこれにより提供される決済ネットワークシステムのこと。ベルギーに存在する協同組合で、銀行同士の国際金融取引における決済事務処理の仲介サービスを主な業務とする。ただし、そのネットワークが取り扱うのは銀行間の支払い要求メッセージのみであり、実際の資金移動を取り扱うわけではない。2022年現在、200以上の国家・地域の銀行の出資を受け、現在1万強の銀行が利用しており、この分野では独占的立場にある。

「国際開発金融機関」
MDBsと略。中所得国・途上国の経済発展・貧困削減を目的として、主に金融支援を行う国際機関の総称。一般的には全世界を対象とする「世界銀行」及び、地域毎に存在する「米州開発銀行」「欧州復興開発銀行」「アフリカ開発銀行」「アジア開発銀行」を指す。またその業務は金融支援にとどまらず、技術支援・知的支援なども含んだ総合的なもの。

「世界銀行」
ワールドバンク、世銀とも。中進国・発展途上国政府・NGOなどへの融資・技術協力・政策への助言を任務とする国際金融機関。1944年のブレトン・ウッズ協定によって国際通貨基金(IMF)と共に設立された「国際復興開発銀行」と後に設立された「国際開発協会」の総称であり、「世界銀行」という名の金融機関そのものがあるわけではない。単なる金融機関ではなく、国際開発を目的とする金融機関であるため、その融資戦略は貧困の削減や経済成長による生活水準向上を企図したものとなっているが、その手法には問題も多いとして批判されることも。

「世界銀行グループ」
WBGと略。中進国・発展途上国政府に対して金融支援を行う5つの国際機関、「国際復興開発銀行」「国際金融公社」「国際開発協会」「投資紛争解決国際センター」「多数国間投資保証機関」の総称。このうち「国際復興開発銀行」「国際開発協会」の二つが「世界銀行」と呼ばれる。本部はワシントンD.C。

「国際復興開発銀行」
IBRD。中所得国・途上国の開発支援のための国際金融を担う国際連合の専門機関。ブレトン・ウッズ協定に基づき1944年に設置された。元々は二次大戦後の戦後復興支援を目的としていた組織であり、組織名に名残がある。「世界銀行グループ」の一組織であり、また単に「世界銀行」と言った場合にはこれと「国際開発協会(IDA)」を指す。

「国際開発協会」
IDA。「世界銀行」の一翼を成す国際金融機関で、国際連合の専門機関の一つ。1960年設立。加盟国からの拠出金を原資として、債務リスクの高い最貧国に対する長期の低利融資・資金贈与を実施することを任務とする。また最貧国の債務削減や政府に対する助言も行っている。

「国際金融公社」
IFC。「世界銀行グループ」に属する国際機関の一つで、国際連合の専門機関の一つ。1956年に設立。中所得国・途上国に金融支援を行う世界銀行グループの中でも、途上国民間セクター支援に特化しているという特徴を持つ。市場の形成と雇用創出による途上国経済・社会改善を目標に、民間企業への投資・融資、他の投資家からの資本動員、企業・政府への助言を行っている。

「多数国間投資保証機関」
MIGA。「世界銀行グループ」に属する国際機関の一つ。1988年設立。途上国に対する民間直接投資の推進を目的に、途上国への投資を忌避する原因となる政治その他商業的リスクに対する投資保険を提供している。また近年では債務不履行に対する保証もその業務に加わっている。

「投資紛争解決国際センター」
ICSID。「世界銀行グループ」に属する国際機関の一つ。ISCID条約に基づき1966年に設立。国家―外国人間で発生する国際投資紛争の調停と仲裁を業務とする。ICSIDの仲裁裁判は両紛争当事者の合意により開始され、ICSIDの仲裁判断に対して国内裁判所が改めて審査することはできない。

「ソブリン債」
国債や公債、地方債といった、政府や政府機関によって発行・保証される債権の総称。世界銀行など国際機関が発行する同様の債権も含まれる。一般に信用力が高いとされるが、途上国政府によるものなどは安全性が下がるため、先進国政府が発行したもののみを指すこともある。ソブリンとは主権者や国王・君主の意。

「中所得国」
中進国とも。開発途上国よりは開発・発展しているが、先進国ほどではない国家のこと。さらにここから低中所得国と高中所得国に区別することもある。相対的な用語であるため厳密な定義づけを行うのは難しいが、一例として「世界銀行」は2020年時点で、GNIで1036-4045ドルの国家を低中所得国、4046-12535ドルの国家を高中所得国としている。

「新興国」
開発途上国(発展途上国)のうち、ある時点から見て近年その発展・成長が著しい国家、もしくは潜在的な発展・成長が見込まれる国家のこと。BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)など、複数をまとめて略称とすることも多い。旧来は単に「新たに興った国家」程度の意味で、新たに独立した旧植民地国家のことを指して用いられた言葉でもあるが、現在ではこの用法はほとんど見られない。

「一か二分の一政党制」
1955~70年代の日本政治および「55年体制」の特徴の一つ。自由民主党と日本社会党による二大政党制のことだが、常に社会党が自由民主党の約半分の議席数であったことからこのように呼ばれる。東西冷戦の状況、中選挙区制という選挙制度など複合的要因から成立したもの。自民党の政権は揺るがず、かといって憲法可能性の可能性もない状況という非常に安定した政治状況を生み出したが、後に顕在化する政治の機能不全の遠因になったともされる。

「証券取引所」
株式や債権といった有価証券を売買するために設けられた施設・法人のこと。大規模化した資本主義経済において必須となる資金調達・運用の場を一カ所に集中させ、効率化することを目的に設立される。但し全ての有価証券を証券取引所で扱うわけではなく、証券取引所で扱われるようになることを「上場」と呼ぶ。また普通、証券取引所で売買を行うためには当該証券取引所の取引参加者・会員となる必要がある。

「ナスダック」
NASDAQ。1971年に米国で設立された、世界初の電子株式取引所・株式市場。設立以来ベンチャー企業が多く上場しており、結果としてGAFAを初めとするハイテク企業・IT企業が大きな割合を占める。このことから、ナスダック上場株を元としたナスダック総合指数・ナスダック100指数は、ハイテク・IT企業の動向を捉えるための重要指数とされている。

「特別買収目的会社」
SPACとも。他企業を買収するためだけに設立され、上場する会社のこと。株式発行により買収資金を確保し、買収後は被買収会社と統合して上場企業としての地位を維持する。非公開会社・事業を短期間、低コストで上場させることを目的としており、実質的には非公開会社が上場前から取引所で資金調達していることにもなる。ただし、SPACは上場時に買収先を示すわけではないため投資家にとってはリスクとなり、また詐欺の手口にもなりうるという問題も持つ。

「株式公開買い付け」
TOBと略。企業買収手法の一つ。買収方針、即ち購入する株式の数量・価格・購入完了期日を事前に公表し、その買収方針に基づいて買収を行うもの。証券取引所を通さずに直接買収を行う場合に義務づけられている。またTOBのうち、買収される企業の賛同があって行われるものを「友好的TOB」と呼び、賛同なく行われるものは「敵対的TOB」と呼ばれ、「買収防衛策」がとられる場合が多い。

「買収防衛策」
敵対的買収、すなわち買収される企業の同意を得ずに行われる企業買収を予防・阻止するために、当該買収対象企業がとる様々な手段の総称。ある企業を買収して経営権を握ろうと画策することは原則として買収者の自由だが、買収者の株主としての権利保有・行使が企業価値を損ねるおそれがある場合などに限り、防衛策が認められている。しかし、実質的に単なる既存経営陣の自己保身として行われる場合もあり、買収防衛策を巡る法整備・法規制が議論の対象となっている。

「敵対的買収/友好的買収」
企業買収のうち、買収される企業経営陣の同意を得ずに行われるものを敵対的買収、同意を得て行われるものを友好的買収という。敵対的買収の場合は買収成功後に買収者の意向によって経営陣の一新や経営方針の大幅転換が行われることが容易に想定されるため、買収対象企業が買収防衛策によって対抗する可能性があり、法的紛争に至るなど買収コストが高くなりやすい。そのため、企業買収の際にはまず友好的買収を目指すのが通例となっており、単に買収というと友好的買収を指すことが多い。

「ポイズンピル」
シェアホルダー・ライツ・プラン(株主権利計画)とも。企業の敵対的買収に対する予防的な買収防衛策の一つ。事前に買収者以外の株主に対し、「株の買い占めが一定量を上回った場合に、株式を他者より有利な条件で取得できる権利」(新株予約権)を付与しておき、買収が行われた際に新たな株式を発行して発行済株式数を増大させ、買収に必要な株式数を増大させるもの。買収コストを上げることで買収を防ぐ手法の一つ。

「新株予約権」
ある株式会社からその株式の交付を受ける権利のこと。当該株式会社によって交付する株式の数量・出資額など必要な事項を定めて付与される。株式そのものとは別物で、社債でもない。役員・従業員へのインセンティブや資金調達手段、「ポイズンピル」などに用いる。「ストックオプション」と「ワラント」を統合したもの。

「ストックオプション」
ある株式会社の役員や社員に対して付与できる、自社株をあらかじめ定められた価格で取得できる権利のこと。業績向上に伴い上昇する株価よりも安価に株を取得できる可能性を与えることで、労働インセンティブとすることを主な目的とする。似た権利に「ワラント」があるが、ストックオプションは役員・社員に対してしか付与できない。日本においては「新株予約権」の一種として扱われる。

「ワラント」
株式引受権、新株引受権。ある株式をあらかじめ定められた価格で取得できる権利のこと。時価よりも安い価格で購入できるメリットを求め、当該株式会社によって価格と購入可能期間を定めて発行される。「ストックオプション」と異なり、当該株式会社の役員・社員以外に対しても発行できるのが特徴。日本では「新株予約権」の一種として扱われる。これと社債を組み合わせたものが、ワラント債。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?