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心理的境界線とは何か 【実践心理学】
心理学領域に「境界線」という言葉があります。
それは他者と自分との心理的な境界線であり、自己防衛に働いたり、他者を守ることに有効だったり、好ましい人間関係構築には必須となる境界線です。この線引きがうまくいかないと多岐にわたるトラブルに見舞われたり、逆に人間関係のトラブルに遭うことの多い人は境界線に問題を抱えていることが多いと云われています。
心理学領域における境界線という概念については、Henry Cloud博士とJohn Townsend博士による共著に詳しく、
“Boundaries: When to Say Yes, How to Say No to Take Control of Your Life”
にその詳細が述べられています。
(参考リンク:当方に開示すべき利益相反はありません。)
エヴァに詳しい方でしたら、境界線=A.T.フィールドと思っていただければ差し支えないかと考察いたします。
絶対不可侵領域は自我を規定する排他的精神領域ですから、リンク先の書籍を読むか、エヴァンゲリオン全話視聴することで境界線の概念と関連する問題点についての理解が深まることでしょう。
なお、旧劇25, 26話は映画『Air/まごころを、君に』で補っていただき、漫画版『新世紀エヴァンゲリオン』および『ヱヴァンゲリヲン新劇場版・序/破/Q/:||』を網羅いただけますと、エヴァ談義に花が咲きます。一番ヤベーのはゲンドウです。
さて、この先の会話は上記のような基礎知識に基づいております。
ある日の渡邊家。
「ねぇ惺仁さん、自分と相手の間に境界線は何本あると思う?」
「境界線?」
私は珈琲を啜りながら応えます。クリスマスブレンド。チョコレートに合いそうな仄苦さの中に深い果実味と豊かな香りが重なります。店主の選ぶ豆はいつも最高です。
子どもたちが視聴しているのは『マジンガーZ』、1972年に放映されて50年を経て尚色褪せない不朽の名作です。水木一郎の歌声をBGMに、彼女は言葉を続けます。
「そう。境界線。」
境界線にも色々あります。皮膚によって隔絶される肉体という境界線。物理的な距離に反映されるパーソナルスペースとしての境界線。言葉も感情も、ありとあらゆるものは境界線を伴って存在しています。しかしながら、文脈的に今問われた境界線は境界線のことと考えるのが自然な気がします。そしてそれならば私の回答は、
「あー…数えたことないけど、15本くらい。」
「じゅ、15本!?」
彼女は暫く目をパチクリさせてから、手元の珈琲に視線を落として、「多くね…?」と呟きました。
「今プチバズってる漫画があってね、PTSDを抱える主人公が心理療法を受ける話なんだけど、心の境界線が自分と相手の間に何本あるかって訊ねられるシーンがあるの。」
「ほー。面白そうだね。」
「主人公は1本って答えるんだけど、心理士が『正解は2本』って。」
「正解があるの?」
「そう。自分の側に境界線があって、相手の側にも境界線があって、境界線と境界線の間にはどちらの領域でもない場所があるんだって。例えば発した言葉は自分の境界線を越えるんだけど、それは直接相手に届くんじゃなくて、どちらの領域でもない場所に入って、その言葉を相手が自分の領域に入れるかどうかは、相手の自由だって描いてあった。逆に、相手の言葉も自分の境界線の内側に入れるかどうかは、自分が決めていいんだって。」
どうやら彼女は境界線の認識が曖昧だったようで、その漫画に感銘を受けているように見えました。それは素晴らしいことです。境界線にも色々ありますが、少なくとも自分と相手が独立してそれぞれに線を持っているのだという認識に立つことは極めて意味の大きいことだと私は考えました。ある本数に「正解」と銘打つことの危うさを感じながら、しかし正解を提示した方が上手くいくこともありますから、恐らく命題の核は其処ではありません。彼女の境界線の様相を明言することは避けますが、彼女もまた癒されるべき過去を背負っているということを、私は知っています。私は肯定も否定もせず、相槌を打ちながら傾聴に徹します。
「それで、その主人公はね、心理療法がすごく効いて、すぐに離人感が消えたりして、だんだん元気になっていって。漫画を描いて表現できるようになったみたいなの。心理療法ってすごいね。私、臨床心理士の資格がどうやったら取れるのか調べてみたんだけど、無理ゲーだった。」
「無理ゲーなの?」
「うん。大学で心理学系の学部を出たあと、大学院も卒業しなきゃいけないんだって。それが受験資格の条件で、試験自体も難しいみたい。資格が取れてもさ、実際に心理療法とか出来るのかって考えると、難し過ぎるよね!知識があってもさ、その人その人の背景を考えてアプローチの仕方を変えなきゃいけないだろうし。…興味はあるんだけどなぁ。」
「ハードル高いんだなぁ。」
「ね。必要としてる人はたくさんいると思うんだけど…」
彼女は心底残念そうに溜息をつきました。
「15本は?」
「ちょwだから分かんないよwww大杉www」
でも実際の心理療法の場面だと惺仁さんみたいに答えてくる人もいるんだろうねぇ…と彼女は思考を巡らせて、やっぱわかんね。と言って笑いました。
精神科にも興味のある私は、しかし自分が相手に引っ張られやすいことを自覚しておりますから、その道には進みませんでした。きっと元来の私の境界線は脆弱で、故に後天的に強固な境界線を何重にも敷くようになったのだろうと分析します。
認識は全ての始まりです。
そうなった理由の全てを解き明かさずとも、現状を認識することができれば、今と未来を選択していくことができます。過去に向き合うのではない。ただ今を見つめることが過去を変える第一歩です。
拙文に最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました。願わくは、貴方の過去が昇華されて、優しい今を彩りますように。
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