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政治用語bot更新原文(2020/11/22)

政治用語bot(https://twitter.com/seijiyougobot)を三ヶ月ぶりに更新した。
bot用に140文字に縮める前の原文を以下に載せる。原文からできるだけ短く書こうとしているはずなのだが、今回はそれでも長くなりがちで、縮めるのにやたら時間(1晩以上)がかかった。1語やたら誤字が多いが、縮める際に直している(はず)。

今回の更新の中心は裁判外紛争手続き(ADR)と、前々から書こうと思って放置していた基本用語を少しでも減らすこと。
司法制度改革関連の用語やら、行政紛争やら消費者紛争やら公害紛争関係の用語は、ADRについて調べていたら関連語であれもこれも…という次第。

他にも、前回更新(8月)の継続で国際紛争法・安全保障関連や、ここ最近あった国勢調査、船舶事故、アメリカ大統領選関連。新聞を一月二月貯めて一気読みするのだが、それも影響している。また『朝鮮思想全史』を読んだこともあったので、朝鮮思想系を少しだけ書いた。

2年か3年くらい前にあった「憲法について教えてください」というリプライは未だに頭にあり、全条文を項目として書くつもりだが、まだ三つくらいしかできていないので、それが課題。

また、つい昨日、「最近の新右翼・新左翼系の言葉を解説すると良いのでは?」というリプライも貰った。これはその通り。ただオルタナ右翼だとかは未だに俺自身の理解が進まないので、書くのを躊躇しつづけているものだったりする。まとまった文献も多くないのが困りどころ。これも課題としておく。アメリカ新保守主義(ネオコン)はそろそろ書けそうな気がするので、その辺からか。

あと、共同体主義(コミュニタリアリズム)とか、分析哲学/大陸哲学は、もう何年も書こう書こうと思いつつ先延ばしにしている懸案である。基本用語だが評価が難しいパターンなので非常に難しい。

それと、これは愚痴だが、野党が頻繁に離合集散するのなんとかならんのかね。戦略上必要と思ってるからやってるとは思うのだが、bot書いてる側からすると、その度に修正更新しなきゃならんし、新しい政党のルーツ書いてると深い内容まで140字では収まらないという大問題が生じて非常に困る。


「辞書的/教科書的」
ある言葉や概念に関する説明について、それが簡潔で、一般的・常識的・典型的なものであることを示す形容詞。「教科書的な理解」「辞書的な意味」のように用いられる。またこの言葉は、その説明が簡潔に過ぎて浅いことや、常識的・典型的に過ぎて必ずしも実情を反映しているわけではない、という批判を含意することも多く、その場合は辞書的/教科書的な説明の後により詳しい説明が続く。

「革命」
ある政治体制が根本的に変革されること。特にフランス革命に代表されるような、主権の移動とそれに伴う社会・政治・経済の急激な改革を指す。軍事力や民衆暴動といった実力を背景とするのが通例だが、侵略によって主権が他国に奪われるような場合は含まない。転じて、産業革命や科学革命のように、単に「根本的な変革」を指して用いられることも数限りなくある。


「超然主義/超然内閣」
大日本帝国憲法制定時から大正時代の政党内閣成立期までの内閣がとっていた、内閣は議会・政党の動向と関わりなく政策を立案・実施すべきという考え方を超然主義、そのような内閣を超然内閣という。議会政治家や政党はあくまで私的利益の代弁者であると捉え、内閣を安定した公益追求機関と位置づける考え方だが、実際のところ国民・利益団体の支持を背景とした議会・政党の意向を無視することはむしろ内閣運営に混乱をもたらすことになった。


「国勢調査」
日本で5年に一回行われる、日本在住者全てを対象とする最大かつ最も基本的な統計調査。日本国内の人口・世帯の実態把握を目的とし、人口・性別・年齢・世帯状況・国籍・住民の移動・教育・就労状況・住宅といった事柄について調査し、その結果は法案・政策策定、研究、民間事業など様々な分野で利用される。その重要性から国勢調査への回答は義務であり、回答拒否・虚偽回答には罰則がある。ちなみに、西暦末尾が0の年は簡易調査となっており、調査項目数が少ない。

「相関関係/因果関係」
統計的に、ある数値の増減に応じて別の数値が増減する法則性が見出される関係を「相関関係」といい、さらにその片方の数値の増減が原因となって他方の数値の増減という結果をもたらすメカニズムが成立する関係を「因果関係」という。因果関係は相関関係の一種だが、相関関係が成立しているからといって直ちに因果関係が成立するわけではない。

「疑似相関」
因果関係が成立しないにもかかわらず、成立しているように見える相関関係のこと。つまり、一見すると原因と結果の関係があるように見えるが、実際にはそうではないもの。疑似相関は単なる偶然の場合もあるが、相関関係のある二つの要素それぞれと因果関係を持つ別の要素(潜在変数)によって説明できる場合もある。例えば日本ではある特定の時期にお賽銭が大幅に増加し、同時に蕎麦の売り上げも大幅に増加するが、「賽銭が増えると蕎麦の売り上げが増える」というわけではなく、年末年始になると両方増えるのである。

「大使館/領事館」
ある国が外国領土内に設置する外交拠点である「在外公館」のうち、特命全権大使が置かれるものを大使館、領事が置かれるものを領事館といい、それぞれ置かれている外交官の種類に従って役割が異なる。領事館は外国に滞在している自国民向けの手続きや、設置されている国の人々向けのビザ発給や情報提供・国際交流推進等の私人を相手とした行政事務のみを行う。一方大使館では領事館の業務に加え、設置されている国との外交交渉や条約調印といった、国を相手とする外交業務を行う。大使館は首都にだけ置かれるのが通常だが、領事館は様々な場所に複数置かれることも多い。

「価値観外交」
福田内閣期を除く2006-16年の間に日本政府が採用していた外交方針。普遍的価値(自由・民主主義・基本的人権・法の支配・市場経済)を共有する地域・国家との協力、または普遍的価値の普及・確保によって、ユーラシア大陸外周部に「自由と繁栄の孤」を形成しようとするもの。2016年以降は「『自由で開かれたインド太平洋』戦略」として引き継がれる。自由主義の輸出を目指すアメリカの新保守主義の影響が強い。

「一帯一路」
BRI、OBORなどと略。中国が2014年に提唱した経済圏構想・外交戦略。大規模なインフラ整備・経済援助・貿易促進によって、中国-ユーラシア間の陸路地域の発展(一帯構想)と中国-アフリカ間の海路沿岸の発展(一路構想)を同時並行的に目指し、新旧二つのシルクロードを軸とした独自の新たな大経済圏を構築するもの。「アジアインフラ投資銀行」などはこの構想に連なる。

「『自由で開かれたインド太平洋』戦略」
FOIP。2016年から日本政府が唱える外交方針。法の支配・航行の自由・自由貿易の普及、インフラ整備・経済提携による経済的反映、平和・秩序の構築によって、インド洋・太平洋で結ばれるアジア・アフリカ地域の発展を目指すもの。欧米の外交戦略にも影響を与えた。中国の「一帯一路」構想に対抗して打ち出されたものだが、それが中国との対決・協力のいずれかであるかは解釈の幅がある。

「孤立主義」
自国および自国が権益を持つ領域を除き、可能な限り他国との関わりを持たない外交方針のこと。特に「モンロー主義」に代表される、第二次世界大戦までのアメリカ合衆国で行われたものをいう。他国との関わりを持たないことで外交争いや戦争を避け、内政に集中する方針である。但し、自国・自国権益を保全し単独行動を可能にするべく他国に対して「相互」不干渉を強く求める点で、単なる消極主義ではない。

「モンロー主義」
アメリカ合衆国で1823年に明確化され、以後第二次世界大戦まで原則となった孤立主義外交方針。ヨーロッパに対し不干渉姿勢をとると同時に、ヨーロッパ諸国に対して南北アメリカ大陸全域への不干渉を求めるもの。これは中南米への伸長・権益拡大をアメリカのみが行うこと、即ちアメリカによる中南米介入の正当化であり、単なる消極主義ではない。ヨーロッパへの不干渉は第一次世界大戦時、第二次世界大戦後に崩れたが、中南米への介入方針は未だ維持されている。

「国際連合総会」
国連総会、総会と略。国際連合の中心となる審議機関。毎年9月に開会され原則として全ての国連加盟国が参加し、国連の行う様々な政策についての審議と議決を行う。全ての国連加盟国が一票の投票権を持ち、基本的に出席国の過半数の賛成によって議決し、予算や安全保障政策、新加盟国承認、安保理非常任理事国選出といった重要事項は3分の2の賛成が必要。ただし、加盟国に対して直接に拘束力を持つわけではないため、権限を強化すべきとする議論もある。

「持続可能な開発目標(SDGs)」
2015年に国連総会で採択された途上国支援・開発目標。貧困・健康・教育・ジェンダー・環境・資源・雇用・法整備など17のグローバル目標(到達目標)を掲げ、169のターゲット(達成基準)を規定し、2030年までに到達することを目指す。2015年を目処とした「ミレニアム開発目標(MDGs)」を継承しているが、その内容はより広汎化・具体化されており、また国際機関・政府機関だけでなく民間企業・NPOなどの協力を前提とする点も異なる。

「拒否権(国連安保理)」
国際連合安全保障理事会(国連安保理)の常任理事国(米英仏中ロ)が事実上持っている、安保理決議を否決する権限。安保理決議は15理事国のうち「常任理事国5ヶ国全てを含む」9ヶ国の賛成が必要なため、各常任理事国は自らの反対のみによって安保理決議を否決できる。この仕組みは大国たる常任理事国の一致のない決議は現実で有効性を持ち得ないとの考えによるが、その裏返しとして、自国利益のために恣意的に用いられているとして批判される。

「国際海事機関」
IMOと略。海上通航・海運の安全確保、海上事故発生時の対応、海運技術の向上を任務とする国際連合の専門機関。1958年政府間海事協議機構として設置され、現在の名前になったのは1982年。元々は安全性の基準策定や船舶入港の際の手続き、事故時の損害賠償設置といった、船舶貿易に必要な国際的ルール作りを目的としていたが、70年代頃からは公害・環境への関心の高まりとともに船舶航行や船舶事故に伴う海洋汚染を取り扱い、更に2000年代ではテロや海賊への対策も重視されるようになっている。

「日ソ共同宣言」
1956年に日本とソビエト連合間で締結された条約。東西冷戦の影響で遅れながらも、この条約によって第二次世界大戦末期に断絶した日ソ間国交が回復し、本格的かつ恒久的な政治・経済その他の交流・工廠が可能となった他、安保理で拒否権を持つソ連の支持を受けられるようになったことで、日本は国連加盟を果たすことになる。また、北方領土のうち歯舞島・色丹島を「今後」引き渡すことが明記されているが、それは以後改めて平和条約を締結した後に行うとして棚上げされている。

「ABC兵器」
核兵器(Atomic)・生物兵器(Biological)・化学兵器(Chemical)を総称した言葉。核兵器をNuclearとしてNBC兵器としたり、放射能兵器(Radiological)を分けてNBCR兵器とすることもある。どれも典型的な「大量破壊兵器」であり、武力紛争法に抵触するとして規制が議論されやすい。生物兵器・化学兵器については規制が進んでいるものの、核兵器は保有国の反対が強く、難航する傾向にある。

「ウラン濃縮」
天然ウランを原料に、核分裂する性質を持つウラン235の含有量を増やし、核燃料としての性能を高める作業のこと。副産物として「劣化ウラン」が生じる。ウラン235の含有量に応じて低濃縮ウランと高濃縮ウランに分けられ、多くの原子力発電には低濃縮ウランが、核爆弾製造には高濃縮ウランが必要となるが、どちらも同じ方法で行われるため、ウラン濃縮はそれ自体で核爆弾製造の懸念を生じさせる。

「主体思想」
チュチェ思想とも。北朝鮮で発達した一種のナショナリズム思想。人間中心主義に立脚した上で、他者・他民族の思想・技術に頼らず「自ら(自民族)のみによって」社会変革・自然の改造を行うべきとする考え方。マルクス・レーニン主義から派生したものであると同時に、朝鮮の歴史が「事大主義」の歴史であったという認識を背景とする。先軍思想と並ぶ北朝鮮の根本理念とされる他、インド、パキスタン、スリランカ、アフリカ、ラテンアメリカ、イタリアなどで一定の影響力を持つ。

「先軍思想」
北朝鮮において「主体思想」と並ぶ根本理念とされる政治思想。国家の自主独立・「主体性」を確立・維持するために必要として、軍事力の増強を国家の最重要課題として他の全てに優先させる考え方。1990年頃に多くの社会主義国家が崩壊したことへの危機意識と、抗日パルチザンにルーツを持つ北朝鮮の歴史を背景とする。この思想においては軍に大きな特権性を与えるが、それは同時に軍の責任の強調をも意味する。

「事大主義」
外交方針や人間の姿勢として、自らより強い者に付き従うことで保身を図る様。特に朝鮮思想において自らの歴史・民族を語る際に、過去の朝鮮半島国家の政治・文化が事大主義的であったが故に自民族の独自性が毀損されたとして自己批判的に用いられ、事大主義への反発は韓国・北朝鮮ナショナリズムの一要素を成す。『孟子』を典拠とするが、そこでは否定的な意味は持っていない。

「雨傘運動」
2014年の香港で発生した、行政長官選挙に関する大規模な普通選挙運動の通称。普通選挙制を導入する予定であった17年選挙に関し、中国政府が候補者を指名委員会の賛同による数人に制限する決定を行ったことが被選挙権の制限・民主派候補の排除と捉えられ、デモから中心市街占拠にまで至った。しかし中国政府は譲歩せず、香港政府は秩序回復を優先して強硬策を講じたことから3ヶ月ほどで終結した。香港警察が用いた催涙弾を傘で防ぐデモ隊の様子からこの名で呼ばれる。

「党中央委員会全体会議(中国)」
中国共産党の最高機関である中央委員会において、年1-2回開かれる会議。中国共産党の最高意思決定機関は5年に1回開かれる党大会であるが、党大会閉会中はこの全体会議が代わりの意思決定機関となるため、重要視される。党大会後の何回目の開催かに応じ、一中全会、二中全会…と略す。本格的な政策審議は三中全会から行われ、七中全会まで行うのが慣例。

「一国二制度」
中華人民共和国の政治制度の一つ。中国の主権下にある特定の地域に対し、ある程度独立した政府による中国本国と異なる制度での自治を認める仕組み。元々は中華民国(台湾)併合のために構想されたものだが、現在は香港とマカオに適用されている。これは一方で民主化運動などの反中国政府運動の封じ込め、他方で適用地域独自の制度による経済発展の保全として機能しているが、これは一国二制度の運用自体がそれらの情勢に左右されることも意味する。

「立憲民主党(2020~)」
2020年に「立憲民主党(~2020)」と「国民民主党(~2020)」及び旧民進党系無所属議員の合流によって生まれた政党。中道左派~中道。立憲主義・熟議民主主義・草の根民主主義を中核理念に置き、人権の尊重・差別撤廃による共生社会の形成を目指す。機会の平等を念頭とした社会保障、地方自治の確立、情報公開の徹底、国際協調などを主張。

「国民民主党(2020~)」
2020年の「立憲民主党(2020~)」の結成に参加しなかった「国民民主党(~2020)」の議員が改めて結成した政党。中道~中道右派。自由・共生・未来への責任を基本理念とし、立憲主義・国民主権・平和主義・人権尊重・社会保障・地方自治・共生社会などを主張。自らを改革中道政党と位置づけており、与党と対立するのではなく提案し解決するという方針を持つ。

「組閣・内閣改造」
議院内閣制において行われる、議会によって首相に指名された者が他の国務大臣を任命して内閣を組織する作業を「組閣」。その後の首相任期中に任意で行われる国務大臣の任免・入れ替えを「内閣改造」という。内閣改造は政治情勢変化への対応やイメージ刷新を目的に行われ、内閣改造が行われると、一回目は「第2次○○内閣」、二回目は「第3次○○内閣」と、改造前の内閣と区別して呼ばれる。なお、広義には内閣改造も組閣の一種として扱われる。

「寅年現象」
干支でいう寅年に行われる参議院議員通常選挙では投票率が上昇する、という現象のこと。この年は翌年に統一地方選挙が行われる年である。国政政治家と地方政治家の依存度が高い場合、この年には地方政治家が翌年の選挙で自らを支援するであろう候補者を参議院選で当選させるべく支援に積極的になり、結果として投票率が上昇するとされる。


「損害賠償一元化論」
犯罪に対する刑罰の全てまたは一部を廃止し、損害賠償制度に一元化するべきとする議論。「リバタリアニズム」の文脈で主張される。国家による刑罰はそれ自体が自己所有権・自己所有権の侵害となり得る点、刑に服している間は収入が得られないため損害賠償が行えずに却って被害者の受けた権利侵害を補填できなくなりうる点、刑罰による犯罪抑制効果が実際には不確定である点で問題が大きいとし、刑罰の代わりに損害賠償による被害者救済の強化・貫徹を求めるもの。


「純粋損害賠償/懲罰的損害賠償」
なんらかの違法行為で他人の権利を侵害した際に課せられる損害賠償のうち、単に違法行為によって侵害された利益に応じた原状回復措置として課せられるものを「純粋損害賠償」。さらにそれに上乗せする形で違法行為に対する制裁・懲罰として課されるものを「懲罰的損害賠償」という。懲罰的損害賠償は民事法・刑事法の区別が厳格でない英米法において発達したものだが、訴訟が乱発される原因ともされる。

「逸失利益」
得べかりし利益ともいう。不法行為や債務不履行によって得られなくなった利益のこと。例えば交通事故の死亡者について、もしその人が事故に遭わず生きていれば得られていたであろう収入がこれにあたる。その計算は訴訟による損害賠償請求や保険の計算において重要。

「裁判外紛争解決手続(ADR)」
従来は裁判によって処理されていた紛争について、裁判以外の方法で処理するための方法やその過程の総称。裁判とはいわば国家権力が第三者として強制的な解決を図る営みであるため、権力濫用防止のために厳格な手続き、長期間かつ高コストの慎重な審理、手続きの公開、時に当事者の意向を離れた普遍的な解決策の提示といった要素を持つ。しかし、これら要素が却って紛争解決の障壁となる例も多く存在することから、裁判に代わる手続きとして構想された。

「ADR目的論」
裁判外紛争解決手続き(ADR)が、一体何を目的とする仕組みなのかに関わる議論の総称。比較的重要度の低い紛争を裁判手続きから除外する目的(司法効率化説)、裁判の負担を払えない者にも行政の働きとして広く紛争解決手段を提供する目的(政策的救済説)、法的な解決に留まらざるを得ない裁判での紛争解決とは異なる、より高度な紛争解決を提供する目的(質的優位説)の三つに大別される。これらはどれが最も正しいというものではなく、現実の様々なADRが暗に前提としているものである。

「集団的紛争/集団訴訟」
紛争そのものは一つだが、その紛争について複数人が共通した利害関係を持つものを集団的紛争。そのような利害関係者が同時に原告となって、裁判での解決を求めて起こす訴訟を集団訴訟という。消費者紛争や労働紛争、公害紛争は典型例。このような紛争における個々の利害は小さいため、個人で交渉・訴訟する場合には負担が勝ってしまい現実的ではない。そのため、共通する利害を一つにまとめて交渉・訴訟することで負担の軽減や分散をはかるもの。

「クラス・アクション制度」
主に英米圏で発達した集団訴訟制度。ある紛争について複数人が共通した利害関係を持つとき、その一部の人々が他の共通する利害関係者の同意を得ないまま代表者として訴訟を提起することを認め、またその裁判の効力を他の全ての利害関係者にも及ぼす仕組み。効力が及ぶことを望まない者は事前に申出が必要となる。同意取り付けにかかる事前準備を省略することで集団訴訟の簡便化・迅速化をはかったものだが、訴訟時に自らが利害関係者であることに気づいていない者にまで影響することなど、問題もある。

「公害等調整委員会/公害審査会」
日本の行政委員会の一つ。大気汚染や水質汚染、騒音などに関わる紛争について、あっせん、調停、仲裁といった形での解決を図り、またそのための相談受付、公害調査。紛争当事者の利益調整などを行う。公害等調整委員会は国に置かれ、より強制力の強い裁定手続きをとることも可能。また鉱業等に関わる土地利用調整も管轄する。公害審査会は都道府県が設置する。公害紛争では被害者に多大な負担がもたらすことから、それを軽減するための仕組みとして置かれている。

「公害」
人間の活動を原因とする、広範囲にわたる環境汚染や健康被害のこと。日本の環境基本法ではさらにそのうち大気汚染や水質汚濁、騒音などの「典型7公害」を指す。原因となる人間の活動は何らかの事業のために経済合理性を追求するものであることが多いため、公害は経済成長・産業化の歪みと呼ばれる。古くは鉱山による鉱害、後に工業化に伴う大気汚染・や海洋汚染、さらに現代では日常生活由来の都市生活型公害と、多様化している。

「典型7公害」
環境基本法2条3項で列挙されている、大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、地盤沈下、悪臭といった7種類の「公害」のこと。環境基本法の前身といえる公害対策基本法で定義されたもの。より一般的に公害と言った際には他のものも含む場合もあるが、法律上はこれら典型7公害のみが公害として扱われており、それ以外は別の法律・仕組みで対応がとられる。典型7公害以外の公害として代表的なのは不法投棄。

「消費者」
商品を購入したり、サービスを利用する個人のこと。それらを提供する側である事業者に対する概念であり、何らかの事業のために商品を購入する者は含まない。消費者は生身の個人であり、また組織を持つ事業者よりも情報取得能力や交渉能力で大きく劣るため、不利な契約を結んだり、製品欠陥を欠陥として認識できない、もしくは認識したとしても事業者との交渉に失敗したり、被害に対する原状回復が難しいといった事態が発生しやすい。また一方で家計消費の当事者として社会・経済に影響を及ぼす存在という側面もある。

「消費者問題」
商品を購入したりサービスを利用する消費者と、それら商品・サービスを提供する事業者の間に発生する様々な紛争・問題のうち、消費者と事業者の間の本質的な不平等に関係するもの。食品偽装問題や製品欠陥による事故はその例。事業者は多くの場合法人や組織であるのに対し、消費者は一個の自然人であり、また得られる情報・交渉能力で大きく劣る。そのため消費者側の努力のみで問題を解決することは困難を極めるため、事業者との不平等を緩和する支援が必要となる。

「消費者行政・消費者政策」
一般に事業者よりも情報取得能力・交渉能力に劣り不利な立場にある「消費者」の利益を保護する行政・政策の総称。食品偽装や悪徳商法、製品欠陥による事故といった「消費者問題」の処理を中心とし、問題予防のための消費者教育や、事業者への指導や是正勧告による市場の適正化、多重債務問題などの広く消費者に関わる問題への対応も含まれる。戦後経済成長・大衆消費社会の到来に伴う歪みの是正として重要性が高まったもので、現在の日本では「消費者庁」が統括している。

「消費者庁」
内閣府の外局の一つ。日本における「消費者行政」の統括組織。00年代に食品偽装・危険物混入といった食の安全問題やインターネットを通じた悪徳商法、製品事故が増加し注目を集めたことを受け、それまで各省庁に分散していた消費者行政事務を一元化するべく09年に設置された。所轄する「国民生活センター」を通した個別的な消費者問題対応の他、消費者契約法や景表法、特定商取引法に基づく市場適正化も業務とする。

「消費生活センター」
都道府県や市町村に置かれる、悪徳商法や製品の欠陥等に関わる紛争(消費者紛争)の処理を行う行政機関。事業者や商品等についての苦情・相談受付を中心とし、必要な場合にはADRや団体訴訟制度の紹介を行い、「国民生活センター」や「消費者庁」の窓口的役割も果たす。また消費者紛争についての広報や啓発活動の企画実施も業務とする。対象は広汎であり、多重債務についての相談も受け付けている。なお、自治体によっては別の名前で置かれていたり、役所内の一部署で代替している場合もある。

「国民生活センター」
悪徳商法や製品欠陥などのいわゆる消費者問題についての調査研究や情報提供、裁判外紛争解決手続(ADR)の提供を業務とする独立行政法人。消費者庁所轄。各地方自治体に設置されている「消費生活センター」とは別組織だが連携関係にあり、消費生活センターは国民生活センターの窓口的役割を果たし、国民生活センターは消費生活センターへの情報や研修プログラムの提供といった支援を行っている。

「消費者委員会」
内閣府に属する審議会の一つ。2009年の「消費者庁」発足と同時に設置された。政府及び消費者庁から独立した第三者機関として広く「消費者行政」全般を監視し、また関係省庁や大臣からの諮問に応じて広く消費者行政に関わる様々な調査・審議を行い、答申や勧告、建議を行う。また審議会という性質から、消費者の声を政府に直接伝達・反映するためのパイプ役としての働きも重視されており、消費者委員会独自の判断で調査や審議を行った例も多い。

「日本国憲法第17条」
国や自治体の損害賠償について定めた日本国憲法の条文。公務員による不法行為で民間人に損害を与えた際に、不法行為を行った公務員のみならず国家や自治体もその責任を負うことがありえると規定する。これを具体化したのが「国家賠償法」。それ以前は「国家無答責の法理」により、その不法行為が公権力の行使である場合には国家や公務員の責任は全て否定されていたことから、この条文は大きな進歩とされる。ちなみにこの条文は憲法草案には含まれておらず、衆議院での審議によって追加された。

「救済三法」
日本における三つの代表的な行政救済法である「国家賠償法(国賠法)」「行政不服審査法(行審法)」「行政事件訴訟法(行訴法)」の総称。それぞれが国家賠償(行政権を用いた不法行為に関する賠償)、行政不服申立(行政権の行使についての不服の申立とその処理)、行政訴訟手続き(行政権の行使の是非を裁判で争う際の手続き)についての一般法となっており、民法・民事訴訟法の特別法という側面も持つ。

「国家賠償法」
国賠法と略。日本における、国や公共団体による損害賠償責任について定めた一般法。行政法の一種で、民法の特別法でもある。憲法17条の内容を具体化したもの。特に過失・故意による違法な公権力行使や、道路・河川などの設置管理の瑕疵に関わる損害賠償について条文化されており、その他のケースについては民法など他の法律に委ねている。なお、ここで言う公共団体は地方公共団体のみを指すわけではなく、公権力を行使する団体(例えば独立行政法人)も指し、逆に発生した損害が公権力の行使にあたらないのであれば国であっても対象外。

「国家無答責の法理」
大日本帝国憲法下での国家賠償についての考え方。国家の行為によって民間人に何らかの損害が発生したときであっても、それが国家の権力行使によるならば、国家は一切責任を負わず損害賠償も不要とするもの。当然ながら、この考え方では当該行為に関わった公務員も責任を負わないことになる。現在、この考え方は日本国憲法第17条及び国家賠償法の成立によって明確に否定されているものの、国家賠償法成立前の行為については適用されるため、いわゆる戦後補償においてこの解釈が論点となる。

「行政不服審査法」
行審法と略。行政による公権力の行使(処分)に不服がある者(判例では公権力行使の対象者)が行う不服申立てと、それを受けた不服審査について規定した法律。不服審査は、行政自らが審査し何らかの裁決・決定を下す点で司法による行政訴訟と異なり、またその判断が法的拘束力を持つ点で単なる苦情処理とも異なる。ちなみに、公権力を行使しないこと(処分の不作為)に対する不服申立ても認められており、その場合は公権力の行使を申請していた者が不服申立てできる。

「行政事件訴訟法」
行訴法と略。日本における「行政訴訟」の手続きを定める法律。私人間の権利義務(利害)のみを扱う民事訴訟と異なり、行政訴訟は行政による公権力の行使が法に照らして適切に行使されているかどうかも扱うという特殊性を持つことから、そのための特別な訴訟手続きを規定している。民事訴訟では扱えない「裁判当事者に直接の利害関係がない訴訟(客観訴訟)」についても規定されていたりする。ちなみに、法律の構成において取消訴訟が中心になっている特徴もある。

「主観訴訟/客観訴訟」
日本における行政訴訟のうち、裁判当事者間の具体的な権利利益について争う「抗告訴訟」「当事者訴訟」の二つを主観訴訟と呼ぶ。それに対して、具体的な権利利益を争わない、法令違反の是正そのものを争う「民衆訴訟」や、国や公共団体同士の間で権限の有無や権限行使の是非を争う「機関訴訟」の二つを客観訴訟という。客観訴訟は、裁判によって誰の利益も救済されないため端的に言えば無駄であり、通常は裁判自体行われないが、行政訴訟では法治主義の貫徹という目的に鑑みて特別に裁判される。

「抗告訴訟」
行政訴訟の一種にして主観訴訟の一種。行政庁による公権力の行使に関する不服の訴訟のこと。処分や裁決の取消を巡り争う取消訴訟はこの一種で、行政訴訟としては最も典型的なものでもある。他にも処分や裁決の有効無効を争う無効等確認訴訟。行政庁が処分や裁決を行わない際に裁判所の権限でそれらを命令することを求める義務づけ訴訟。その逆で、行政庁による処分や裁決を禁ずる命令を求める差止訴訟といったものがある。


「当事者訴訟」
行政訴訟の一種にして主観訴訟の一種。国対私人という非対称な関係ではなく、私人対私人という対等当事者の間で行われる訴訟のこと。さらに、行政庁による公権力行使の是非を争っているが、法令の規定により形式的に当事者の片方を被告とすることが定められているものを形式的当事者訴訟と呼び、土地収用の補償金額を争う訴訟はこの例。それに対し、対等当事者の権利利益を争っているが、その権利利益が公法上の権利利益であるものを実質的当事者訴訟と呼び、公務員の地位確認訴訟はこの例。当事者訴訟の手続きは基本的に民事訴訟法に準じる。

「民衆訴訟」
行政訴訟の一種。訴訟を提起した者の権利利益の保護ではなく、国や公共団体による法令違反の是正自体を求める訴訟のこと。通常の民事裁判などでは争えない「客観訴訟」の一種であるが、法治主義の貫徹を目的とする行政訴訟では争える。民衆訴訟が可能かどうかは個別法令に定められており、例えば公職選挙法では選挙に関する訴訟が可能と定めている。

「機関訴訟」
行政訴訟の一種。国や公共団体といった行政機関同士、権限の存否または権限の行使について争う訴訟のこと。通常裁判で争えない「客観訴訟」の一種であり、原則として行政組織内部の調整もしくは裁判以外の第三者機関によって解決されるべきとされるが、特に個別法令で訴訟を認めている場合がある。例えば自治体の業務に国が関与した際に、当該自治体がその取消を求める訴訟が機関訴訟にあたる。

「部分社会論」
部分社会(自律的な法規範を持つ団体や組織)の内部で起こった紛争については、たとえ司法による法律判断が可能であったとしても介入すべきでなく、その団体・組織内部での自律的な解決に委ねるべき、という裁判での考え方。個人が部分社会に加入するかどうかは自由である以上、当該紛争が部分社会の外側に影響せず、また部分社会の規範がそれなりに合理性を持つ限り、部分社会に介入してその自律性を侵すことはむしろ望ましくないというのがその理由。政党の除名処分や、短期間の停学処分などが対象となる。


「司法制度改革」
日本で1999年から現在に至るまで継続している、司法制度全体を対象とした総合的かつ大規模な改革の流れのこと。裁判等があまり利用されておらず、司法サービスが国民に行き渡っていないという問題、その背景には国民の司法や法への無関心・無理解もあるという認識、さらに産業構造・社会構造の変化を鑑みて、司法制度全体の広汎化・簡便化を目指したもの。裁判員制度の導入や法科大学院設置、裁判外紛争解決手続(ADR)の拡充、裁判手続きの簡素化や法テラスの組織といったものがその代表例。

「裁判員制度」
日本の裁判における市民参加制度。有権者から無作為に選ばれた者が裁判員となり、殺人罪や傷害致死罪といった重大な犯罪の地裁審理に参加し、裁判官と共に証拠調べや有罪無罪の判断、量刑の評決を行うもの。評決は多数決によるが、裁判官・裁判員から一人ずつの賛成が必須。法律解釈などの専門的な判断は裁判官のみが行う。市民の日常感覚の反映、司法への理解増進を目的として2009年から実施され、一定の成果を挙げたが、それまでの裁判と裁判員の判断との不一致、特にそれによる厳罰化傾向の是非、辞退率の増大や、無作為選出であるが故に参加者が限定されざるを得ないなど、課題もある。裁判員裁判は裁判官3名・裁判員6名で行われる。

「陪審制」
裁判制度の一つ。特定の場合において、有権者から無作為に選ばれた者が陪審員となって地裁審理に参加し、陪審員のみの合議によって有罪無罪の判断や民事責任の有無について原則として全員一致で評決を下し、裁判官が評決に基づいて判決する仕組み。裁判官審理での指揮や法律専門知識の提供を行うのみで評決には加わらないが、評決を無視した判決を下す権限が認められる場合も一応ある。英米法系国家で発展し、アメリカが代表例。市民感覚の反映や司法への理解増進、司法権濫用の防止といった点で評価される一方、陪審員の持つ偏見や誤った知識の影響、コストの問題なども指摘されており、しばしば改革が議論される。ちなみに、1928-43年までの日本にも刑事陪審制度が存在し、運用されていた。

「参審制」
裁判制度の一つ。ある一定の重大な事件について、有権者から無作為に選ばれた者、もしくは自治体が作成した名簿から選出された者が任期付きの参審員となって裁判審理に参加し、裁判官と共に同等の立場で証拠調べや有罪無罪の判断、量刑、法律解釈について議論・評決したものを判決とする仕組み。名簿方式をとる際には政党その他の団体の推薦に基づいて名簿を作成することが多い。フランス・ドイツといった大陸法系国家で採用される傾向にあり、日本の「裁判員制度」もこれを参考に設計されている。

「国選弁護人」
刑事事件の被疑者・被告人となった人が経済的な理由などで弁護人(弁護士)を雇うことができない場合に代わりとして付けられる、国家の負担で選ばれ雇われる弁護人のこと。この仕組みを国選弁護制度という。全ての人々に対して適切な裁判を受ける権利を保障するための仕組みであるため、当人の申請によるだけでなく、場合によっては裁判所の職権によって国選弁護人が付けられる。現在、国選弁護制度に関わる事務の多くは「法テラス」で行われている。

「法律の『一般条項』」
法律の条文のうち、なにか具体的な事柄についてではなく、抽象的・一般的な基本理念を規定したもののこと。日本国憲法第11条(人権の保障)や、民法1条2項(信義誠実の原則)、同90条(公序良俗)といったものが代表例。具体性を持たないがゆえに幅広い解釈をとることができるが、それは法の予測可能性を狭め、各人の自由を事実上制限することに繋がりうる。そのため法解釈の前提となる一方で、直接適用することは避けられ、他に適用できる法律・条項がないときの最終手段として用いられる。

「契約書の『一般条項』」
契約書に記載されている様々な条項のうち、様々な別の契約書においても頻繁に見られる条項のこと。用語の定義を示す条項や、契約期間について定める条項、契約の改訂や解除の手続き、守秘義務などなど多岐にわたる。法律条文において、抽象的・一般的な基本理念を規定する「一般条項」とは異なるので注意。

「信義誠実の原則」
信義則と略して用いることが多い。民法1条2項などに規定される「社会の各構成員は相互の信頼を裏切らないようにしなければならない」という原則のこと。いわゆる「一般条項」の一つで、その抽象性ゆえに多くの事例を信義則の観点から評価することが可能だが、それは濫用の危険が大きいことと表裏一体であり、また具体的な事例毎に判断が異なりやすいという問題がある。そのため裁判では原則として信義則を用いることは避けられ、他の法律・条項では解決できないときの最終手段として用いる。

「クリーンハンズの原則」
法に基づく主張をしてよいのは法を尊重している者だけであるという民法上の原則のこと。イギリス法において発展した原則であるが、日本においても民法1条2項「信義誠実の原則」の派生原理・一部として理解される。例えば、自らが離婚事由となる不貞行為をしたにもかかわらず、相手に離婚を請求するような場合、信義則違反として認められない場合がある。

「過失」
不注意のこと。しかし法律用語としては単なる不注意ではなく、「ある行為をする(しない)ことの結果を予見できる状況があり、その上で予見された結果を回避する義務があったのに回避しなかったこと」という注意義務違反を指す。単なる不注意は主観的であるため外部から判別不能だが、注意義務違反であれば当時の状況と行為によって客観的に判別できるため、こうなっている。

「管理通貨制度」
一国の通貨の供給量を政府や中央銀行の政策判断によって調整する仕組みのこと。この時、通貨の価値は政府の信用すなわち「その国の政府はどれくらいの価値まで通貨の価値として保障できそうか」によって決定され、財政状況・経済状況や諸外国経済との関係など様々な要素が影響する。「金本位制」と異なり、通貨発行の際にその価値を保障する金の裏付けが不要であるため、政府は通貨供給量を自由に調整できるが、これは抑制を欠いた通貨発行が可能ということも意味する。

「貨幣錯覚」
ある額面の貨幣が持つ価値を、実質的な購買力ではなく、名目的な額面で判断してしまう錯覚のこと。貨幣の価値は本来的に相対的なものであるため、額面が倍になっても同時に物価も倍になっていれば、その購買力は変わらない。しかし現実には額面が増えていれば購買力も上がったと判断してしまうことがしばしばある。貨幣錯覚は人々の非合理な判断・行動を生むが、一方でそれを利用したより小コストの経済政策を可能にする面もある。

「レンティア国家」
多額のレント収入(石油・天然ガスなど、土地や権利を保有することで得られる不労所得)が直接国庫に入り、歳入を租税収入に頼らない国家のこと。高福祉低負担が実現できる一方、レント収入の増減が財政に決定的な影響を及ぼす。また国内経済の状況が財政に影響しないため他の産業を育てる誘因が働きにくいことや、国民の政治参加の制限を手厚い福祉の提供で正当化しやすいという特性も持つ。中東の産油国の一部が典型例。なお、他国からの財政支援もレント収入の一種。

「労働基準監督署」
労基署、労基、監督署と略。厚生労働省の地方支分部局、いわゆる出先機関の一つ。都道府県労働局の指揮監督の下、労働基準法その他によって定められた労働に関する様々な基準・規制を事業者が遵守しているかどうかを監督し、必要に応じて捜査、取締、行政指導や是正勧告を行う機関。労災保険など労働に関する各種手続きの窓口、給与未払いやハラスメントなど労働問題の告訴・告発・相談窓口の一つでもある。独自の判断で強制的に事業者を従わせるような権限は持たない。

「特別支援教育」
日本における、障がいなどによって特別の支援を要する幼児・児童・生徒に対して、その能力を高め、生活上・学習上の困難を改善・克服するために行われる教育の総称。学校教育法第8章で定められる。特別支援学校や特別支援学級がイメージされやすいが、特別支援教育自体は学校・学級の種別によらず、学校全体の取り組みとして行われる。対象者は年々増加を続けているが、未だ十分な支援には至っていないとされる。

「特別支援学校」
日本において、障がい者に幼稚園・小学校・中学校・高等学校に準ずる教育を行い、さらに障がいによる学習上・生活上の困難の克服、自立支援を行うために設置される学校のこと。この目的のために様々な仕組み・設備・教材・教育方法を持っており、特に自立支援のために「自立活動」という特別の活動を行う特色を持つ。また、近隣学校での教育を支援する役割を持つことも特色とする。

「特別支援学級」
幼稚園や小中高校などに置かれる、「特別支援教育」を目的とした学級(クラス)のこと。学校教育法第81条2項に規定される。障がいなどで学習上・生活上の困難を抱える児童生徒を支援するために設置されるものであるため、その目的に応じて少人数学級となり、また普通学級とは異なる教育課程を採ることも認められている。支援学級・特支などと略す他、教育現場では様々な別称・愛称が与えられることも多い。

「政治制度論/政治過程論/政治行動論」
いわゆる科学的政治学を成す三大分野。政治制度論は意思決定中枢の内部構造、立法・行政・司法の相互作用を、政治過程論は利益集団・政党・メディアの相互作用による意思決定過程を、政治行動論は人々の個人レベル・集団レベルでの政治行動や政治意識を対象として分析する。これらはそれぞれ純粋に独立しているわけではなく、例えば政治行動論で得られた知見を用いて政治過程論を語るようなことは珍しくない。

「思想の自由市場論」
表現の自由や言論の自由の正当化根拠の一つ。より良い真理に近い表現・言論が残り、そうではないものは淘汰される思想の自由市場が働くためには、国家による介入を排した表現の自由・言論の自由が必須であるとする考え方。表現や言論が発表され、互いに影響しあったり、支持を得たり、否定されたりする営みを市場による自由競争と捉え、商品・サービス市場と同様に国家介入の否定を導き出したもの。主にアメリカで主流となっている。

「メディアスクラム」
何らかの重要な出来事が生じた際に突発的に行われる記者会見、もしくはそれに集まる報道関係者の様子のこと。しかし、日本ではこの意味から転じて、報道関係者が大人数でつめかけて強引な取材を行い、様々な問題(精神的苦痛・物的被害・近隣住民への迷惑など)を引き起こすことを指し、集団的過熱取材とも呼ばれて問題視され、抑制の取り組みが行われている。本来の意味のメディアスクラムは、日本で言う「ぶら下がり取材」に近い。

「トーンポリシング」
相手の主張の内容ではなく、相手が主張を発する際の話し方や態度を批判することで、主張自体の正当性を否定しようとする行為のこと。いわゆる論点ずらしの一種。トーン・ポリシングに当たるかどうかは話し方・態度への批判がどのような意図で行われるかによるため判断が難しいが、論点ずらしの意図がなくとも実質的にトーン・ポリシングとなることも当然ありうる。あえて訳せば口調警察だが、訳して用いる例はない。

「選挙人」
単に有権者という意味で用いられることもあるが、特にアメリカ大統領・副大統領選挙において州毎に選出される、大統領・副大統領を選出する人々のこと。大統領選で一般有権者が選ぶのはあくまでも選挙人である。情報取得能力の格差が大きく、また全国同時選挙が難しかった時代において、あらかじめ指定した有力者・知識人に大統領・副大統領選出を任せる仕組み(同時に、白人人口の少ない南部州の影響力を残す措置)として生まれた。選挙人の人数は各州の人口に応じて割り振られ、選挙人の選出方法は各州の主権に属するとして州政府に委ねられる。

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