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破られた父との約束。Vol.58

第8話

小さい頃から
これをしたらご褒美をあげるみたいな
ことは諏訪家には一切なかった。


母はとても厳しく
見返りを求めることもなければ
見返りを求めることも許さなかった。


勉強して良い点数をとったら
何かを買ってくれることもなかった。
勝ったら夕飯が豪華になるとかで
釣ってくることもなかった。


会社の手伝いのときもそうだった。
手伝いたいなら手伝え。



「見返りを求めない」ということ。
それはイコール「約束をしない」と
いうことになる。


そんな父との唯一の約束が
自分が房の駅をはじめるときだった。
小売をはじめるにあたって
「卸先のお得意先様に迷惑をかけないこと」


房の駅は父からのプレゼントだった。
それは見返りを求められた瞬間だった。


観光地に房の駅を出店することもなければ
観光バスの誘致も一切しない。
その約束は15年守られた。


でもね。息子は父の言うことは
聞かないもんなんだよ。


お得意先様数がもっとも多かった成田参道に
房の駅を出店することを決めた。
その時のいろいろはこちら↓
https://note.com/seijiest23/n/n76c615ed8cdf


これが刺激となり多くのお得意先さまに
火がつくと信じた。


それを父に報告にいくと
約束を破った自分を咎めることなく
「そうか」と一言。


そして時は経ち新型コロナ。
この不景気は成田参道を直撃した。
成田参道には観光客がほとんど来なくなった。
諏訪商店の成田営業所は
自分が生まれる1年前に
この成田参道と成田空港の卸売業を拡大するために
作られた配送センターであり、事業所だ。
自分にとってはお正月といえば成田だし
手伝いに行ったことも多々あった。
何よりこの成田営業所が
諏訪商店の卸売業の鍵だと信じ、
成田空港を中心に営業力をあげていた。

父にとっても成田営業所は
計り知れないほど
すごく思い入れのある地区であり
事業所だったはずだ。


追い討ちで成田空港の売上も大きく落ち
成田営業所を閉鎖することを決めた。
数年後には倍返しでお客様が戻ってくるのは
わかっていた。
でも現状維持、衰退気味の卸売業を
もう1度やりなおすチャンスだとおもった。
コロナが明けたときには
世代も代わる。
本社に統合することを決めた。
そこに勤めていたスタッフの生活リズムは
大きく変わる。
全ての不満を背負って決断していく。
どんな言葉も受けて立つ。


父が築いてきたものを
もう一度  大きく飛躍させるために壊す。


いろんなことを言われるんだろうなぁ〜と
思いながら父に報告にいくと
答えはいつも通り。
みかんを食べながら一言。
「そうか」と。


『諏訪聖二、どうする父さん』Vol.51-Vol.60(全10話)


父になってわかった。
子どもたちへの約束なんて意味がない。
だって子どもたちに求めるものなんて
何ひとつないから。
全部、お前たちがお前たちで決めろ。
そういうことだよね。

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